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ポリヒムニアのSocial Distancingな録音 [ディスク・レビュー]

今日6月25日は、日本のオーケストラ団体が立て続けに、活動再開に向けて、その指針を発表した日だった。やはり1番中心で大きな柱になっているのが、東京都交響楽団(都響)であろう。


自分たちが、日本のオーケストラの中心になって、この難局を乗り越えていく旗頭になっていこうという強い気構えを感じる。


都響は、今月の11日、12日に新型コロナ対策を踏まえた今後のコンサート活動について、東京文化会館で数々の実験を踏まえた試演をやっている。


その実験結果とその今後の方針についての指針を今日発表した。


「演奏会再開への行程表と指針」を策定



そうか、そうか・・・。


こんなロードマップ。
なんか具体的に見えてきた感じですね。


日本オーケストラ行程表.jpg


マーラーの交響曲のような大編成を聴けるようになるのは、まだ先ですね。
合唱などの声楽が1番高い障壁になりますね。


上記のリンク先にあるPDF資料を一読してみてほしい。その試演での実験結果をここまで専門的に分析してデータ化しているのは、驚きである。自分は、このPDF資料の中で1番興味を惹かれ、なによりも単刀直入で簡潔に書いてあってわかりやすい資料3。


1番読みやすく、端的にポイントを抑えているように思えた。


試演後に、関係者でミーティングした議事である。


(奏者からの飛沫)
◆ 数値の解析はこれからだが、思ったよりも粒子は飛んでいない印象。
◆ フルートは息が良く出ると聞いていたが、しぶきが大量に飛ぶということは無かった。
◆ 歌手は、飛沫は飛ぶが、大きめの粒子、下に落ちていくような粒子が多い印象。
◆ 舞台上でも、管楽器の真ん前、弦楽器の真後ろで計測していた限りでは、そこで数値が大きく変わることもなく、もう少し詰めてもあまり変わらないと思う。ひな壇に上がったとしても基本的には同じだろう。
 
(奏者間の距離についての医師の見解)
◆ ヨーロッパでは、1.5mとか 1mとかのガイドラインがあるようだが、まずは普通どおり並んでも良いのではないか。
◆ 医師も、患者と 1mは離れない程度で外来診療を行っているが、必ずマスクをし、一人診察が終わるごとに、手洗い、アルコール消毒をすれば、そう簡単にうつされるものではない。
◆ オーケストラでも、むしろそのような、練習場に入る時の手洗いなどを守っていただければ、活動を再開できるのではないか。
◆ ディスタンスは取れるのなら取った方が良いのだが、基本的には 1m取れば十分感染予防できる。むしろ、通常の感染予防対策、手洗いや体温チェックなどが大事。

◆ 一方で、歌手については比較的飛んでいるという話。感染症学では、基本的には 2m飛ぶと言ったら、安全をとってその倍の距離を取れば良いと言われる。舞台から観客席をどれぐらい空けたらいいかというのは、その辺りから分かってくるのではないか。
 
(奏者のマスク着用)
◆ マスクはした方がそれに越したことは無いが、本番の時は外しても良いのでは。
◆ むしろ控室などでの何気ない会話、食事をとる時などに、気を付けた方が良い。

(大リハーサル室の状況)
◆ 大きな通気口があり、広さとしては非常に広い、容積が大きいので、問題ない。
◆ 空気の流れの確認は必要かもしれない。
◆ 練習は原則としてマスクをするなど、多少通常よりも感染予防を徹底していけば大丈夫。
◆ ホールより狭いとしても、肩と肩がくっつくような状態で演奏するわけではない。
◆ むしろロビーで休憩する時の方が心配。病院では、食堂でも、向かい合わせになるな、基本的にしゃべるな、ということを言っている。
 
(管楽器の結露水)
◆ もし感染している人が演奏していたのだとしたら、結露水には接触感染のリスクが生じる。
◆ 今回やっていただいたように、吸水シートに必ず捨てるようにすることは必要。
 
(PCR検査)
◆ PCR検査というのは確証にはならない。
◆ リハーサルの時など、指揮者は楽団員に、大きな声で呼びかけることもある。楽団員の安心のため、という意味で、例えば指揮者のみPCR検査をするということは考えられるかも知れない。


自分が1番ビビッと反応したのは、奏者間の距離についての医師の見解。


「ヨーロッパでは、1.5mとか 1mとかのガイドラインがあるようだが、まずは普通どおり並んでも良いのではないか。」


そうか!そうか!よくぞ言ってくれた。


アフターコロナ&ウィズコロナで、自分がニューノーマルどころか、アブノーマル(笑)だと思っているのは、あのステージ上での奏者間の距離と、観客席の間引き。これがなくなれば正常に戻れる。


医師のコメントは、奏者間の距離だけの言及だけれど、観客席については、クラシック聴衆は静かに聴いているし、ブラボーなし、咳エチケットがあれば、そんな飛沫の危険性は少ないと思うんですよね。普通にお客さんを入れてもいいのでは?と思います。


早くそういうポイントでの確証がほしい。

ここが一番重要でもある。


あと、奏者のマスク。これも不要。見苦しいです。(笑)


「一方で、歌手については比較的飛んでいるという話。感染症学では、基本的には 2m飛ぶと言ったら、安全をとってその倍の距離を取れば良いと言われる。舞台から観客席をどれぐらい空けたらいいかというのは、その辺りから分かってくるのではないか。」


う~ん、これは予想はしてけれど、声楽はやっぱり厳しいなぁ。自分は声楽コンサート大好きなので。声楽は生で聴くと本当に興奮度は半端ないです。声楽こそ、生に限ると言ってもいい。



ヨーロッパは、Social Distancingについては、結構うるさい。
ガイドラインがかなりしっかりしている。


アムステルダム・コンセルトヘボウのSocial Distancing対応のオーケストラ配置。客席をとっぱらって、平土間にオケを配置して、1.5m/1.75mなどの奏者間の距離を取る。指揮者はステージ傍で、そこから奥行きにオケが展開するイメージ。


コンセルトヘボウには1.5mのSocial Distancingを命ずるロゴステッカーが貼られている。


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控室替わりのブレイク時のドリンクコーナーも距離感を持ってチェロケースが。。。


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自分は、この写真を見たとき、なんか間違っているだろう。(笑)これが今後のニューノーマルになるんだったら、ごめん被りたいところもいいとこだ。早く元の世界に戻れ!と思ったものだ。


このときのリハーサルの指揮者がグスタボ・ヒメノ。
そう、RCOの首席打楽器奏者から指揮者に上り詰めた才人だ。


自分はヒメノ指揮RCOの来日公演をサントリーホールで聴いたことがある。ソリストはユジャ・ワン。2015年だったかな。素晴らしかったよ。ヒメノは袖に下がるときに小走りに速足で去っていくのがなんか奇妙と言うか、大舞台に慣れていなさそうで初々しかった。


上の写真はあくまでリハーサルで、それは録音のためだと思っていた。
ヒメノは、現在ルクセンブルク・フィルの首席指揮者である。


この写真で録音したPENTATONE新譜がこれだと思っていた。



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交響曲、交響的変奏曲(フランク) 
グスターボ・ヒメノ&ルクセンブルク・フィル、デニス・コジュヒン



もちろんさっそく買って聴いてみた。
この写真のオケ配置、奏者間距離で果たしてちゃんと音がまとまって聴けるの?
音場や音像が膨らんじゃって、ダメなんじゃないの?


これはポリヒムニアの腕の見せ所。腕前拝見とさせていただこう、と思っていたのだ。

さっそく聴いてみたところ、自分は青ざめた。


もう全然普通にいい録音。コロナ以前のふつうのホール録音と変わらない出来で、自分はぶったまげた。さすが技術集団、ポリヒムニア。やってくれるなぁ、と舌を巻いた。


まったくの普通通りの録音テイストなのだ。

どうやってんのかな?とも思った。


実際自分がこの新譜を聴いたのは2~3週間前だったのだが、そのときにすぐに日記にすることをためらった。日本では各オーケストラが奏者間距離をいろいろ試行錯誤でやっていて、距離があるとやはり隣の奏者の音の聴こえ方が違ってくるし、アンサンブルもやりずらい。


もう真剣モードでみんな議論している。


そんな中に、いや~1.5m/1.75mで平土間でやっても、全然普段と変わらないいい録音!なんてことは言えない。(笑)いいづらい雰囲気で躊躇って、自分の心の中だけに収めておくことにした。 


そのあとブックレットを読み進んでいくうちにこの話の落としどころが待っていた。(笑)


録音日時、録音場所が、2019年7月と11月となっていて、ルクセンブルク・フィルハーモニーとなっていた。


あれ?コンセルトヘボウじゃないの?
しかもこの日時って、コロナ以前では???


これがルクセンブルク・フィルハーモニー。写真は、コロナ以後にヒメノ&ルクセンブルク・フィルが1.5mの奏者間距離を開けて、無観客生ライブ配信をする、という写真だ。
 

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ルクセンブルク・フィルハーモニーはご覧のように、シューボックスのコンサートホール。シューボックスで程よいエアボリュームだし音響も良さそう。このホール空間で、コロナ以前の普通のオケ配置で録ったなら、そりゃいい録音になるに違いない。(笑)


そりゃ昔と変わらないいい録音に違いない。
ポリヒムニアのエンジニアは若手育成のため、若手を積極的に起用していた。


コンセルトヘボウのあのオケ配置は、指揮者は確かにグスタボ・ヒメノだけれど、オーケストラはRCOなのでした。それもベートーヴェン7番とドヴォルザーク8番を、このコンビでコンセルトヘボウから無観客生ライブ配信するためのリハーサルだったのだ。


自分はこのベト7は、ストリーミングで聴きました。


RCO Social Distancing.jpg


やっぱりこのご時世、まだ奏者間距離をどうとるか、は試行錯誤のときで、これで録音、商品にするまでの決断はできないのでしょう。まだ無観客でライブストリーミングする段階で止まっているというか・・・。


奏者間距離を取ると、やはり全体のオーケストラのサウンドに影響はあると思います。それは商品として聴いている自分たちのような聴衆もそう感じるけれど、なによりも指揮者、奏者にも違和感あるはず。


普通に従来の密の状態の方が音はいいですね。それで、ずっと歴史を作ってきたのですから。


コンセルトヘボウの写真のあの平土間配置であんなすごいサウンド造られたら、と思ったら興ざめでしたが、世間はまだそこまで行ってないし、いや行ってほしくないという感じでもありましょうか?(笑)


ルクセンブルク・フィルハーモニーで今回の新譜で作業を進める指揮者グスタボ・ヒメノとピアノソリストのデニス・コジュヒン。


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デニス・コジュヒンは本当に素晴らしいピアニストですね。英国グラモフォンの記者からは、自分が売れること、そういうポピュリズムから最も遠い位置にいるピアニスト、と評されるほど、玄人好みというか渋い立ち位置が自分は大好きです。


フランクという作曲家は、普段はあまり聴かない作曲家ですが、この新譜を聴いていると本当にその大物作曲家と言っても過言ではないその筆致に感動します。


完成度の高い作品だと思います。


この新譜、自分の愛聴盤に間違いなくなりそう。






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