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北鎌倉 幻董庵 [グルメ]

北鎌倉は、円覚寺やアジサイ寺で知られる明月院など、鎌倉を代表する著名な寺院が目白押しで、鎌倉を代表する観光地なのだろう。街並みの景観も古民家が集まっている感じで、古都らしい長閑で雰囲気がある。

その土地で、食事を3時間かけていただく・・・という普段の自分の喧騒な世界とは程遠い、そんな世界を堪能してきた。

なにせ、普段の食事なんて、ものの10分くらいで食べてしまう早食いの主。糖の吸収的にもよろしくない。そんな自分にとって別世界の体験であった。

事の発端は、SNSの投稿写真でこのお店の料理の一品を偶然見たことに始まった。
自分の美的感覚に思いっきり反応してしまった。(笑)

「これは美しい!!!」

まさに芸術品のようだった。

しかも鎌倉のレストラン。

これはぜひ取材した~い!自分の日記やブログで取り上げた~い!

かねてより、自分の鎌倉マイブームの最後の盛り上がりとして、鎌倉が1年のうちにもっとも輝く季節である”紫陽花(アジサイ)”の季節にもう1回鎌倉を訪れたいという希望があった。

だから、このレストランも紫陽花の季節にぜひ訪れたいと思っていて、ずっと心の中で温めてきたのだ。



昭和の名女優 田中絹代さんの別邸であり、そこを改装して創作日本懐石料理のレストランとしてして開店した。

田中絹代さんの本宅は、鎌倉山にあったそうだが、こちらの別邸は、近くの大船に松竹の撮影所があった頃に、そこに通う際に使っていたそうだ。スタッフや俳優さんの宿としても機能していたそうで、往年の名女優たちも集ったそう。

古民家の中に埋もれて建っている佇まいで、本当に隠れ家の中の隠れ家的レストラン。

あの映画監督 小津安二郎さんの世界に出てきそうな世界だ。(笑)

北鎌倉の駅から、徒歩10分くらい。調べないで行ったら、絶対たどり着けない。
裏の小路を歩いていく感じで、これは、本当に隠れ家だよなぁと思った。

でも確かに裏の小路だが、サイトの地図どおり行けば、意外にわかりやすく、迷うことはないと思う。


緑に囲まれた感じで、美しい門構え。

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ここが、その隠れ家レストラン「幻董庵」

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お店の中を入ると、まず圧倒されるのが、多数のカップ&ソーサーなどの骨董品、工芸品の数々のコレクションの展示。

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お店の方に聞くと、ここの女将さんが大の骨董品好きで、このコレクションも女将さんのものなのだそうだ。お店の名前も「幻董庵」としているのも、この骨「董」品から取っているのだそうだ。

お店の内装は、もちろん木造空間でとても素敵だ。
これは雰囲気あるなぁーと感心してしまった。


完全予約制。
夜の部は、個室のみで、2人の予約しかとらないそうだから(お店に確認してください。)、勝負はランチタイムだろう。

1階と2階がある。

自分は、2階に通された。

2階は、いわゆる大所帯用の感じで、20名くらい。

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その和室の空間が、とても素敵だ。

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ランチのメニューは、3800円と5000円、そして8000円コースがある。
ネットのレビューなんかを見ると、普段のランチは、3800円と5000円のみだそうで、8000円のコースは稀にしかないそうだ。自分のときは幸運にも、8000円コースがあったので、迷うことなく、それを予約時に頼んだ。

なるべく写真映えするような品々を期待していたからだ。

幻董庵さんのメニューは、いわゆるお品書きは存在しない。つまり固定のメニューというものがない。その季節柄に応じた創作料理をそのときに楽しむ、というコンセプト。

だから投稿写真を見て、うわあ、これが食べたい!と思っても同じメニューを体験できることは難しいのだ。


さて、いよいよここから本番。
自分が経験した8000円コースのランチである。


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食前酒の梅酒。

甘くてとても美味しい。
料理フルコースを味わったときに思ったことだが、やはり器がとても美しくて高級な趣がある。
やはり女将さんの拘りなのであろうと感じた。

右上にあるのは、ふつうの烏龍茶を頼んだのだが、この器でやってきたときは、これは雰囲気あるなぁと感じました。


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先付け

南瓜、鰻のハモ、ウド、ヤングコーン、角海老、龍眼

さっそくすでに見た目にも写真映えする1品で満足。楽しいフルコースがやってくる予感。
とても不思議な味で、いままで体験したことのないような味覚だった。
とても美味しい。あまりに美しすぎて食べるのが、勿体ない感じがした。


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お造り

マグロ、イサキ、カンパチ、水タコ、メジナの小造り

鮮度がよく、素晴らしく美味しかった。ふつうのお刺身なので、特に奇をてらった感じではなく、馴染みやすく満足できた。


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お椀

頭鯛しんじょう。里芋やとうがんが入っている。

とても深い味のお出汁。いろいろなもので、何重にも下ごしらえされて味をとって造られた御汁のような感じであった。単一の材料ではないですね。

中の鯛の身がすごく美味しかった。


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焼き物

穴子の煮凝り、茄子と牛タンの和汁、味噌田楽、かますのゆうあん焼き

今回のコースの中では、自分的には1番最高だと思った1品。
ある意味、これがクライマックスだった。

茄子と牛タンの一品のじつに美味しいこと。牛タンはとてもお肉とは思えない柔らかさだった。
こんな美味しいものはない感じだった。

一番右上にある穴子の煮凝りは、珍品でちょっといままで体験したことのないような味、食感でした。言葉で表現するのが難しい。


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煮物

甘鯛と湯治蒸し

とろみのついた餡がとても和っぽい感じで、しかもダシが効いていて美味しい。甘鯛の身がこれまた美味しい。上品な1品ですね。


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揚げ物

オマール海老と干しエビのから揚げ

これも美味しかったですね。海老のあの独特の濃厚な味がしっかりしていて、本当に美味しいと思った1品。自分は人生でどうしても伊勢海老が食べたいと思っていて(まだ食べたことがない。)、そんな海老愛を満足させられた1品だった。


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ごはん

焼ウニと豆ごはん。
赤出汁のお味噌汁とお漬物。

焼ウニが美味しい!やはり日本人にはごはんとお味噌汁が食事には不可欠。このコースの最後のほうに出される配慮が心憎い。(笑)お味噌汁は自分は生まれ育った環境は白だしだが、赤だしは、かなり自分の好み。美味しかった!


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デザート。

抹茶と懐石デザートの工夫された品々。

美しすぎる!
まさにラストを飾るに相応しい最高の1品となった。
この美しい盛り付けが、ここのお店の訪れたいと思ったその”美”のセンスをすべて兼ねそなえていると言っていい出来栄え。


いやぁ、全9品、見事なお手前でございました。

フルコースで、2時間半でした。

期待を裏切らない、素晴らしく”美しい”創作料理、そしてなによりも本当に美味でございました。


料理を運んできてくれるお店の方も、とても物腰が柔らかく、丁寧な言葉使いで、1品1品解説してくれて感動しました。

まさに北鎌倉の古民家の中に潜む知る人ぞ知る隠れ家レストランという感じで、木造の美しい内装空間、芸術品のような美しい創作料理の数々。

ぜひ自分の日記で取材したいと思ったその勘は間違いではなかったようです。

鎌倉のアジサイの季節にとったひと足早い休暇で、濃密な時間を過ごしました。




幻董庵

https://tabelog.com/kanagawa/A1404/A140401/14010528/






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ああチケットよ! [雑感]

mixiに入会して、初めての海外音楽鑑賞旅行と称してベルリンフィルハーモニーにて、ラトル&ベルリンフィルを聴く!という大目標を立てた。自分の「ホールツアー」というライフワークの幕開けだった。

なんせ、旅行準備日記として1年も前から連載して盛り上げた。

ところが、ご存知のように、チケット発売本番日にあえなく討ち死に。(笑)
まったくもっての瞬殺ソールドアウトだった。

ラトルのマーラーチクルス、恐るべし!

まさにプラチナ!

マラ6だからな。

1年も準備してきて盛り上げてきたのに、もう怒りの鉄拳を振り落とす場所もなし。
みなさんから、たくさんの慰めのお言葉の数々。

それ以来、海外ツアーは、チケットが取れてから発表することにしました。(笑)

そんな失意のどん底にいるとき、

「はっきり行ってヨーロッパの場合、必要なのは、お金でなく根性だ。」

と言って激励の日記を書いてくれたのが、ゴローさんだった。

いまふたたび、ゴローさんのその日記を振り返ってみたい。

ゴローさんという人が、いかに無茶ちゅうか、猪突猛進というか、まぁ、とにかく行ってみるべえ精神の人だったか、ということがわかる。

SOLD OUTのチケットだから取り甲斐がある!行く価値がある!

いまの旅人には、まずマネできんだろうな。

当時の自分が、この日記にどれだけ勇気づけられたか!
なんとかなるんではないか?という気持ちになった。


とにかく読んでみてくれ。 

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マイミクのノンノンさんが、ベルリン・フィルの定期演奏会のチケットが取れなくて苦しんでいるらしい。まあ定期演奏会となると、やはり定期会員というものがいるわけだから、なかなか思うようにとれない時もある。

しかし、わざわざ日本から聴きに行くとなると自分などは、完売SOLD OUTが当たり前で、それこそ、わざわざ行く価値があるのだと思うぐらい自分は、そういう公演を狙って行ってきた。


はっきり言ってヨーロッパの場合は、必要なのは、お金でなく根性だ。


10数年前は、毎年紅白歌合戦を終えて、3賀日を家で過ごした後、ニューヨークに勉強もかねてミュージカルを観に行っていた。

自分が観たいものは、その年にオープンになったばかりの新しい演目で、しかも話題になっているものばかりを、1週間かけて10演目ぐらい立て続けに観て帰るという旅なので、その半数以上がSOLD OUTなのだ。

そこで当日のキャンセル待ちに、なんと朝の4時30分から並ぶ。
ニューヨークの真冬1月である。とんでもなく寒い!

しかし朝8時過ぎまでは、劇場の玄関が開かないので、毛布を持って路上に並ぶわけ。

これは、痺れるよぉ・・・。4時30分だと、さすがに前から5人目ぐらいになるわけで、8時過ぎると一応ガードマンが正面のシャッターを開けてBOX OFFICEの前に並べるようになる。

暖房はまだ無いが、一応建物の中で小1時間立ってさらに待つ。
だいたい2人か3人で行っていたのだが、必ず自分の順番を待って一人ずつ買う・・・これがコツだった。一番先の人が、他人の分まで買おうとして3席とか言うと、ボックス・オフィスの人は並びや近くの席を取ってくれようとするので、かえって席が悪くなってしまう。

キャンセル席なので、良い席は1席ずつポツポツと出ることが多いのだ。
そうやってチケットをゲットして、ホテルに戻って暖かい朝食を取って、昼まで寝る・・・そんなニューヨーク・ツアーだった。

まあニューヨークやロサンゼルスといったアメリカの場合は、チケットロンのような合法ダフ屋があって、お金にさえ糸目をつけなければ、おおよそのチケットは手に入る。

入らないのは、例えば過日ブルーレイで出たバーバラ・ストライザンドのヴィレッジ・ヴァンガードLIVEみたいなもの。ONE NIGHT ONLYで、座席が200席も無いというような条件では、仮に100万まで出すよ!といってもチケットが取れないだろう。

自分も今となっては内容は忘れたが、カーネギー・ホールでオールスターのGALAコンサートがあって、20万円出しても良い・・・と粘ったが結局チケットを入手できなかった経験がある。

ヨーロッパの場合は、チケットロンのような合法公式なダフ屋がないので、本当に根性と気合しかないような気がする。

最初にそれで、苦しんだのが、バスチーユのオペラ座のこけら落とし公演 新演出の「魔笛」。もちろん初日ではないが、全然チケットの入手方法がわからず、ええいとりあえず行ってみるべえ・・と日本を出発。バスチーユに行って当日券のすでに長い列に絶望的な思いで並んでいると、暗くなる頃に、次々と一般ピープルがチケットを売りに来る。

なんのことはない、市民が個人のダフ屋なのであった。

1998年にやはりバスチーユで、ホセ・クーラが初役でドン・ホセを歌い、ベアトリス・ユリア・モンゾンがカルメンを歌ったときは当日売りに朝8時から並んで、開演5分前に、7列目のど真ん中をゲットした。

そのときは1人だったので、トイレに行くタイミングとか辛かった記憶がある。

しかし昼過ぎくらいになると、前後に並んでいる人たちと親しみが生まれてくるし、順番をきっちり見ている守衛さんがいることがわかったりして、ちょっと気分がリラックスしてくる。しかし、立ちっぱなしでパンや飲み物を持って、飢えや渇きを凌ぐわけで結構大変だ。

ヨーロッパで、どうしても入れなかったのは、一昨年3月にウィーンのコンツェルトハウスの小さいほうのホール、モーツァルトザールであった内田光子さんとハーゲンSQのコンサート。

これは現地に行ってから気がついたので、早くから手をまわせばとれたと思うが、当日いくら粘ってもホールのキャパが小さいのでキャンセルが出なかった。


そこにいくとベルリンは、駄目だったという記憶がない。

コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団が フィルハーモニーに来演し、ソロがアンネ・ゾフィー・ムターで カラヤンとの共演以来久しぶりにベルリンでベートーベンのバイオリン協奏曲を弾くということで話題になったコンサートがあったが、その時も全くソールド・アウトだったが、夕方から当日売りに並んで周りの気配に気を配っていたら、ドアの外に 余りチケットを売りにきたらしき人を発見、ちょっと席の位置のわりには 高い気もしたがあんまり贅沢を言っても 入れない感じだったので 現金で購入しコンサートを聴いた。


休憩時間になると隣の席の60代半ばの紳士が

「失礼ですが あなたはいくらで そのチケットを買いましたか?」と

英語で尋ねてきた。

私が正直に買値を言うと そうか結構高い値段を付けたんですね・・・とちょっぴり残念そうで複雑な表情をした。

理由を聞くと 彼の妻が風邪を引いて来れなくなったので入り口付近で 若いドイツ人に そのチケットを良心的な値段で譲ったらしい。

その男は おそらく別の人からさらに良い席のチケットを入手したので最初に買ったチケットを私に売ったのではないか・・・という話だった。

コンサートの後半が終わり、会釈して帰ろうとするとその紳士は、

「高いチケット代を払わせてすみません。 食事をご馳走させてくれませんか?」と言うのだった。
「妻は寝込んでいるので 帰っても自分で夕食を作らねばならずどこかで 食事をして帰ろうと思っていました。  一人で夕食というのは寂しいものです。どうかご一緒してください」

そんなわけで 夕食をご馳走になってしまい 結局高いチケット代の元がとれてしまうといった微笑ましいコンサートもあった。

まあ 根性と気合でチケットを入手できても長時間並んだ疲れや 席に着けた安心感で 猛烈な睡魔に襲われることもあり、なかなか大変である。   


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結局この年は、日本に居ながらして、キャンセル待ちに成功し、ラトル&ベルリンフィルのマラ6のチケットは、2日とも無事に入手することができた。

そのときゴローさんからのコメントは、やっぱり定期会員の中でも「6番が嫌いな人がいるんだよね。」というものだった。(笑)

確かにベルリンフィルハーモニーの前には、この個人の合法ダフ屋がいるのだ。(チケットの値段は高くなく普通なので、合法と書いた。)自分が、このホールに行ったときは、必ずといっていいほど遭遇した。

これだったら、ベルリンフィルハーモニーでの公演は、まったく丸腰で行っても絶対入れるな!と確信したぐらいなのだ。

現に、自分はヤノフスキ&ベルリン放送響の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」演奏会形式のときは、この個人ダフ屋にお世話になった。なんせ、このワーグナーチクルス、大変話題でビッグなイヴェントだったので、チケットの値段が恐ろしく高かった。当時のベルリンフィルの定期公演のチケットの2倍から3倍の凄いプラチナチケットだったのだ!

なので、座席は悪いが、それなりの値段のチケットを買っていた。

ところが、この個人ダフ屋のチケットは座席がステージ近くで、しかも値段がかなり原価に近い。
思わず、チケット持っているにも関わらず買い直したのだ。


来る6/20、ついにラトルのベルリンフィル離任コンサートの最終の定期公演。

運命のマラ6!

もちろんチケットは完売!SOLD OUT!

当初の予定では、家で真夜中に、IIJ PrimeSeatのDSD11.2MHzライブストリーミングの生中継を聴いて、ラトルに最後のお別れするつもりだが、ひょっとしたら丸腰でベルリンに行っちゃうかもよ。

ぜったい奴らはいる!と思うんだよね。(笑)



注釈:チケットはやはりきちんとしたルートで買いましょう!この事実は、あくまで当時の現実を描いたまでで、非公式での購入を促進しているものではありません。ブログに載せる上で、ちょっと後ろめたい気持ちにはなりました。(笑)





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樫本大進 [クラシック演奏家]

いまやベルリンフィルの大黒柱として大活躍の樫本大進氏であるが、自分の自慢のひとつに樫本氏を1999年のデビュー当時から知っていて、その頃からずっと想いを寄せていて、近く大成してスターになってほしい、と思っていたことで、現在まさにその通りの道を歩んでいる、ということであろうか。 

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でも、まさかベルリンフィルの安永徹さんの後任ということで、第1コンサートマスターに就任するとはまったくの想定外で、この話をニュースで聴いたときは、もう信じられない、自分が応援していたヴァイオリニストが、まさか安永さんの後任になろうとは!という感じで、驚愕の一言だった。

安永さんの引退宣言は、とても残念だった。
定年までベルリンフィルに居たら、忙しくて、あまりに時間が取れなくて、自分のやりたいこと(室内楽)を十分やれないまま歳を取ってしまう。という理由からだった。

「ベルリンフィルのコンサートマスターに日本人」ということがどれだけすごいことなのか!

それを身をもって実証してくれて、カラヤン~アバド~ラトルの3代の長期に渡って、我々日本人の心の支えでいてくれた安永さんの功績はじつに大きい。

その安永さんの退団とともに、すぐに樫本大進氏が入団したのは、なんか救世主とでもいおうか、あきらかに新しい時代の幕開けを感じざるを得なかった。

安永さんは、どちらかというと、髪型や風貌そのものが、昔の典型的な日本人男性というのに対して、樫本氏はイメージ的に、いかにも今風らしくて、あ~これは時代にマッチしていて新しい時代の日本人コンサートマスターのイメージにぴったりという感じだった。

真相は、当時のコンマスであったガイ・ブラインシュタイン氏に、安永さんが退団するので、その後釜としてどうだ?と誘われたということだったらしい。

試用期間が自分にとって、いかに長く感じたことか!
早く合格してほしい!と吉報を待っていたあの頃が懐かしい。

ベルリンフィルに入団するまで、樫本氏はオーケストラでの演奏の経験がなかった。
このことを心配する声もあったことも事実。

彼の当時の発言で、「確かにオーケストラでの経験はないけれど、オケは室内楽の延長線上にあるもの、と思っているから大丈夫。」。

この発言に、当時の自分は正直カチンときたことも確か。大オーケストラでしかもコンマス。そんな簡単なことじゃない、と思った。

でも最近、小澤さんがカラヤンから学んだことに、「オーケストラというのは、弦楽四重奏が基本。そこから膨らませていく。」ということを教わった、という発言を聞いて、なまじ間違いではなかったんだな、と思い直した。

自分が最初に樫本氏を見初めたのは1999年。彼のデビューアルバムである「Diashin Debut」であった。 



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樫本大進 Prokofiev: Violin Sonata, 2,
Beethoven: Sonata, 5, 武満徹: 悲歌

http://bit.ly/2rBtpFA


まさにこのデビューアルバムを聴いて、「樫本大進、ここにあり!」という感じでこの新鋭を知った。このソニーからのデビューアルバムはまさに衝撃だった。

現在は、CDフォーマットしかないようだが、当時は、SACDフォーマットが発表になったばかりで、出た当時のソニーのシングルレイヤーSACDで、背表紙が黒で厚めの高級ジャケットだった。

東京オペラシティでのライブ録音なのだが、空間、響きの豊かな適度なライブ感を含んだ優秀録音であった。

特にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」、通称スプリングソナタ。
これは長い間、そしていまでも、この曲の自分のリファレンスというか、基準の演奏であった。

スプリングソナタはあまりに有名な曲で、数多のヴァイオリニストが録音を残しているのだが、この曲、じつはかなりその「演奏の解釈のクセ」がはっきりと出やすい曲で、聴くアーティストのアルバムに応じて、じつにいろんな解釈をきけてしまう、鑑賞側の立場からするとじつに難しい選曲なのだ。

超有名なヴァイオリニストのこの曲を聴いたりするんだけれど、その解釈の仕方にかなりクセのある演奏だったりして、自分の好みじゃないな、ということで、バッサリ切ってきたことが、いままで何回あったことか!

フレーズのまとめ方などの「フレージング」や、一音一音の表情である「アーティキュレーション」など、この曲ってじつに多彩な解釈が存在する。

樫本氏の解釈は、じつにスタンダードで変なアクセント、クセなどいっさいない、とてもスムーズな演奏解釈で、彼の曲を聴いた後は、しばらくは他のアーティストのスプリングソナタはクセがありすぎて聴けなかったぐらいだった。

デビュー当時の樫本大進といえば、自分にとっては、このスプリングソナタだった。

もちろんこのスプリングソナタの実演も聴いた。
横浜みなとみらいで、当時の相棒のイタマール・ゴランとリサイタルをやったのを聴きに行った。

アンコールで、7~8曲くらいやってくれた(笑)のを覚えている。

樫本氏の実演は、その後、山田和樹氏&スイス・ロマンドでサントリーホールで、チャイコフスキーのコンチェルトを聴いた。

このときの樫本氏は凄かった!

山田氏の指揮、スイス・ロマンドとのかけあいも秀逸であったが、自分には、まさに彼の独壇場にも思えたほど素晴しかった。弦の音色自体の安定感とビブラート感、そして強力な音量、そして目にも止まらぬほどの超高速パッセージの連続。終盤に向かってどんどん信じられないくらいのテンポの速さでクレッシェンドしていき、盛り上がっていく。そのエンディングに向けての疾走感は、自分にとって、まさに”超シビレル”という感じであった。

こんな感動したチャイコも近年になかった。

樫本氏のスゴサを感じた近年で1番の演奏でしたね。

あとは、ラトル&ベルリンフィルのサントリーホールでの来日公演を聴いた。マーラーの最高傑作の第9番でした。

このときのコンマスは、樫本大進。

まさにベルリンフィルのコンサートマスターに就任して、最初の日本への凱旋コンサートともいうべき記念すべき公演だった。

じつに涙が止まらない大変に感動した公演でした。
最後の一般参賀のときのラトルとの掛け合いは微笑ましかった。


樫本氏がまだベルリンフィルに入団する前のソロだった頃、ゴローさんの連載のステレオサウンドの「音のたまもの」に登場したこともあった。何号だったか覚えていなくて、本棚から探すのが大変なので、あきらめたが、ゴローさんとのやりとりで、覚えているのは、「なんでソロアルバムのリリース間隔がこんなに空くの?」という質問に、それは「レコード会社(ソニー)に聞いてください。(笑)」というやりとりだったろうか?(笑)

その後、ちょうどベルリンフィルの試用期間中だったころ、ゴローさんと「樫本大進の素晴らしさ」で熱論を交わしたことを覚えている。(電車の中でですが。。。)そのとき、自分はデビュー当時から注目していて、こういうところがすごいなんて口から唾飛ばして熱論していたなぁ。

ゴローさんは、その後もちょくちょく樫本氏が音楽監督の赤穂姫路の音楽祭に足を延ばしていましたよ。

最近NHKの特集番組のドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀:バイオリン 樫本大進」をじつに興味深く拝見した。まさに彼の生い立ちから、ベルリンフィルでの立ち回りなど、”いま”の彼の活躍が拝見できて、貴重なドキュメンタリーだったと思いました。

番外ですが、奥さんがじつに美人でびっくりしました。(笑)
美男、美女の最高のカップルですね。


自分にとって、樫本氏への想いは、このソロで活躍していた頃から、まさかのベルリンフィルへ入団するまでのところがピーク。

その後は、すっかり安心しきってしまって、自分の子供が大学を卒業して社会へ出たのと同じで、がんばってやっているだろうという安堵な気持ちでいっぱいで、その後は正直フォローしているとはいえなかったかもしれない。

ひさしぶりにネットのCDショップを覗いてみたら、あれから結構CDもリリースしているんですね。
(自分がしっかりフォローしていたのは、デビューから3作目くらいまで。)

でも彼なら、そんないちいち細かいフォローしなくても、安心していられる卓越した技術と、そしてベルリンフィルの第1コンサートマスターという重責ながらも安定したポジションもある。

ますますの今後のご活躍をお祈りしたいです。








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サントリーホールの音響設計 [音響設計]

ようやく最終章。この黒本、想像以上に中身の濃い、充実した本であった。かなり読み応えがある。ホール設立の経緯、音響設計、そして関与するアーティストたちのインタビューなど、このホールのすべてがわかるようになっている。記念すべきバイブルですね。最後は音響設計について、永田穂先生の寄稿です。

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世界最高の響きを求めて~サントリーホールの音響設計 永田穂建築音響設計事務所社長 永田穂

サントリーホールは首都圏で初めての大型コンサートホールです。基本計画の段階から新しい時代のコンサートホールを目指して、その形状、大きさから内装の詳細にいたるまで、音響条件の面から検討を行ってきました。

設計の段階では、1/50モデル、施工段階では1/10モデルを製作し、よりよい音響条件の追求と設計の確認をおこなってきました。


音響設計の考え方

音響設計を実施するにあたって、私どもは次のような姿勢を基本といたしました。

1.現在活躍している内外のコンサートホールの現状とその評価をベースに、新しい時代のコン
 サートホールにふさわしい響きをもとめる。

2.コンサートホールの音響に関する最新の研究成果を設計に導入する。

3.ホールの楽器としての側面を十分認識し、響きに対しての感性をもとにバランスのとれた設計
 をおこなう。

4.演奏者・ホール関係者の意見を尊重し、ステージ音響条件を考慮する。

5.音響性能と建築意匠との調和を図り、コンサートホールとしてふさわしい室内環境の実現に努
  める。

6.完工時には物理測定のほかにテスト演奏を行い、最終的な響きの調整と仕上げを行う。


①ワインヤードからの出発

サントリーホールは新しい時代のコンサートホールとして、また指揮者カラヤン氏のサゼッションもあって、その基本形状としてベルリンのワインヤードをベースとすることに決定しました。

ワインヤード型のホールでは、反射面の形・位置・傾きなどが音響効果の鍵をにぎる決め手となります。その設計には図面上の検討とともに、建築設計の進行状況に呼応して縮尺模型を製作し、光学実験・音響実験を繰り返しながら望ましい音場条件を追及してきました。


②目標とする響き


私たちが大ホールに求めたのは、大編成オーケストラの演奏に最もふさわしい響きをもったホールとすることでした。その響きの中身をもう少し突っ込んで説明しますと、まず、オーケストラおよびオルガンの演奏に対しては、低音に支えられた豊かな響きが基本になくてはなりません。また、ウィーン楽友協会大ホールで感じる管楽器や弦楽器のあの輝きのある生き生きとした響き、しかも、音の海に浸っているような効果も必要です。

さらに、各楽器の演奏音がクリヤーに、しかも繊細に響いてくることが望ましいことはいうまでもありません。このような響きをもった音場は、残響時間が適切であるばかりではなく、壁や天井から到来する反射音のレベル、遅れ時間、到来方向、さらにその混ざり合い方などがある条件にならなければならないことを最近の室内音響研究は明らかにしています。

そのためには、ホールの形・大きさから、壁や天井の構造、椅子の構造にいたるまで、音響面から検討が必要になります。

私たちは、次のようにして響きの量と質の設計をおこなっていました。

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③響きの量と質の設計

まず、豊かな響きを実現するための基本条件として、1席当たり約10.5m3という室容積を基本計画の段階において確保しました。また、響きの質を決めるのは、反射音の構造です。ワインヤード型のホールでは、壁や天井の形のほかに、客席ブロックの形や位置を工夫することによって、反射音の状態を細かく調整することができます。

この反射面の設計を、初期の段階では、縮尺1/50のモデルによる光学実験を中心に、設計が進んだ段階では1/10の模型を製作し、光学実験のほかに音響信号を使って反射音の状態を確認しながら反射面の調整をおこなってきました。

響きの量については、残響時間という尺度が用いられております。
サントリーホールでは大型のオーケストラ用ホールとして、中音域で、2.0~2.3秒の残響時間を目標としました。

一方、響きの質については、音に包まれた感じを表す尺度としてR.R.(room response)と、明瞭さの尺度としてC(clearness)といわれる2つの物理量を手掛かりとして反射面の検討を行いました。

上図は、壁・天井の反射面の形状の一部です。図にしますように、できるだけ多方向からの初期反射音が客席に到達するように考えてあります。また1/10模型では、周波数を10倍にした音楽を再生し、場所による響きの質の相違の確認とともに、ロングパスエコーの聴こえ方などの障害条件の検討もおこないました。


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上の写真は、縮尺1/10のモデルの実験で、最終的な音響条件では、モデル内に窒素ガスを充填し、空気中の音の伝搬特性までをシュミレートさせて、音響特性の検討をおこないました。

一方内装に対しては、壁・天井の構造やボードに対して特に気を使いました。

重低音をしっかり受け止めるだけのがっちりした構造とするため、ボードの2重張り、3重張り、下地軽鉄の補強、軽量下地の間柱に対してのモルタル注入など、一般建築の常識を超えた構造と施工法を工夫してあります。



④静けさの設計


コンサートホールでは”静けさ”が基本的な音響条件となります。ホールに侵入する騒音としては、外部からの交通騒音、隣室からの音楽や話声、それに空調騒音の3つがあります。サントリーホールは、その大部分が地下に埋まっているために、外部騒音に対しては恵まれた条件にあります。外部で問題となったのは、屋上庭園の歩行音と前面広場の騒音です。

前者は騒音というよりは固定伝播音で、対策としては、屋上スラブを2重として、緩衝材で浮かしてあります。

建物内の騒音としては地下駐車場の自動車騒音です。対策としては、駐車場天井に遮音構造を追加しました。

室~室間の遮音として大きな問題は、大小ホール間の遮音です。大小ホールはホワイエを共用しているため、それぞれの演奏音はもちろんどちらかのホールが終了したときのホワイエでの客のざわめきや話声が、もうひとつのホールで障害になることが考えられます。

この問題に対しては、大小ホールとも、入口扉を2重の防音扉とするほかに、ホワイエ天井を吸音処理することで対処しました。

空調騒音はホールに侵入する大きな騒音です。その低減につきましては、低風速のダクトシステムを採用するとともに、基本計画の段階から十分な個数の吸音ダクトを設置してあります。



以上が、永田穂先生寄稿によるサントリーホールの音響設計の文献。

前に書いたけれど、ホール音響の設計で、結構キーになるのが、「1席当たり〇〇m3」というスペックの規定の仕方。

これはいままで自分が知らなかったことなので、とても新鮮に感じた。

あと、現実的に絶対必要なのは、遮音、静けさの設計ですね。
これも普段の興味本位で覗ているだけのボクらにはあまり関係なさそうなところなんだけれど、現実問題ではとても大事なファクター。

オーディオルームでも遮音・防音は重要ではありますが・・・

ヨーロッパの歴史のある古いホールを体験していると、日本の近代設計の最新ホールと比較して、1番違うと感じるところが、この”静けさ”遮音性能なのだ。古いホールは、外の外気のざわざわ感がそのままホール内に入ってきているような感じがする。

日本に帰って、日本のホールに入ると、その静けさに驚き、さすがは近代の最新ホールだけある!と驚くのだ。アメリカのカーネギーホールなんか、近くにNYの地下鉄が走っていて、電車が通るたびに、そこのゴォォーという音が演奏中に聴こえるらしい。(笑)

遮音対策は、不可避の大切なホール設計のひとつですね。


今回、黒本を入手することができて、理解して、改めて考えたこと。。。


サントリーホール以前には、音響面であまり優れているとは言えない多目的ホールがほとんど圧倒的だった日本のコンサートホール史の中で、クラシック専用音楽ホールを設計する、ということ自体が、すごいチャレンジングなことだったのかもしれない。当然音響設計的なノウハウもなかった訳で、そういう意味でサントリーホールの登場は実験的で画期的だった。

その後、30年以上も経過して、音響設計的なノウハウもたくさん蓄積されて、その後のワインヤード形式ホールでは、いわゆる”進化型”のホールが登場した。

ミューザ川崎、札幌コンサートホール Kitara、愛知県芸術劇場が代表的。
(今後の主流はワインヤードだと思うけど、実際日本に存在するホールは、大方がシューボックスか扇型多目的だと思うんですよね。)

この3つの進化型ワインヤードホールはもちろん全部体験したが(札幌だけ大編成を聴いていない。)、やっぱり1番違うな、と思うのは、ホールの容積。

容積が広いと何が違うかと言うと、ステージからの直接音に対して、反射音の到来時間が絶妙な感じの遅れ具合で分離しているような感じに聴こえ、聴いていてなんとも言えない”立体感”を感じたり、すごい広い空間で聴いているなーという”空間感”が優れている感覚になるのだ。

これイコール、わぁあ~いい音響!という感覚になる。

みなさんが一番使っている簡単な表現で言えば、「響きがいい!」という感じだろうか。

容積が広いと、反射音の伝搬距離が長くなるということを意味しているので、直接音に対して、遅れて響き(反射音)が到達して聴こえる、ということでもある。

もちろん容積広すぎると、あまりに遅れすぎて、ロングパスエコーになってしまうが、もちろん設計段階からそんな設計をする訳もなし。(笑)

その遅れ時間が先の日記で述べたような永田先生の文献にあるようなタイミングになるように、何回もシュミレーションして容積やプロポーションを決めるのだろう。

今回新たに知った室容積の定義「1席当たり〇〇m3」というスペックも、十分な質の高い反射音の行き来をするためには客席の上部に十分な空間が必要。つまり天井が高い、ということですね。


これも進化型のホールの方は、サントリーホールに比べて上回っている。

サントリーホールが登場した時、最初、演奏家の方々が戸惑ったのは、その天井の高さだという。いままでの多目的ホールでそんなに天井の高いホールは経験したことがなかったから。

なんか演奏していて、いつもと違うなんとも言えない違和感があったとか。

瀬川先生のリスニングルーム理論にも天井は高くすべしという記述がある。でも天井が高いことに対して、リスポジにいる人は、その人の感覚によってだけれど、天井が高いことによる恐怖感を感じることがある、という記述もあった。

でも音響的には、絶対天井は高いほうがいいですね。


あと、進化型ホールとサントリーホールとの違いで自分が感じるのは、天井の造りと側壁などでの反射音の拡散の仕掛けかな?

進化型のホールは、天井がかなりがっちり音響の仕掛けがされているように思う。ミューザ川崎やパリのフィルハーモニーなんかはど真ん中にどでかい反射板ががっちりあって、その周辺を同心円状にさらに反射板が取り巻いているんですよね。ミューザのなんかは、さらにその周辺の反射板の角度が可変できるようにもなっているように見えてしまう。

これだけ天井ががっちりしているとホール全体に音が回るよなーと感じるのだ。

サントリーホールの天井は、基本はベルリンフィルハーモニーのデザインをそのまま持ってきたと思うのだが、そういう音響の仕掛けを自分のような素人にはあまり感じない。ステージ上に浮雲があるくらい。

側壁での反射音の拡散の仕掛けは、最新のホールは結構派手な凹凸やスリットを付けたりしているが、サントリーホールの方は、側壁やステージ後方の角錐上の形状デザインがそれに相当するのだと思う。

これは自分に好みがあって、こういう拡散の仕掛けのデザインは、得もすれば内装空間の美しさを損なうものだという考えがあって結構微妙なラインなのだ。(笑)

サントリーホールぐらいのデザインのほうが内装空間の美しさを損なっていなくて、うまくお洒落にその空間に溶け合っているように思える。

いずれにせよ、30年という月日は、ホールの音響設計に莫大な進化をもたらして、それが現実のモノとなって登場した。

でも、多目的ホールしかなかった日本のコンサートホール史で、”音響命”のクラシック専用音楽ホールとして登場したサントリーホールの意義は、その後の莫大な革命をもたらしたことは間違いない。

音響面だけでなく、先述したホール案内の「レセプショニスト」の登場、ワインやシャンパンなどのお酒などの提供など、その慣習も革命的だった。

そういう意味で、

「すべてはサントリーホールから始まった」

というのは自分もよく理解できたし、その後のすべてのホールがサントリーホールの影響を受けていることも理解できた。


黒本を手に入れて、この事実を再認識できて、そして連載日記を書けて、本当によかったと思う。

そして最後にもうひとつ印象的だったのは、この音響の世界、

「感性のレベルと物理的に説明できるレベルとの間には、まだまだ大きなギャップがある。」

これって重い発言だなーと思いますね。

実際自分の耳で体験したことを、こうやって理論づけで説明できるようになるには、どうしても理論は後付けの世界だったんですね。

感性のレベルがまず第1に尊重されるべし。

そして、そのメカニズムを解明していき、今後の建築のために、それを体系化していく。

自分もこうやってホールでの実体験を、自分の言葉として書けるようになったのは、たくさんの体験を得て、ようやく最近のこと、だと実感するばかりです。







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"響き”に関する若干の前置き [音響設計]

日本国内のみならず世界中のコンサートホールの音響設計を手掛ける永田音響設計。
その創立者は日本の建築音響学のパイオニアの永田穂先生。永田先生の建築音響学の本は、たくさん持っている。建築音響の世界って数式の嵐でさっぱりわからん。(笑)

最近、IECのリスニングルーム理論に基づいたオーディオ評論家の瀬川冬樹先生のリスニングルーム理論を自分の将来のオーディオルームのために、ということで勉強しているのだが、瀬川先生は、永田先生とも交友があって、いろいろアドバイスをしてもらっていたようだ。

瀬川先生のリスニングルーム理論に基づいて設計された部屋は、残響時間、実測1.5秒!(永田先生が直々に測定しています。)

容積が全然違うコンサートホールの残響時間でさえ、2.0秒の世界なのに、わずか20数畳のオーディオルームで、1.5秒ってすごくね?(笑)

「部屋はライブにつくる!」

を第1に目標とやっていくことをますます確信した。

永田先生は、ホール音響をそのままオーディオルームの室内音響に当てはめることはできない、などの投稿もされていて自分は興味深く拝読している。


残念ながら永田先生は、もう故人だが、その意志を引き継ぐ弟子たちが永田音響設計をいまも引っ張っていっている。

いまや世界の寵児として大活躍している豊田泰久さん、小野朗さんとか。。。

サントリーホールの音響設計は、まさに東京初のクラシック専用音楽ホール、日本としても大阪シンフォニーホールに次いで2番目、ということで、”音響命”のクラシック専用のコンサートホールの音響設計というとても緊張を強いられるタスクを引き受け、まさに社運をかけたプロジェクトだったに違いない。

永田穂先生をリーダーとして、豊田泰久さん、小野朗さん、など尖鋭たちの集まったメンバーで取り組んだ。

この黒本には、永田先生が代表として寄稿されていて、序章の「”響き”に関する若干の前置き」と、そして本編の「世界最高の響きを求めて~サントリーホールの音響設計」について、抜粋だが、言及してみたい。

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●”響き”に関する若干の前置き  永田穂建築音響設計事務所社長 永田穂

複雑なホールの音場に対して科学のメスが加えられたのは、約100年前のことです。(この本の時代のことだから、いまでは130年前。)さらに近代の科学はコンサートホールの音場が醸し出す様々な音響効果の仕組み、良い響きの謎を次々と明らかにしてきました。

そして望ましい音場条件を実際の建築で実現する音響設計の手法も逐次体系されてきました。
ホールの音響効果の設計は、いまや80%が科学、20%が芸術とまで言われています。

①室内の響きとは

最初に室内で拍手した時のことを考えてみましょう。拍手の音は、天井、壁と次々と反射を繰り返しながらやがては消えていきます。

いま室内の1点でこの音の到来状況を観測しますと一番時間的に早く到達する直接音に引き続いて天井や壁からの反射音が次々と到達することがわかります。実は直接音の後に残る多くの反射音群によって、われわれは室内の響きを感じることができるのです。

今度は広い草原で拍手したときのことを考えています。野外では直接到達する音だけで、反射音はありません。つまり野外では響きはありません。

われわれが一口に室内の響きとか音響効果とか言っている現象、それはこの直接音に引き続いて到来する反射音群によって醸し出されるのです。

言い換えますと反射音群は直接音に対して調味料的な役割を果たしているということができます。各反射音の大きさ、時間遅れ、またその到来方向などによって、様々な味の響きが生み出されるのです。豊かな響きも物足りない響きも、すべてこの反射音群の大小、構造によって説明できるのです。

近代の室内音響研究は、この反射音群の構造と音響効果との関係をつぎつぎと明らかにしております。また建築音響技術はこれをどのようにして実際の建築に実現できるかを工夫してきました。


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②残響と残響時間

みなさんが広い講堂や体育館で声を出したとき、発声を止めた後でも音を残っているのを聴くことが出来ます。

これを残響といいます。

残響という現象とその効果については、昔の人たちも気づいており、それをコントロールするいろいろな手法の記録も残っています。しかしこの残響という現象を科学的に証明できるようになったのは比較的最近のことなのです。

残響時間とは室内の音のエネルギーが100万分の1になる、デシベルで言いますと60dB減衰するまでの時間を言います。残響理論によれば、ホールの残響時間は室容積に比例し、室の全吸音力に反比例します。

すなわちホールの容積、内装材料とその使用面積さえ与えられれば、残響時間は簡単に算出できるのです。つまり建築の設計段階で、すでに残響時間の予測が可能なのです。

しかし、これだけでは良い音響効果のホールは設計できません。

残響時間の設計が現在でも室内音響設計の中で重要な役割を果たしているのは、室の使用目的、大きさによって最適と言われる残響時間が数多くの調査から明らかにされている点です。

たとえばコンサートホールとして望ましい残響時間は約1.6秒~2.2秒であることがわかります。

したがって、望ましい残響時間の設計は、建築の図面の段階で実施できるのです。



コンサートホールにとって、その残響時間は重要な意味を持っています。
しかし、普通、残響時間と言えば、習慣上、500Hzの値を言い、その周波数特性についてはあまり話題になっていません。

しかし低音・中音・高音の残響時間のバランスの違いは響きの相違に微妙に影響します。

面白いことに、ヨーロッパではフラットな残響特性が、アメリカでは低音域が持ち上がった特性が、好まれるようです。

サントリーホールの残響特性は基本的にヨーロッパのコンサートホールのフラットな特性ですが、オルガンを考慮して低音域の特性をやや持ち上げています。

残響時間の周波数特性は、残響時間の長短とは別に、響きの質の特色を表しているのです。

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③障害となるエコー~ロングパスエコーとフラッタエコー

ハープや弦のピチカート、ピアノやティンパニー等の打楽器弾いたとき、あるいはトランペットの鋭い立ち上がりに対して、客席の後方から反射音が独立して聴こえる場合があります。これをロングパスエコーといいます。日本流でいうと「やまびこ」です。

また、ホールの客席、両側の反射壁が平行している所で拍手するとプルンといった特殊な音色の響きが聴こえることがあります。

これをフラッタエコーといいます。日光東照宮の鳴竜は天井と床との間で生じるフラッタエコーなのです。

ロングパスエコーもフラッタエコーも、音響効果としては障害になります。音響設計では、良い響きを作り出す工夫をすると同時に、ロングパスエコー、フラッタエコーなど障害となるエコーを発生しないような対策をしないといけません。


④音響効果の仕組み


残響時間がホールの響きの量を表す基本的な尺度であることはお分かりいただけたと思います。

しかし、同じ残響時間のホールでも、残響感も響きの質も全く違うホールがあることは昔から問題になってきました。

また残響時間は、その定義からあきらかなように、室全体としての音のエネルギーの減衰状態を表す尺度であり、室内の場所による響きの相違については何も語っていません。

いま都内でクラシックのコンサートに使用されているホールを数えますと、大小合わせて10以上になりますでしょうか?皆さんよくいらっしゃるホールについては響きの特色、席による響きの相違などなんとなく掴まれているのではないでしょうか?

また欧米の著名なホールの響きを体験された方もいらっしゃると思います。

みなさんが実際の演奏を通して感じる音響効果、つまり気になる音響効果、すばらしいと感じる音響効果の着目点、あるいはその内容はどうなっているのでしょうか?

私なりに整理してみました。

1.プログラムに応じた適切な音量感
2.適切な残響感
3.各楽器の量感のバランス、特に低音楽器の安定した響き、弦楽器と管楽器のバランス
4.残響音の音色とバランス
5.聴感的な距離感、音源を近くに感じるか、遠く感じるかどうか?
6.各楽器の音が時間的にも空間的にもクリヤーであるかどうか?
7.弦楽器、管楽器の響きの質。
8.空間で響きが混ざり合っている感じ。音に包まれている感じの程度。
9.自然な方向感、耳触りのエコーがないこと。

などです。いかがでしょう?

一体このような音響効果は何によって創り出されるのでしょうか?
戦後の室内音響の研究は専らこのコンサートホールの望ましい音響効果の追及にあったと言っても過言ではありません。

でも感性のレベルと物理的に説明できるレベルとの間には、まだまだ大きなギャップがあるのです。

しかし残響特性でしか説明できなかった時代と比べると大きな進歩がありました。
一口で言いますと、反射音の到来状況と音響効果の関係があきらかになったのです。


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上図は、サントリーホールで観測した反射音の状況です。
これを「エコーダイアグラム」、あるいは「エコータイムパターン」といいます。
エコータイムパターンを詳細に観察しますと、直接音に引き続いて到来する初期の反射音群、各反射音が重なり合って1つ1つがもはや区別できなくなった残響音、の3グループに区別できます。

研究の成果を要約いたしますと、

1.30ミリ秒までに到来する初期の反射音は、直接音の音量を増加させる効果がある。

2.約80ミリ秒までの初期反射音群のエネルギーとそれ以降の残響音のエネルギーの比が、「明
 瞭度」に関係する。その割合は曲目にもよるが、ほぼ1:1が望ましい。

3.横方向からの初期反射音が空間的な印象 ”Spaciousness”を創り出す。

の3項に集約できます。

初期の側方反射音の強さが音響効果の決め手になることが明らかになりました。

これまで奇跡と言われてきたウィーン楽友協会大ホールの響きの謎もこれによって説明できるようになったのです。


⑤ホールの室容積

コンサートホールの音響効果はその容積と形状で決まると言っても差し支えありません。
室容積の基本的な条件として、「1席当たり10m3」という言葉をすでにご存じの方もいらっしゃると思います。

確かに世界的に活躍しているコンサートホールのデータを見ますと、8~12m3くらいになります。
わが国の多目的ホールの平均は約6~7m3です。

その理由は簡単です。コンサートホールでは質の高い反射音を得るためには、どうしても客席上部に大きな空間が必要なのです。

サントリーホールでは、1席当たり10.5m3という空間を確保してあります。

一般のホールでは1席当たりの平均床面積は0.7m2程度ですから、10m3という空間を確保するためには、平均して約14mの室高が必要となります。わが国の建築にとって室高を確保するということは、大きなコスト高を招くことを覚悟しなければいけません。

わが国でコンサートホールが生まれなかったのも、ひとつにはこの室容積の確保が難しかったからではないでしょうか?



⑥ホールの内装について~木の壁、石の壁

ヨーロッパでは昔からホールの内装に厚い木の板が用いられてきました。木の板は音響的に優れた性質を持っています。つまりその吸音、反射特性に特色があるのです。

木の板は低音域の音に対しては、その板振動によって吸音効果があり、中・高音域の音に対しては反射面として作用します。しかし反射面といっても大理石やタイルのようなシャープな反射面ではないという点です。

このように木は建築的にも音響的にもすぐれた性質を持っているのですが、ただひとつの性質~可燃性であるという点からホールに使用することは消防法で禁止されています。仕方なく、わが国ではセメントボードの上に薄くそいだ木の箔を貼って使用しています。

コンサートホールの内装として気をつかわなければいけないのは、ボード類を使用したときの板振動による低音域の吸収と、石やタイルを使用したときの高音域の反射です。

サントリーホールでの天井でのボード面では、2重、3重にボードを重ね、しかも下地のピッチを細かく、斜めに入れるまでにして板振動を極力抑える工夫をしています。



⑦客席

客席椅子に適度の吸音性をもたせることによって空席時と満席時の響きの状態の違いを少なくすることができます。ホールの椅子がすべて布張りなのは、この効果を狙っているからです。その結果、客席面はホールの中で最も大きな吸音面になります。

したがって、椅子の構造、仕上げのわずかな相違が残響時間に大きく影響してきます。またさらに面倒なことは、吸音面である椅子が床一面に拡がっているために、残響理論をベースとした吸音特性の資料がそのまま使用できないという問題があります。

厳密に言いますと、同じ椅子でも1階席とバルコニー席とでは吸音特性が異なるのです。

また最近のコンサートホールの椅子では、背の周辺部を反射性にしている例が見受けられます。
サントリーホールの椅子もこのタイプですが、わずかとはいえ椅子の面から反射を期待しているのです。

このように音響設計では客席椅子の構造ひとつにしても音響面から検討し、最善の効果を狙っています。


⑧ステージ周りの音響

これまでお話しした音響効果はすべて、客席面における聴衆を対象としています。
最近、演奏家を対象としたステージ空間の音響条件にも関心が寄せられています。

その結果、演奏しやすさからの反射音の条件の検討、あるいはオーケストラメンバーを対象とした舞台条件に関してのアンケート調査が行われるようになりました。

一方ステージ床の構造やオーケストラ雛壇のあり方などについても、いろいろな意見、主張があります。しかし、楽器の指向性、オーケストラの配置ひとつとっても複雑ですし、また音響レベルで取り上げるまでには至っていません。

ステージ周りの音響は将来のひとつの大きな課題と考えています。



⑨スケールモデル実験とコンピューターシュミレーション

昔からホールの縮尺模型を作り、この模型の音場を利用して音響特性の検討をおこなう手法がおこなわれています。これをスケールモデル実験、略してモデル実験といいます。

モデル実験は、もともと縮尺比に相当した倍率の周波数の信号音をモデル内で再生し、これを収録し、周波数を変換してホールの響きを聴くことを目指して開始されました。しかし、超音波域での音響機器の性能に限界があり、この壁は現在でも解決されていません。(これは30年前の文献なので、いまは解決されているかも?)

したがってモデル実験の目的は、室内音響特性に関するいくつかの音場パラメータの計測が中心となっています。また音響信号だけでなく、レーザー光線による反射面の検討もおこなれています。

このモデル実験は、音響設計の有力な手法なのですが、基本的な室の形状の検討などは、建築設計のスケジュールのなかにモデル実験が組み込まれてないかぎり、その成果を利用することはできません。

サントリーホールの場合には、設計の初期の段階で、1/50のスケールモデルを、内装設計段階で1/10のスケールモデルを製作し、室の基本形状の検討から側壁、天井の形状、エコー防止の吸音面の検討など、音響特性とともに意匠上の検討にもモデルを利用しました。

スケールモデル実験とは別に最近ではコンピュータによる音場のシュミレーションがおこなわれ、形や反射面の検討などに利用されています。

いまのところ、設計の初期の段階における形状の検討には、コンピューターシュミレーションが、内装の詳細、波動性までを考慮したパラメータによる音場の検討にはスケールモデルが有効のように考えています。



あーちかれた!(笑)

でもさすがは永田先生の文章、30年前の記載とはいえ、専門家の見地からの的確な内容で、使っているtechnical termも的を得て適切。

感動しました。

でも、自分が独学で書いた日記とそんなに違っているところがなく、案外合っていたというか、的を得ていてホッとしました。

ちょっと自慢していいですか?(笑)よくやった自分!(笑)

ただ、今回新しく得た知識は、室容積の基本的な条件としての「1席当たり〇〇m3」というスペックの規定方法ですかね?

大変勉強になりました。

これはあくまでホール音響の基本になる考え方。

これに基づいて、次回の最終章にサントリーホールの音響設計についてチャレンジします。







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サントリーホールの設計思想 [コンサートホール&オペラハウス]

黒本には、設計思想と音響設計が書かれている。設計事務所は、安井建築設計事務所。そして音響設計は、永田音響設計。

自分には、こちらがとても興味深い。ホール設立までのドラマは、よくわかっていたつもりだが、実際の施工主・音響設計家の書いた文章には重みがある。

特に、永田穂先生の書かれた音響設計の序章の部分に相当する「”響き”に関する若干の前置き」は、ホール音響の基本の考え方が書かれている。

素人の自分が、自らの経験と数学の世界の専門書を読みこなして、作成した日記より、よっぽど要領よく書かれていて(笑)、さすが専門家のよくわかっている観点から書かれたものは説得力があると思った。

あるものごとを書こうとした場合、100%のことを書くなら、頭の理解は150%~200%くらいわかっていないといけない。

上から俯瞰したものの見方って大切。

悲しいかな、自分はリアルタイムに理解処理しながら書いているから、文章に説得力も出ないのだ。

本日記は、実際のホールの音響設計よりも、こちらの序章のほうが今後のためにも重要と思い重点を置く。

もちろん一部抜粋のみ掲載で、日記を3部に分け、設計思想と音響設計で分ける。

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●設計思想

安井建築設計事務所の社長 佐野正一さんが記載。

①リーガー・オルガン

当初パイプオルガンを設置する予定はなかったという。でもカラヤンから、「オルガンのないホールは、家具のない家のようなものだ。」というアドバイスで考えを改めさせられた。

さらにベルリンフィルハーモニーではパイプオルガンの配置に失敗して、後付けで配置したので、ステージの真後ろではなく、ちょっと横のほうに設置されているのだ。

その教訓から、ステージの真後ろに堂々と配置する。

選んだのは、リーガー社のパイプオルガン。
リーガー社は、1845年創業の輝かしい経歴を持つ名門で、欧州を中心に秀でた実績がある。
オーストリアからスイス、南ドイツを横断し、ストラスブールに地域に多いジルバーマン・オルガンの流れを継承して、柔らかく重厚な音色のオルガンを作る。

このリーガーオルガンをサントリーホール向けに選んだのは、ウィーン在住のオルガンの専門家として名高いオットー・ビーバ博士と、ボストンの大学で長くパイプオルガンの研究と演奏を続けている林佑子教授のアドバイスによるところが大きい。

74ストップ、4段鍵盤、パイプの数は5898にのぼる。

大型のパイプオルガンの中でもずぬけた巨大さ。

バロックオルガンの輝かしい響きからカヴァィエ・コル流のロマンティックな響きまで幅広い音色の演奏が可能だ。

リーガー社の工場で仮組み立てをして、その壮大で精緻な美しい音色を確認し、そこから日本に輸送。

輸送、ホール現場での据え付け、そして整音という複雑な仕事が続き、こけら落としの1か月前にすべてが完璧に終わらないといけない。

これは結構大きな山場だったらしく、所定通り達成できたときは、どんなに嬉しかったことか、と述べられている。

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②サントリーの構想~クラシック専用ホール


サントリーホールのパイプオルガンをどう計画するか。それは赤坂・六本木地区再開発事業に文化施設を担当する目的でサントリーとテレビ朝日の両者が参加を決め、昭和57年、テレビ朝日はTVスタジオを、サントリーはクラシック音楽専用コンサートホールを建設することを決めたときからの課題だった。

サントリーのコンサートホールをどう計画するべきか。

赤坂・六本木再開発事業の計画は、長い経過があり、今日アークヒルズと呼ばれる大規模でかつ複合機能をもつユニークな新都心が生まれるにいたるまでには計画上基本的な変転が幾度があった。

サントリーのコンサートホールは、アークヒルズの文化施設という欠くべからざる機能を担うことになった。

ホールの運営と規模についてさまざまな検討がおこなわれた。ホールの対象はオペラ、クラシック、ポピュラーいずれか、専用ホールか多目的ホールか、大型ホールか、複数の小ホール併用か、など各種の問題が具体的に検討された。

昭和57年夏、佐治社長は検討のすえ、サントリーの基本構想をつぎのように打ち出した。

1.座席数2000のクラシック音楽専用。

世界的水準の響きの良いホールをメインとし、これに座席400程度の大きさの固定席のないフラット床の小ホールを組み合わせ、独立または大ホールに関連使用する計画とする。

2.飲食サービスはさらに検討のうえ決める。

3.ホール建設と運営はサントリーが直接当たる。

これは重要な決断だったと思う。わが国には公共用のホールは多数あるが、そのほとんどは、演劇にも集会にも使える多目的ホールで、音の響きを大切にする音楽演奏には不満が多いものだった。

クラシック音楽専用ホールの建設が何故すすまなかったのか、その理由は響きの良いホールをつくることの技術的困難さとホール運営の困難さにあり、大型ホールとなればその困難さは一層大きくなる。

世界有数の音楽市場といわれる東京にクラシック音楽専用ホールが皆無だという意外な事実の理由はそこにある。

それを敢えて実行しようという決断の背景には、ポピュラー音楽にともすれば押され気味のわが国のクラシック音楽を支え、またこのホールを拠り所として優れた日本の作曲家や演奏家が育つことを期待する佐治氏の深い想い入れを感じさせる。


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③サントリーホールの基本計画

敷地は溜池から六本木に向かう幹線道路に沿って位置する。

これは私観だけど、サントリーホールの最寄り駅って銀座線の溜池山王か、南北線の六本木一丁目。自分の家だと行きは銀座線なのだ。溜池山王からホールって結構歩く。心臓破りの坂をずっと登っていき、いつもホールに着く頃ははぁはぁぜいぜい(笑)。終演後の帰りの六本木一丁目は案外すぐで楽なのに。。。

ホールが出来たときは、まだこのような最寄り駅がなかったらしく交通の便としては、かなり悪かったらしい。

ロンドンのコヴェントガーデンがイギリス音楽の中心地であるように、少し状況は違うが、都市的な環境のなかで音楽の世界に没入できる場所が、赤坂・六本木という都心に出現した意味は大きい。

(株)入江三宅設計事務所の三宅晋氏、(株)永田穂建築音響設計事務所の永田穂氏の協力を願い、建築設計と音響設計をしていただいた。

結論!

大ホールは、座席数2006、音響効果をよくするために1座席当たりの室容積は約10.5m2。残響時間は中音域で2.1秒、座席形式はわが国初のワインヤード形式。

音響設計のために1/10の精密な模型を作って、レーザー光線による反射測定と音質シュミレーション調査を繰り返し、測定結果に従って、壁の配置や角度を修正した。

「世界一響きの美しいホール」を目指した。

建築作業が終わった後も実際のオーケストラを使って音を測定し、良い音を生むための調整を実行した。

工事施工を担当した鹿島建設(株)の周到な施工技術、関連した諸工事の統括には深く敬意を表したい。


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④なぜワインヤードを選んだのか?

サントリーホールは当初はシューボックスの予定だったらしい。

でもカラヤンが、「ワインヤードがいい。」「音楽は演奏者と聴衆が一体になってつくるものだ。ステージを中心に聴衆がこれを囲むこの形式がその目的を満足させる。シャルーンは私のこの考えを完全に理解してこの設計をつくったのだ。」

「サントリーホールからきっと良いぶどうができるよ。」

これで佐治社長が「ほなそうしましょ。」で決まったとか。。。

昭和58年の1月に、この記事を書いている安井建設の佐野社長が、当時の西ベルリンにカラヤンを訪問してその真意を確かめに訪問したそうだ。そして上のことを確認したうえで、数日後東京で、サントリーホールの座席形式はワインヤード形式を選ぶことに決定した。

このときのカラヤンとの会談で、大型パイプオルガンを設置することも決定的になった。

大ホールについて。ホール容積を確保するために天井は高くなり、高さの制限からホール全体としてエントランスレベルから低い位置に設定された。

うわぁ、まさにオーディオルームと同じですね。(笑)

まさにこうやってサントリーホールは誕生したのだ。

以前サントリーホールのバックステージツアーに参加したことがあって、そのことを日記にしたと思うが、普段聴衆として見える部分と楽屋などのバックステージ部分など、あういう感じになっている。

指揮者の控室やソリストの控室がステージのすぐ近くに配置されているのもカラヤンのアドバイスとか。

指揮者ちゅうもんは、控室でよっしゃ!と気合を入れて、そこからステージに出るまで、長く歩かされたら、緊張の糸が切れるだろう?(笑)・・・ということで、すぐ近くに配置されているらしい。

このサントリーホールのステージ裏のバックステージは恐ろしくデッドな空間でした。
入った瞬間すぐに感知するというか、まったく響きがない空間でした。(^^;;

これにて設計思想完了。

いよいよこれから2部に分けて、本命の音響設計のほうを特集します。





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