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ダイレクトカッティングはワンポイント録音がいい [ディスク・レビュー]

ベルリンフィルのダイレクトカットLPを購入した。ラトルのブラームス交響曲全集のときは、悩んだのだけれど定価が8万円台だし、自分はアナログは腰掛け程度でメインストリームではないので、見送った。


今回、第2弾のハイティンクのブルックナー交響曲第7番が出ることになり、それが3万円台なので、価格的にも範疇内なので、つい誘惑に負けて購入してしまった。


そうすると、どうしても第1弾のラトル盤も揃えたくなる。
買っておけばよかったなーと後悔だ。


いまラトルのダイレクトカットLPはなんと中古市場で25万から30万で取引されているという大変なプレミア盤なのだ。そんなとき、舞夢さんが、こっそりラトル盤、ヤフオクに出てます、と教えてくれた。11万5千円だ。おう!これはターゲット内。でも終了時間間際で跳ね上がるのだろうな、と思い、15万までなら出そう!という覚悟を決めた。


そしていざ勝負。なんと誰も入札せず、自分だけが入札してあっさり11万5千円で落札できた。


ラッキー!である。しかも新品未開封なのだ。舞夢さん、ありがとう!


こうなるとラトル盤、ハイティンク盤と完遂することができた。


届いてじっくり聴き込もうと思ったが、なにせアナログ再生は、最近すっかりご無沙汰である。日記を紐解けば、2016年にアナログプレイヤーを購入して再生して以来だから、じつに4年ぶりだ。


学生時代にコレクションした100枚のLPを再生したい、ということ、そして昨今のアナログブームから、やはりプレイヤー持っていないとダメだろう、という想いから購入したのだ。


でも腰掛け程度だから、高級なターンテーブルを購入するつもりもなく、ソニーのPS-HX500というアナログ出力をPCにDSD5.6MHzで取り込めるという付加機能が売りの安いプレイヤーを購入した。カジュアル向けのプレイヤーですね。


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アナログが本筋ではない自分にはこの程度で十分である。でもそれ以来、すっかり死蔵扱いで、埃をかぶり、その上にCDが山積みされている状態であった。


4年ぶりに動かすし、きちんと音が鳴るのかな、とも思い、恐る恐る鳴らしてみた。
この日のためにインターコネクトのケーブルも新調した。


アルゲリッチ盤とグリモー盤で鳴らしてみた。


DSC02957.JPG



案の定、聴くに堪えない酷い音。
こりゃあかん!ということで、調整開始。
久しぶりアナログ触るから、もう試行錯誤。


ハム音が鳴ったりで、かなりケアレスミスも多く、あーだ、こーだとやること3時間半。
ようやく4年前に聴いていた感じのサウンドに戻ってきた。
久しぶりにオーディオやったという感じ。(笑)


ラトルのダイレクトカットLPは、舞夢邸で聴かせてもらったことから、舞夢さんにメッセージして、いろいろアナログのことを教えてもらった。


気になるのはアナログ再生時のゲインが低く、CD再生時より15dBも低い。


舞夢さんのアドヴァイスは、「確かにディスクによっては録音レベルが低いものはありますが、この盤の録音レベルは特に低いわけではないようです。(拙宅の場合はCDと大差ない音量差です)考えられるのは、カートリッジの種類(MM、MC)とのマッチングです。AMPのPhonoイコライザーは、RIAAカーブで周波数特性を元に戻すと共に、レベルを昇圧しますが、これはMMカートリッジの再生レベルまでです。通常、MCカートリッジはMMカートリッジよりも出力が低いために、MCヘッドアンプもしくはMC用の昇圧トランスを使用して出力レベルを補正します。


アンプ側でMC、MMの切り替えはできるようになっておりませんでしょうか。少なくともAVアンプにPhonoポジションがあるので、イコライザーアンプは入っていると思われますが…。ちなみに拙宅のアンプではポジション切り替えがあり、MCカートリッジをMMポジションで聴くと仰るようにかなりゲインが低く、それに伴ってS/Nも大幅に劣化します。でも、もし、カートリッジがMMでこの症状だとしたら、どちらかの機材に不具合がある可能性がありますね。


あと、もうひとつ、カートリッジシェルはアームから外せますよね?期待薄ですが、ここの接点を布で(できればアーム側も綿棒で)磨いてみてください。」


ソニーのプレイヤーは、MMカートリッジ。MMのフォノイコライザー内蔵のようだ。
だからゲイン不足というのは機器の不具合なのか?(笑)
まぁとりあえずこのままAMPのVOL上げてそのまま続行。


カジュアル向けのプレイヤーなので、固定アームでカートリッジ交換不可能とずっと思っていたけれど、そうではないようだ。


ゼロバランス、針圧3gも再調整。なんとインサイドフォースキャンセラーも調整できるのだ。(笑)


いろいろ調整したけれど、オーディオオフ会でオーディオの友人宅で聴くような、あのアナログ特有の太くて濃い濃厚な音ってやっぱり無理なんだな。


アナログLPはダイナミックレンジ(Dレンジ)は狭いけれど、CDのように音域をカットしたりしていないから周波数レンジ(Fレンジ)は広くて、かなり濃い音が楽しめるはずなのだが、う~む、厳しい・・・。


やっぱりカートリッジの差が大きいかな。5万円のプレイヤーだからこんなもんかな、と妥協。


久しぶりにアナログ聴くから、グリモーさん&バイエルン響のブラームス、なんと途中で針飛びしてしまい、前へ進まない。えっ4年前に数回聴いただけで、そのまま保管していただけなのに、なのに、なぜ?目視しても傷や障害物もなさそう。


ショック。大好きな盤なので、中古市場で買いなおしました。(完全限定版だからいまは売ってないんですよね。)


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後日レコード店で相談してみよう。


まっこんな感じなのである。
ようやくアナログ再開の準備は整った。


ベルリンフィルのダイレクトカットLP。


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とにかく高級品そのもので、最初触るのはすごく怖かった。
ラトル盤は、500枚完全限定。あっという間に即完売だった。

ハイティンク盤は、1884枚完全限定。


自分のシリアル番号は、ラトル盤は450番(/500番)
ハイティンク盤は、1428番(/1884番)


ハイティンク盤(なんと日本語解説がついている。ラトル盤にはなかったことだ。)


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ラトル盤


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ベルリンフィル・レコーディングスによる制作との宣伝だったが、中を見たらやはりエミール・ベルリナー・スタジオ(Emil Beliner Studios)による制作だった。まぁ、EBSはもともとDGの中にいたレコーディングス技術部隊でDG時代のベルリンフィルを録音していたのだから、別に問題はなし。


ライナー・マイヤールさんプロデュースだ。



さっそくハイティンク盤から聴いてみる。


ハイティンク盤は、2019年5月に行われたベルナルド・ハイティンクのベルリン・フィルにおける最後の演奏会、ブルックナー「交響曲第7番」をダイレクトカットLPで収録しようとした試みだったのだ。


ハイティンクは、ベルリンフィルとも200回以上の演奏会をおこなった縁の深い指揮者で、そんなハイティンクに対して花道を飾ってあげようというプレゼントだったようだ。


ディスクの最終面(LP2‐B面)にはハイティンクとベルリン・フィル団員のサインが刻み込まれている。


ハイティンク・サイン.jpg


メンバー・サイン.jpg


ダイレクトカット録音は、マイクで採音された演奏を、直接ラッカー盤面に刻み込んでいく方法で、編集はいっさいない。もちろん演奏自体も失敗が許されないから、すべてにおいて一発勝負なのだ。


従来のようなアナログマスターテープを介さないからテープヒス音もない、高音質という触れ込み。


ハイティンク盤を聴いて、そして引き続いてラトル盤を聴く。

聴き比べてみて、自分が想ったこと。


それはオーケストラ録音の難しさ。


ジャズやポップスはオンマイク録音、クラシックはオフマイク録音と言われる。


オーケストラ録音って、やっぱり音場型録音だと思うのですよね。


あのコンサートホール全体に響き渡る音場をそのまま、まるっと抱え込むというかその音場空間をそっくりそのまま捉え録音するのがオーケストラ録音の基本なのだと思うんですよね。それがまず第1前提で、その次に各楽器の解像感や分離感などを追求していくような順番なのだと思うのです。


コンサートホールで生演奏を聴いている、あの感覚を蘇らせるには、やはりあの全体の音場感がファースト・プライオリティ。


ラトル盤はワンポイント録音だった。


舞夢さんの話では、ハイティンク盤ではアンビエンス・マイクを使ったマルチマイク録音だそうだ。メインマイク3本とサブマイク2本の5本構成された構成だったようだ。


ハイティンク盤とラトル盤を聴き比べると、自分はこの差がサウンド的な印象を決める決定的な要因のように思えた


結論からすると、自分はマルチマイク録音のハイティンク盤より、ワンポイント録音のラトル盤のほうがよかった。


ハイティンク盤は、音場感が潰れている感じで音が伸びてこないというか、平面的で空間を感じないのに対し、ラトル盤はすごく音が伸びる感じで、ホール空間がそのまま目の前に現れるような感じがした。ラトル盤はホール感がありますね。


よくワンポイント録音は音場感をそのまますっぽり取り込めることができ、自然な音場感を得ることができる反面、マルチマイク録音は、メインマイクの他に、スポットマイクなどで採音し、それを後で、パッチを充てるように継ぎはぎしていくから、位相がぐちゃぐちゃになり、位相合わせなどの調整が難しくて自然じゃない。だからマルチマイク録音はダメ、と言い切る方がいらっしゃるが、自分はそうは思わないです。


確かにワンポイント録音だと抜け感がいいというか、スコーンと抜けるような空間感があって、いいのだけれど、逆にワンポイントだから各セクションが遠くて、解像感や分離感が悪くて団子のように聴こえるというデメリットありますね。あと、マイクから遠いからオーケストラが持っている躍動感の表現も苦手ですね。


そういうのを解決するのに、補助のスポットマイクで録ってあとで、継ぎ足しする訳ですが、そういうワンポイント録音の苦手な部分を補ってくれるのだと思います。


指揮者の背面の天井近く高いところにメインマイクがあって、そこで全体の音場をキャプチャーして、そういう解像感や分離感、躍動感などをそっと後から補完してあげるというそんな作業なのではないでしょうか?


確かにマルチマイクって継ぎはぎだから、聴いていて、抜け感が悪くて、どこか空間が詰まっている感じで、抜けるような自然な音場感という感じはしないかもしれませんが、それってエンジニアの腕次第だと思うんですよね。


自分が普段聴いているレーベルはマルチマイク録音が主流ですが、きちんと位相合わせの技が妙で、シームレスに繋がってそういう不自然さを感じないし、広大な音場、明晰な音像を両立させていると思います。


すべてエンジニアの腕次第だと思うのです。


音声信号で、位相って本当に大事なパラメータです。音声信号の時間軸の管理、調整のことです。


今回、ハイティンク盤で音場が潰れてホール感を感じないのは、マルチマイク録音で録ったものを、きちんと後でその継ぎはぎのときの位相合わせなどの編集ができないからだと思うのです。


ダイレクトカット録音は、もちろん編集はいっさいなしのマイクで採音した音をダイレクトに盤面にカッティングするのでそういうマルチマイクで録った音の位相合わせなどがきちんとできていなかったのでは、と思うのです。


なぜハイティンク盤をマルチマイクで録ったかと言うと、それはブルックナーが大編成を要するので、ワンポイントだと全体を捉えられないという理由からそうしたのだと思います。


でもマルチマイク録音は編集してなんぼの世界ですね。


エンジニアが徹底的に編集を施して、きちんと継ぎ目をスムーズにして、位相合わせして、完成度をあげて初めて成果がでるやり方ですね。


ダイレクトカット録音はそれができないから、簡単なミックスでは、どうしてもそういうつなぎ目がうまくいかず、位相がぐちゃぐちゃになって空間、音場感を壊してしまうのでは?と思うのです。


ライナー・マイヤールさん率いるエミール・ベルリナー・スタジオ(Emil Berliner Studios)という最高の技術スタッフを以てしてもこんな感じの印象だから、やはり難しいことなのだと思います。


ラトル盤はすごいです。とにかくすごい空間感、ホール感でよく鳴るというか、自分の5万円の安いプレイヤーでこれだけ鳴るのは、やはりオーケストラ再生冥利だと思います。グリモーさん&バイエルン響もオーケストラ演奏ですが、全然ラトル盤のほうが凄かったので、やはりダイレクトカット録音はすごいと思ったほどです。


編集がいっさいできないダイレクトカット録音では、やはりワンポイント録音のほうがいいのではないか、というのが自分の導き出した結論です。


もちろん最初からそんなことを思いつくはずもなく、ハイティンク盤を聴いて、う~ん。ラトル盤を聴いて、う~ん。なんでこんなに違う感じなのだろう、ということを感じて、自分で後で無理やりこじつけて理論づけただけなのです。


つじつまが合うようにした後付け理論なのです。

もちろん間違っているかもしれないです。
反論も多いと思います。甘んじて受けます。


自分の安いプレイヤーではハイティンク盤をきちんと鳴らし切れていないだけなのかもしれません。(その可能性も大きい。)


そういう考え方からすると、いまのライブストリーミング配信も生放送ストリーミングは編集できないから、ワンポイントマイクでやるのが一番自然な音場感、ホール感を得ることができて、いい音で視聴者に音を届けることができると思うのです。


アーカイブは、あとで、じっくりエンジニアが編集して完成度をあげていい音にすることができるから、そういう意味でマルチマイクでいいかもしれませんね。


ベルリンフィルのDCHなんてそうやっていると思います。


オーケストラ録音って本当に難しいです。


今回のダイレクトカットLPについては、もともと舞夢邸で聴いたことが最初の縁でしたが、舞夢さんにはいろいろお世話になりました。


ここにお礼を申し上げます。







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