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水戸芸術館で水戸室内楽定期公演 [国内音楽鑑賞旅行]

首都圏の大雪で散々だった水戸遠征。でも今年の年初の聴き初めのコンサートにふさわしい素晴らしいコンサートでした。去年秋に、はじめて水戸芸術館に出かけて、水戸室内楽を聴いてきて、室内楽に適した容積のホールで聴く豊潤な濃い音色がする室内楽を堪能して感動しました。

そして今回は、大野和士さんが、水戸室の指揮台に初登場ということで、この演奏会を今年の聴き初めとするべく楽しみにしていたのです。

まず、その前に水戸芸術館のホールの印象について述べてみたいと思います。
水戸と言うと首都圏から遠い感じがしますが、じつは上野から電車で1時間くらいで行けるのです。なので日帰りで行ける。(特急~常磐線・特急スーパーひたち(上野~水戸)でですが....でも自由席往復で7000円台もする。)これだけ素晴らしいアンサンブルを音響のいい室内楽専用ホールで聴けるんだから、ぜひみなさんも足を運こばれては、と思います。

もうご存知だと思うが、故・吉田秀和さん提唱のもと、小澤征爾さん中心に水戸室内管弦楽団が結成され、水戸芸術館という室内楽専用ホールを始めとする芸術の複合施設も建設されたのです。

水戸室内管弦楽団は1990年に創立された「水戸芸術館」の専属の室内管弦楽団。館長だった吉田秀和さんから相談を受けた小澤征爾さんが、その頃毎年ヨーロッパ演奏旅行をともに行っていたサイトウ・キネン・オーケストラのメンバーを中心に自ら慎重に人選を行い、水戸室内管弦楽団が生まれたのです。

この管弦楽団は、指揮者のいる演奏はもちろん行うが、また入念なリハーサルを積み重ね、指揮者なしのアンサンブルを演奏することで有名。年間の半分は指揮者なしで公演をおこないます。室内楽団の細やかさとオーケストラのスケール感ある響きとを兼ね備えた音楽を聴かせてくれる希有な管弦楽団だと思います。

日本での定期演奏会は春と秋の2回。そのたびに独奏、合奏ともに多くの経験を積み、高い技術と音楽性を身につけた音楽家達が、演奏会のたびに世界各地から水戸に集結。1週間という入念なリハーサルを経て臨みます。

基本的に全奏者が一流のため、コンサートマスターや首席奏者制度はありませんが、コンマス(コンミス)は潮田益子、安芸晶子、豊嶋泰嗣等がほとんどを切り回しているようです。またヴァイオリンに1st,2ndの区別を付けず、配置は曲に応じて毎度変わるのも特徴。

小澤征爾さんを強く意識している私にとって、室内楽と言えば、この水戸室内楽を避けて通ることは絶対できず、ぜひ水戸芸術館で鑑賞したい、と思っていたのです。でも水戸というと首都圏から遠い感じがして、マイカーがないといけない、という地理感があり、なかなか実現できずにいたのが現状でした。ところが水戸まで特急で1時間で行ける、という情報を去年の秋、入手して、それではじめて重い腰を上げた、という次第なのです。

水戸芸術館は、水戸駅からバスに乗り継ぎ、下車停留所から数分徒歩のところにあります。

水戸芸術館(去年の秋に訪れたときの写真です。)
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水戸芸術館は、この変わった塔が印象的。この塔、水戸市政100周年を記念 して高さ100mの高さで建てられ、無限に発展する水戸市をイメージしているんだそうです。
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ロビー
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ホールの中に入ると、さすがに室内楽専用コンサートホールだけあって、ステージの広さや客席数、ホール容積も室内楽の規模に適した空間の佇まいです。ステージの側方、後方にも客席があるが、これは申し訳なさ程度のものであって、客席の大半は前方側にあります。このように側方や後方が狭いのは、ステージからの音が拡散しないように、側方や後方の壁ですぐに反射して響きとして前方に伝える初期の側方反射音を得るためだと思われます。

ホール
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ステージ側から見た客席
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素敵なデザインの天井
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いい音響を兼ね備えるコンサートホールの条件として、その容積というのはすごい重要なパラメータだと思います。程よい残響時間を得るにはそれに適した容積というのがあって、広すぎれば音は拡散気味で薄くなり、その空気を音で埋めるのが難しくなるし、狭すぎれば響き過多でわんわんうるさくなってしまう。ここのホールは室内楽という音数の少ない情報を響き渡らせるのには、適切な空間の広さだと思うし、これくらいの狭さだと、その時点ですでに気分的に音がいい感じがします。

実際聴いた音の印象は、硬質、軟質、どちらなのか、ちょっと判断に迷う感じのどちらとも言えない中間色の質感の印象で、響き具合は結構ライブ(響き多め)な感じ。ライブなんだけど響きに埋没することなく、音像は明確で輪郭がくっきりしている。もちろんまだ2回しか経験していないので、座席の位置によってクリチカルな音響なのかもしれないが、そこはよくわかりません。やっぱり室内楽でそれに相応した空間というだけで、その先入観だけで、なにか音が濃い感じがします。このホールの音響は、かなり私好み。 水戸室という最高の室内楽を聴くには、都内の大型ホールではなくて,やはりここ水戸芸術館で聴くのが本筋なのでしょう。なんか都内にある大ホールに付随している室内楽ホールとは一味違うんだぞ、という感じの一種独特のセンスがあってとても素敵です。

さて、コンサート。大野和士さんがはじめて水戸室を振る、ということで話題でした。大野さんは、小澤さんと同じで国内というより、どちらかというと海 外の荒波にもまれて育ってきた指揮者。特に世界中のオペラハウスにおける彼の活躍は目覚ましいものがあります。見た目イケメンで、それでいてどこかカリスマ性のある切れ味鋭い風格があって、女性ファンに人気があるのがよくわかる感じがします。なんか知将という表現がぴったりです。

大野和士さん
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大野さんの指揮は、なにか奏者との間にちょっとした遠近感を感じさせるスケールの大きな指揮振りのような感じを抱きます。作曲者の意図とか、音楽を音に具現化する表現力、そしてオケへの統制においては演奏者の自主性と技量を弾き出すのがうまい感じで、大げさな身振り手振りはあまりしないという印象。

演奏者が自分の自然でやりやすい方法で最も素晴らしい音をださせることが彼の理想のようです。指揮者なしでもどんどんやってしまう猛者達の水戸室のメンバーとガチンコで格闘する感じではなくて、大野さんが水戸室のメンバーをうまく誘導して音楽の幅や深さを引きだすというか、水戸室から明確な音の表現を引き出す、そんな柔軟な指揮振りだったように思います。 

曲の方は、ドヴォルザークの弦楽セレナーデは、去年の春、上野の奏楽堂コンサートで、演奏者として出演したゴローさんを応援しに行った思い出のある曲。確かにチャイコフスキーのものと比べると、それほど盛り上がったり、劇的な展開があったり......、 という訳ではないが、しなやかな弦楽器の特徴を活かしたじっくりと聴ける一曲だと思う。弦楽器が特に秀逸な水戸室にとっては、まさにツボにはまるはずだった。......でもいまいちでした。(笑)

私は最初、自分の座席による音響のせいだ、とずっと思っていました。それだけ水戸室の弦には信頼を置いていたし、疑う気持ちは毛頭なかった。でも帰宅して、次々アップされるマイミクさんの日記で、水戸室の弦楽器が原因だ、ということが言及されていて、そのときにあっ!そうなのか!とはじめて気が付いた。(大笑)それだけ信頼していたし、そういうこともあるんだなぁ、と思いました。原因は大野さんのスケジュールが非常にタイトで練習時間が足りなく、全3曲のうち、この曲だけが十分な練習時間を取れなかったそうです。

ブリテンのノクターンは、自然の美しさを賛える詩に牧歌的な美しいメロディーのついた素晴らしい曲で、近代の美しいオーケストラ付歌曲。特にブリテンという作曲家は、小編成のアンサンブルで鮮やかな色彩に彩られた空間表現を描き出す人なので、まずこの曲を水戸室のために選曲した大野さんの選曲センスの良さを感じざるを得ませんでした。テノール・管楽・弦楽の掛け合いが素晴らしかった。管楽器がつぎつぎとステージ前に現れて、テノールと弦と協奏する。

テノールの西村悟の声質は、十分甘美な艶があって、声量も十分で、繊細な歌唱を伴った美しい音楽に仕上がっていました。この曲を聴くチャンスは、なかなかない稀少な曲なので、素晴らしい経験でした。

最後のシューベルト交響曲第6番、あの未完成の前に書かれた作品で、この曲、正直あまり記憶に残っていない曲で、予習もしなかったし、初めて聞く ような感覚で楽しんでみました。冒頭がベートーヴェンとも思えるような雰囲気で、この作品を作曲していた時期シューベルトはベートーヴェンの音楽に相当傾倒していた、とのことなので、なるほど確かに、と思える厳格さがあります。全体的に柔らかな旋律が印象的なのですが、第4楽章はいままでのドイツ風からイタリア音楽のようになってしまう。4楽章構成の交響曲なのに30分程度の小曲。シューベルトの交響曲って、やはり演奏機会が圧倒的に多いのは「未完成」と「ザ・グレート」で、他の曲を生演奏で聴く機会ってあまりない。この曲もなかなか演奏機会に恵まれないようで、この曲を取り上げた大野さんの意図はどこにあるのだろうか?これをトリに持ってくるこのセンス、なかなかだと思いました。

なかなか重い腰を上げられなくて、水戸まで公演を聴きに行く、という気になれなかったのですが、これで定期公演を2回経験して、まさに上質な室内楽を堪能するには、この水戸芸術館まで足を運ぶべき、という印象を持てた感じがします。また水戸まで通って聴くだけの価値のあるクオリティの高さなのです。

サイトウキネンを振る小澤さんを観たくて長野県松本市に通うようになって2年経つが、いまだにその夢は実現できていません。でも一足先に、水戸で水戸室を振る小澤さんを観るのもぜひ実現してみたい、と思うようになりました。水戸室の定期公演は、そんなに頻繁に行われるものではないので負担も少なく、この水戸通い、自分のレパートリーに入れてみたい、と思った次第なのです。

大野和士さん(右)と西村悟さん(左)、コンマスは豊嶋さん
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水戸室内管弦楽団 第86回定期演奏会

・ドヴォルザーク:弦楽セレナード ホ長調 作品22
・ブリテン:ノクターン 作品60
  テノール独唱:西村 悟
・シューベルト:交響曲 第6番 ハ長調 D589

~アンコール~
フォーレ:組曲<ドリー>から第1曲 子守歌

水戸室内管弦楽団
指揮:大野和士
テノール:西村悟

2013/1/14 水戸芸術館コンサートホールATM


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