サイトウ・キネン・フェスティバル松本 [国内音楽鑑賞旅行]
みなさまあけましておめでとうございます。本年もよろしくご愛読の程をお願い申し上げます。さて本年度一発目の記事は、毎年夏休みに長野県松本市で開催される音楽祭であるサイトウ・キネン・フェスティバル松本(略称SKF松本)について。
ご存じ小澤征爾さんを総監督として、世界のオケや、日本の在京楽団のスター達が年に1回この音楽祭のためにこの松本市に集まるのです。桐朋学園の創始者である故・齋藤秀雄先生の没後10年にあたる1984年に、世界各地に散る同門の志が一堂に集いメモリアルコンサートを行ったことから生まれたサイトウキネンオーケストラ(SKO)。そのSKOが母体になるオーケストラとオペラの2本の柱を中心とする音楽祭:サイトウキネンフェスティヴァル松本が、小澤征爾総監督の下、1992年に長野県松本市で始まりました。
クラシックの源地:西洋に比べて日本にはまだクラシックの伝統、歴史が全くなかった時代に、齋藤秀雄先生がまさになにもない状態から日本人の指揮者、演奏家達を育て上げた訳で、日本のクラシック界の礎を築いた人でもあります。
その1番弟子だった小澤さんが先頭に立ち、同士に呼びかけ故・齋藤秀雄先生を偲びその意志を受け継いでいくことを再確認しよう、ということで年に1回このように集まり現在に至っている訳です。
小澤さんが最も大事に思っているオケ、音楽祭と言えます。 若い頃から世界で活躍していた小澤さんにとって日本に確固たる活動の場というのがなかった、というのが実情で、そんな小澤さんにとってこのサイトウ・キネンは自分の日本における活動の基礎となる場であった訳です。
NHKの音楽ディレクターである小林悟朗さんと知り合えたことで、小澤征爾さんを強く意識するようになり、同時に悟朗さんのライフワークであったサイトウ・キネンを経験したい、と思うようになりました。毎年この夏のシーズンになると収録のために松本に長期滞在する悟朗さん。はじめて松本を訪問した時は、いろいろ松本を案内してくれて、丸一日一緒に過ごした思い出は一生忘れられないでしょう。やはり自分のクラシック人生の中で、サイトウ・キネンを振る小澤さんの生の姿を観ておくというのは、絶対に経験しないといけないハードル。2011年と2012年にこの松本の音楽祭に通っていますが、小澤さんの体調問題で、いまだにこの夢を叶えていません。普段、私は在京楽団の定期会員になっている訳でもなく、日本でのクラシックコンサート鑑賞もきちんとした軸のある活動をしている訳ではありません。でもその中で自分のカラーを出すのなら、このサイトウ・キネンと心に決めているのです。そんな訳で国内音楽鑑賞旅行としては、私にとってこの音楽祭が最大のイベントでもあるのです。
新宿から特急あずさで揺られて3時間、、松本で下車です。決して近い距離ではありません。
サイトウ・キネン・フェスティバル松本は、大きくオーケストラ・コンサートとオペラの2本立てで構成されています。(室内楽もありますが、その紹介はまた次の機会に。)まずオーケストラ・コンサートのほうの紹介から。コンサートホールはキッセイ文化ホール。去年までは長野県松本文化会館と呼ばれていたホールです。
2011年にはじめて松本を訪問した時に、まだ長野県松本文化会館だった頃、小澤征爾/サイトウキネンオーケストラ(SKO)と言えば、この会場でのシンフォニー 演奏というイメージが圧倒的に強い。したがって私にとってSKF松本というのはまさしくこの会場のことなのです。
松本入りしてから、地元の人はしきりにこの会場のことを「ケンブン」と言う。(笑) 私は「ケ、ケンブン?」(笑)
そう「長野県松本文化会館」のことを地元松本では、「県文」というのです。タクシーで、「サイトウキネンフェスティバル松本の長野県松本文化会館まで。」と丁寧に言うとタクシーの運転手さんは、「あ~県文ね。」とあっさり(笑)。そしてカーナビを見ると、なんと「県文」というアイコンがきちんとあるんです。(笑) まさに1992年の創設以来20年間地元松本市民に慣れしたんだ、この愛称である「県文」。それが2012年からキッセイ文化ホールに改名。これはどうなんだろう?それこそ「県文」(長野県松本文化会館)という名称で、長年松本市民に定着していただけにこの改名、残念というか違和感があるのは私だけだろうか?地元のタクシーのカーナビにも県文というアイコンが元々地図データにあるくらいだし.....
タクシーの運転手さんに改名の理由を聞くと、こういうことだった。
キッセイ文化ホールのキッセイというのはキッセイ薬品という薬品会社の名前をそのままホールの名前に使っているのだそうだ。正確なことはわからないけど、このホールの維持費のためのスポンサーとして、このキッセイ薬品が金を出しているのではないか?その代替として、キッセイの名前をホールに入れろ、という要求があった、とのこと。しかも期限は5年契約とのこと。5年後にスポンサーが変わって、またホールの名前が変わるかもしれない、と言っていました。
確かに松本という田舎で、年に1回のSKF松本だけでは、年間の維持費は厳しいものがある。(首都圏と違ってコンテンツを集めるのが大変)いままで長野県松本市の金で運営していたのを、民間会社の金の力を借りよう、ということなのだろう。今年で20周年、苦しいホールの経営方針にひとつの区切りの裁断なのかもしれない。
でも松本に滞在していた時に、周りから聴こえてきたのは「県文」という言葉で、誰ひとり新しい名前を言っている人はいなかった。スポンサーが変わるたびにホール名を頻繁に変えるようであれば、これからも新しい名前が定着することはまずないだろうと思うし、松本市民にとってはこれからもずっと「県文」と呼ぶんだと思う。
20年間かけて慣れ親しんだ愛称はそんな簡単には変えられないはずです。
1992年に開催の始まったSKF松本のために作られたコンサートホールです。この県文も、コンテンツの確保、維持費が大変です。松本市はSKF松本のときが1年で最大の集客力を誇りますが、それ以外の期間は地道にいろいろなジャンルの公演招致で賄います。 ロケーションは駅からはかなり離れていますので、交通手段はタクシーで行くしかありません。
エントランスを入ったら広いロビー空間が現れます。ここにグッズ関係も売ってます。大ホールに行くには、ここからさらに階段を上がってホール入口があります。そこを入ると直接ホールに入るためのロビーがあります。あまり広くないですね。ホールに入るための入口はここしかありません。
ホール
ここがNHKのTV放送やBlu-ray/DVDで御馴染みのホールだ!思わずじ~ん!と来てしまいました。座席数は2000席くらいで、1階と2階に分かれています。ちょうど松本に来ていたオーディオ仲間から、このホールは残響少なめでマッシブな音響だよ、と聞いていたので、どんな感じなのかな、と思っていました。後日データを調べると、県文の残響時間は空席時で2.2秒、サントリーホールで空席時で2.6秒くらいだから、確かに言っていることは正しい。
でもいざSKOのシンフォニーを聴いていた分にはあんまりそんなに響きが少ないとは感じませんでした。SKOが奏でる音が凄い分厚い音で密度感が豊富だったので、デッドな響きはほとんど気にならなかった感じです。あと感じたのは、ステージからの直接音がかなりしっかり客席に届くこと。
ここで聴くSKOの音楽は、まさに日本から発信する世界級レベルの音楽祭を代表する素晴らしいものでした。首都圏の在京ホールで聴くオケの音とは一味違う自分にとっては特別の音がするのです。
2012年のオーケストラ・コンサートでダニエル・ハーディング指揮でアルプス交響曲終演後のカーテンコール
さて次にオペラの会場となるのが、「まつもと市民芸術館」。松本駅を出てすぐ正面に「あがたの森通り」という大きな通りがあり、そこをまっすぐ20分ほど歩くと右手側にホールは見えてきます。地理的に非常に恵まれた立地条件にあると思います。
まつもと市民芸術館
さっそくホールのロビーに入った印象。建物自体が縦に長いので、幅はないけどひょろ長いという感じです。まつもと市民芸術館は地上7階地下2階の建物で、長いエスカレーターを昇ってかなり高いフロアまで上がります。
ロビーはこんな感じです。
そして開場時間になり、ホールの中に入るとびっくり!凄いホールですね。事前にネットのHPの写真で最新鋭のホールであることを知っていましたが、実際入って中を見るともう唖然です。素晴らしいホールです。
ホール
ステージ
ピット
2012年のオペラ(オラトリオ):「火刑台上のジャンヌ・ダルク」の舞台装置。
まつもと市民芸術館は地上7階地下2階建てで、内部には約1,800席の主ホール、240席の小ホールのほか、主ホールの舞台を利用した約400席の実験劇場、リハーサル室やレストランなども完備しています。1800席ということですから、東京の新国立劇場とほぼ同じくらいです。ただ新国立劇場はオペラ劇場、中劇場、小劇場といろいろあり、劇場としての規模は、新国立劇場のほうが大きいかもしれませんが、でもこのまつもと市民芸術館も本当に凄い規模のホールだと思いました。
ちょっと意地の悪い見方をしてしまって、長野県松本市という決して大きくない街にこんな凄いホールを建築して維持費とかどうしているんだろうか?集客のための公演招致など大変じゃないか、と思いました。要はどんなに優れたホールであってもコンテンツをうまく確保することが運営の成否を決めると思うからです。
後日タクシーを利用したときに運転手さんと世間話をしたのですが、やはり同じことを言っていました。このホールを建設するとき、都市の規模からコンサートも頻繁に開かれるものではなくて、このため、新施設の設備は過剰であり、その建設は税金の浪費にすぎないと捉える向きも多かったそうです。
長野県松本市もSKF松本のときは、1年のうち最も盛況となる時期で全国から観客が押し寄せる凄い集客力ですが、普段はなかなか厳しいのが現状。最近では歌舞伎とか、公演招致に血眼で維持費を確保しているんだそうです。
2012年のオペラ(オラトリオ)の「火刑台上のジャンヌ・ダルク」終演後のイザベル・カラヤン(指揮者カラヤンの長女)のカーテンコール
でも日本の夏の音楽祭としては最大規模と思われるこの小澤征爾さんのサイトウ・キネン・フェスティバル松本を演出するにふさわしい、このオーケストラ・コンサートの会場であるキッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)とオペラの会場である、まつもと市民芸術館、どちらも本当に素晴らしいホールで日本から世界へ発信する音楽祭にふさわしいホールと実感しました。
みなさんも、この松本の音楽祭、ぜひ経験してみませんか?
松本へは高速バスが運行しているので、その気になれば行ける町です。
問題は、チケットが手に入るかどうか(笑)
by 椀方 (2013-01-12 13:52)
椀方さん
小澤さんは高齢で体調不安を抱えているので、ぜひ可能な限り、早くサイトウキネンを振る小澤さんを観ておくべきですね。
そう!問題はチケット。(笑)小澤公演はかなり争奪戦で厳しいですね。ネットでも発売時間とともに繋がらなくてすぐに完売です。でもオークションとか、おけぴネット(ネットで検索してみてください)を使えば高額でも入手できると思います。じつはいまになってはオフレコですが、悟朗さんは毎年オーディオ仲間のために小澤チケットを無料で手配してくれたのです。1番前の最高の特別席です。(悟朗さんからは絶対外部には言わないでくれ、と言われましたけど。)私も1回はお世話になりました。
by ノンノン (2013-01-13 01:24)