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バイロイト音楽祭 「神々の黄昏」 [海外音楽鑑賞旅行]

バイロイト音楽祭で人生最初に鑑賞することになったのが、「ニュルンベルグの指環」の最終章の「神々の黄昏」。

事が決まって渡欧するまで、ほとんど時間がなかったので、予習素材としてDG/UNITELから出ている1980年のバイロイト音楽祭のDVDで1回さらっただけであった。

もともと指環(リング)って、神話のお話なのであるから、この予習素材は、それ相応の時代考証での舞台芸術、衣装で、好感の持てる、いわゆる保守的・伝統的な路線の演出だった。自分にとっては、とても受容的な演出だった。

オペラって、演出、舞台装置、衣装、演技、歌手の声などによる総合芸術と、よく言われるけれど、オペラを鑑賞するたびに都度思うのは、やはり演出の占める割合が、その公演の大部分の印象を決めてしまうんではないかな、ということ。

筋書は常に不変、そして作曲家ワーグナーがこの楽劇で何を伝えようとしたいのか、は固定で不変のはず。そして、なによりも音楽が不変。

でも演出家がそれをどのように表現して、あるいは読み替えたりして、どう舞台表現していくのか、の出来具合で、その作曲家の意図が歪めれられたり、観客にうまく伝わるのかが決まるのではないのか?とオペラ鑑賞歴の浅い自分でもそう感じてしまう。

今回の指環4部作の演出家は、フランク・カストルフ氏。

今回が新制作ではなく、3年前あたりから、ずっと同じ演出で毎年上演してきている。それを今年私は見た訳だ。



はっきり言おう!


カストルフ氏のリングのこの演出は、私には、全く理解不能で、「神々の黄昏」の筋書を、いま目の前で展開されている演出に、どのように解釈、結び付け、理解していくか、という頭の中の処理が、舞台進行のスピードについていけなかった。

こうやって帰国後に他人の感想を少し垣間見る感じで、はじめて、あぁそうだったのか?と理解する感じ。

3年前からずっとやっている演出なのだから、事前に情報を掴んでおくこともするべきだったかもしれないが、突然決まったことなので、そんな余裕はなかった。

ずいぶんと意味不明、理解不能でメチャメチャだなぁ、という印象で、悲しいかな、これが私のバイロイト演出の人生初の経験となった。

2,3年前のねずみのローエングリンでも、その最悪の演出ぶりが話題になったことは記憶に新しいので、やっぱりバイロイトの演出って一筋縄ではいかない、超難解・奇怪というのを、身をもって経験してしまった。

バイロイト演出は難しすぎる!

このカストルフ氏のリングの演出は、どうも私だけでなく、マスコミ、評論家あたりの評判もほぼ同様のようで、悪評にさらされているようだ。

ラインの黄金、ワルキューレ、ジークフリードなどは観ていないので、私が責任もっては言えないが、どうなのだろう?

毎年バイロイトに行かれている方であれば、この演出にも慣れて、どう読み替えられているのか、というツボがわかってその素晴らしさを評価できるのかもしれないが、人生初体験の自分には、あまりに荷が重すぎた。

時代考証は現代。舞台装置もかなり大がかりで、天井から白幕を吊るして投影したりもするのだが、その投影内容の画像も、なにかしら意味不明でどういうことを言いたのだろう?とまず考え込んでしまう。

過度の読み替え、抽象すぎて、何を表現したいのか?を常に観客に考えさせるような凝った演出なので、頭がそちらに集中しすぎて、歌手の歌声、演技、表現だとかのもう一つ大事なファクターに気が回らないのだ。


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写真提供:Bayreuther Festspiele


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写真提供:Bayreuther Festspiele


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写真提供:Bayreuther Festspiele


この日記で採用している写真は、バイロイト音楽祭の公式HPから正式に購入した写真で、著作権的にクリアされているものです。(HPの中の上のバーにあるFOTO ORDERから入っていて、写真を購入できます。過去の年度の音楽祭の写真も購入できます。)

バイロイト音楽祭公式HP
http://www.bayreuther-festspiele.de/english/english_156.html



第1幕と第2幕でのギービヒ家は、中央にケバブの売店がある。店内にはトルコの国旗とベルリンの熊のマークの旗が張られており、第2幕では一同がケバブを食べながら騒ぐ。

第3幕では、突然ニューヨークの証券取引所が出てきて、そのビルの前でラインの乙女たちが高級オープンカーの中で寝ており、(しかもラインの乙女はヤンキー女だし。)しかもそのクルマは1人の男をはねて重傷を負わせ、スクリーンではラインの女たちがその男の死体をトランクに詰め込む模様が写される。


ジークフリートが殺される前にラインの乙女のうちのひとりと、この車の上で情事に至る。

ハーゲンはジークフリートを背後から槍で刺すのではなく、金属バットで正面から殴り殺す。

ほんの一部を掻い摘んでいるにすぎないけれど、後出しじゃんけんで考えてみれば、その難解な解釈の真意がわからないでもない。でもリアルタイムには、あまりに自分の頭にある筋書のイメージと乖離しすぎて理解するには荷が重すぎた。

予習素材のDVDで見た1980年代の頃のような神話らしい時代考証の演出って、もうバイロイトでは復活することってないのだろうか?やはり現代の時代考証、そしてつねに一捻りある抽象的解釈優先なのだろうか?

でも歌手たちは、かなり善戦しているように自分には思われた。


特にカーテンコールで大歓声でブラボーで迎えられていたのは、ブリュンヒルデを歌ったキャサリン・フォスター。 

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キャサリン・フォスター(ブリュンヒルデ)
写真提供:Bayreuther Festspiele

ジークフリート亡き後の独唱は、すざましい壮絶なものがあって、まさに場を圧するという感じで、その勢いのまま、カーテンコールでのブラボーを勝ち取ったと言っても過言ではなかった。 


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シュテファン・ヴィンケ(ジークフリート)
写真提供:Bayreuther Festspiele

ジークフリートを歌ったシュテファン・ヴィンケも安定した歌唱力で、主役の大役を堂々と歌い切った。 


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シュテファン・ミリンク(ハーゲン)
写真提供:Bayreuther Festspiele


「ワルキューレ」ではブリュンヒルデというヒロインが、「ジークフリート」ではタイトルロールであるヒーローが活躍する。この「神々の黄昏」では、じつは悪役のハーゲンがそれに相応したりする。

そんな大切な役を、見事に演じたのがシュテファン・ミリンクで、悪役にふさわしい見事な役への成りきりっぷりで、バスの魅力的な声が劇場を支配していた。 




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そしてなによりも、自分にとって、この公演の大きな目玉だったのが、指揮のマレク・ヤノフスキ。

自分の音楽人生にとって、なにかと縁の深い巨匠である。彼のバイロイト・デビューの現場に立ち会えることができた、というのが、自分にとって一番大きな収穫であった。

ヤノフスキのリングの演奏は、テンポが速いとの話もあるらしいが、現地で聴いた限り、自分的には、そう?という感じであった。(笑)

「音楽だけに集中して舞台装置による解釈なしにワーグナーの楽曲の音楽的な質の高さを観客に伝えること。」と、演奏会形式のスタイルにこだわり続けてきた巨匠にとって、今回のオペラ指揮には、本人の大きな決断もあったようだ。

BR-KLASSIKでのインタビューで、ヤノフスキは、思わず本音で、このように答えている。

「自分も77歳。この機会を断ったら、あの音響が独特のオーケストラピットを味わうことは二度とできない。私は弱くなったのです。後悔はしていません。」

カーテンコールでの歓声は、1番大きかった。

相変わらず、控えめな所作であるけれど、この割れんばかりの大歓声・ブラボー、そして床の踏み鳴らしに、なにか自分が褒められているかのように嬉しく涙が止まらなかった。自分は惜しみない拍手をずっと送り続けていた。

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バイロイト音楽祭2016 「神々の黄昏」

2016/8/12 16:00~ バイロイト祝祭劇場

指揮:マレク・ヤノフスキ
演出:フランク・カストルフ
舞台:アレクサンダー・デニック
衣装:アドリアーナ・ブラガ・ペレツキ
照明:ライナー・キャスパー
撮影:アンドレアス・ダイナート&イェンス・クルル
合唱指揮:エーベルハルト・フリードリッヒ

ジークフリート:シュテファン・ヴィンケ
ギュンター:マルクス・アイヒェ
アルベリヒ:アルベルト・ドーメン
ハーゲン:シュテファン・ミリンク
ブリュンヒルデ:キャサリン・フォスター
グートルーネ:アリソン・オークス
ヴァルトラウテ:マリナ・プルデンスカヤ
ノルン1:ヴィーブケ・レームクール
ノルン2:ステファニー・ハウツィール
ノルン3:クリスティアン・コール
ヴォークリンデ:アレクサンドラ・シュタイナー
ヴェルグンデ:ステファニー・ハウツィール
フロースヒルデ:ヴィーブケ・レームクール

合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団


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