神戸松陰女子学院大学チャペル [教会]
ヨーロッパにはそれこそ星の数ほどたくさんの教会が存在するのだが、それはキリスト教という信仰の土台、礎がそこにある訳で、ある意味当然なのだが、そういう基盤がない日本で、クラシックの演奏や録音が、その教会で演奏される、という事象は、なかなか難しいことではないか、と思う。
いまの録音事情は、コンサートホールを使ってのセッション録音、ライブ録音というのが圧倒的で、教会録音をしようとした場合、本場ヨーロッパまで遠征して録音する、ということも多いだろう。
教会で録音された作品は、やはりその響きの豊潤さ、美しさ、残響時間の長さなど独特の美しさがある。
自分の将来の夢に、録音によく使用されるヨーロッパの教会巡りをしたい、というのがある。美しいだけの教会であれば、ヨーロッパならそれこそ無数にある。それじゃだめなのだ。昔から名盤生産基地として名高い、レーベルがよく使うそのような教会にこだわりたい。
ピンキリの教会の中で、そういう教会は、やはりその音響条件などセッション録音するのに録音スタッフ側からすると好都合な要素が必ずどこかにあるはずだと思う。
ベルリンのベルリン・イエス・キリスト教会やドレスデンの聖ルカ教会など、各レーベルがお決まりに使う教会って必ずある。
最近興味が急上昇なのは、諏訪内晶子さんの作品で良く使われているパリのノートルダム・デュ・リバン教会。この教会は、1960年代からエラート・レーベルの録音で使われてきた音響の良い教会で低音に外の車のノイズなのか暗騒音があるが 柔らかくぬくもりのあるような響きが特徴的。5年前にパリに行ったときに、ぜひ寄ってみたいと計画したのだが、礼拝や演奏会などがないと一般公開しないなど、なかなかタイミングが合わなくて難しい。
そういうクラシック録音、演奏などが可能な教会を日本国内で探すとなると、なかなか難しい。
そこでこの神戸松陰女子学院大学チャペルの存在を知った。その頃からぜひ行きたいとずっと思っていたのだが、なにせ神戸にあるので月日がどんどん経過して今に至っていた。
2014年にライプツィヒを訪問して、バッハに纏わる旅行ができた。そのとき、否が応でも鈴木雅明氏&BCJ(バッハ・コレギュウム・ジャパン)を聴く機会が多くなり、そうするとこの神戸松陰女子学院大学チャペルという教会は、彼らBCJの国内での本拠地の教会でもある。(この教会で、もう200回以上の演奏をしている!)
まさに機は熟した、という感じで、この教会で彼らの演奏を聴く、という大義名分が出来て、このタイミング、ということになった次第。
教会はここにある。六甲駅から結構歩く。15分くらいだろうか。
厳しかったのは、ずっと心臓破りの坂を山側に登っていくことだ。教会は標高の高いところにある。これはかなりキツかった。歩いているうちに足が棒になる感じ。
そしてようやく教会に到着。
教会は、神戸松陰女子学院大学の女子大の中のひとつの礼拝などをおこなう教会という位置づけの施設で立っている。
つまりチャペルは学校や施設内などに建てられている礼拝堂のこと。
だからこの女子大のキャンパスの中にあるのだ。
この大学は、キリスト教主義のミッションスクールで私立大学の女子大。
キャンパスは、レンガ色の美しい山の手キャンパスという感じで、本当に清楚で美しいキャンパスであった。
歩いていく内に大学に遭遇。
ゲートはクリスマスモード。
そこで、守衛さんの窓口(写真の右側です。)がいて、
ノンノン「BCJの公演に来たのですけど、チャペルってどこですか?」
守衛さん「その目の前にあるそこだよ。でも公演は3時からだよ。(驚)」
そう!相変わらず、1番乗りにしないと気が済まない性格で、大学についたのは12時くらい。(爆笑)
ノンノン「中で待っていてもいいですか?椅子とかもあるし。」
守衛さん「いやぁぁ、ここは基本は女子大なんで、中を男性がフラフラしていると不審者みたいでまずいんだよねぇ。」
ノンノン「はぁぁぁ?」
教会の前で待っていようと思っていたが、全く思いもよらないアクシデントであった。写真撮影だけ許可をもらって、あとは結局大学の前のマンションの駐車場のところのタイヤを止めるレンガのところに腰かけて、時間をつぶしていた。
それでは写真撮影したものをご覧にいれよう。誰もいないショットで貴重である。(いつもそのために1番乗りするのだ。(笑))
これがチャペル(教会)。
これはカリヨンと呼ばれているもので、14個の鐘がコンピューター制御でオルガン曲や聖歌などを奏でるのだ。
ついでに大学のキャンパスもご紹介しよう。
キャンパスは大きすぎて、フレームの中にうまく入らなくて、構図がいまいちなのだが、ご勘弁願いたい。
チャペルの色もそうだけれど、キャンパス自体も全く同じレンガ色で統一されていて、全体のシルエットとして清潔感があってとても美しいキャンパスだ。
ここが食堂みたい。
なぜか、その前のベンチに熊さんが....
教会の前は休憩できるようになっていて、こんなスペースが。
この頃になるとBCJのメンバーが続々とキャンパス入り。そしてチャペル内で、リハーサルを開始した。鈴木雅明氏や、優人氏の姿も見えた。否が応でも緊張感が湧いてくる。
そしていよいよ開場の時間になって、教会の中に入る。
椅子はこんな感じ。
礼拝堂の祭壇の上方部にステンドガラスが配置されている。姫路在住の立花江津子さんによる作品で、祭壇上部に「復活のキリスト」があって、それに向かって、礼拝堂を一周してその絵巻が展開される。
これが「復活のイエス・キリスト」
こちらが礼拝堂の後方に設置されているパイプオルガン。18世紀パイプオルガンの響きを再現したい、ということで、フランス・クラシック・オルガンが選ばれている。
このオルガン建造家としてフランス人のマルク・ガルニエ氏が選ばれて設計に携わっているようだ。(東京芸術大の奏楽堂もこの人のデザイン!)
そもそもこの教会の設計時にヨーロッパの有名教会(約90箇所!)の現地調査をおこなって、チャペルの音響設計をおこなった、というから筋金入りだ。このガルニエ氏と竹中工務店が施工の中心メンバー。
写真を見てもわかるようにチャペル自体の形状は、パイプオルガンの音が天から降り注ぐように反射音の流れをコントロールするように形作られている(特に天井)。天井で拡散された音が適度な時間遅れで聴衆に届くように。
またオルガンって、超低域の低い低音から高音まで広帯域の音を発生するので、この容積のタテ・ヨコ・タカサ比次第で、低音のこもり、というか共鳴が起こる問題があって、それを解決できるように寸法比を決めているそうだ。
この教会内部に入った時に特に面白いと思ったのは、写真を見ても分かるように、天井から側壁にかけて棒状のものが放射状に配置されているデザイン。
これは切り妻型の天井というもので、オルガンからの反射音を拡散させるもの。こういうデザインの内装の教会を観たのははじめてだ。
同様に写真を見てほしいのだが、その切り妻型の棒が側壁に設置しているところの表面がザラザラしているのがわかるだろう。
教会音響のポイントは、低音域の残響特性がほぼ平坦で、いかにブーミーな低音の響きを抑えている仕掛けをしているところにある。
そういう教会は概して音響が素晴らしいのだ。
ヨーロッパの教会に多くみられる高い天井に嵌め込まれたステンドグラスや木部などがそういう役割を果たしている。
この教会のこの側壁部分のザラザラ部分のスリットは、そういう問題を解決する低音域吸収や残響調整用のレゾネーターとしての仕掛けになっているところだ。
こうしてみるとヨーロッパの教会の構造を研究し尽くして、その工夫がこの礼拝堂に隅々まで行き届いているのがよくわかる。
実際自分の耳で聴いてみた印象は、まず空間の暗騒音は、澄み切った感じの空気感で静寂そのもの、S/Nが良さそうな感じだ。非常にライブな空間で、残響時間は3秒はあるだろう、という感じだったが、実データは満席時で、2.6秒だそうだ。
特に声楽関連の響きはじつに重厚感があって、素晴らしくて、その合唱の声の厚みは、バロック時代の古楽器の音色を遥かに圧倒していた。自分は、ここに一番感動した。
既述のように音響設計の工夫もあって、音色の帯域バランスも偏りがなくて、空間を長い時間漂うその響きはじつに美しい。
さて、こんな素晴らしい教会で、鈴木雅明氏&BCJのチャペルコンサート。
今回が第232回目の演奏会ということで、この教会を育んできた人たちと言えるだろう。
今回の演目は、17世紀に大きく開花したイタリア音楽の様式をドイツに持ち帰り、ドイツをヨーロッパ音楽の主流へと導いたハインリヒ・シュッツのダビデ詩集歌集からの演目。
演奏をする前に、必ず鈴木氏自身がMCをするというスタイルで、観客との距離感がすごく近くてアットホーム的な雰囲気でよかったと思う。
演奏のレベルも高く、素晴らしいの一言。何回も言っているが、その圧倒的なパートを占める声楽の部分が、じつに素晴らしくて感動であった。
2014年当時想っていたことは、鈴木雅明&BCJという演奏家は、実際長年に渡って彼らが成し得てきたその実際の業績に対して、日本内での評価が十分ではないというか、過小評価ではないか、ということだった。逆に海外での彼らの評価は高い。
でも前言撤回、いまでは十分な国内での高評価を受けていると思うし、BISレーベルとの長年の大作の「教会カンタータ全集」の完成もあってバッハ演奏のひとつの頂点を極めた。そこからさらに邁進を続けている彼らの姿は求道的でもある。
この教会カンタータ全集の録音の全録音をしたのも、この教会。この教会なくして、この大作は生まれていなかった、と思うと、やはり一生に一度は、この教会でのチャペルコンサートを経験できたことは、垂涎の経験だったと思う。
残響7秒! 東京カテドラル聖マリア大聖堂 [教会]
「東京カテドラル聖マリア大聖堂」は世界に名を馳せる丹下健三作品の代表とも言える建築のひとつ。国内でどうして見ておかないといけない名建築のひとつとか。
まさに圧倒される大空間。
三角錐の特殊の形をしている。
構造は東京大学坪井研究室により、音響設計は石井研究室にておこなわれた。
その特殊な内部形状から、特に残響時間の計算結果には特に苦労されたそうな。
当初設計では残響時間がなんと20秒。(笑)
これでは音楽はもとより、司教の言葉も参列者に明瞭に伝わらない。
そこでいろいろ工夫をおこなった。
このように三角錐の天井には、明らかに吸音材と思えるクッション性のものが敷き詰められており、天窓の役割を果たすそうだ。自分は夜間に行ったのでわからないが、昼間だとこの天窓から陽が挿し込むのだろう。
SPも壁面に所々に埋め込まれており、司教のスピーチはPAを使うので、そのために使用される。
これで、現在の残響時間が7秒!
世界の音響のいいコンサートホールとよばれるホール空間で、残響時間は2秒がスタンダード。
残響時間が7秒というのは、自分が数多経験してきた空間では想像できない値だった。相当響きが混濁している空間に違いない。だってこのぐらい長ければ、残響が消えないうちに次の発音がどんどん重なる訳で、混濁必至だと思った。
こういうところで、音楽会などの演奏会を開いたら、演奏者は残響&響きと自分が出す音量バランスとの兼ね合いを相当意識しないと、かなり難しい音響空間なんだろう、ということが容易に推測できた。
ちょっと経験するのが怖い感じがした。
自分が経験したのは、「オルガン メディテーション」というミサの一種で、司教の言葉、福音書をみんなで朗読しながら、一緒に歌い、そしてオルガン演奏で瞑想に浸るというもの。
ミサは、圧倒的に8割から9割方女性信者で、大聖堂が満員になるほどの大盛況だった。
なんか、こういう空間を経験すると、3年前に訪れたライプツィヒのトーマス教会やニコライ教会の礼拝(カンタータ礼拝)を、思い出した。
もうそっくりだ。(笑)
現地の地に根付いた礼拝という儀式は、日本では経験できないことで、まさにキリスト教に基づいたヨーロッパ市民の日常生活。礼拝ってなんと音楽に富んでいるんだろう。。。そんなことを体験した3年前だったが、まさにそれを思い出した。
オルガンは、大聖堂の背面にある。
2004年に設置された新しいオルガン「マショーニ・オルガン」。
ヨーロッパの教会は、オルガンは、教会の背面の天井近くに存在するのが普通だ。
ここの大聖堂もいかにもヨーロッパ風な造りだと感じた。
さて、自分が感じたその音響空間の印象はどうだったか?
あくまでオルガンの音色だけの印象だが、そんなに思ったほどの混濁空間ではなかった。
というか、どちらかというと、極めてノーマルに近い音響で、確かにライブではあるが、残響7秒というのはどうなの?というレヴェルだと感じた。
せいぜい残響3~4秒くらいの空間ではないだろうか?
ちょっと拍子抜けした印象だった。
音質は確かに石造りのピンと張り詰めた硬質な響きだということは感じた。
でも、この程度の音響空間なら、教会や大聖堂なら、極めて普通の部類だと思った。
あたりをグルグル見回していろいろ考察してみると、やはり天井が決して高くないと思ったこと。ある意味低い部類に思える。大聖堂としては、容積もそんなに広いほうではないと思う。
天井にす~っと突き抜けていくような音のヌケ感というのを感じないのは、そこが原因なのかな?とも感じた。2Lのソフトで、映っていた大聖堂の空間のほうがスゴイ広い空間だし、天井もとめどもなく高く、突き抜ける高さがある。(残響時間の長さは容積に起因します。)
オルガンの演奏も聴いたのだが、どうも分厚い低音の量感みたいなものも感じず、やや欲求不満だった。これはたぶん演奏の演目によるものだと思う。「瞑想」がテーマなので、そのような乱暴な曲は選ばないだろう。
大聖堂内には開始時間より2時間近く早く入ったのであるが、そこで調音やリハーサルをやっていたときに聴いたときは、凄かったのだ!
まさにオルガンのあの分厚い音の洪水に、自分が包まれるような感じがして、「おー!これは来るなー!」と相当期待していたのだ。
でも本番の音楽は大人しかった。(笑)
ということで、ちょっと梯子を外された感じの印象だったが、でもこれはオルガンの「瞑想」テーマに合った演目だけで判断してはいけない。ふつうの演奏会では、きっともっと、とても魅力的な音響空間、それこそ噂の名評判に合った体験ができるのだと思う。
第一音響空間を経験するだけが目的の不信者(笑)ではなく、きちんとミサを経験すること自体が、ここに来ているみなさんの本来の目的なのだから。
この東京カテドラル聖マリア大聖堂で、12/4の素敵なクリスマス・コンサートが開催される予定です。本来なら、こちらを目指したかったのですが、それまで待てませんでした。
アヴェマリアやクリスマス・キャロルなどのクリスマスムード一色の素敵なコンサートです。
まさにこの内装空間の神々しい雰囲気にピッタリだと想像します。この空間では、きっと素晴らしいコンサートになるはず!
ぜひ体験してみてください!
体験!ザルツブルク大聖堂 [教会]
今回のザルツブルクへの旅では、このザルツブルク大聖堂はぜひ経験したい教会であった。モーツァルトは、この教会で洗礼を受け、オルガン奏者も務めている。またカラヤンの葬儀もここで行われ、10年後の1999/7/16にカラヤン没後10年記念コンサートと称して、アバド/ベルリン・フィルがこの大聖堂でコンサートを行っている。これはNHKで放映され、録画して大事なコレクションとして保管してある。
そんな想いもあって、今回のカラヤンにまつわる旅ということでは、絶対欠かせない場所なのでした。じつは、この大聖堂では時々オーケストラコンサート(モツレク)が開かれるのだが、今回は8月上旬に2~3公演ある程度で私の旅行日程と合わなかった。でもぜひこの大空間の音響を確認してみたい、とオルガンコンサートであったら、やっているようだったので、そのオルガンコンサートを聴くことにしたのだ。
この大聖堂のパイプオルガンはヨーロッパ最大のオルガンと言われているようで、願ってもいないチャンスである。
この大聖堂は普段はフリーパスで自由に入れるようになっていて、自由に見学できる。オルガンコンサートは12:00~なので、11:00からチケットをゲートの後ろのお土産屋さんで販売するのだ。
中に入ると、その荘厳な空間に圧倒される。教会らしく異常に天井が高く、その華麗な装飾は、まさにヨーロッパの大聖堂たる所以という感じ。本当に魂が清められる、というかその荘厳な空間にただただ圧倒される、という感じなのだ。大祭壇のところは前方と左右にそれぞれ祭壇みたいなものが3つで構成されており、それ以降は、左右に決まった間隔で祭壇が存在する。ミサなどの信者が座る椅子はかなり座席数を確保してあるようだ。
オルガンは後方に大オルガンがある。 また前方左右に小さなオルガンがある。
またモーツァルトが洗礼を受けた時の洗礼盤は、最初に日に行ったときはまったくなかったのだが、今日のオルガンコンサートに日にはなぜか存在していた。
そしていよいよオルガンコンサート。これはパイプオルガンが教会内をいっせいに鳴り響くと同時に、思わずのけぞってしまうくらい凄かった。まさに教会音響の代名詞とも言える、その空間の広さ、そして残響の長さ、これは普段のオーディオ、また生コンサートでのコンサートホールの音響では到底味わえない異次元の音でした。とにかく残響が長くて、不思議と次音との混濁感というのもない。
そしてこの膨大なる天井の高さに代表される空間の広さを音が伝わっていくその余韻は、あまりに美しい。空間のスケール感が大きいのと、音の広がり、響きというのが非常にダイナミックに感じる。もちろん凄い大音量。
オルガンコンサートは1時間程度の長さのコンサートで結構満足できる。
自分の想い入れが大きいこの大聖堂でこのような素晴らしい音が聴けて本当 に幸せだと思う。 願わくば、このような音響下で、普通のオケが演奏するとどのように聴こえるのか、ぜひとも体験したい、とつくづく思うのでした。
ベルリン・イエス・キリスト教会訪問 [教会]
ノンノンのブログ、本日からスタートします。よろしくお願いします。
まず過去の話になってしまいますが、去年の2011年6月に敢行したベルリン音楽鑑賞旅行について徐々に公開して行きたいと思います。このベルリンツアーではひとつのこだわりがありました。フィルハーモニーでベルリン・フィルを聴く、ということ。
そしてあのカラヤン/ベルリン・フィルの録音場所として有名で、まさに名盤生産基地だったベルリン・イエス・キリスト教会を訪問することでした。フィルハーモニーが1963年に創設されたとき、音響がいまいちで、カラヤンは録音場所にフィルハーモニーを使わず、このベルリン・イエス・キリスト教会を使い続けたのです。フィルハーモニーは反響板を付けたり、ステージの高さを調節したりすることで、ようやく音響的にカラヤンの満足がいくようになったのはその10年後と言われています。カラヤン/ベルリン・フィルだけでなくフルトヴェングラーやベームなどの巨匠達も頻繁に使用したまさにクラシック・ファンにとっては聖地のようなところなのです。ベルリンにコンサートを聴きに行く、という人はいても、こういう録音現場の教会を訪問するというこだわりの人は、あまりいないと思います。そういった意味で、この教会を訪問することが、今回の旅行の1番のこだわりでした。
教会はベルリン郊外のダーレムという地区にあります。ベルリン市街からU-Bahn(地下鉄)を乗り継いで、50分くらいかかります。宿泊はFriedrichstraβeでしたので、U2でWittenbergplatsまで出て、そこでU3に乗り換えてThielplatsで下車です。
駅に着いたら、すぐ左折してさらにすぐに右折してまっすぐ歩いて行くと教会に到着します。本当に駅のすぐ傍にあるのです。この付近はとても静かな住宅街で、ほとんど無音に近いぐらい静寂で鳥のさえずりが聴こえるだけの本当にのどかなところです。駅から歩いて5分もしないうちに教会に到着です。
ずっと憧れていた聖地、そして写真でしか見たことがなかった建物がいま自分の目の前に現れたのです。凄い興奮でした。夢中で写真を撮り続けました。1930年の建築物でれっきとした戦前の建物なので、確かに古さを感じます。じつはこの教会を訪れるにあたって、英語が話せて教会の中を紹介してくれたり、またベルリン・フィルの録音話などの話も可能という教会の人とコンタクトをずっと取っていたのでした。Wenzelさんという方です。(↓)
10時の開門と同時に、Wenzelさんが扉を開けて外に出てきましたので、扉の前で待っていた私は、すぐにご挨拶してそのまま教会の中へ案内してくれたのでした。教会内部は全面石造りで、なぜか椅子や扉が全部グリーン色で統一されているというなにか不思議な美的センスを感じました。
このステンドガラス、確かにカラヤン/ベルリン・フィルのLPのジャケットで見覚えありますね。教会の中に入ると、写真で見ていた感じに比べて、自分が想像していたより狭い空間に感じました。オケが入る訳ですから、かなり広いイメージがあったのです。やはり祭壇のところは圧倒されますね。壁は全体的に石で出来ています。そして三角の屋根の部分はなぜか濃い茶色の木造で出来ているのです。きちんと綺麗に並べられた椅子の統一感は圧倒されるものがあります。Wenzelさんは、「この緑色の椅子を後方に全部寄せて、前方にスペースを作って、そこにオケを入れるんだ。指揮者は大抵この祭壇に立って指揮するという感じかな。」「1970年代半ばまでカラヤン/ベルリン・フィルの録音場所として有名だが、じつは1940年代のフルトヴェングラーの時代から録音場所に使っていたんだ。」と仰っていました。
そこでWenzelさんが、「いいところを見せてやる。カラヤンが使っていた部屋を見せてやる。」というのです。教会の後方の入り口を出て横のほうにある狭い部屋を紹介してくれました。中は真っ暗でしたが、薄明るい照明をつけてくれました。この部屋がカラヤンが使っていた部屋だそうです。(↓)
教会の中の音響は、かなりライブ(響き多め)な感じで響く感じでした。この後、ミサがあり、それに参加したのですが、いきなり後方の2階からパイプオルガンの音が教会内部に響き渡るのです。これは素晴らしいです。オルガンの音が響き渡った瞬間、思わずびっくりしてのけぞってしまいました。いかにも教会の音響らしくとても響きが長く綺麗な音です。これだけ響く音響のこの教会で、もしオーケストラが演奏するとこれは大変なことになるな、と思いました。とにかく夢のようなひとときで、自分が憧れていた教会の中を実体験できて本当に幸せでした。いわゆる名盤生産基地として実績を上げてきたこの教会を直接訪問できて、とても名誉なことだと思いました。一生の大切な思い出ですね。このベルリン・イエス・キリスト教会、現在も録音場所として現役なのです。
2011/6/5 ベルリン・イエス・キリスト教会訪問