サントリーホール バックステージツアー [コンサートホール&オペラハウス]
サントリーホールは、1986年に開館以来ずっと首都圏のクラシックのコンサートホールの中心的存在として君臨してきた。サントリーホール以前は、東京文化会館がその役割を果たしていた、と思うが、自分が上京したのが、1987年なので、物心ついた頃からサントリーホールが常に首都圏のメッカのホールだった訳で、サントリーで育ってきた世代と言える。
とりわけ、カラヤン、佐治敬三氏、眞鍋圭子さん、とのコンビネーションで、その建設に至るまでの逸話は有名で自分もこの経緯の本はじつにたくさん読んだことがある。
最近、内装空間や音響のいい近代ホールがたくさん出来ているが、やはり都心での集客力、コンテンツの招聘力といい、やはりサントリーはいまだに常にトップに君臨しているコンサートホールだと思う。
柿落としの公演は、本来であれば、カラヤン&ベルリンフィルの予定であったが、カラヤンが体調不良で、小澤征爾さんが代行でベルリンフィルを振ったと記憶しています。シュトラウスの英雄の生涯でした。
それ以来、もう数えきれない位このホールでクラシックを聴いてきた。
そんなサントリーホールのバックステージツアーというなるものを体験してきた。
応募抽選方式で、結構競争率激しいらしいのだが、見事に当選。
普段一般人が入れない舞台裏やステージの上に乗れること、など、コンサート鑑賞のときでは得られない貴重な体験ができる。 なんと写真撮影可なのである。
当日、さっそくブルーローズ(小ホール)のほうで、まずサントリーホールの歴史などの映画を上映。
建設に至るまでのいろいろなドキュメント。建築の世界では当たり前ですが、やはり本物を作る前に、模型を作ってシュミレーションをやるところなど興味深かった。特にステージからの音がどのようにホール内に反射して反射音が形成されるかを見えるような形で、赤いレーザでやるんですね。
模型のステージの上から赤いレーザを発して、各壁でどのように反射するかを視覚的にチェックする訳です。面白いと思いました。
映画ではウィーンフィル&アバドで、このホールがいかに理想の響きが得られるかどうかの検証をしている、という映像が流れていました。若き頃のアバド。やっぱりサントリーホールはウィーンフィルと長年友好な関係にあって(眞鍋さんの影響が大きいのかな)、ずっとウィーンフィルは毎年のようにサントリーホールで来日公演をやってくれる。そんなところからも上映にはウィーンフィルが使われたのかな、と邪推したり。
2006年10月、サントリーホールがウィーン・フィルの本拠ウィーン楽友協会ホールとの提携記念プレートが1階席入口の壁面にあります。ウィーンにも同じものがあるそうです。
映画上映のあとは、いよいよバックステージツアー開始。
ホールの外の前にあるこのオブジェ。モニュメント「響」 。
なんだろう?と思っていたが、 このオブジェの断面図の底面がじつは「響」という字になっている、ということであった。説明員の方が持っている模型でそのからくりが分かった感じである。
そしてホワイエから。
ホール内部にはシャンパンの泡や麦の穂、ぶどうのデザインなどお酒にちなんだものがいくつもあります。ホワイエの絨毯は1枚物の海外からの特注品だそうです。なんでも絨毯ですから、人が歩いたりすると毛並みの方向がまばらになって、模様ができてしまいますが、これを開演前に全部一定方向に毛並みを揃えるように、ホールの係員の方が総動員で整えているのだそうです。驚くと同時にその細やかな心遣いには頭が下がります。
まず正面上部に見える壁画も模様。「響」をテーマにしたモザイク壁画なのである。日本を代表する抽象画の巨匠、故 宇治山哲平 画伯の最晩年の作品。
「世界一美しい響き」をテーマに設計されているので、ところどころにこの「響」というのがひとつのモチーフになっているのである。
壁画の両端や、大ホール2階廊下には、ガラス芸術家、三浦啓子氏による「律」と題されたステンドグラス。
ホワイエ(ロビー)の天井には、照明デザイナー・石井幹子さんデザインの光のシンフォニー「響」と題されたシャンデリアがある。
幅3,3m、奥行3,3m、高さ2,4mの30面体を覆っているのは、6630個のスワロフスキーのクリスタルガラス。このクルスタルガラスは、サントリーの蒸留されたアルコールの一滴一滴を表しているそうです。
2階のこの手すりにある模様もじつはビールの麦をイメージしたものなのです。
そして一階客席の入り口前の記念プレート
1番右端が、初代館長の佐治敬三さんのプレート。そして真ん中がカラヤンのプレート。このプレートには、カラヤンがこのホールではじめて指揮をした時の感想、佐治へのメッセージが刻まれているのだという。
どういうメッセージか、というと、
1988年5月、私は大いなる喜びをもって、この美しいサントリーホールで演奏いたしました。このホールは、多くの点で私の愛するベルリンフィルハーモニー・ホールを思い起こさせました。ぜひ再び、この水準の高いホールに来たいものだ、と思っております。わが友、佐治氏に心より深く感謝いたします。氏は、この建物によって日本の、そして世界の音楽生活に大きな経験をしました。
心をこめて。
1988年10月22日
ヘルベルト・フォン・カラヤン
このメッセージの内容が、このプレートに刻まれているのである。
つぎにいよいよ舞台裏のバックステージツアー。
舞台上手(つまりステージから観て右側)の奥から入って、そのままずっとステージ背後の通路を通って、舞台左手(ステージから観て左側)に向かうというツアー。
まず舞台上手(右側)に入る。
そこはすごいデッドな空間であった。入った瞬間すぐにわかる、という感じで、まったく響かない感じ。
言われてみればようやくわかったが、楽団員の椅子とか譜面台とか、そういえば上手(右側)の入り口から出していたよなーと思った。この上手の入り口の裏は、まさにこのように椅子、譜面台などがたくさん置かれているのだ。
ここからの入り口の奥に見える部屋は、楽団員の控室なのかな、とも思いました。(説明はなかった。)
この舞台上手の入り口からは、低弦演奏者などがステージへ出てくる入口なんですね。
つぎにステージ裏側の通路を歩く。
そこには、ラウンジがあって、このホールを訪れた指揮者のサインなどがびっしり貼られていた。(なぜか、そこにはさかなくんのサインやSMAP×SMAPの収録で訪れたSMAPのサインもあったりした。)
のどを潤すためのカウンター。
ドリンク自動販売機。
そしてロッカーやボードには公演の記念にと,みなさんがステッカーを貼ってあるのも発見。
ここを訪れたオケなどのステッカーが記念に貼られています。
最近で言えばNDRのステッカーが見えますね。
ここには、オケのみなさんの楽器を置くラック棚があったりします。
ヴァイオリンだとケースごと入れることができて、ふたを開けるくらいのスペースがあります。
そして舞台下手(左側)にやってきます。
ここが指揮者やソリストがステージに出ていく下手(左側)の出口。
そして、そのすぐ目の前に指揮者の控室(部屋A)とソリスト(またはコンサートマスター)の控室(部屋B)がある。
(手前は部屋Aで、その奥のほうが部屋B)
これはこのホールのアドバイザーのカラヤンのアドバイスだそうで、緊張&気を引き締めて控室から出るときにステージまでが長いと、緊張の糸が切れるので最短の距離(11歩程度)にする、ということにならってこういう設計になっているのだそう。
中も拝見しました。
指揮者の控室(部屋A)。
床が赤い絨毯が敷き詰められているデッドな空間。
これはソリストの部屋にも言えますが、必ず自分の全体のシルエットが見れるような大鏡があります。
ソリストの控室(部屋B)
床がつるつる板材の反射系でできていて、アップライトピアノが置いてあって、ヴァイオリンでもいえるが、この控室でチューニング、ウォーミングアップすることもあって、やはりある程度音響が考えられているんですね。
トイレやユニットバスもあります。(もちろん指揮者の部屋も同じようなものがあります。)
次に地下に降りていきます。
このシャッターの奥には、いわゆるトラックで運ばれたオケの楽器群を運搬してホールに入れ込む玄関口のところ。
そしてピアノ格納部屋に到着。3台くらいのピアノがありました。
このホールで使うのは、メインでスタンウエイのハンブルク製。スタインウエイはハンブルクとニューヨークと2つの工場があるそうですが、ここはハンブルク製を使っているとのこと。
ピアノの上響板がテカテカだとP席の人や、オケ演奏者にとって照明が反射して眩しいので艶消しの仕様にしているのだそうです。
このピアノ格納庫は、湿度50%,温度23.5度を保ち,ピアノがベストな状態にキープしているとのこと。(ピアノはとてもセンスティヴですからね。)
エレベーターでステージ上に移動するようになっている。
ちょうどベルリンフィルハーモニーのように、ステージの前方のところに四角いエリアがあって、そこが地下に潜って下がっていて、ピアノを乗せて、また上がってくるという感じでしょうか。やはりここもベルリンフィルハーモニーの設計と同じですね。
地下の廊下に展示されている写真の作品があります。「サントリーホール 2006 マーティン・リープシャー」。
なんと写真に写っている人はすべてリープシャー本人!本人がひとつづつ椅子をずらして座っていったのを、1枚1枚ぜんぶ撮影して、合成したとのこと。 この中にたった1人だけ女性が写っていて、この女性がカメラマンだそうである。ボクは見つけることができました。
サントリーホールの名物写真なのですね。
つぎにエレベータで1階に戻り、いよいよ舞台の上に上がることに!
ステージ上から客席を俯瞰する。
客席数は2,006席(1階:858席、2階:1,148席)。なんと2階席のほうが多いんですね。
ステージの床は北米産の木材のこだわり。
舞台床板の無数の小さな穴は、チェロやコントラバスのエンドピンの穴。奏者は自分のエンドピンの位置がわかるそうです。床板は10年に一度交換します。
そしてパイプオルガン。
国内最大級の規模のオルガンで、オーストリアのリーガー社のオルガン。
ストップ数(音色を選ぶ規模のこと。このストップ数でオルガンの規模が推測できる。)74,パイプ数5898本。
大ホール天井の照明は、葡萄の葉がデザインされています。ガラスはHOYA製。
天井から吊るされている音響板がいくつもあります。これはステージから天井上空に上がる音をステージ・客席に返す役割で、その演奏規模(オケなのか室内楽なのか、など)によって、その吊るす高さを調整できるようになっています。
ホール形状は、ワインヤード。でもいまはワインヤードと言う呼び方ではなくて、ヴィンヤードって言うんですね。知らなかった.....
座席もけっこう拘りがあります。
1階席と2階席では、椅子の形が違うのである。
2階席のほうが、背もたれが高くできている、すなわちハイバックなのだ。
1階座席
2階座席
2階座席をハイバックにしているのは、ステージからの直接音を、この背もたれの部分で反射させ、客の耳に反射音を届ける意味合いだそうである。
なるほど.......
ふだん自分が経験するオーディオルームでの椅子は絶対ローバック(背もたれが低い)が基本である。
ハイバックはご法度。
それは2chステレオであれば、部屋の後方壁面からの反射音が、そしてサラウンド、マルチチャンネルであれば、リアSPからの音がハイバックの椅子だと背もたれに遮られて聴こえないからである。
昔、高級な椅子でハイバックな椅子を購入したが、リアからの音が背もたれに遮られて、全然聴こえなくて、もう即座に却下NG。
1日もしないで廃品処理した。
それ以来オーディオルームの椅子はソファーなどのローバックが基本であることを身に染みた。自分のようにマルチチャンネル、サラウンドを楽しむ場合は、リアからの音を遮るのは致命傷。
そういう経験があったので、この2階席のハイバックである理由は興味深かった。
ハイバックだとホールの壁からの反射音が後ろから聴こえないような気がするのだが、直接音から背もたれで直接反射を作るという意味なのですね。面白いと思いました。
そして最後は、ステージ上で、みんなで合唱をする。
これが予想外に感動してしまった。
この大容積の、しかも空席のホールで、素人なのに、みんなで合唱するだけで、じつに綺麗なハーモニーとして、ホール内を響き渡るのである。なんか、あまりに美しいのでスゴイ感動!
これですべて終了。
サントリーホールのバックステージを体験できて一生の思い出です。
やはり自分がクラシック人生で、ずっとサントリーホールで育ってきた人間にとっていい思い出でした。
上京して28年目でようやく叶いました。
このサントリーホールのバックステージツアー、毎月1回で、抽選方式で応募参加できます。
サントリーホールのHPから申し込めます。
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