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ベルリン・イエス・キリスト教会の名録音 [ディスク・レビュー]

mixiのつぶやきでも特集したが、ただいま(2013年10月)ベルリンフィルハーモニー創立50周年ということで、盛り上がっている。 Facebookのタイムラインで、50周年創立のお宝の歴史フォトが頻繁に流れてくるので、否が応でも目にしてこちらとしては意識させられるわけだ。

自分は、カラヤン/ベルリン・フィルが基本ルーツなので、欧州3大ホール(ベルリンフィルハーモニー/ムジークフェライン/アムステルダム・コンセルトヘボウ)(世間では、ボストン・シンフォニーホールを入れてシューボックス型の音響優越さで3大ホールと呼んでいるようだが、自分的には納得できない。)の中でもベルリンフィルハーモニーホールが1番好きだ。

そんなフィルハーモニーが、2008年5月に火災を起こした時に、レコーディングを控えていたベルリンフィルは、ベルリン・イエス・キリスト教会で録音をおこなった。そんなこともあって、この教会のことを久しぶりに思い出して、ネットで検索したら、こんなディスクを発見した。 

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ベルリン・イエス・キリスト教会の名録音(DG)


特にヨーロッパで、クラシック音楽のレコーディングで頻繁に教会が使用されるのは、教会の広い空間が録音に理想的な長い残響を生み出すからである。

DG(ドイツ・グラモフォン)が1949年から70年代半ばまでに行ったベルリンフィルとの録音の大半は、このベルリンのダーレムにあるイエス・キリスト教会が会場として使用された。カラヤンだけでなくベームをはじめ、いろいろな指揮者たちがこの教会を録音場所に使い、いわゆる名盤生産基地として名を欲しいままにしてきた本当にクラシック界の中のメッカ聖地なのである。

ヨーロッパにはそれこそ教会は無数にある訳で、自分はそのどれでもいいという訳ではなく、こういうクラシックの名録音場所として使用されてきた教会に特に惹かれるものがある。

1963年にフィルハーモニーがオープンしたとき、じつは音響がいまいちで、カラヤンは、レコーディングの時はフィルハーモニーを使わずに、イエス・キリスト教会を使い続けていた。その後、フィルハーモニーは反響板を設置したり、ステージの高さをいろいろ調整することで、ようやくカラヤンの満足のいく音響になったのは、その10年後だったと言われている。

その後、ようやくベルリンフィルはレコーディングするときは、何ヶ月前からフィルハーモニーでみっちりリハーサルを積んで、ここでレコーディングするようになって現在に至るのである。

3年前にただの海外旅行ではなくて、音楽鑑賞旅行をメインにした新しい旅行スタイルをスタートさせて、その最初の地にベルリンを選んだ。ベルリンフィルが自分の基本なので、フィルハーモニーでベルリンフィルを聴く、ということを目標に.....そのときにベルリンフィルの録音場所として有名なこのイエスキリスト教会も訪問した。

このときの訪問の様子は、私のブログに掲載されていますので、ぜひご覧になってください。

ノンノンのブログ:ベルリン・イエス・キリスト教会訪問→
http://akira-nonaka.blog.so-net.ne.jp/2012-11-13

ベルリン・イエス・キリスト教会は、プロテスタント系の教会のせいなのか、外観、内装空間ともいたってシンプルな構造。ヨーロッパの教会にありがちな派手な装飾を施した内装空間とは縁遠い世界だ。

ベルリン・イエス・キリスト教会
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内部の様子(祭壇)
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オケの収録をするときは、写真の緑の椅子をすべて後方に追いやり、スペースを作って、そこにオケを入れる。正直オケが入るには少々狭い空間であるように感じた。

16型でもう精一杯という感じだろうか。私が訪問した時は、カラヤンは祭壇のところに立って指揮をすると説明を受けたが、その後、ネットでいろいろな写真を観ると、指揮台も用意して、特に祭壇であることに拘らず、自由にロケーションを作っているみたいだ。録音のためのマイクは、もちろん床に立てるスタンド型。

でも録音の度にオーケストラの全ての楽器と録音機材を運び込み、この教会にセッティングするのはかなり大変だったことだと思う。おまけに当時は空港の離着陸進入路が上空にあった為、1回の録音セッションは「30分以内」だったとか。まさに録音テープの継ぎ接ぎで全曲を仕上げる時代であったのだ。

ベルリン・イエス・キリスト教会内部でのレコーディング風景(セッション録音)
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そこで既述のディスクを発見したことで、いわゆるこの教会での録音はどのような音のテイストなのだろう、と改めて聴き込んでみたくなったのだ。いらゆるカラヤン前半期の録音は、ほとんどこの教会でやっているので、ならば、カラヤンの膨大なライブラリーの中から、探せばいいだろう、となるが、これははっきり言って不可能。カラヤンの録音は、本当に膨大な数で、その中から録音場所のクレジットをチェックするなんて気が遠くなる。

このディスクの選曲は、1961年~1972年のこの教会でのベルリンフィルの録音を集めたもので、しかもオムニバスだ。
指揮者もカラヤンをはじめ、ベーム、ヨッフム、クーベリックなど多彩な陣営。

さっそく聴きこんでみると、やはり録音の古さが目立つ。ふだん最新録音の音を聴いているとVividな鮮度感というか、全体的な音調コントラストの明るさ、そしてダイナミックレンジの広さ、という点で、やはり録音技術の古さは否めない。

でもそういう録音条件の悪さの中でも、この教会の空間の響きは、音調表現の幅が大きく、非常にナチュラルな響きから、光沢のある質感まで広範囲に分布している、というか響きのボキャブラリーが多いのがよくわかる。

ふつう教会の響きというとすごく残響が長くて多いイメージがあるけれど、このイエスキリスト教会の録音を聴くと、決してライブじゃない。編集時に加工しているのかもしれないけれど、本当に自然の音色の余韻というか、きわめてナチュラル。たとえばオケがジャーン、という感じで演奏するときもその響きは長くも短くもない適切な長さで、その余韻から程よい空間の広さの感覚が感じ取れる。

教会というよりもコンサートホールに近い感覚。この教会っぽくない自然な音響感覚が、レコーディング場所によく使われた理由なのかな、とも思ったりする。ただ、如何せん、この時代の演奏は、あまり上手でもない。(苦笑)そんなこともあって、録音技術が古いのと演奏が上手でない、ということもあって最初聴いたときはピンとこないのだけど、でもその中にもこの教会の響きの音調表現の素晴らしさは嗅ぎ取れるのだ。

ネットで調べると、新しい録音でもっといいディスクを見つけた。 

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小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ
ブラームス交響曲第4番、ハンガリー舞曲


1989年のベルリン・イエス・キリスト教会でのセッション録音で、サイトウキネンにとっては、はじめてのスタジオ録音だったのだそうだ。これは先のディスクよりも遥かに素晴らしいと思った。やっぱり録音年代が違うとこうも録音技術が違うのか、というくらい。

先のディスクと比較すると、ダイナミックレンジがずっと広く、響きもややライブ気味。でもこれもやはり決して教会っぽくない。空間の広さが素晴らしく感じられる。こうなるとこの教会の空間の響きの音調表現の素晴らしさがよくわかりやすくて本当にヨイ。


あと、3年前のベルリン旅行の時にこの教会訪問の日記にゴローさんからこの教会録音のディスクを2枚紹介してもらった。 

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牧神の午後への前奏曲、夜想曲、『ペレアスとメリザンド』組曲 
アバド&ベルリン・フィル、パユ



これは実に秀逸。特に牧神の午後への前奏曲はあまりに素晴らしく、いままでこの曲で自分が満足できる演奏になかなか出会えなかったのだが、この演奏に出会ってまさに溜飲を下げる思いだった。この曲でいまだにこの演奏を超えるものには遭遇していない。後半はライブ録音で場所が変わってしまうのだが、この牧神の午後への前奏曲だけでも買う価値あり。

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ボレロ、道化師の朝の歌、スペイン狂詩曲、海原の小舟、『マ・メール・ロワ』全曲 
ブーレーズ&ベルリン・フィル



これもこの教会でのセッション録音で、これもじつに秀逸。ホントに演奏、録音、選曲この3つがすべて揃っている珠玉の作品。フランス音楽特有の浮遊感、そしてラベル特有の色彩感、すべてにおいて完璧なまでに表現されていて、このディスクはオーディオマニアのみならずみなさん絶対に必須のディスクだろう。ホントに、ホントに、素晴らしいディスク。騙されたと思って、ぜひ買ってみてください!絶対後悔しません!


こうやっていろいろこの教会録音のディスクを聴いてきたのだが、総じて、およそ教会らしくないコンサートホールに近い感じの空間表現、響きの多彩さ、そんな特質が、この教会がいまでも現役の録音場所として活躍し続ける秘密なのじゃないのかな、と自分の中で結論付けてみている。



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コメント 1

笑太郎

余計な装飾が無い事は、オーケストラのレコーディングをするのには大きな強みだと思われます。カトリック系の教会だと例え音響が良くても柱が多いためオーケストラのレコーディングは困難となります(例えるなら明治村のザビエル天主堂等)。
しかしカトリック系の教会の全てがそうとも言えず、日本でも長崎の浦上天主堂は、明らかにここに観るイエスキリスト教会より広く柱も少ないため、これがヨーロッパならばきっと名レコーディング会場となっていた事請け合いだったでしょう。事実その浦上天主堂ではメジャーオーケストラのレコーディングとまではいかないまでも、地元長崎市内の人々がしばしばコンサートを開いているとの事です。イエスキリスト教会もいまではベルリンフィル等ではない、近隣の愛好家の人々によるコンサートも行われているかもしれませんね。
by 笑太郎 (2018-06-17 21:02) 

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