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第1ヴァイオリンはどこから聴こえるべきなのか? [オーディオ]

いまから6年前の2011年11月のラトル&ベルリンフィルの来日公演、サントリーホールでマーラー9番を演奏したときのこと。当時のラトルが使っていた対向配置に、ひとつの疑問があった。


普通の対向配置って、1st Vn→Vc(チェロ)→Va(ヴィオラ)→2nd Vnで、ステージ左奥にコントラバスだ。


ところがラトル・ベルリンフィルのヴァイオリンの対向配置って、左から第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンでステージ右奥にコントラバス群となっていて、とてもユニークな印象を受けた。


当時調べてみたら、ラトルのこの対向配置というのは、ベルリオーズの「管弦楽法」に載っている方法ということがネットに記載されていた。


それぞれの配置の特徴を書くと(あるヴィオラ奏者目線)、


●Vn1 Vn2 Va Vc
  音の高さの順なのでVn2とVaなど隣り同士の連携がとりやすい。
●Vn1 Vn2 Vc Va
  Vaの音が客席によく聞こえるとか。Va目立つけどVn2との連携が難しい。
●Vn1 Vc Va Vn2
  いわゆる対向配置。ステレオ効果があるけどVn1とVn2の音量差が気になる。
●Vn1 Va Vc Vn2
  ベルリオーズの「管弦楽法」に載ってるらしい。正直やりづらかった。


こんな感じだった。


奏者が「正直やりづらかった」(笑)と言っているくらいだから、よっぽど珍しい配置なんだろう。

6年前の友人とのやりとりだけど、鮮明に記憶に残っていて、昨日ふっとこのことを思い出し、このラトルの対向配置のことをもっと深く調べて、その効果を知りたい。そしてついでに、オーケストラの配置について整理してみたいと思った。情報源はネットです。


●アメリカ型配置


アメリカ型配置.jpg


二次大戦後、アメリカのストコフスキーという指揮者がはじめた配置で、現在主流となっている、
左から順に第1ヴァイオリン→第2ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロという配置。

音響の悪いホールで演奏せざるを得なかったために響きが良くなる方法を研究した結果だと言われている。


ステージ左から高音域→低音域の順番で並んでいる配置。

音域が近い楽器同士を隣り合わせにした方が、弦楽器全体で聴いた時の響きは良くなる。
このことは特に、編成の大きい曲や、大きなホールで演奏する時に重要になる。


なので、こう配置することでコンサートホールでの響きが豊潤になるという利点とともに、1950年代頃から一般的に行われるようになったレコードのステレオ録音にも適しているとみなされ、20世紀後半には世界中のオーケストラに広まっていった。


また奏者は隣の奏者の音をじかに聴きながら演奏している訳だが、自分の両隣の音は、自分の楽器の音域に近い音のため、連携を取りやすいというメリットがある。


この配置はチェロが外側に来ることにより、より重低音サウンドが期待でき、音の輪郭がはっきりするが、ヴィオラが内側に入ることにより、中音域が聴こえにくくなるというデメリットがある。



●ドイツ型配置


ドイツ型配置.jpg




アメリカ型配置に対して、ヴィオラとチェロを入れ替えた配置で第1ヴァイオリン→第2ヴァイオリン→チェロ→ヴィオラという配置。アメリカ型の改良バージョン。


ヴィオラは、ヴァイオリンとチェロのちょうど間くらいの音域で、その主役割は主旋律を歌う楽器に対しての内声的な役割。またヴィオラは楽器特有の事情により響きが出にくい構造で(音域的には楽器をもっと大きくしないと充分な響きが出ないのに、それだと奏者が持てなくなるため、本来あるべきサイズより小さいらしい)そのヴィオラの音が良く聴こえるための配置。


この配置は高音域・中音域・低音域の各声部がなめらかに溶け込み、バランスの良い音響効果を得ることができる。だが、演奏によっては、音の輪郭がいまいちはっきりしないというデメリットもある。




●古典配置(対向配置)


古典配置.jpg




客席から見て、左側から第1ヴァイオリン→チェロ→ヴィオラ→第2ヴァイオリンという順に配置される。この配置は、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがお互い向かい合って配置されることから、対向配置とも言われる。


対向配置の1番の目的は、ベートーヴェン以前の古典派作品では第2ヴァイオリンが内声部や伴奏に徹するよりも、第1ヴァイオリンと対等の立場の掛け合いで主旋律を演奏するケースも多いことから、そのやり取りをステレオ効果のごとく聴覚・視覚の両面で明快に表現しようという意味合いにある。


このように「作曲当時と同じ」であることを強く意識する場合には対向配置(古典配置)を取る。


この配置のメリットは、ずばり高音域・中音域・低音域の各声部がくっきり聴こえるという点である。各パートの音がよく分離してクリアに聴こえる。


逆にデメリットは、弦楽器全体の響きとしては弱くなる。理由は、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、第2ヴァイオリンとヴィオラが離れてしまうため。


アメリカ型&ドイツ型のように隣接した楽器がお互い音域が近い者同士だと、それが連携すると全体として響きが大きく豊潤になるメリットはあるのだけれど、輪郭がクッキリしないというデメリットがある。


逆に対向配置で、隣接した楽器がお互い音域が離れている者同士なので、各声部が分離してクリアに聴こえるのだが、弦全体としての響きが弱くなるというデメリットがある。
 

この対向配置の、もうひとつの問題点は、技術的に相当のテクニックを奏者に要求すること。


普段第1ヴァイオリンの横で弾いている第2ヴァイオリンが離れた位置に配置されるため、非常に高度なアンサンブルの技術が必要になる。


第2ヴァイオリンというのは基本的に第1ヴァイオリンのメロディーを補強する役割を受け持つので、第1ヴァイオリンと離れてしまうと非常に演奏しづらい。だから、この配置は高度な演奏テックニックをもったプロのオーケストラでもないかぎり、いかなる理由があろうともやるべきではないらしい。


アマオケがこの配置でやっても、この配置の特性を生かせないのはもちろん、アンサンブルの崩壊をまねく可能性も強い。そこまでして、奏者に強いる負担が大きい配置なのだ。



●ラトルの対向配置



ラトルの対向配置.jpg


これが問題のラトルがよく使っている対向配置である。
ふつうの対向配置と違うのは、ヴィオラとチェロが入れ替わっていること。

これについては、基本の効果は、たぶん普通の対向配置と同じだと思うのだが、ヴィオラとチェロを入れ替えるところの効果は、調べたのだがわからなかった。このようなマイナーな配置は載っていなかった。(笑)


以前調べたときは、ベルリオーズが書いた「管弦楽法(オーケストレーション)」の中に記載されている配置という記事があったのだが、それさえも、現在ではなかった。もう6年前のことだからなぁ。


残念!6年越しのミステリー解決にはならなかった。


でも当時のラトルが、このような配置を使っていたことは確かなのだが、現在では、ふつうの対向配置のようだし(昨年のベートーヴェン交響曲全曲演奏会でもそうだった。)。


現在オーケストラの配置ということで、挙げられるのは、アメリカ式、ドイツ式、そして古典配置(対向配置)のこの3つだけと言ってよさそうだ。


それを指揮者が決めるのか、オケが決めるのか、他の誰かが決めるのかは指揮者によって、オケによって、演奏会によって事情が違うのでケースバイケースなのだと思う。



ラトルの対向配置②.jpg




この配置問題をクリアした上で、敢えて考えたいのは、オーケストラ・サウンドをオーディオで再生する場合。


2chで録音が造られているもの、2chステレオで達成できるもの、解決できる課題は2chシステムの方で追及していきたいし、一方で、2chステレオの再生に対する疑問や問題点を解決する新たな手法としてサラウンドの録音・再生に取り組んでいるのである。


確かにサラウンドは、システムのユーザへの負担、部屋のエアボリュームの問題もあって、いまいちユーザへの敷居が高く、普及がニッチ市場であることは間違いないのだが、でも最近は3Dサラウンドという3次元立体音響のフォーマットも出てきて、コンサートホールでのオーケストラサウンドの空間の切り取り方に革命的な変化をもたらす可能性も出てきていることは否めない。


そのひとつにこんなことがある。


それは、オーケストラのストリングス(弦楽器セクション)の鳴り方。

自分がオーディオに目覚めた頃最初に聴いたオーケストラ再生の印象は、第1ヴァイオリンが左から チェロ・コントラバスが右から聴こえて、センター奥から 木管楽器やティンパニーが聴き手に向かって響き渡ってくるように感じられた。


ステレオって凄え!これが立体音響かと感動した。


しかし その後、時代が経過、経験が豊富になるにつれて、そうしたいわゆる「ステレオ効果」に対する疑問が生まれてきた。先述のオーケストラ配置や、実際にオーケストラを見るとわかるが、第1ヴァイオリンは、ステージの左端から センターに陣取る指揮者のすぐ横までの拡がりがある。


音のエネルギー感にしても ストリングス(弦楽セクション)のエネルギーの核は、指揮者がいるいないにかかわらずセンターにあって、そうしたストリングスの凝縮感みたいなものがある。


それをきちんと録音されたものを聴いてみたいと考えるようになった。


ベートーヴェンからブラームス・チャイコフスキーに至る交響曲を美味しく味わうためには ストリングスをちゃんと鳴らすということが一番の肝だと今でも考えている。だから一聴して解像度が高く音色が魅力的なスピーカーであってもオーケストラのストリングス・セクションがきっちり描けないスピーカーを自分は受け入れられない。


センターにぐっと凝縮感があって そこからエネルギーが炸裂・拡散していくようなストリングスを録音・再生すること、そんな課題を持ってオーディオに取り組んでいるといくつかわかったことがあった。


先ずいろいろなオーケストラの録音を聴いていると、センターまで厚みのあるように弦楽セクションを捉えることは、別に難しいことではないのだが、そうすると 今度は奥行きも出しにくくなってしまい、全体に拡がりの無いモノーラルっぽい、いわゆる分離の悪いオーケストラ録音となる。


センター付近で密集する弦楽器のパワーを出そうとすると、奥にいる木管楽器が埋もれてしまうというバランスの悪さはいかんともしがたいものがある。


されど補助マイクで 木管楽器をレベルアップすれば 音場がどんどん平面的になってしまう。

結局 弦楽器セクションのサウンドは、センターを薄くして 左右に開き木管楽器を 補助マイクのレベルをあまり上げずして浮かび上がらせる方が聴いていて気持ちが良いのだ。


いろいろなオーケストラ録音を再生するとメジャー・レーベルの優秀なオーケストラ録音というのは およそ そういう風に出来ているということに気がついた。



そこには、2chステレオによるオーケストラ録音・再生の約束事というか限界があるのだ。
自分が、サラウンドの録音・再生に求めているのは、それを超えたものだ。


「第1ヴァイオリンが、ステージの左端からセンターまで席を埋め、第2バイオリンやヴィオラが 音楽を内から高揚させるように内声をきっちり表現していて、かつチェロ・バスの低音弦にも ちゃんと拡がりと音としてのボディー感がある。まず、そんなストリングス・セクションを眼前に再現したい。それでいて 奥の木管楽器から金管・打楽器に至るまでの遠近感・立体感が曇りなく見渡せる。」


自分が、オーケストラの生演奏、そしてオーディオ再生を聴くときに、いつも理想とする空間の描き方、はこんなイメージ。


3Dサラウンドが、実際のオーケストラ録音に実用化され始めたら、どんな革命、聴こえ方の革新が生まれるであろうか?

ホール空間の切り取り方は、まさに実際、自分がホールにいるかのような感覚を家庭内で再現することが出来るであろうし、オーケストラの聴こえ方そのものに、生演奏のリアリティが増すに違いない。


2次元平面で解決しようと思っていたことが、奥行き、そして高さというディメンジョンも増えて表現力に迫真がでる。


また、それこそ先に書いた様々なオーケストラ配置による様々な聴こえ方の違いも、その通りに家庭内でも再現できるに違いない。


いままで書いてきたようなことは、2chステレオ時代だから、苦労してきたことであって、録音にしろ、再生にしろ、チャンネル数が増えるということは、そういうことを一気にブレークスルーして解決してくれるものという確信みたいなものが自分の中にはあるのだ。






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ヴァイオリン弾きのゴーシュ

丁度4年前、世界中のアマチュアが集まって、ラトルの在任最後にフィルハーモニーでブラームスの一番を弾く企画に参加したものです。
デジタルコンサートホールの無料映像にもなっているので、見られますが、このときもおっしゃっているラトルの配置でした。何の説明もなく、リハに行ったら当然の如くその配置になっていて。

私はラトルが大好きで、昔からこの配置をよく見てるので、全く違和感無かったんですが、確かに言われてみると彼くらいしかやってないかもしれませんね。彼に直接聞けばよかったな。

ちなみに彼は対向配置のセカンドヴァイオリンに相当弾けと言って、弾かせます。指揮中もそっちみてることが結構多い。アマデウスカルテットだかの言葉らしいですが、ファーストはワインのラベル、チェロは瓶、セカンドとヴィオラこそが、ワインそのものだ!とリハで言ってました。(笑)
by ヴァイオリン弾きのゴーシュ (2022-05-23 09:07) 

ノンノン

ヴァイオリン弾きのゴーシュさま、コメントありがとうございました。貴重なご体験ありがとうございます。素晴らしいですね!羨ましいい限りです。私もラトルが大好きで、ベルリンフィル一筋の人生なのですが、カラヤン、アバドはどちらかというと、歴史的、過去のマエストロで映像で楽しむという感覚があり、ラトルこそ、自分のリアルタイムに体験している巨匠ということで、同世代を生きてきたという一番親しみがあります。そのとき、自分のずっと謎だったのが、このラトルがよく使う配置なのでした。なんか、不思議だな~とずっと思っていて。。。ちょうど日記にしてみた、という感じです。

ファーストはワインのラベル、チェロは瓶、セカンドとヴィオラこそが、ワインそのものだ!

いやぁ、これは素晴らしい言葉ですね~。(笑)オーケストラ(そしてそのサウンド)をこのように比喩するなんて、ちょっと驚きました。セカンドを重視する、セカンドに弾かせる・・・しかもラトルがリハでよく言っていたこととは!貴重な体験ありがとうございます。ちょっと自分なりに肉付けして、さらにアマデウスカルテットのことも調べて、ちょっと自分なりにストーリーをつくって、この言葉を紹介する日記を書いてみたいと思いました。ラトルがリハでよく言っていた言葉として。(笑)

貴重な体験ありがとうございました。
by ノンノン (2022-05-29 14:20) 

ヴァイオリン弾きのゴーシュ

返信くださっていたのを読むのが遅くなりました。

そうですね、ラトルのリハは、すごく面白かったです。ご存知のように彼はよく喋るので。(笑)彼とはその前にも、何度も話をしたことが有り、基本的にはイギリス英語で分かりにくいんですが、世界中から参加者が来ていたことも有り、出来るだけ分かりやすい英語で喋ってましたが。

最後のリハが終わって、本番前に彼はなんと"Make mistakes!!"って言うんですよ!!それだけ守りに入らず、攻めろってことですけども。その言葉にたがわず、ラトルの指揮も本番ではリハとは違うところも多く、オケもなかなか攻めた演奏をしていると思います。

私はバーミンガムとの最後のシーズンの本当に最後の最後、1998年春に日本ツアーに来た時のマーラーの7番を聴いて、本当に心底ぶったまげまして、それ以来の大ファンでして。ベルリンやらNYやらあちこちでCDにもなった演奏も多数聴きまわりましたが、正直ベルリンフィルとの仕事はあんまりいい印象を持ってないんですよね。バーミンガムとかウィーンとの演奏の方が好きで。そういう意味で今度のバイエルンとの組み合わせはすごく期待してます。

思えば最初のマーラーの7番から丁度20年で共演までこぎつけ、汗が飛んでくるような間近で演奏でき、感無量でした。FBで通知され、その年の年始から10日間限定の募集で、世界から2000人以上応募が有って、選んだベルリンフィルの団員も大変だったようですが。

その後LSOとの公演の際にも少し喋ったのですが、またああいうのやってよ、と言ったら、うまく行ったからまたやりたい、とは言ってましたが、その後このコロナです。ベルリンフィル自身は同企画を昨シーズン本来はペトレンコの指揮で予定してましたが、中止。早く平常に戻ってまた同じような演奏会が開かれるようになって、願わくはまた参加したいものです。
by ヴァイオリン弾きのゴーシュ (2022-08-26 16:08) 

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