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BBC Proms JAPAN 2019 [国内クラシックコンサート・レビュー]

世界最大規模の夏のクラシック音楽祭である英国のBBC Promsを日本で開催しようというのは、誰の案だったのか、は知る由もないが、そのニュースを知ったときは、とにかく驚いた。


BBC Promsを海外で開催すること自体、2016年にオーストラリア、そして2017年、2019年にドバイですでに実現され、今回の日本が3か国目である。


英国のロイヤル・アルバート・ホールという巨大なコンサートホールで開催されるいわゆるプロムナード・コンサート(散歩やぷらぷらと歩きながら楽しめるコンサート)で、クラシックという敷居の高さを気にせずに、クラシックにあまり詳しくないファン層の人たちにもとにかく気取らないで、ざっくばらんに楽しんでもらおう!というのがPromsのコンセプトである。


自分も2016年に現地の本場で体験できたが、ロイヤル・アルバート・ホールのProms用の飾りつけは視覚的に結構インパクトがあって、カジュアルな場内の客層含め、あの雰囲気を、日本に持ってくる、というのは実際できるのだろうか?という疑問がまず頭に浮かんだ。


BBC Promsは英国のクラシック音楽祭。


彼ら独特のカラーがあるその音楽祭を、安直に日本にそのまま持ってくるだけで、それは成功するものなのか?そういう考えは当然自分の中にもあった。


特に、日本では、渋谷オーチャードホール、大阪シンフォニーホールがロケーションということを知って、それじゃ普通のクラシック・コンサートと何が違うの?ただ、登場するオーケストラがBBCスコティッシュ交響楽団というだけのことじゃないの?


やっぱり日本でPromsをやるなら、東京ドームあたりでやって、ビール、ポップコーン片手に、クラシック音楽を楽しむ、というのがPromsらしくていいんじゃないの?と思ったりもした。


でも東京ドームなら5万人の観客席。本場のロイヤル・アルバート・ホールでも6000人くらいだから、日本でクラシック・コンサートで初の試みをやるのに、5万人の集客はちと苦しいか。(笑)


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今回のBBC Proms JAPANは大和証券が特別協賛で、”大和証券プレゼンツ”となっている。
大和証券さんが起案者で主たるスポンサーなのだろう。


ぴあ、テレビ朝日、博報堂DYメディアパートナーズ、読売新聞社、BS朝日、Bunkamura(東京公演)、ザ・シンフォニーホール(大阪公演)の7つの企業団体から成るBBC Proms JAPAN 2019 実行委員会を設立して、その運営にあたる。


そのほか、
 
協賛 KDDI


協力 BBC、東急株式会社、HarrisonParrott、ブルーノート・ジャパン、ローランド株式会社、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント 後援 ブリティッシュ・カウンシル、一般社団法人日英協会、スコットランド政府、NPO日本スコットランド協会、一般財団法人渋谷区観光協会


これだけの企業団体が、このBBC Proms JAPANのコンセプトに納得してくれて、それを実現するために立ち上がってくれたのだ。


ぶっちゃけた話がスポンサーとして投資してくれた、ということだ。


BBC Promsを運営しているBBCと直接交渉する必要があり、この音楽祭を日本に持ってくると簡単に言うけれど、それだけでもこれだけの企業体の結束、努力がなければけっして実現できなかったことだ。


指揮者のトーマス・ダウスゴー、BBCスコティッシュ交響楽団の遠征費、宿泊費、交通費そして出演料。6日間に渡るそれぞれに出演するソリスト達の出演料を始めとする同様の費用。そして広告費。これだけのアウト(支出)だけでも大変なやり繰りが必要と思われ、それに対しチケット収入のイン(収入)で全体として黒にするには、その見返りなのかはわからないが、随所にコストダウンしているな、と思われるところが散見された。


自分は渋谷オーチャードホールだったが、日本と英国の国旗が飾り付けられているのかな?とも想像したけれど、そのようなものはなし。ごく普通にシンプルな普通のコンサートのときと同じ変わらない風景だった。


そしてホワイエに展示されているパネルや物販関係もお金のかかってなさそうなシンプルなものばかり。


ふつうはコンサートプログラムといって、この音楽祭の演目や出演者のプロフィールなどを書いた総合プログラム冊子が配布されるものだが、これもなかった。


かなりのコストダウンを図っているものと思われた。(笑)
やっぱりアウトが大変なんですよ。


そんな苦労も垣間見えるが、やはりそこは大プロジェクト。


じつは「日英交流年 UK in Japan 2019-20 」の一環でもある「大和証券グループ presents BBC Proms JAPAN 2019」。英国文化・メディア・スポーツ・デジタル省大臣 ナイジェル・アダムズ氏が視察にいらっしゃったそうだ。


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(c)BBC Proms JAPAN Twitter



日本としてのBBC Proms JAPAN。


6日を要し、そのプログラムがとてもよく考えられていた。



Prom 1 ファースト・ナイト・オブ・ザ・プロムス
Prom 2 BBCプロムス・イン・大阪
Prom 3 ジャズ・フロム・アメリカ
Prom 4 ロシア・北欧の風
Prom 5 日本を代表する次世代のソリスト達
Prom 6 ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムス



クラシック一辺倒に限らず、アメリカのジャズ、そしてロシア・北欧の音楽など、いろいろな切り口で組み立てられたプログラムで、BBC Proms JAPANが総合音楽祭であることを主張していて、自分はよく考えられているプログラムだと感心した。


当初は、ご多分に漏れず、ラストナイトに行こうと思ったが、予想以上の争奪戦。なんと一般発売日のスタートともにサイトにアクセスしたら、すでに完売ソールドアウトであった。


これは、ラストナイトは、少し表現が悪いが、他の日の公演とセットになって売る「抱き合わせ商法」のような扱いで、みんなセット券で買ってしまっていたんだな。だからラストナイト単券売りの日はほとんど残っていなかった、というのが真実だったのではないか、と考えた。


自分はそこで、他のPromの内容を再度吟味し、


Prom 5 「日本を代表する次世代のソリスト達」


を選択した。


いま思うととても賢明な選択だったと思う。
宮田大くん、三浦文彰くんを鑑賞したい、と思ったことがなによりも第1理由である。



では、当日の感想を時間経過順に述べていこう。


今回のBBC Proms JAPANでは、東京公演のほうでは、サテライト会場として、特別に渋谷109の前の広場のところに特設会場を造って、"Proms Plus Outdoors Concert"という無料の野外コンサートが行われた。


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時間割でいろいろなアーティスト達がセッションを繰り広げるのだが、自分が到着した時は、マリンバの塚越慎子さんとピアノの志村和音さんが、コンサートをおこなっていた。


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ジャンルはいろいろ。思い付きのジャム・セッションぽいところもあって楽しかった。銀河鉄道999も演奏してくれました。(笑)


マリンバの塚越さんを初めて、近くで生で拝見させてもらったが、ゴムまりのように弾ける元気いっぱいの明るい女性で微笑ましかった。


でもマリンバって、強烈だなぁ。


あの弾けるような音の躍動感。聴いているとこちらがどんどん乗っていってしまうキケンな楽器ですね。



そしていよいよ、渋谷オーチャードホールでBBC Proms JAPAN 2019。


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自分はここの玄関フロントのところに、日本と英国の国旗が掲げられていると推測していたのだけれど、全然そのようなことはなく至って普通のオーチャードホールであった。


ホワイエ


BBC Proms JAPANのパネル。


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物販関係。


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大フェスティバルにしてはかなり地味目だと思うのですが、いかがでしょう?(笑)


自分は観客がラストナイトのときのように、国旗を振るようなことを想定して、両国の国旗が物販で売られているとも思ったのですが、そんなこともなし。(笑)


でも今日やるラストナイトではどうかな?



そしてホール内。
自分は3階席を選んだ。



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これは素晴らしかった。


いままでフロント、ホワイエと期待の大フェスティバルにしては、あまりに普通に地味なので、ちょっとがっかりというか気合抜けしてしまったところもあったのだけれど、このホールの飾りつけを見て、救われたというか嬉しくなりました。


本場のPromsのような感じが醸し出されていて、とてもいいと思います。


まず、本番のコンサートが始まる前に、指揮者のトーマス・ダウスゴー氏、宮田大氏、三浦文彰氏、そして女性アナウンサーでプレトークがあった。


ダウスゴー氏は、いかにも英国人らしいきちんとした紳士然としたところもありながら、かなり熱血漢っぽい感じ。そして宮田大くんは、やっぱり優等生だなぁ。とてもきちんとしていて、とても能弁な語り口。さすがです。逆に三浦文彰くんは、反対の路線というか、結構土の臭いがするとても素朴な感じで微笑ましかった。


宮田大くんは、今回演奏するエルガーのチェロ協奏曲を、このBBC Proms JAPANに合せて、トーマス・ダウスゴー指揮、BBCスコティッシュ交響楽団という同じメンバーでイギリス・スコットランドで現地録音をしてきたばかり。


日本コロンビアからリリースされます。(2019/10/31リリースですでにオンセール)


そのときに、イギリス人はきちんとしているところが日本人に似ている印象を持ったとか、あのとき嗜んだウィスキーの味が忘れられないとか・・・わかる~その気持ち。(笑)このコメントが自分には印象的でした。


そしてコンサート。


じつは、自分はProm 5なので、音楽祭終盤。だから前半を体験した人たちのレビューがどうしても目に入ってしまう。そうすると、BBCスコティッシュ交響楽団の下馬評が結構散々たるという感じで(笑)、これは参ったな~と頭を抱えてしまった。


かなりの人数の人が、BBCスコティッシュ響は、「弦が薄くて、管が不安定。」という評価なのだ。1人だったらわかるが、かなり複数人だったので、信憑性も高そうだ。


オーケストラというのは弦楽器が大半のパートを占めるのだから、その弦が薄くてスカスカだったら、これはオーケストラサウンドとしてかなり悲惨なものと思われた。


でも自分が体験したProm 5の日の演奏は、まったくそういうところは感じられなかった。管が不安定なところはいっさいなく安定した吹きっぷりだったし、弦楽器群はとても音色が厚くて安定していて、倍音成分ふくめた潤いの余韻が尾ひれについていた。


なによりもこの日の演奏は一貫して、高いアンサンブル能力、オーケストレーション能力が非常に高いオーケストラだと感じ、自分は「なんだ!全然いいじゃん!」といういい意味での拍子抜け、BBCスコティッシュ交響楽団は、一流のオーケストラと言っても遜色のない素晴らしいオーケストラだと確信した。


おそらくその日の出来具合の違いもあるのでしょう。
そして座席の差は大きいかも。


渋谷オーチャードホールは、クラシックの生音で勝負するホールとしては、ステージから観客席に音が飛んでこないことで有名なホールなのだが、自分はそこを慮って、3階席で勝負した。


これが大正解だった。


これだけ上階席でステージを俯瞰するような感じだと、ステージから上に上がってくるサウンドステージがバランスよく万遍なく聴こえてくるメリットがある。これが平土間の1階席で聴いていると、どうしてもステージの奥行きに行くにつれて、音の伝搬距離の差が出てきてしまい、位相差が出来てしまう。弦楽器、管楽器、打楽器と遠くなるにつれて、どうしてもその差が出来てしまう。


客席の一点として捉えたときのオーケストラとしての音のバランスが悪くなるのだ。


自分は確信犯的に、ここは絶対に上階席の方がいいと思っていた。これだけ上から俯瞰する感じだと、ステージの奥行きに行くほどの位相差は、あまり差がなくなる。


だから全体にバランスよく万遍なく聴こえるのだと予想した。


その分、ステージから遠くなるので、音像が緩く遠くなったり、腹に響いてくる音の実在感は犠牲になるが、それでも音の全体のバランスのほうを自分は選んだ。


結果、この日の演奏のサウンドにストレスのようなものがいっさいなく、この生音クラシックのコンサートが苦手なこのホールで、満足できたのはひとえに、座席選びだったと思っている。



前半の細川俊夫さんの「プレリューディオ」 オーケストラのための。


最初のこの曲で、自分はBBCスコティッシュ響の実力の高さをしっかりと把握することができた。
現代音楽に必要な繊細で透明感のある弦の美しさ、そしてその音色が安定していないといけない。
さらに空気を引き裂くような鋭さを持っていなくてはいけなく、それがきちんと具現化されていた。



2曲目の宮田大くんのエルガーのチェロ協奏曲。


この曲が自分の一番の楽しみであった。
それは先の述べたように、イギリス現地で同メンバーで録音してきたホカホカの話題であること。
そしてなによりも久しぶりに宮田大くんの生演奏に触れること。


大くんは変わんないね。・・・見かけが。(笑)
なんか自分が接していた時とほとんど変わんない。
いつまでも若くて、うらやましいです。


でも演奏表現力は観客に対する訴求力というか説得力が抜群にレヴェルが増したと思う。
自分の座席はステージから遠いけれど、大くんはとても大きく見えました。
チェロの音色も朗々と鳴っていた。
(チェロの音域って本当に人の声に近いというか、どうしても眠くなりますね。(笑))


エルガーのコンチェルトは、チェロ協奏曲としては超有名なドボルザークのコンチェルトと対照的で、非常にシンプルなオーケストレーションが特徴的ですね。エルガーが病床にいるときに書かれた作品ということで、やや短調的なほの暗い旋律が印象的です。ドボコンは有名なので、聴く機会も多いと思いますが、エルガーのほうは、なかなか普段、コンサートで聴く機会が少なくレアな曲なのではないでしょうか。


エルガーのチェロ協奏曲は、特にジャクリーヌ・デュ・プレが盛んに演奏しレコーディングも行っており、彼女が本作を世に知らしめた功績が大きい。


自分も彼女の音源を持っていますが、この日の大くんの演奏のほうがより現代的で洗練された今風のサウンドだと思うし、今回日本コロンビアからリリースされるアルバムも、デュ・プレの作品を超えるものであることは間違いないでしょう。



休憩(インターミッション)


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後半に入り、三浦文彰くんのブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。


三浦くんは、自分が定期会員だったミューザ川崎の東京交響楽団 名曲全集のコンサートにソリストとして出演したときに1回実演に接したことがあります。


本当に土の香りがするという感じがぴったりな男らしい将来のスター。


ブルッフのコンチェルトは、ヴァイオリニストにとっては、若い新人の頃に修行する曲として有名で、自分は若い頃は弾いていましたが、トータルとしてはあまり弾いたことがない曲だ、とプレトークで言っていた。


自分はこのブルッフのコンチェルトがとても好き。
哀愁があってロマン派的で、メロディーがとても美しい。
ヴァイオリンにすごく合っている曲だと思います。


三浦くんのブルッフは、どちらかというとこの曲が持つ派手でパフォーマンスたっぷりという路線とは違っていて、とても素朴で冷静に淡々と弾ききった、という印象が大きかった。


とても渋い男らしいブルッフであった。



そして最後にトーマス・ダウスゴー指揮、BBCスコティッシュ交響楽団によるラフマニノフの交響的舞曲。


これは素晴らしかったね。


巷に溢れていた同楽団への散々たる下馬評はなんだったんだ?という感じで、こんな素晴らしいパフォーマンスをするBBCスコティッシュ響を大いに見直した1曲であった。


コンチェルトだとどうしてもソリストに耳が行がちになりますが、メインディッシュはまさにオケそのものを堪能、評価できる。アンサンブル能力の高さ、オーケストラとして奏でているサウンドのボリュームと質感の高さ、緻密さ、極めて能力の高いオーケストラだということがこの曲ではっきりと認識できた。


このラフマニノフの交響的舞曲という曲は、自分はRCO Liveのディスクでオーディオでよく聴いていて、大好きな曲なのだが、ひさしぶりに生演奏で聴くと、やっぱりこの曲、オーディオでの聴きどころ、音的に美味しいところ、というポイントがあって、それを生で聴くと、やはり迫力が違うな、と感心しました。


ブラボーの一言です!


指揮者のトーマス・ダウスゴー氏であるが、非常に切れ味鋭くて、熱血漢の指揮ふりですね。正統派の指揮者だと思います。彼らからこれだけのサウンドを引き出していたのもじつはダウスゴー氏によるところが大きいのでしょう。


アンコールは、劇団員が立奏して踊りながら演奏するなどのパフォーマンスがあり、お祭りらしい華やかな雰囲気でフィナーレ。



つくづくこの日、Prom 5を選んでよかったと思います。


ちなみに、松本市音楽文化ホール(松本ハーモニーホール)のほうでもバスツアーを企画して東京に遠征して、この日のProm 5の公演を鑑賞するツアーを組まれていたようです。ツアー参加者のみなさんが楽しそうな笑顔で集合写真に写っていたのを拝見しました。


やっぱりProm 5だったんだね。(笑)



今日はラストナイトの日。


観客は日本、英国の国旗を振るというパフォーマンスはあるのでしょうか?


いろいろ音楽界で論評はあると思うが、自分はこのBBC Promsを日本で開催する、という今回のトライアルは見事に成功したのではないか?と思います。



BBC Proms JAPAN 2019


2019年11月3日(日・祝) 15:00 開演
Bunkamuraオーチャードホール


出演

管弦楽:BBCスコティッシュ交響楽団
指揮:トーマス・ダウスゴー
ヴァイオリン:三浦文彰
チェロ:宮田大


演奏曲目


細川俊夫:「プレリューディオ」 オーケストラのための

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85(チェロ:宮田大)


休憩(インターミッション)


ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26(ヴァイオリン:三浦文彰)

ラフマニノフ:交響的舞曲 Op.45


アンコール

Sibelius:Andante Festivo
Unknown:Eightsome Reel








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