SSブログ

安永徹・市野あゆみ 洗足学園音楽大学アンサンブル・アカデミー演奏会 [国内クラシックコンサート・レビュー]

安永徹さんがベルリン・フィルを退団したのが2009年。あれだけ輝かしい経歴の持ち主ながら、帰国後、ほとんどメデイアへの露出はない。どこでなにをしているのだろう?聞く筋によると、北海道の旭川にログハウスを所有していて、そこで奥さんのピアニストの市野あゆみさんとともに室内楽活動を北海道を拠点におこなっている、とのことだった。

安永徹さん
yasunaga1[1].jpg

奥さんのピアニストの市野あゆみさん
ichino1[1].jpg

ところが去年ネットで検索すると、それらしい情報を発見。

東京都新宿にあるアーツ・プラン株式会社というところが、安永徹・市野あゆみコンビのマネジメントをしているようで、その活動の予定が網羅されていた。活動の場は北海道だけではなく、全国に渡って、いろいろな場所を回っているようだ。

しかもプロフィール情報を見ると、安永さん、現在は洗足学園音楽大学・大学院客員教授に就任している。奥さんの市野あゆみさんも同じく洗足学園音楽大学・大学院客員教授だ。

着実に足元を固めつつあるようで、なによりだった。安永さんがベルリン・フィルを退団した1番の理由は室内楽をやっていきたい、とのことだったので計画通りなのだろう。それにしても、これだけ着実に歩んでいる安永さんをメディアは全く取材しないのはなぜだろう?寂しい限りだ。

あれだけの輝かしい経歴の持ち主の”その後”は誰でも興味あるところだ、と思うのだ。奥ゆかしい安永さんのことだから、まだ時期尚早ということで取材拒否しているのかもしているのかもしれない、とも思ったり........

安永さんの生演奏姿を最後に見たのは、2008年にラトル・ベルリンフィルが来日した時に、サントリーでブラームス・チクルスをやったとき以来だ。私が鑑賞したのは1番、2番だった。もちろん第1コンサートマスターだった。

それ以来になるが、安永さんの勤務先である洗足学園音楽大学で、安永徹さん、市野あゆみさんコンビが、ここの大学オケ、大学院オケと共演するという情報を得て、さっそくチケットを入手し、行ってきた。

洗足学園音楽大学は、音楽、幼児教育の2つの方向性を展開する大学のようで、大学名の「洗足」という名前にもきちんと由来があるようだ。なんでも開設者の前田若尾が敬虔なクリスチャンであって、キリストは、明日は十字架の上に消えることを悟ったとき、12人の弟子たちの足をひとりひとり洗ってやって、最後の晩餐の席についたという「ヨハネの福音書」からの発祥なのだそう。

結構この音楽大学、メディアへの露出も高く、あの平原綾香の母校だそうだし、なんと言っても2006年からのフジテレビで放映された「のだめカンタービレ」のロケ地として、キャンパス構内やホール等が使われたんだそう。当時はなにげなく見ていたけど、キャンパスの中を歩いて観て回って、こんな感じの建物だったかなぁ?と記憶が曖昧だった(笑)。

キャンパスは都内の一等地にあるだけあってかなり狭い。キャンパスの写真をいろいろ撮ってきたので、フォトアルバムに上げておきますので、ご覧になってください。みなさんは、この写真を見て、のだめの記憶と一致しますか?

でも、またこうやって目にするというのは、どこかで必ずつながってる、という人生の縁を感じる。

今回のコンサート会場は、この大学の前田ホール。

洗足学園音楽大学 前田ホール
002.JPG 

外観上かなりモダンなホールに見えるが、いわゆる「シューボックス」型のコンサートホールとしては、日本で初めて建設された本格的なホールと聞くから、その歴史上かなり伝統がある建築物だ。日本の都内のコンサートホールの90%以上はシューボックスである現状を考えると、日本初のシューボックスとしてのホールの存在意義は大きい。ウィーンのムジークフェラインを参考に設計されたのだそう。

ホール
g9H2WvrsmfAcnFH1362255656[1].jpg

ステージから観客席を見た場合
3eqvEiWeNUU4aIk1362255843[1].jpg
 
中に入ったら、ベージュ色を基調としたお洒落な内装空間でいかにも音響がよさそう。ホールの容積は、1114席のキャパというから小〜中規模のホールだ。(ちょうど横浜みなとみらいの半分くらいと思ってください。)ホール形状は、本当に厳密なシューボックスで、天井が異常に高いホールという印象で、確かにムジークフェラインに似ている。この時点でもう、どんな音響なのか想像できてしまう。

実際オケの音を聴いた感じは、まったく予想通りの印象で、一言で言うと” 濃い音”。響き具合は、かなりライブで、壁からの反射音(響き)の量が多い。座席は自由席で、ちょうどセンターど真ん中で、ホールの響きを感じやすいように後方の席に座った。そうすると演奏中、左右の壁からはもちろん、天井などからも、要は自分の周り全体から響きを浴びるような感覚だった。

直接音と間接音の対比バランスでも間接音が8:2〜7:3くらいの感じなのだけど、実際の響きはもっと多めの感じに聴こえる。容積も小さいホールなので、反射してからの響きの減衰も少なく観客に到達するので、かなり響き過多に聴こえる感じなのだと思う。もちろんステージからの直接音は輪郭の縁取りがくっきりな明確な音だ。


この前田ホール、まさしく典型的なシューボックスの音響だ。
普通の都内のホールの半分くらいの容積なので、その音もかなり濃い感じだ。はっきり言わせてもらうと、在京楽団のフランチャイズの都内の大ホールよりもこの前田ホールのほうが断然音響がいい、と思った。音像の明確さと響きの豊富さのバランスがうまく取れている理想郷という感じで、なによりもこれだけ音響がいいとオケの演奏が鮮えるのである。
今日は大学オケだったが、不詳にもプロとの区別がつかなかった。あせあせ(飛び散る汗) まず音の良さが耳に印象的に残ってしまい、演奏がすごく素敵に聴こえるのである。逆を言えば、いかにベルリン・フィル、ウィーン・フィルでも音響の悪いホールでの演奏だとがっかりするということだろう。

さてコンサート。今回のオケは、洗足学園音楽大学アンサンブルアカデミーという、大学内で2年間のアンサンブル専門教育機関として去年の4月より開校した専門コースの俊英達の集まり。国内外の名門オーケストラのコンサートマスター経験者の指導のもと学んだ学生達だ。

安永さん、市野さんの教え子達で、その先生のもと、普段の練習の成果をお披露目する日なのだ。

この大学オケは指揮者は置かない。
コンサートマスターは、もちろん安永さん。
モーツァルトのピアノ協奏曲では奥さんの市野あゆみさんがソリストだった。

安永さんのアインザッツで演奏が始まる。ベルリン・フィル時代、アインザッツのうまいコンマスで有名だった安永さん、そのアクション動作はまったく昔と変わっていなく格好よかった。3曲とも素晴らしかったが、特に印象的だったのは、2曲目のマルティノフのカム・イン!。聴いたことのない曲だったが、じつに美しい旋律で素晴らしい曲だ。安永さんが指揮者のところに立って、オケの指揮をしながら、Vnの独奏をするというスタイルで、かなりしびれるものがあった。この曲の演奏の間は夢見心地だった。

こういうコンサートって聴いているほうは緊張する。いわゆる最前線のプロなら、遠慮なくばっさりと斬れるのだが(笑)、いわゆる功労者的存在で、どうしてもひいき目、遠慮がちに見ざるを得ないところがある。でもそんな心配もいざ始まってみると、無用な心配だった。既述のようにホールの音響があまりに素晴らしいので、プロとの区別がつかないくらい素晴らしい演奏に聴こえた。純粋に演奏面をとっても、オケのアンサンブルの精緻さ、全体としてのパフォーマンスを考えても、決してプロに聴き劣りすることなんてなく堂々としたものだった。

この大学オケ、かなりレベルが高い。

なによりも嬉しかったのは安永さんや市野さんが学生達と楽しそうに協奏している姿を拝聴して、これがあの2人が本来理想としていた自分達のあるべき姿なんだろうな、と思えたことだ。自分達の教え子達を誘いながら、自分も楽しむ。そんな風情が感じ取れた。

かつて世界のトップレベルの舞台で活躍していた奏者という立場を捨てて、こういう自分の足がしっかりと地についた活動をするというのは、奏者である自分のエゴを吸収してくれる意味でいい気持ちなのだろう。トップ奏者の立場では、なかなか自分を殺さないといけないシチュエーションも多いだろうし。

そういった意味で、今回の演奏会で、なによりもお二人が楽しそうに、のびのびと演奏しているように思えたのが、なによりのうれしい収穫だった。

安永さん、お元気そうでなによりでした。

安永さん、当面このような地道な活動を続けていくと思われるし(全国行脚もしている)、自分の日本での居場所、立ち位置を見つけられた、という点で本人達の軌道に乗った姿なのだろう。

いや、目指すところはもっと懐深いのかもしれない。

こういった姿を、ぜひメディアの方々も取り上げてほしいと思うばかりなのです。

それにしても、この前田ホール、じつにすばらしい音響ですので、ぜひみなさんも行かれてみてください。この洗足学園音楽大学のオケの発表会で頻繁に演奏会がこのホールで開催されていますので、いつでも体験できると思います。

gC3063mhQTR9iOU1362255887[1].jpg

xJfR4uvyDLL7Vfg1362255948[1].jpg 

第10回洗足学園音楽大学アンサンブル・アカデミー演奏会

W.A.モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491
マルティノフ/カム・イン!
シューベルト/交響曲 第3番 ニ長調 D.200

出演:
安永徹(Vn.)
市野あゆみ(Pf.)
洗足学園音楽大学アンサンブルアカデミー

2013/3/2 洗足学園音楽大学 前田ホール


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

椀方

ここには、小生の姪っ子が在学していたこともあり、一度は行きたかったホールでしたが、素晴らしいですね。
by 椀方 (2013-03-11 17:07) 

ノンノン

椀方さん
なんと音楽家族ですねぇ。
いやぁ~ここの音響は素晴らしいですよ。
この洗足学園音楽大学のHPを見ると、大学オケなどのこの前田ホールでの公演スケジュールがわかり、しかもそのHPでそのままチケットの予約もできますので、とても身近にいけますよ。頻繁に演奏会はやっていますよ。ぜひいらしてください。
by ノンノン (2013-03-13 02:04) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。