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ウィーン楽友協会の音響の秘密。 [コンサートホール&オペラハウス]

元旦の昨日、ウィーンフィルのニュー・イヤー・コンサートを鑑賞した。
毎年お決まりの儀式で、ややマンネリというか新鮮味がないことも確か。

でも年末年始でマンションに誰もいないという電源事情の良さからなのか、じつに素晴らしいサウンドで鳴って驚いた。自分の経験から、TVの映像機器を通した音は、どうしても本場のホールで聴いたときの音と比べて、信じられないくらい劣化するというか、あの感動を蘇らせることは不可能。

でも、それを差し引いたとしても、じつに素晴らしかった。

今年はサントリーホールが開幕30周年記念ということで、華々しいコンサート、催しごとが計画されている。サントリーと提携関係にあるウィーンも必然と関係してきて、今年は結構ウィーン色が強い年なのでは、と勝手に推測している。秋にはウィーンフィルが来日してくれて、そこで小澤さんが振るという嬉しいサプライズもある。

自分も今年はウィーンに行く予定であったが、いろいろ事情があって、どうするか悩んでいるところである。やっぱり物事にはタイミングというものがあって、旬な時に行くのが鮮度があっていいですね。

日本の楽団さんやソリストの演奏家の方々も今年はウィーン楽友協会で演奏されることも多いようである。そこで、この正月休みのあり余る時間を利用して、このホールについて、いままで自分が文献を読んでいろいろ勉強してきた内容、国内SNSでオーディオ仲間と議論しつくしてきた内容を整理してまとめてみたい、と思い、それを自分からのオマージュ、そして自分としてのふんぎりという形で日記にしてみたいと思ったのである。

まさに理論武装の頭でっかち状態(笑)で、実際自分の耳で聴いたときは、またそれプラスアルファということで印象が追加されるのだろう。

(ウィーンフィルのFB公式ページから拝借しております。)

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ウィーン楽友協会(ムジークフェライン)に関しては、建築音響学(建物内で音の伝搬について取り扱う学問)の中では、長らく世界最高の音響と称されていて、それはレオ・L・ベネラクという音響学者が著した書籍にそのからくり理論が書いてある。ベネラク氏の著書は、コンサートホール&オペラハウスの音響学を学んでいく上では、いわゆるバイブルの本で、そこを志す人であるならば、誰もが知っている、そして読んでいる書籍なのだ。

ウィーン楽友協会は、いわゆるシューボックスという形状スタイルで、直方体の形状で、ステージ上の発音体が360度無指向に発する音を、ステージ左右側方の壁、そしてステージ背面の壁、そして天井、床などですぐに反射して、客席に音を返すようにできている。(初期反射音、1次反射)

さらに直方体なので、両側の壁、天井、床などがそれぞれ平行面で存在するので、反射を何回も繰り返し、響きが非常に豊かに聴こえる。(2次,3次などの高次反射)

さらにこのホールは木部むき出しの椅子もその反射に一役買っていて、まさに響きに囲まれている感覚に陥るのは、そういう構造そのものに理由がある。シューボックスの音響は音が濃い、というのはそういうところが1番の大きな要因ですね。

家庭用のオーディオルーム(専用リスニングルーム)は、やはりこのシューボックスのような直方体が基本。そういった意味で、オーディオルームの室内音響理論の原点にあるのが、このシューボックスのコンサートホールなのだと思う。

でも直方体ならではの問題点、フラッタエコー(泣き竜現象)、定在波の問題などもいろいろあって、一長一短ですね。

ウィーン楽友協会は、サイズ的に縦長(横幅たったの19m)のホールで、容積的には1680人の収容人数で狭い部類に入る。ステージ上からの直接音に対して、壁からの反射音に時間差が小さいことは、このホールの横幅の狭さが要因だと思われる。直接音に対して、反射音の時間差が大きいと(つまり分離しているというか、時間的に十分すぎるくらい音が遅れてくると)、いわゆるエコーという感じで、返って、人の耳には煩わしく聴こえてしまう。あと反射音のエネルギー自体も観客席に届くまでに減衰してしまいますね。

人間の耳に快感で聴こえるのは、直接音と反射音の時間差が小さいほうがいいのである。(でも、これも、そのそれぞれのホールで聴くときの聴感バランス次第で感じることなので一義的にそうだ!とは言えないと自分は思いますが....)

シューボックスの欠点は、観客収容人数の少なさですね。縦長の直方体ですから、大人数を収容できないし、特に昔のホールでは、後方に行くにつれて傾斜をつけていないので、後方席の人は前の人がじゃまで、ステージが見えにくいと思います。

現在のホール事情で、大ホールとしてシューボックス型というのは、もうあり得ないのではないでしょうか?(室内楽ホールとしてなら、シューボックスはありです。)

いまの時代は大人数を収容出来て、ステージと観客全員が一体感を得られるワインヤード/アリーナ型が主流だと思います。(観客と一体感を得れらるのが、ワインヤードの一番のメリットですね。)

反面、ワインヤードは反射面の壁が遠いので、反射という恩恵を得るのが難しくて(あと観客が音を吸ってしまう。)、直接音主体で、音が薄くなる傾向で、音響的にデメリットがあります。それを「反響板」という存在、そしてホールの形状の工夫で補っているのだと思います。

ベルリンフィルハーモニーやサントリーホールのような昔のワインヤードのホールは、反響板は、ステージの上空にしか存在しません。でも最近のアリーナ型のホールは(最近行ったパリのフィルハーモニー)、ホールの観客席全体の上空を円周上にぐるっと反響板が取り巻いています。なので、ステージ近辺だけでなく、観客席全体に音が行くように工夫されているのです。

日本のミューザ川崎もそうですね。

天井の中心にある反響板を、やはりドーナッツ状に同様の反響板が円周上に取り巻いている。(ステージ前方だけではなく、ホールの客席全体をカバーするように。)そしてらせん状に見えた客席下部にある白い反響板もよく見ると、その下に位置する客席に音を返すようになっているのだと思う。

ステージを取り巻いている反響板も同様。とにかく、あの広いキャンパスの中で、つねにステージ上の音、そしてそれがホール空間を漂うときに、それをいかに客席にその音を返すか、という工夫が随所にされているのが、あのホールの音響の特徴なのだと、思います。(あくまで自分の想像の域です。)

アリーナ型は、ロックのコンサートのように観客との一体感を大切にしつつ、音響面でのデメリットをこのように補っていって、素晴らしい音響を作り出す、というソリューションなのだと思います。

大昔のホール形式であるシューボックスとは、なにからなにまで考え方が違いますね。

ウィーン楽友協会に話を戻しましょう。

このホールのもうひとつの大きな特徴は、平行面の壁、および天井に施されている音の拡散を狙った凹凸。側方の壁であれば、女性像の彫刻。天井であれば、優麗壮美な天井画の数々。

これらは音の拡散、滑らかさを作り出しています。

ヨーロッパのホールの特徴は、この華麗な彫刻が一番の特徴だと思う。
大昔の建設当時に、音の拡散なんて発想があったかどうかはわからないが、このような神秘的な彫刻はヨーロッパならではで、ヨーロッパであれば、どこの国のホールでも共通に見受けることが出来る。(キリスト教などの宗教に関連するところがありますかね。)これがじつは結果として煌びやかな音響を生み出しているなんて偶然は、やはり奇跡的なミステリーというか、自分がヨーロッパのホールに憧れている一番のミステリーだったりする。

現在のホールでは、さすがにこのようなヨーロッパ調の彫刻を施すことはできないので、武骨な形デザインではあるけれど、意識的に壁面に凹凸を作っているホールを結構見受ける。こういう凹凸を意識的に作ることは、ホールの内装美デザインとのトレードオフになるので、難しい選択ですね。

そして響きの質。

これは反射させる壁質によるところが大きいと思います。
楽友協会の壁は漆喰。(家庭用オーディオルームの室内音響理論もピンキリでいろいろありますが、自分がこれっ!と思っているものは、壁の材質に漆喰を使っています。)響きが広帯域に均一で、どこかでピークを持つなどの強調される帯域がないことが特徴。高域は、その可聴帯域外の高域に向かって、ブロードに自然に減衰していく。これがオーディオ的には音の粒子が細かく、滑らかな印象を与えるのだと思います。漆喰のザラッとした風合いが,抑え気味に音の艶を調節して滑らかさを出すと言われているようです。

あと、これはレオ・L・ベネラク氏の文献に書かれていて、なるほどと思ったのは、この楽友協会のホールのみに存在すると思われるホール上部に装着されている採光窓の存在。

「低音が豊かで,ヌケ感が良く,空気の塊がホールの中を弾むようである。」

低音に関しては,上部の採光窓がヌケ感に寄与している、という見解を示している研究者は他におらず、このベネラク氏特有の理論だそうです。 低音は堅固な壁面で覆われているとこもり気味になるのだが,窓などで弱い面があるとそこから低音の圧力が逃げて行きヌケ感が改善される。 楽友協会で、低音に関し量感とヌケ感を両立させているところも大きな特徴であると言えます。

(よく防音でガチガチに固めてしまうオーディオルームより、和室などのある程度音が外に抜ける構造のほうが音が抜群にいい、と言われているのにも共通していると思います。)

あと、エージング(経年変化)も絶対に避けては通れないファクターですね。
ヴァイオリンのストラド(ストラディバリウス)などの名楽器の音色が、現在、懸命になってCG CADを使ったりしてまるっきり同じく模倣して作ったとしても、決して同じ音色を出せないのが、このエージングによるものです。ヴァイオリンの中の胴体の部分でこの音色を決めているところのパーツがあって、そこも含めて、いわゆる17〇〇年製とかいう何百年という経年を辿っている訳で、そうすることで熟するというか、発酵するというか、それが原因で信じられない恍惚な音色が出るのだと思います。

これはコンサートホールにも同じことが言えて、ホールを作っている材質などが何百年という経年変化で、熟していき、そこで発する、反射される音は、絶対近代建設で発せられる音では永遠にマネのできない異次元の世界なのだと思います。

これは楽友協会の音響の秘密の中で一番大きな要素かもしれません。

そして、これはオーディオ仲間が実際ムジークフェラインを体験した時に、言っていた感想で、大変参考になった意見があります。

「じつは1番の”きも”は体育館のようにドカドカ鳴る木の床だったりする!」

観客席の床から階段、さらにステージの上までも全部木の床。つまり床振動で全体を鳴らすようにするため、ステージ上でオケが音を出した瞬間、音圧が上がった時に、床が木でホール全体を通して連なっているのでどっと盛大に鳴り、つまり音が化けるように出来ている。(床振動って大切で固い床ではダメなんですね。オーディオルームの床造りと同じです。)
いわゆる”ハコ鳴り”というやつでハコ(ホール)全体が鳴っているように感じる。

「ホールは楽器です。」という名文句はここから来ているのだと思う。

このホール全体が楽器のようにいっせいに共鳴して鳴るように聴こえる現象はムジークフェライン特有なのかもしれません。

この意見が一番自分には的を得た、このホールの魅力をグサッと刺した感想だったように思える。


レオ・L・ベネラク氏によるウィーン楽友協会の音響の秘訣として、つぎの

・比較的小さな寸法であること。
・不規則な内部の表面。

であることを挙げている。

反面、このホールの欠点と言えるところは、

・響きが豊か過ぎて、直接音の音像が埋没気味というか、細かい楽器のテクニックや音色が、その響きの中に埋没して聴こえないこと。音符の数や楽器の数が多くなっていくと、美しいハーモニーの中に個々の音は埋没してしまう、ということ。

・そしてホールの容積が小さいので、トゥッティなどのいっせいの大音量のときに、音が飽和してしまう、ということ。


コンサートホールの音響特性、響きは、そこのレジデンスオーケストラが1番良く分かっていて、自分たちが実際弾いてみたときに、どのように響いて聴こえるか、などを自分が演奏しながら直に感じ取れる。

そういう意味演奏者が一番そのホールの響きを理解できていて(いくら理論づめで能書きを垂れてもダメな訳であって、直に耳で聴いた印象が1番ということです!)、遠征で行ったオケは、そのホールに合わせて、急いでベストな演奏方法を模索するし、レジデンスオーケストラであれば自分のホームの音響を知り尽くしているので、どう弾けば最高のオーケストラ・サウンドが醸し出されるのか、わかっていて、それに応じた演奏方法などを身に着けていると思うのである。

ここまで頭でっかちで理論武装しているより、実際行って聴けよ!(笑)ということでもありますが、昨晩のウィーンフィルのニューイヤーコンサートのTVから出てくる音があまりに素晴らしかったので、この日記を初年度1発目の日記として取り上げようと思ったのです。

放映もサラウンドで放映されているのがいいですね。(というか当然です。)

我々が左右ふたつの耳で聴いている日常の現実音はサラウンドなのです。2CHじゃない、様々な方向、距離から音が聞こえてくる。ところが、その気になって注意して耳をすまさなければサラウンドしてるという感覚がない。ものすごく自然。それが理想なのだと思います。


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