村上春樹さんの小説を読む [雑感]
去年の2019年1月に、”読書をする。”深い深い井戸の中に入り込んで、孤独の層をくぐって体験して、その底で深く人生について瞑想したいと宣言したことを覚えていよう。
これは村上春樹さんの小説を読むということだった。深い深い井戸~という文言も村上さんの使っている名言だ。村上さんの小説は、長編、短編、翻訳、エッセイととても幅広いので、まずはご自身が主戦場と仰っている長編小説を全巻読破してみようと思ったのだ。
村上春樹長編小説14冊
自分の読書歴は本当に寂しい限りだ。なにせ理系人間まっしぐらの人生を生きてきたので、文学というジャンルにはまったく縁遠く、その反対の人生を歩んできたといってよい。
子供の頃を振り返って記憶にある読書歴。。。司馬遼太郎さんの歴史小説、星新一さんのショートショート、平井和正さんの狼男シリーズ、そしてその時代に話題になった新書をそれなりにかじったかもしれないが、文学少年では絶対なかった。
逆に言えば理系人間だから技術書、専門書のような類はすごく読んできた。TCP/IP解説書とかね。近年ではオーディオ雑誌。そして自分の新しい開拓分野にクラシックの書籍があった。これは一番新しい自分の知識書である。クラシックに詳しくなりたいと思い、たくさんの本を購入してクラシックについて勉強した。
とにかく本を読むということは、知識を得るため、というドライな考え方があって、自分の知識欲のためにならないのなら読書は時間の無駄、というドライな考え方を持っていたかもしれない。
だから日本文学は全然読む意欲がなかったし、興味はあったが、読むとしても時間の有り余る定年後だなぁと漠然に思っていた。
2004年ころに部屋にそういう日本文学の本を収める本棚がないことが気になって、実際読むのは定年後だけど、本だけ買っておこうかな、と思い、本棚を買って、そこに日本文学の小説をたくさんまとめ買いしたのだ。
要は見栄えのためですね。
要は見栄えのためですね。
その中に、村上春樹さんの本があった。
なぜかわからないけれど、村上さんの本は、ほとんど全巻揃えるくらい買い揃えてしまった。他の小説家は代表的なものを2,3冊という感じなのだけれど、村上さん小説だけは、どういう理由なのかわからないけれど片っ端から全部揃えてしまった。
今思えばこうなることを見通して、その当時から自分と赤い糸で結ばれていたのかも?
でもそのときはあくまで積読であった。
村上春樹さんの小説を読み始めたのは、2009年/2010年の1Q84の長編小説が大ヒットしたときからだった。世間がすごい大騒ぎしていたので、自分もその時流に乗って読んでみたいと思ったのである。それ以降、2013年の色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年、そして2017年の騎士団長殺し。
発売されるたびに話題になり、読破した。
このとき、やはり村上春樹さんの小説を読むことは、時流に乗るファッションアイコン的な捉え方が自分にはあったかもしれない。村上小説ビジネスにはたぶんにそういう要素はあるかもしれませんね。
2009年1月に自分を見つめなおすという意思、そして村上春樹さんのつぶやき、エッセイなどから叱責され、生き方、人生とは・・・といろいろ説かれている感じにもなり、それでは村上さんの小説を全巻読んでみようと思い立ったのだ。その背景には、村上さんの本であれば、自分はなにを隠そう全巻揃えているから、という背景があったからだ。
村上春樹さんの長編小説は14冊あるが、1月から読み始めて、毎週の土日は読書にあてた。そうしたら夏休みの8月には14冊全部読破できてしまったのだ。自分でも驚く凄いペース。
それには自分の目論見があって、10月の秋にノーベル文学賞が発表され、そのときに村上春樹受賞という全国、いや全世界のファンが待ち望んでいた瞬間に、この長編小説全読破の日記をぶち上げて、めでたくお祝いのメッセージを贈ろうと思っていたのだ。
残念だったが、このままなにもせずにまた短編、エッセイとかにそのままに読み進めると間が空きすぎるので、いまちょうど「ねじまき鳥クロニクル」の舞台が全国進行中だ。
このタイミングを契機にひとつ村上春樹小説の印象でも日記にしておきたいと思ってリリースすることにした。
村上春樹さんの小説に対する論評や関連ビジネスは本当にすごい。それを今さら読むつもりもなかったし、要らぬ先入観を持つよりは、そういうのをいっさい読まないで、まず自分が読んで自分の感性に正直でいたかった。だからこの日記はあくまで文学評論家でもなんでもない素人のノンノン目線で想いをぶつけるだけである。
村上春樹長編小説を発売順に並べたもの
村上さんの小説には、リアリズムとノンリアリズムに大別されると思う。自分がこれぞ村上小説の真骨頂と思うのは、やはりノンリアリズムのほうですね。
小説には強いて言えばいろいろなジャンル分けができると思います。恋愛小説、推理小説、歴史小説などなど。でもこういう既存のジャンルに当てはめることのできない独特の村上ワールドを築いていると思いますね。そういう枠にとらわれないオリジナリティがあります。
敢えて言えば、サスペンスと非現実世界の超常現象との混在の魅力・・・とでも言いますか。
やっぱりどこかサスペンスっぽい要素があって、それが強い魅力になっていて、つぎはどうなるのであろう・・・とどんどん読み進んでいきたくなる文章のリズム感のよさが1番の魅力だと思います。
村上小説というとどうしてもこのサスペンス風味のノンリアリズムというイメージが強いので、逆に自分は村上さんのリアリズムの小説はどうもピンとこなかった。ノルウエーの森がそうなのであるが、ノルウエーの森は、いつもノンリアリズム路線ではいかん、ということで小説家としてどうしてもここはリアリズムの小説を書いておかないといけない、という小説家としてのキャリア開発の一環として臨んだ作品だそうだ。
ご存じのようにノルウエーの森は空前絶後の大ヒットとなって大ベストセラーとなった作品。自分は読んでみたんだが、どうも印象に薄いというか、自分の記憶に深く刻まれる作品ではなかった。
あのいつもの強烈なインパクトがない分、ふつうの恋愛小説とそんなに大きなアドヴァンテージを感じなかった。1回じゃどうも印象に残らないから、2回読みましたから。(笑)
でも大ベストセラー、映画にもなった名作ですから、やはり文学素養の乏しい自分では十分鑑賞に耐えれなかったのでしょう。自分の責任だと思いますね。
村上小説というとどうしてもちょっと尋常じゃない奇怪な現象のストーリー展開を期待してしまいますから。
この一連の14作品の長編小説を全部読破してみて、思ったことは、村上春樹さんという人は、性格のいい、いわゆるいい人ではないと思います。
いい人、性格のいい人が書く小説というのは面白くない、退屈でつまんないと思います。
いわゆる自分の中の内面性に毒のようなものがあって、そういう黒い、毒のようなものを自分の中でその毒と向かい合う、そういう非凡人的のところがなければあういう独創的なストーリー展開の発想は思いつかないと思います。
人を驚かすというか、感動する刺激的な小説を書く小説家は、性格がかなり個性的でないとダメですね。いわゆるいい人というのは小説家として大成しないのでは?(笑)
もちろん誤解のないように、悪い人という意味ではなく、普段は普通にいい人だと思いますが、心の闇というかどす黒い毒のようなものを内面的に秘めてないとこのような独創的な発想はできないと思うんですよね。これはあくまで自分の思うところなのだけれど、笑いのツボ、受けるツボが、結構ユーモア、とくにブラックジョークが好き。ちょっとブラックな要素が入っていないとつまらないという面があるんじゃないかと思いますね。
すでに70歳の人生経験豊富な方ですから、ふつうの平凡な方の感動ポイントや笑いのツボとは違っていて、やはり独特のブラックジョーク、痛烈な皮肉ジョークがよく理解できるというかそういうのがお好きなのでは?と思います。
ユーモアを愛するんですね。ボクの普段のジャッジからしてそう感じます。やはりそこは人生経験豊富で、これだけの地位を自分の力で築き上げてきた人ですから。ふつうの人が感動するポイントより敷居が高い感じがします。
1人の作家の作品を短期間で全部読破するというのは、いろいろなものが見えてきます。
それは、やはり晩年の作品になればなるほど作家としての進歩がはっきりわかる、というか。物語の進行の精緻さ、巧妙なトリックのかけかた、使い分ける用語の高度化とか、描写精度、やはり作品が後ろになるにつれて本当に小説のレベルとして進歩しているなと感じます。
ご本人も仰っていますが、小説家になりたての頃というのはどのように小説を書いていけばいいか、わからない中、書いているというのがありますからね。やはり経験だと思います。デビュー作品の「風の歌を聴け」なんて本当に文章が初々しいですよ。ジャズ喫茶を経営しながら、店を閉まった後に、自宅に戻ってキッチンテーブルで当時は原稿用紙に万年筆で書いていた、という状況。ボクはこの作品は本当にその頃苦労しながら書いている様子が垣間見えてとても初々しくて好きです。
この14作品の中で1番好きなのは、やっぱり1Q84。これはやっぱり物語の仕掛けが非常に巧妙に作られていて、読んでいくうちにそうだったのか、と関心させられるところ多し。小説ってこういう仕掛けが巧妙だとやっぱり読んでいてすごく感動しますよね。なにもトリックがないより絶対感動します。そしてなによりも自分が大好きなサスペンス風味抜群で、やっぱりカッコいいですよね。小説全体として。1番好きな作品です。
あとダンス・ダンス・ダンスが大好きです。これもサスペンス風味大活躍。ここの札幌のイルカホテルのレセプション嬢のユミヨシさんに惚れてしまいました。メガネガールなのですが、なんか意固地だけど清楚でそそられるのです。村上小説だからきっと性描写があるに違いない、と期待していましたが、最後の最後でついにユミヨシさんの性描写が!もう、ものすごく大興奮しました。(笑)
あと海辺のカフカも大好きです。なんとも奇妙な小説です。ゴローさん出てきます。(笑)
これは村上小説をずっと全作品読んでいくうえで不思議に思ったことですが、必ず各作品に自分の人生に関わってきた人がいろいろな形で登場するんですね。各小説で必ず登場します。ホテルの名前で出てきたり、いろいろ。最初気味悪かったですから。
ねじまき鳥クロニクルや世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドも面白かった。
もうみんな面白かったです。
もうみんな面白かったです。
村上小説の魅力に主人公が自分と同じ等身大、金がなく、細々と人生を楽しんでいる、というのがあります。そんな主人公像に人気がある理由がある感じがしますね。
自分も金がなく、社会的に成功しているわけでもない、細々として暮らしていますから、こういう主人公像だとついつい自分がそのまま感情移入しやすいんですね。その主人公に自分がなっているかのような感じ。
村上さんはもう結構お歳なのに、書く小説に若者層に人気なのは、そういう主人公の等身大さに共感を得るからなのだと思います。
ダンス・ダンス・ダンスでは、金のないライターで、グルメなお店を取材して雑誌に投稿して細々と暮らしている男・・・なんだ?俺のことか?と思わず共感しましたから。(笑)
主人公がハンサムで金持ちで何不自由なく裕福じゃまったく面白くありませんね。
あと、各小説には、必ずサンドウィッチとサラダが出てきますね。(笑)ご本人が好きなのか、と思いましたが、昔ご自身でジャズ喫茶で出してメニューだったのかもしれません。
これも短期間で1人の作家の作品を全読破するからわかることです。
上の長編小説以外に紹介したい本。
これは職業として小説家を目指すことになったその経緯や村上流小説の書き方など大変興味深い内容が記載されている。小説ってどのように書くのか、とくに長い長編小説だと、プロット(あらかじめ、全体の筋書を決めて、そこに割り付けていくように書くこと)とかも全然しないそうだ。もう一筆書き。タイトルを決めてそのイメージから一気に書き上げる。そしてどうしても整合性ないから整合性できるまでどんどん何回でも書き直すのだそうだ。
インタビュー集。ある意味、小説家村上春樹としての自分の小説の在り方、考え方などがわかる。インタビューなので、本人がじかに喋っている内容で人間村上春樹というのがよくわかる本。自分はこの本を読んで小説家村上春樹というのを理解することができた。
旅行日記。村上流に言えば旅行スケッチ。
ヨーロッパのギリシャ、イタリア、ロンドンに住んでいた時の旅行日記。自分はこれが最高に面白かった。やっぱり人の旅行日記って最高に面白い。失敗談とか最高。やっぱりすごいと思うのは、我々SNS時代の人間は写真を一発載せてしまえば、それで、ものを言わせるというか写真が果たす役割というのは大きいのだが、ここは小説家。文章ひとつでその場の風景とか、読んでいる人の頭にその情景を浮かび上がられせる才能は本当に凄いです。
自分はどの長編小説よりも、この旅行スケッチが最高に面白かった。
これはぜひ読んでほしいです。
これはぜひ読んでほしいです。
村上春樹さんの書斎
いまでこそこんな素晴らしい書斎で執筆されていると思いますが、村上さんは大の引っ越し魔で、作品の大半はいろいろな場所で執筆されたものです。ヨーロッパなどの外国で執筆されたものも多いです。(ノルウエーの森とかダンス・ダンス・ダンスとか)だからその作品を読むとその風景が蘇るとか。やっぱり創作活動というのは普段の場所と違うところだと、その効率も抜群に上がるものなんですね。村上さんは作品ごとに引っ越ししていたようなものだったらしいです。
単に小説を読むだけでは、やはり物足りなくなるんですよね。やはり村上春樹という人物はどういう人物なのか、というのがどうしても知りたくなってきます。
シャイで人前にでない~文章で自己表現に徹する~自分に似ていますね。
村上ビジネスはすごい。いろいろな人が村上さんを慕って取り囲んでいる。
これだけ日本のみならず、世界中に読者を持ち、大ファンに囲まれている人生って本当に幸せな人なんだな、とつくづく思います。
みんなから愛される、こういう幸せというのは、本当に誰もが持ち得ることではない。
類まれな才能だと思います。
類まれな才能だと思います。
それでいながらシャイでメディアに出てこない、人前で話すのが苦手。
自分は小説1本で自己表現する。この部分ってすごく自分に似ていると思います。
自分は小説1本で自己表現する。この部分ってすごく自分に似ていると思います。
自分も人としゃべって自己表現するよりも、書くことで自分の考えを人に伝えることのほうが容易いと思ってますので。
ほんとごく一般人的な生活らしいです。
夜9時には寝てしまう。朝型人間。
夜9時には寝てしまう。朝型人間。
朝早く起きてそこから執筆活動、お昼までやって、そこからジョギングで走って、その後は、音楽聴いたり、アイロンかけたりという生活サイクルの繰り返し。
村上さんと自分では、住んできた、生きてきた人生が全然違う世界。自分にないものを持っている方だと思いますね。自分が歩んできた人生の抽斗には存在しないものを持っている。
それはやはり幼少のころから文学少年で文学が好きだったこと。
とくに外国文学に傾倒していたこと。
とくに外国文学に傾倒していたこと。
少年時代、神戸の古本屋にそのときのアメリカ兵が読み終わった本をそこに売っていく訳でそういう外国文学書が束になって積まれている。そういう束になって古本屋に積んである外国文学本を二束三文の安さで買って幼少時読んでいたそうです。
もう訳すということなどせずに、英語のままガリガリ読んでいくという感じ。
その幼少時代からの影響で、村上春樹の小説は外国文学の影響が大きいということになる。好きな作家を三人選べと言われたら、すぐに答えられる。スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーバー、トルーマン・カポーティ。この三人の小説だけはかれこれ二十年くらい飽きもせずに何度も何度も読み返しているそうだ。そしていまこのように自分の文学に影響を受けた外国作家の本を翻訳されています。これも村上文学の大切な屋台骨。
あとマラソンですね。
これは自分は全然ダメ。高校の時に学校で10kmのマラソン大会があるのだけれど、なんとか例年上位に行こうと思い練習するのだが、10kmでこんなに大変で苦しいものなのか!と嫌になりました。マラソン大の苦手です。
村上さんは大のマラソン人生そのもの。
42.195kmのフルマラソンもやられる。フルマラソンの後の暖かいディナーほど世界で美味しいものはないと豪語される。
これはわかるわ。(笑)
あと、村上春樹さんと言えば音楽にとても造詣が深いこと。ジャスやクラシック。自分は小説の書き方を音楽から学んだ、文章はリズム感だ!というのがご自身のモットー。
ここはボクとまったく同じで、唯一共通点を見いだせるところ。
ボクの人生も音楽が大好きで音楽に溢れた音楽人生だった。
ボクの人生も音楽が大好きで音楽に溢れた音楽人生だった。
村上さんは、じつは現在ラジオのパーソナリティーをされていることをご存じかな?
FM Tokyoで”村上RADIO”という番組をやっている。
2か月に1回の不定期な開催だが、村上さんの生声が聴けてご本人のパーソナリティがわかるとても貴重な番組だ。2年前の2018年の8月にスタートして2か月おきにやっている。
自分もスタート時点から必ず聴いているんだが、2か月おきだから、開催日いつも忘れちゃんだよね。(笑)Twitterで登録しておくと、事前に開催を通知してくれるから便利だ。
村上RADIO Twitter
滅多にメディアに出ない村上さんなので、番組当初は、シナリオ原稿棒読みのような感じで硬さが取れていなかったけれど、最近はとても素の姿を見せてくれるようになり、会話もごく自然だなと思うようになりました。
音楽好きの村上さんが、自宅からアナログLPを持参して、各回でいろいろな音楽のテーマを設けて、自分がディレクター、パーソナリティーしている番組なのだ。
これはぜひお勧めです。
今週の日曜日にあります。
テーマは、”ジャズが苦手な人のためのジャズ・ボーカル特集”
最後に自分はオーディオファンなので、最後はオーディオの話題で。
去年の2019年12月号のSWITCH。
村上春樹のオーディオルーム
という特集が組まれた。
ジャズ喫茶時代から愛用しているJBLのスピーカー、
アナログレコードプレーヤ4台
アナログレコードプレーヤ4台
システム全容が紹介されている。
村上春樹におけるいい音とは?
いい音というのはいい文章と同じで、人によっていい音とは全然違うし、いい文章も違う。自分にとって何がいい音かを見つけるのが一番大事で・・・それが結構難しいんですよね。人生観と同じで。
村上さんは大のアナログレコードマニア。世界中の中古レコード店を渡り歩き、ここにだけある希少価値盤とかお宝のレコードを収集していくというのが本当に大好き。
ぜひ書店にゴーだ!