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DGの新譜:庄司紗矢香のベートーヴェン [ディスク・レビュー]

今年2020年は、ベートーヴェン生誕250周年イヤー。


日本のみならず世界中、クラシック業界、ベートーヴェン一色で盛り上がる。そのような中で、自分がベートーヴェンの録音で取り上げたいのは、庄司紗矢香のベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全集とベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲の2枚。




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ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全集 
庄司紗矢香、ジャンルカ・カシオーリ(4CD)






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ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 

庄司紗矢香、ユーリ・テミルカーノフ&サンクト・ペテルブルク・フィル




なぜ庄司紗矢香さんのアルバムを選ぶのか、というと、自分がいままできちんと庄司紗矢香というヴァイオリニストに面と向かい合っていなかったと感じていたからである。


庄司さんの実演は、いままで2回ほど経験した記憶がある。初めての体験は、水戸芸術館館長で音楽評論家の故吉田秀和さんが命名結成した「新ダヴィッド同盟」。2010年に結成された水戸芸術館専属の室内楽ユニットである。


ヴァイオリン 庄司紗矢香、佐藤俊介
ヴィオラ 磯村和英
チェロ 石坂団十郎
ピアノ 小菅優


庄司さんの呼びかけで集まった、気心の知れた若い音楽仲間と、庄司さんの尊敬する東京クヮルテットメンバーの磯村和英によって構成される。


懐かしいなぁ。あのときはかなり話題になっていました。
佐藤俊介さんもいたんだね。いまやオランダバッハ協会芸術監督への大出世。

小菅優さんもいます。


佐藤俊介さんと小菅優さんのコンビで、松本ハーモニーホールでの公演も聴いたことがあります。


この新ダヴィッド同盟のコンサートを体験したくて、水戸芸術館まで足を運んだのでした。
忘れもしない、2011年12月17日(土)の冬の日のコンサート。


シューベルトやモーツァルト、シェーンベルク、そしてブラームスの室内楽をやった。


それが庄司さんの生演奏を体験した初体験。


でもP席だったんですよね。(笑)

ここに、自分のまず1回目の悔いるポイントがある。
後ろ姿で庄司さんはじめ、みんなの演奏姿を拝見していた。


記憶が薄っすらだけれど、若手の演奏家らしい初々しくて勢いのある歯切れのいい演奏だったように記憶している。


そして2回目が、これも忘れもしない2012年の10月の東京文化会館の大ホールでの相方ジャンルカ・カシオーリとのヴァイオリン・リサイタル。


リサイタルなのに、小ホールではなく大ホールでやっていた。


おそらく主催者側の判断による集客数目的なのかもしれないが、それでも大ホールが超満員で埋まっていたような記憶がある。


なぜ、このコンサートが自分にとって忘れ得ないのか、というと、ちょうどその数日前かあるいは前日に、ゴローさんが亡くなったからだ。エム5さんの日記でそのことを知って、その翌日か、数日後のコンサートが、この庄司紗矢香さんの東京文化会館大ホールでのヴァイオリン・リサイタルだったのだ。


自分に親しい人が死ぬってこんなにつらいことなのか?

自分の親が死ぬよりショックを引きづっていた。


ステージで庄司さんが演奏するその姿はただ目に映っているだけ。


そしてその奏でるヴァイオリンの音色もただ、左の耳から入って、右の耳に抜けていくだけ。


人を失う悲しみで胸が締め付けられるような苦しみ。
コンサート中に、つい弱音を吐きましたもん。
「こりゃダメだ。全然ダメだ。」


結局、おそらくは名演だったであろう庄司紗矢香のヴァイオリン演奏は、まったく身に入ってこなかった。演奏中、ずっとゴローさんとのセンチな感傷に浸ってばかりいて、まったく演奏を覚えていない。


そのように自分にとって、庄司紗矢香というヴァイオリニストは、不運にもとても残念な体験しかなかった。


録音アルバムは、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタを1枚持っている。
当時、とても話題になったアルバムで、演奏、そして録音とも素晴らしい出来栄えであった。


あれから8年経過した訳だが、どうしてもここで自分が庄司紗矢香というヴァイオリニストときちんと対峙したい、しっかり自分が理解したいという衝動に駆られ、そのタイミングにベートーヴェンイヤーに相応しいベートーヴェン・アルバムをリリースしてくれたこと。


そしてサロネン&フィルハーモニア管弦楽団の来日公演でソリストとして登場すること。
この2つが相重なって、これはいまがまさに”その時”なのだと思ったのだ。


自分が庄司さんの存在を知ったときの印象は、1999年、パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールにて史上最年少で優勝、という印象が圧倒的に大きくて、数々の名門オケや指揮者との共演を果たし、海外を活動の拠点とするアーティストというイメージがまず頭にあった。


それでどちらかというと”若手の有望株”、”若手スター”、という・・・1999年からずいぶん年数は経っているけれど、いつまで経っても自分の中では永遠の若手で、いわゆる自分の年代とはやや隔世感がある感じ、なぜかちょっと世代のギャップを感じる存在だった。


自分がオヤジなだけだと思いますが。(笑)


やっぱり過去にしっかりとした審美眼で演奏姿を見ていないからだ、と思いました。

だからこそ、今回の実演に接するのは最高に楽しみで最大の試練だと思ったのです。



まず、アルバムからの感想。


ベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全集のほうは、2009年~2014年に録音されたものを今回ベートーヴェンイヤーということで、全集発表したもの。ぞれより前に、スプリングソナタこと第5番の「春」やクロイツェル・ソナタの第9番「クロイツェル」などは先行してアルバムとして発売されたようだが、こうやってきちんと全集として全10曲をまとめたものは今回が満を持して発表ということになる。


全曲録音を完成させたとき、2016年に全曲完成記念といういうことで日本縦断ツアーもおこなったようである。ベルリンとハンブルクで録音されたようで、非常に録音がよくて、聴いていてすぐに気に入ってしまいました。


大方の人にとっては、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタと言っても、「春」や「クロイツェル」くらいしか馴染みがないことだろう。自分もそうである。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを全曲聴くには相当な努力が必要なことは明らか。自分もこの日記を書くためにこのアルバムで全曲通しで聴くことを2回やった。かなりエネルギーを消耗した。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を通して聴くということは、一人の音楽家がどのように自己の精神と向き合い、どのようにそれを音楽に昇華させていったかということを目の当たりにする、またとないチャンスなのだろう。


録音ではプロコフイエフのソナタしか聴いたことのなかった庄司さんのヴァイオリンだが、きちんと根の張った非常に力強い音を奏でる奏者だな、と感じた。ご本人のシルエットからするとどちらかというと線が細くてパワーがない感じにも思えてしまうのだが、全然その真逆を行く感じだった。


解釈自体もとても現代的なニュアンスを感じ取れる新鮮さがあり、現代を代表するベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全集と言っても過言ではない出来上がりとなっている。



ベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲は、シベリウスのヴァイオリン協奏曲とカップリングになっている。


ベートーヴェンは奏者にとって難しいコンチェルトだが、見事な演奏を披露してくれている。


余談になってしまうが、自分にとって、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で最高のパフォーマンスだと思っているのは、カラヤン生誕100周年イヤーのときのウィーン楽友協会で演奏された小澤征爾さん&ベルリンフィルでアンネ=ゾフィー・ムターの演奏。新しい近代解釈の演奏としてこれに勝る演奏には出会ってませんね。


Blu-ray&DVDになっています。


いままでベートーヴェンのコンチェルトはどこか地味というか、乗り切れないまどろこっしさを感じていたのだけれど、このムターの演奏を見て、この曲の良さがわかったというか、この演奏でこの曲に開眼したのでした。この演奏を観て、ゴローさん曰く、「ムター、ウマすぎなんだよ。」と吐き捨てた瞬間に同席していました。


そういう点から判断してしまうと、なかなか厳しいものがありますが(どうしてもこの曲を聴くと、自分の頭の中にはムターの演奏が教科書として存在してしまうために、どうしても比較してしまうのです。)、庄司さんの演奏も説得力あるものだと思います。


今回、1/23と1/28に開催されたサロネン&フィルハーモニア管の演奏会では、庄司さんはシベリウスとショスターコヴィチの協奏曲を披露してくれた。


あとで、レビューするが、シベリスも良かったけれど、ショスターコヴィチのコンチェルトは凄すぎた!


みんな大絶賛の感想で溢れていたが、まさに”神がかっていた!”というのはまさにその通りだと思う。


庄司さんのショスターコヴィチのアルバムは持っていないので、ストリーミングでもう一回聴いてみる。


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ソニーにはなくて、アマゾンにしかないのだが、なんとアダージョ版しかなく、楽章が抜け抜けなんですよね。


なんでそんなことするのかな?


でもその破片のアダージョ版を聴いてもあの晩のあの興奮が蘇ってくる。


もうこれは我慢できない。

もうCD買うしかありませんね。



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ショスターコヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番

庄司紗矢香、リス&ウラル・フィル




あの神がかっていたあの日の演奏をもう一回味わいたいと思います。


サロネンにとって、フィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者、芸術監督としては最後の任期としての来日公演。いままさにサロネン・ウィーク。


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東京芸術劇場に馳せ参上した。


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1/23の座席

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1/28の座席

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1/23の日は、当初はサロネン作曲のチェロ協奏曲が演奏される予定だったが、チェロ奏者の急病により、代役として庄司さんが、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏することになった。まさに急遽のピンチヒッターである。


8年振りに姿を拝見する庄司紗矢香さん。


女性ヴァイオリニストのノーマルなドレスと違って、パンツスタイルなど、ちょっと新人類っぽくて、やはり自分にとってはいつまで永遠の若手スター、というイメージが崩れない。


シベリウスはおそらくご自身の得意のレパートリーなのだろうけれど、それでも急なピンチヒッター。それで、よくぞここまでの見事な演奏を魅せてくれた。


フィンランドの湖畔の風景がそのまま頭に浮かんできそうな寒色系の旋律、自分の大好きなシベリウスコンチェルトだが、もうゾクゾクと体の震えが止まらなかった。


ようやく直に集中して拝見できた庄司紗矢香のヴァイオリン奏法。


奏法は非常にオーソドックスで教科書のようなクセのない綺麗なフォーム。華奢で細身だが、力強さがあって、剃刀のような切れ味の鋭さがある。音色にキレがあるので、かなり場内を威圧するパワーあります。


細身だけど音量もかなり大音量派です。

音色のキレ、威圧感、そして大音量。。。


と来るので、かなり聴衆に感動させる要素持っていると思います。


それをまざまざと体験させてくれたのが、2日目のショスターコヴィチのヴァイオリン協奏曲。

普段あまり聴かないコンチェルトだけれど、こんなに素晴らしい曲だったとは!(笑)


前衛的で、現代音楽っぽくて、いかにもオーディオファンが喜びそうな音のすき間を確保しながら、エネルギー感のある音を連発。


そして誰もが絶賛した第3楽章のパッサカリアのカンデンツア。


場内シーンと誰一人固唾を飲んで見守る中、延々と雄弁に語り続ける。

そして第4楽章にそのまま流れ込む。


終止のとき、思わず感嘆の漏れ声が出てしまう。


ふつう終演のときは、ブラボーや歓声も客の方で事前に意識系でやっているのが多い中で、今回は、本当に思わず漏れ出てしまったという人間の本能のありのままの声が出てしまった・・・という感じ。


もうこの意識系と本能での歓声(溜息に近い)の違いはあきらかに聴いていて違います。


それだけ、まさに神がかっていました。


自分も鑑賞歴としてはベテランの領域ともいえるヴァイオリンの演奏会で久し振りに興奮しました。(笑)


長い間、庄司紗矢香というヴァイオリニストに抱いていた不完全燃焼な気持ちが一気に吹っ切れた感じでよかったです。



サロネン&フィルハーモニア管の演奏会については、多くの人が書かれると思うので、私の方では割愛。


でもあのすざましいダイナミックレンジの音を、ある決められた器の中にコンプレッション(圧縮)したりしたら、あの迫力って絶対損なわれると思いますね。初日、NHKが収録していましたので、放映されると思います。ライブ生演奏であれだけ大感動したのに、収録放送を見ると、全然迫力がなくてガッカリした、というのは、まさにそういうことだと思います。




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(c)庄司紗矢香Twitter



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(c)庄司紗矢香Twitter (Hikaru)




東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ
フィルハーモニア管弦楽団
指揮:エサ=ペッカ・サロネン
ヴァイオリン独奏:庄司紗矢香


2020/1/23(木)19:00~


ラヴェル/組曲「クープランの墓」
J.シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47


休憩(インターミッション)


ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」


ソリストアンコール
パガニーニ
「うつろな心」による序奏と変奏曲から”主題”



2020/1/28(火)19:00~


J.シベリウス/交響詩「大洋の女神」
ショスターコヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 OP.77


休憩(インターミッション)


ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年原典版)


ソリストアンコール
シベリウス「水滴」


オーケストラ・アンコール
ラヴェル「マ・メール・ロワ」より「妖精の園」














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