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アラベラ・美歩・シュタインバッハー ヴァイオリン・リサイタル [国内クラシックコンサート・レビュー]

今年の芸術の秋は彼女1本に絞った。リサイタル2本とN響とのコンチェルト。期待が大きかっただけに、終わったときはいろいろと思うところが多かった公演だった。やはり生演奏は1発勝負だけあって難しい、と再認識した。

彼女は現在、オランダの高音質レーベルPENTATONEがレーベル挙げて絶賛売出し中の看板スターである。

彼女は、幼少のときに、ユリア・フィッシャーやリサ・バティアシヴィリなどの才能を開花させたミュンヘン音楽大学の名教授、アナ・チュマチェンコの門下生となり、その後、イヴリー・ギトリスからも大きな影響を受けたというドイツのヴァイオリニスト。

まさに容姿端麗の美女で、実力も備わるという才色兼備のホープ。
ミュンヘンでドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれた日系ハーフのソリストでもある。 


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自分の大好きなPENTATONEレーベルの看板スターで、ビジュアル的にも絵になる格好よさがあって、非常に気になる存在であった。

彼女のアルバムも何枚も聴いていたのだが、オーディオで聴く彼女の音色というのは、絢爛な音色というより、どちらかというと乾燥質である印象があって、あとでFBの友人の体験談も聴かせてもらったときに、なるほどなぁ、と思ったのは、以前の来日公演のときの印象では、擦るように弾く癖があり、ドラマティックには聴こえるのだが、音に伸びがないように感じたことがあった、ということだった。

音に伸びがない、ということと、自分の乾燥質という点が合致していて、やはり彼女の音色はそういうイメージなのかなぁと思ったのだ。

もちろん自分が実演に接するのは初めてだし、生演奏で聴く彼女の生音はどのように聴こえるのだろう?というのが唯一の心配であった。

ちなみに楽器は1716年製ストラディヴァリウス「Booth」という名器で日本音楽財団からの貸与品。

今回のリサイタルは、先日発売された新譜の「フランクのソナタ&シュトラウスのソナタ」をメインに取り上げるお披露目コンサートである。

●2014/12/4(木)トッパンホール

気合が入り過ぎて、開演の2時間以上も前にホールに着いてしまった。自分はこういう人間なのである。(^^;;

今回の座席は、こちら。

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ヴァイオリニストを眺めるには、このような左からのショットが綺麗に見えるかなぁと思い、ビジュアル優先で座席を選んだ。ピアノ的には、ハンマーの打鍵の音色が響板に反射して右方向に流れるので、右側に座るのがいい、という方も多いが、自分はまったくそんなことは気にしない。むしろピアニストを観るという観点からは、運指の動きがはっきり見えるということを重要視するので左方向のほうが好きだ。

その両方の面から、左側からのアングルの座席を選んだ。

いよいよ彼女が登場。赤いドレス。写真で見ていたよりも大柄な女性で、歩く姿が実に優雅でかなり貫録のある歩き方であった。

今日の演目は、

モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタト長調K301(293a)
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調Op.96

休憩

プロコフィエフ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタニ長調Op.115
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調Op.18

アンコール
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 第4楽章

心配していた彼女の音色であったが、全くの杞憂であった。綺麗な美音で、ほんのりと響きが乗るような感じで、潤いがある。音色が発音する前にふっと浮かび上がるような感じに聴こえる。乾燥質とは正反対のじつに響きが豊富な瑞々しい音色であった。これは、またトッパンホールの音響のよさでもある、と実感した。じつに響きのいいホールだ。

いやぁやっぱりコンサートホールで聴く生演奏の音は、オーディオで聴いているよりも、情報量が圧倒的に多くて、再生空間の広さも比較にならないほど素晴らしかった。同じ曲を比較して聴いているからわかる感覚なのかもしれない。

また彼女の立居振る舞いというか、演奏する姿勢であるが、じつに美しかった。背筋がピンとしていて、ボーイングなども優雅で、弾いている姿がじつに美しくて映える。美人なのでイメージ効果抜群だ。

モーツァルトでは、ややエンジンのかかりが遅いかな、とも感じたが、ベートーヴェンのソナタ10番は素晴らしかった。彼女は、やはり技巧派というかテクニックはかなり高い技術を持っていることが良くわかった。ppの静寂の中でのきめ細やかな旋律の泣かせ方が、ふらつくことなく実に安定していた旋律を描いていたし、そこからffの強奏時への変化のスライドのさせ方も流れるようだ。細やかな高速パッセージもじつに見事に弾き切る。これはかなりのテクニシャンだなぁ、と思い安堵したのととても嬉しくなった。

問題なのは、ピアニストのロベルト・クーレックのほうであった。前半からちょっと彼のピアノに違和感を感じていて、彼女の音色、旋律の優雅な流れを遮っているように感じてしまう。

いわゆるソナタ・リサイタルというのは、両者間のバランスの聴こえ方が1番大事だと思っている。そのバランスが自分が聴いている分には、という意味であるが、少し悪くて、全体のイメージを損なっている残念な印象であった。

その最たる場面は、今回のリサイタルの1番のツボであるR.シュトラウスのソナタのところで顕著になった。またそのときにお話しする。

休憩を挟んで、後半。プロコフィエフ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ。これは弾くのはとても難しそうな曲で、ちょっとアバンギャルドでストイックな曲。心なしか、彼女の音色も元の乾燥質な音色に聴こえたのは気のせいだろうか?

そして最後のR.シュトラウスのソナタ。この曲はまさに巨匠の筆至の感と言っても過言ではないほど、壮大な曲で美しい大曲だ。今回のリサイタルで1番の見せ所となる曲のように思えた。

ずっと聴いていて思うのは、やはりピアノへの違和感。この曲で1番顕著になった。要はピアノがドラマティックに弾こうともったいつけたり、ヴァイオリンが隠れてしまうほど強く弾いたりして、雰囲気を壊すような感じでバランスが異常に悪いのだ。要は気負い過ぎという感じがあって、鍵盤から事あるごとに、ダイナミックに空中に手を跳ね上げる様な仕草をするのはいいのだが、その度にミスタッチがすごく多くて、打鍵が乱暴で音が暴力的だ。ペダルもバコバコ踏み過ぎという感がある。

この優雅な大曲のイメージからすると、彼は盛り上げたかったのだろうが、空回りという感じで気負い過ぎの感が否めなく、ヴァイオリンの優雅な旋律とまったくバランスが取れていなくて、自分にとって違和感があった。

まぁキツイ言い方になってしまったが、ピアニストのロバートは、ずっとアラベラと長年のパートナーを組んでいるようで、彼女からの信頼も厚く、こればかりは、やはり演奏する立場からでないとわからないあ・うんの呼吸、精神的な安らぎなど、我々のような観客席から聴いているだけでは、わからないような部分というのがあるのだろう、と推測する。

オーディオで聴いていた分には、あまり気にならなかった点だ。 編集でうまくVnとPfのバランスを取っていたのかもしれない。やっぱり一発勝負の生演奏は難しいなぁと思った公演だった。

この公演の様子を収めたショットです。(FBの彼女の公式ページから拝借してまいりました。)このような赤いドレスを着て、このような感じで公演をしていました。


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そして終演後のサイン会でも様子。自分はお金を持っていなかったし、彼女のディスクはほとんど持っているので、明日のフィリアホールにしようと思い、横からちょっとその様子を撮影。

笑顔がとてもかわいいです!

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●2014/12/5(金)フィリアホール(青葉台)

この日は、先日の反省もあって、準備万端で臨んだ。


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まず、彼女の最新DVDを購入。後日拝見しましたが、彼女のもうひとつの故郷である日本の東日本大震災での被災地を訪問して、演奏をして勇気づけるというドキュメンタリーで、演奏姿もふんだんに掲載されているし、素のプライベートな姿も拝見出来て、なによりも彼女の動く動画が存在することがとても貴重でよかったです。でも日本語字幕がついていません。(^^;;

後日日本でも発売されるそうですので、その頃には日本語字幕がつくのかもしれません。

そして今日はサイン会でぜひサインをもらおうとして、自宅から彼女の新譜を持参。なにせ彼女のアルバムはほとんど持っているので、買うものがないのでこうせざる得ない。

今日の座席もこちら。

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理由は前日を同じだ。

演目は昨日と同じ。演奏順番が違うくらいだ。

モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタト長調K301(293a)
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調Op.18

休憩

プロコフィエフ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタニ長調Op.115
フランク ヴァイオリン・ソナタ イ長調

アンコール
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調Op.96の第2楽章

結論からすると初日に比べて、雲泥の差があるほどよかった。この第2日目のほうがずっと完成度が高かった。

心配していたピアノであるが、私の不満のつぶやきが届いていたかのような感じで、ピアニストのロバートも、昨日の初日ほどの気負い過ぎもなく比較的平静に弾いていたように思える。(でもやっぱりところどころ、不安なところがありました。やはりこの人の本性なのでしょうか?(笑))

昨日よりもずっと遥かに聴きやすかった。完成度がはるかにこちらのほうが高かった。やっぱりソナタ・リサイタルって両者間のバランスだよなぁとつくづく確信した次第である。

今回の白眉はやはりフランクのソナタだろう。ヴァイオリン・ソナタの中では名曲中の名曲とされていて、今回フル楽章で聴いたわけだが、じつに美しく、素晴らしかった。彼女の弾くこの曲を聴けただけでも最高にうれしい気分だ。

終演後サイン会に臨む。サインをしてもらった。そして写真も撮らせてもらった。一言二言、会話をしたがもうドキドキ。

ジャケでは大人の女でちょっとクールな絵柄で通しているようだが、これは完全に作られたイメージで、実際はもっと幼い面影があるというか可愛らしい感じだ。

まぁいろいろ思うところの多かったコンサートであるが、さぁ最後はN響とのコンチェルトでデュトワとのコンビできっと素晴らしい演奏を見せてくれることだろう。楽しみ!


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あき

ブログを拝見する前にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の動画を観ました。乾いていても何か厚みがあるという不思議な演奏の印象はこちらのブログを拝見して成る程!と思いました。
by あき (2017-03-19 04:58) 

ノンノン

あきさん

コメントありがとうございます。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、ヴァイオリン奏者にとって、大変難しい難曲だそうで、私は、埼玉県と渋谷オーチャードホールで、アラベラさんのベートーヴェンのコンチェルトの実演に接したことがありますが、それはそれは素晴らしい演奏で大感激した経験があります。youtubeなどのネットにあるアラベラさんの動画は若い頃の演奏ですね。彼女は大器晩成型で、最近のほうが圧倒的に演奏に妖艶、円熟味があって素晴らしいです。

アラベラさんの動画で最高な演奏は、NHKで放映された2015年のNDRとの共演でサントリーホールでの公演です。メンコンでしたが、このときの演奏姿は、彼女の映像素材としては最高傑作だと思っています。
by ノンノン (2017-03-19 22:48) 

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