小林悟朗邸 追悼オフ会 [オーディオ]
先日の日曜日、2015年8月30日(日)に調布にある小林悟朗さんのオーディオルームを訪問した。
詳しくは書けないが、このオーディオルームは近将来、解体の方向で進めており、その前に最後のお別れの追悼オフ会をやろうということになった。
小林家の親族の方々からの本当に暖かい心遣いで、エム5さんをはじめ、ほんの少人数の有志のみ、でささやかに見送ろうということで、私も末席を汚す形ではあったが、ありがたくも参加させていただく運びになった。
悟朗さんのご逝去が2012年であるから、もう3年は経過する。じつは弟さんもオーディオマニアで、2か月に1回は、ここに来て、火入れをして音楽を数時間ではあるけれど流してウォーミングアップしていたのだそうだ。
本当に頭が下がるのは、自分もそうだけれど、他人の組んだシステムを理解して、動かすことがいかに大変なことか、悟朗さんのシステムをしっかり理解されて動かされていたのには、本当に弟さんには頭が下がる思いで我々も感謝一杯であった。
今回の追悼オフ会では、弟さんがハンドリングして音を聴いてもらうという段取りで進む予定であった。
小林家に到着したと同時に、お母様、奥様、弟さんに出迎えていただき、丁寧なご挨拶となった。
じつに3年振りに訪問する小林悟朗邸オーディオルーム。
面影はまったく変わっていなかった。
このリアの部分のところの左側に悟朗さんの仏壇が置かれていた。(以前訪問したときはここには紐ものの機材があったような気がする。)悟朗さんがいる場所としては、このオーディオルームが1番居心地がよいはずで最適な場所だと思った。
さっそく我々は、御怫前を治め、各人ご線香をあげて手を合わせた。
悟朗さんシステムは、2chはGOTOシステムで、サラウンド(SACD5.0と映画5.1)はB&Wを使う、というように二つのシステムを使い分けるやり方をしていた。
生前語っていたのは、B&Wというのは、いわゆる最新技術のスピーカーで、もう出来のいい息子みたいなもの、何をかけてもそれなりにきちんとしっかり鳴ってくれる、いわゆる手がかからない心配がいらない子供たち。それに対して、GOTOというのは、出来の悪い息子みたいなもので、なにからなにまで自分がきちんと面倒を見てあげないと、という気になってしまう、だからこそ余計に可愛く愛おしい存在なのだ、と仰っていた。
まずは、そのGOTOから聴かせてもらう。GOTOを聴く場合は、前にあるフロントL,RのB&W800Dが邪魔になるので、B&WのSPの底面にはキャスターがついていてコロコロ転がせるようになっていて、B&Wを横にどかして前を空けるということをするのだが、今回は大変なので、それはなし。
GOTOの各ユニット、ドライバにYL音響のホーンで組み込まれた自作SP。マルチアンプで駆動する。
まさにGOTOのユニットで作成されたこの自作スピーカーはオーディオマニア歴40年以上の中で、悟朗さんの分身みたいな存在である。B&Wはある程度どんなソフトでも鳴ってしまうが、このGOTOに関しては、悟朗さんは他人の持ち込みソフトをかけることを極端に嫌った。自分の分身のように育ててきたスピーカーから、自分が耐えられないような音が出てくるのは、絶対許されないことだったから。
だからオフ会をやるときもGOTOを聴かせるときは、ずっと準備を丹念にして鳴らし込んでからという用意周到さで、なかなか頻繁には披露してくれなかった。
自分は以前訪問させていただいたとき、GOTOのほうは準備していないからこの次、ということで聴けなかった。そのまま亡くなられたので、生涯このGOTOの音を聴けないのが一生の悔いが残るという想いであった。
今回参加させていただけたのも、このような想いを日記に頻繁に書いていたので(笑)、そこをご配慮していただいたようで、本当に恐縮と言うか感謝でいっぱいであります。
じつは自分はこういうホーン型のSPを聴いた経験がほとんどなく、イメージが湧かなかった。最初の曲は、カヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲。
最初の印象......
ホーン型というのはもっと丸みのある角の取れた柔らかい音だと思っていたのだが、全く予想外で、結構鋭利が効いたシャープな輪郭の音のように思えた。美音の典型的な感じ。音の出方自体は完璧な音像型で、フォーカスがビシッと合っていて締まっている感じの音であった。
弟さんは現代SPに比べると古風な音ですよ、と仰っていたし、他の人からもそんなに感動するほどでもないよ、と聴いていたのだが、なになに、とんでもない、自分には素晴らしい音色のように思えた。
自分の夢が叶った瞬間であった。
自分の持ち込みディスクをかけさせてもらった。生前GOTOはピアノの音色を奏でさせたらピカイチという話を伺っていたので、オーディオオフ会でのピアノ演奏では定番中の定番のこれをかけさせてもらった。
I Love a Piano
今井美樹
http://goo.gl/frdiys
仲間から、「いやぁこれは悟朗さんだったら、絶対GOTOではかけさせないソフトだと思うよ(笑)」、と言われて冷や汗。(笑)
でも出てきた音は驚き。素晴らしく鮮度が高くて、今井美樹さんの声が真ん中上空に見事に定位している。注目のピアノの音色も一音一音に質量感があって、沈み込むように深い、響きの余韻の美しさ、その音色はこの世のものとは思えない極上のものであった。
特にこのディスクの2曲目の「年下の水夫」は、このアルバムの中で最高の曲で、これが鳴った時、「そういえば、この曲のピアノのテイクだけ小曽根真さんがやっているんだよね。悟朗さん、小曽根さんとも仕事やっていたなぁ。」とみんな感慨深げになった。
自分もいまでも土曜9時からのJ-Waveの小曽根さん番組を聴いているので(1週間に1回Jazzに接する時間としてそう決めています。)、ますますつながっているなぁ、としみじみ。
なんか自分のGOTOに対するいままでの夢が一気に叶ったという感じ。
結局GOTOはこの2曲のみで、もっともっと聴きたかったところでもあるが、とにかく満足で幸せいっぱいであった。
ここから、最後までは、ひたすらB&WでのSACDサラウンドの世界に埋没。
前方に広がるステージ感がぐっと一気に水平方向に広がる感じで、いままで2chで聴いていただけに情報量、サウンドステージの差はあまりに歴然だ。
とにかく次々にかける曲の鳴ること、鳴ること!
5本のSPからの音がものの見事に綺麗に繋がってきちんと位相も揃っているそのお化けサウンドは、まさにサラウンドの真骨頂ともいえるものであった。
不思議だったのは、弟さんが定期的に火を入れて鳴らしていたとはいえ、丸々3年間休眠していた機器とは思えない鳴りっぷりで、あまりに素晴らしいサウンドなので、おそらく天国の悟朗さんが降りてきて我々と一緒に楽しんでいるんだよ!とみんなでささやきあい、そのときはさすがに胸が熱くなってグッと来るものがあった。
最後の追悼オフ会とは言え、決してみんな湿っぽくなる感じは全くなく、常に笑いとおしゃべりで盛り上がった楽しいオフ会であった。天国の悟朗さんもそのほうがヨシとしてくれるだろう。
小林家の親族の方々も弟さんはもちろんのこと、なんと奥様もほとんどフルタイムでオフ会にずっと参加していっしょにお喋り含めて音楽を楽しまれていた。お母様も休憩時間などときどきであるが、部屋に入ってきて、いろいろお菓子などの差し入れの心遣いなど本当に恐縮でした。本当に最後にふさわしい楽しい時間でした。
今後、この部屋の解体ということで、この場でいろいろ話し合った。今後もそのやり方含めて段取りを決めていくことになると思います。
悟朗さんの財産でもあるソフト群。
この悟朗さんのオーディオルームは、我々オーディオ仲間だけのための空間ではなかった。
ステレオサウンド誌で悟朗さんが持っていた連載である「音のたまもの」では、このオーディオルームにクラシック問わず、いろいろなジャンルの演奏家はじめ、いろいろな方をこの部屋に呼んで、オーディオで音楽をかけなからそれを聴きながらゲストと対談するという連載で、自分もこの連載を読みたいがためにステサンを定期購読していたようなものだった。
いま自分が持っているバックナンバーをちょいと調べてみた。
小山実稚恵さんとのこの部屋での対談。小山さんがGOTOのSPを覗き込むようにして興味を持っているのがうれしい。そして武満さんのiBachピアノを弾く小山さん。
このときの連載の文章の中にGOTOがピアノの音色を奏でることでは天下一品のSPであること、清水和音さんも練習室にGOTOを持っていることを悟朗さんが発言していて、自分はそれを発見しただけなのである。(笑)
たくさんのゲストを呼んだこの空間がなくなってしまうのは、感慨深いものがある。
小林悟朗さんは稀有な逸材、その人柄も含めた逸材の人生にほんの少しでも関わりが持てたことを誇りに思いました。
今回このような自分の人生にとって一生の記念に残る瞬間に立ち会えるチャンスをいただき、小林家のご親族の方々、そしてエム5さんには本当に感謝する次第です。
ありがとうございました。
このところ、ノンノンさんの小林悟朗さにん関するブログを過去のものも含めて、何度も読み直しています。私もクラシック音楽とオーディオが大好きで長年やってきましたが、残念ながらノンノンさんが経験されたような出会いはありませんでした。自宅でオフ会を2度ほどやりましたが、いずれの訪問者も競争心を露わにしたようなコメントしか残さなかったため、このような会は金輪際やるものかと、つまらぬ決心をした程です。そういう意味からもノンノンさんを大変羨ましく思います。また、ここまで悟朗さんと接点を持てたのも、ノンノンさんのお人柄によるものではなかったのかと推察致します。今後も楽しく読ませていただきます。
by ま~さん (2015-09-27 09:26)
ま~さん、ありがとうございます。やはり私の経験からすると、オーディオオフ会というのは、拙宅にお呼びする場合は、気心が知れた仲間に限定したほうがよい、と思います。お互いをよく知らない人間、得体のしれない人間を呼んで、あとで日記でボロクソに書かれたりとか、そういう苦い経験をした自分の仲間をたくさん知っていますので、尚更その感があります。オーディオオフ会というのは、ひとつのマナーがあると思うのです。その人の築き上げてきたサウンドをけなすというのは、その人の人格、人間性そのものをけなすことと同じですから、絶対してはいけないことだと思うのです。中には相当達の悪い輩もいまして、表向きの日記では褒めあげておきながら、陰でボロクソに悪口を言うという二枚舌の人です。もうこういう人は筆の人格に欠陥があると言っても過言ではないですね。だから自分が信頼のおける人だけを呼び、その人は親身になって、いいサウンドにするにはこうしたほうがいいよ、という建設的な意見をしてくれる仲間に出会えることが宝ですね。
確かに小林悟朗さんのような方に出会えたのは本当に自分にとって神様が与えてくれた宝なのかもしれません。そうそうすべての人がこのような出会いを経験できるものでもないかもしれません。そういう意味で自分は本当に幸せ者ですね。
でもそういう出会いがなくても、たかが趣味、されど趣味で、趣味を持つことは、人生を豊かにしてくれると思います。
私のような拙ブログでそのようなお手伝いができるのなら、本当に光栄だと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。
by ノンノン (2015-09-28 23:02)