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なぜヨーロッパの放送事情は魅力的なのか。 [放送技術]

ヨーロッパに魅了される人たちは、美術や芸術、クラシック音楽、そしてグルメや歴史的な街景観など、に魅力を感じること間違いない。自分はちょっと入り口が違った。そういうものは後年、歳を取ってから魅力を感じるようになった。

大学を卒業するまで、さほど欧州指向があった訳でもない。

社会人としての最初の仕事が、放送業界の仕事で、そこで衛星放送の受信部を設計するようになって、送信側の放送の業界に深く関わるようになった。

最初は、日本のBS/CSの受信部。そこからヨーロッパの衛星放送へ。これが嵌ってしまった。あまりに複雑で、そうやってヨーロッパの放送事情を勉強していくと、なにかこう異国情緒の雰囲気が味わえ、自分がいかにもその国に行っている、生活しているような感覚に陥った。

猛烈にヨーロッパに憧れた。ヨーロッパに強い憧憬を感じるようになったのは、彼らの放送事情が大変興味深かったから。自分はヨーロッパの世界に”放送”というジャンルから入っていった。

芸術、音楽、グルメの世界はあとからついてきた。

放送の世界って、世界にいろんな規格が乱立していて、会社の中でもチューナ屋さんはその規格フォーマット集みたいなものを手帳のようなものにして常に身に忍ばせておくのが常識だった。

旅行好きの人が、電車の時刻表ならさっと調べられる、といったような感じで、チューナ屋さんなら、その規格集をパラパラとめくってすぐに理解できるのだ。


自分はアナログ放送からデジタル放送への切り替え時期に従事していて、その後はスピンアウトしたので、あれから30年以上経過したいまってどうなっているのかな?とふっと思った。

奴の日記を書いたことで、一気に当時に戻って、日本のことは書いたけれど、肝心のヨーロッパのことは書いていないなぁと思い、いつか狙っていたのだ。

ついに書こうと思い、いろいろ調べてみると、ぎょぎょ~そうなっていたか~という想いと、当時とあまり変わっとらんね、という想いとふたつある。

でもアナログからデジタルに変わるんだから、やっぱり基本的に違う。

思うことは、いまや放送業界に関しては、日本は断トツで世界のトップを走っていると言ってもいいことだ。

4K/8Kなんて世界はまだそんなところまでやっていないよ。(笑)デジタル完全移行時期やHDTV化にしろ、ヨーロッパはようやくそういう感じになってきた、という感じだからね。

今回の日記は、かつて自分が嵌りに嵌っていたヨーロッパの放送事情が、現在どうなっているのか?を中心に過去からの経緯も含めて書いてみる。

まさに猛烈に”いま”を知りたい自分のためにやる。
勝手に語らせておいてください。

ヨーロッパの放送事情を勉強していくにつれて、ヨーロッパの国の人たちの特徴、国民性というのが、よくわかってくるのだ。技術系のR&Dを置くなら、やっぱりドイツかイギリス。この2国がやっぱり技術水準レベルが高いし、勤勉な国民性。やっぱりドイツが日本人と一番相性がいいのではないかなぁと思ったりする。

自分はイギリスにいたけれど、ネイティヴ英語って結構大変なんだよね。(笑)
ネイティブな人たちにとって、ノンネイティブの心の痛みがわからないというか。。。
ドイツ人だとお互い分かり合おうという気持ちがあるからね。

フランスもとても技術力が高いけれど、彼らはやっぱり人と合せようという気持ちがない。
芸術肌な国民性で、フランスであることに誇りがあって、オリジナリティ、独創性を重んじる。

だからヨーロッパ統一規格を決めようとなると、彼らは率先するタイプじゃないのだ。
ヨーロッパの放送受信部を設計していると、いつもフランスだけ、他の国と違うのだ。
なんで、おまえら~ってな感じなのだ。フランスにはいつも痛い想いをしていた。

イタリアやスペイン、ポルトガルは、欧州文化としては、とても個性があって、魅力満載な国なのだが、国民性からしてあまり”技術”という点では向いていないかな?と感じた。(当時の感覚です。)お昼時でもワインふくめ、何時間も時間をかけ、とても人間らしい生活を重視する国ですからね。

でもいま調べてみるとイタリアは放送に関しては、結構アグレッシブな国でした。

下が、現在のデジタル放送(地上波)の世界のフォーマット分布図です。

DigitalTV.jpg



・ヨーロッパ方式(DVB-T):ヨーロッパ・アフリカ・中近東・東南アジア・オーストラリア
・アメリカ方式(ATSC):北米・韓国
・日本方式(ISDB-T):日本・南米
・中国方式(DMB-T/H):中国


放送には、衛星放送、ケーブルテレビ、地上波放送の3種類があり、最近はインターネットでテレビ動画配信というのもある。上はあくまで地上波の場合です。

日本のISDB-Tをベースにした方式は、日本だけじゃなくて、ペルー・アルゼンチン・チリなどの南米で採用されているのだ。日本のISDB-T方式は、他の方式に比べて電波障害や干渉に強く、車内や山間部においても良好に受信ができることなどが評価されている。加えて、ハイビジョン放送とワンセグ放送が1つの送信機で伝送でき、全体のコストが安い。

中国も独自(赤)なんだよね。

自分はヨーロッパ規格のDVB(青)をやっていた。

いきなりこんなデジタル放送になる訳でもなく、世界中もアナログの時代があった。
自分はこのアナログ時代のヨーロッパの衛星放送にとてつもなく嵌ってしまった。
複雑で男心をくすぐるのだ。

当時のヨーロッパの衛星放送は、草創期の時代で、各国が自前の衛星を打ち上げていて、自国だけをビーム照射する感じでサービスをやっていた。ASTRA,TV-SAT,TDF,EutelSATなどかなりたくさん。

でもその中で一番普及していた、事実上のde-factoスタンダードだったのは、ルクセンブルグがあげていたASTRAという衛星だった。BSではなくCSなのだが、商用に開放されていた。(BSというのは一般家庭向けの放送で、CSというのは、企業間通信でつかう衛星。でも後に一般家庭用に開放されてる。)

ルクセンブルグって、本当にヨーロッパに存在するすごく小さな国で、なんでこんな国がこんなに頭がいいのだろう?と幼心に舌を巻いた。ASTRAを上げている会社はSESで(いまはSES ASTRAという)、そのSESのオフィスを直接見たさに、イギリスに住んでいた時に、わざわざ車でドーバー海峡をフェリーで渡って、ルクセンブルグまで行って、SESのでっかいパラボラを探して車でルクセンブルグを彷徨ったこともあるのだ。(笑)

いま考えると若気の至りというかバカだよねぇ。(爆笑)


そこまでして嵌っていた。
とにかくその斬新な発想で、彼らはかなり格好良かった。

ASTRAは、そのビーム照射範囲がヨーロッパ全域をカバーするのだ。


low_astra-4a_europe_interconnect_ka_band_beam_M[1].jpg

アナログ放送なので、信号は周波数多重で伝送する。
これはASTRAのベースバンド領域での周波数アロケーション。
(いまこのような資料がある訳でもなく、自分の記憶に基づいて書いている。)

ASTRA周波数アロケーション.jpg



映像信号はPALのFM変調で、5MHzまで帯域がある。それも輝度信号と色信号(クロマ)が多重されていて、それをY/C分離する。

うわぁ~いまのデジタルな時代にY/C分離という言葉を知っている技術者はどこまでいるだろう?

彼らが画期的だったのは、音声キャリアの工夫。マルチリンガル対応なのだ。6.0MHzあたりからいろんな言語に対応して何本もキャリアを立てていく。変調はFM。

つまりコンテンツを試聴するときに、テレビに言語選択するメニューがあって、それをリモコンで言語を選んでやると、自分の好みの言語でそのコンテンツを試聴できるのだ。

ヨーロッパ全域にビーム照射してヨーロッパ全域でde-factoで受け入れられている要因はそこにあった。

”外国の番組が、自国語で視聴できる。”

これが結構非常にフレキシブルな考え方で、彼らが頭がいいというかスマートに感じたところだった。番組制作という観点からすると、著作権的なものもあって、外国で視聴できるようにするにはその対価徴収も結構仕組みとしてあるんだろうと思うけれど。でも頭いいな~と当時思っていた。

信号処理的にはいたって簡単。GHz帯の帯域を家庭用のパラボラのコンバーターで1stIFにダウンして、それをチューナでさらに2ndIFに落とす。そしてベースバンド帯域に復調したら、上のアロケーションが出てくるので、5.0MHz LPFで映像を抜き出す。

それでY/C分離。音声は、その数の分だけのBPFがあって、リモコンで選択されたら、そのキャリアを選択してFM復調するだけ。

いたって簡単!

ユーザ目線でいうと、自分の家庭で屋根にパラボラ・アンテナを立てて、単体チューナ(STB:セットトップボックスのタイプ)をTVにつなげれば、それでOK。

現に自分はロンドンに住んでいた時、このASTRAを受信して楽しんでいました。
ASTRAには昔から日本語番組として有名なJSTVという番組を配信していて、それを観ていた。
日本語に飢えていたその渇きを癒していました。
NHKとかで番組の種類は少ないし、しかもリアルタイムでなかったです。

イギリスは地上波が4局くらいしかなく、それもお国柄、政治、時事問題が多く、娯楽番組の大半はASTRAで観るのが一般国民の常識だった。イギリスのあの独特の家の形(4種類あったと思います。バンガローとかセミデタッチとか・・・)の屋根を観ると結構ASTRAのパラボラ立ってました。

当時はSKYと呼んでいたんだけれど、いまはBSBと合併してBskyBという名前の番組コンテンツ、ボクの頃の英雄ヒーローだったメディア王ルパード・マードックが創設した放送局。イギリスではASTRAの中でもっとも有名なコンテンツだった。

ASTRAも当然デジタル放送化したんだけれど、考え方はまったく変わらんと思うんだよね。要はベースバンド信号の処理や変調方式が、アナログからデジタルに変わるだけで、コンテンツの扱い方は考え方は全く同じ。変える必要もないと思う。肝心のマルチリンガル言語対応も絶対してるはずです。

だって、音声キャリアを何本も周波数多重するか、デジタルデータとして幾重にもファイル・パケット化するだけの違いですから。

SES ASTRAの現在の公式HPを覗いてみた。

https://www.ses.com/


まず一番驚いたことは、ASTRAというのはもうヨーロッパだけの衛星ではなかった。というかSES ASTRAが手掛ける衛星放送は、もうアメリカやアフリカ、ロシア含め全世界中に展開していた。もちろんヨーロッパを照射する衛星はASTRAという名前だけれど、アメリカやロシア、アフリカを照射する衛星は名前が違っている。つまり会社としての資本が同じで、それぞれのエリアごとに衛星を打ち上げて全世界展開していると自分は理解しました。


その世界中のマーケットで、いまや7700チャンネル以上、350億以上の家庭と契約して直接配信 (DTH:Direct To Home)しているらしい。 


Family%20Watching%20TV_4[1].jpg


デジタル放送のあり方として、高画質化と多チャンネル化の2通りあるのですが、日本は完全に前者の高画質化。4K/8Kなんて騒いでいるのは日本だけです。ヨーロッパは多チャンネル化の方向なんだそうです。

でも多チャンネル化は日本の土壌に合いませんね。いまのBSを観てごらんなさい。テレビショッピングばかり。(笑)地上波が中心で、それを制作するだけで精いっぱいなんです。そんなたくさんコンテンツを制作するパワーもないし、予算もない。

当時なかったもので、いまあるサービスとしては、衛星インターネットというのがありますね。日本はGps光回線へまっしぐらですが、ヨーロッパではいまだに主流はADSLなんですよね。だからせいぜい20Mbps~30Mbps。うちのマンションと同じです。そういうナローバンド対策として、衛星のトランスポンダーを利用して衛星をインターネットの回線として使うとさくさくブローバンドですよ、という感じなのかもしれません。


自分がヨーロッパで従事していた時の草創期の業務は、DVB規格化の情報収集(WG)と、当時現地でやっていたのは、フランスのCanal+がASTRAを使って番組配信しているんだけど、そのCanal+がいち早くデジタル化をやった。デジタル衛星放送ですね。

いまは知らないが、当時のアナログのCanal+の番組は、エッチなエロい番組をやっていて、それにはスクランブルがかかっていて、それを観たさにデコーダが外付けするという・・・それもちょっと見えてそそるように、という感じです。

でもCanal+はいつも技術的に先をいくアグレッシブなテレビ局なんですよね。いつも時代の先取りをします。先日観たバルバラの映画でエンドロールで、Canal+の文字を見たとき、うわぁ懐かしい~と思いました。

一役かんでたんですね。

ドイツは、ケーブルテレビが主流な国なのですが、そこでケーブルで配信するデジタル放送を受信することと、当時ATMというプロトコルでVoDをやる、というそういうトライアルがありました。ドイツの通信会社 Alcatel社が企画してそのSTBをうちが受注する感じ。自分はこっちをやってました。コストが高く、あえなく企画中止になりましたが。(笑)


イギリスは、他の国と違って、地上波が主流な国。地上波のデジタル化をどこの国よりもいち早く進めたのがイギリス。それも大きなミッションだったね。

アナログ放送からいきなりデジタル放送に変わる訳ではなかった。
その間にインターミッションがあった。

それはヨーロッパでいえば、MAC方式という放送方式。信号を周波数多重ではなく、時間軸で多重しようという考え方。デジタルでないけど、いまのアナログよりもちょっといいな、という感じ。Y/C分離のような困難さがなくて性能がいい、という触れ込みだったけれど、PALが十分に綺麗だったので、あまりMACの有利というのがないと言われていた。

D2-MAC.jpg
                                                       
                                                       
ヨーロッパはふつうのSDTVでD2-MAC、HDTVでHD-MACというのを次世代テレビということで普及させたかった。この時間軸多重という考えは日本でもあって、NHKのMUSEがそうだった。

でも次世代はやっぱりデジタル放送が本筋ということで、MACもMUSEも短命に終わった。

自分は、このD2-MACに相当嵌ってしまいました。
PhilipsやITTがそのchipsetを開発していた。

ヨーロッパの放送デコードのICは、当たり前ですがヨーロッパのメーカーが作るものです。
日本じゃ作れません!

自分はビデオ事業部だったので、VHSやHi8のデッキの中に内蔵するASTRAの受信ボードと、D2-MACデコーダを内蔵させたかった。

D2-MACはあまり普及が進まなくて、熱心だったのは、フランスと北欧だった。
フランスはかなり熱心だった。Canal+はD2-MACで番組を流していたと記憶しています。
やっぱりフランスはちょっと他と違う道を歩みたがるという感じなんですよね。




その国の”放送”という文化を理解すれば、自然とその国の生活など、その国にいる感覚が味わえる。自分の実体験である。もちろんふだんテレビなんて見ないよ、という国の人も多いかもだけれど。

とにかく自分はこれでヨーロッパに嵌りました。
決して芸術や食事、建築じゃなかったです。ましてやクラシックでもなくコンサートホールでもない。


でもクラシックやコンサートホール通いをするようになって、とても豊かな人生を歩んでいるような気がしますね。いままでの自分の理系人生ではけっして得ることのできない豊かななにかがある。自分を高みに持って行っていただけるような・・・。

だから人生の後年にそういう趣味を持てるようになったのは幸いだったかも。もし逆だったら、違った人生だったかも。

理系的なことは若い時じゃないと厳しいから、自分の人生の順番でよかったと思います。






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