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体験!ヴィクトリアホール アンセルメ&スイス・ロマンド管のDECCA録音の秘密。 [海外音楽鑑賞旅行]

今回のツアーで、もうひとつ大きな目標があった。スイス・ジュネーヴのヴィクトリアホールで、スイス・ロマンド管弦楽団のコンサートを聴くこと。

ツアーのスローガンはPENTATONEに纏わる旅。スイス・ロマンド管は現在、PENTATONEと契約していて、このヴィクトリアホールで数多の録音を残してきて、しかも現在進行形。最近では、このホールでヤノフスキとブルックナーの交響曲全集を完遂している。

日本の期待の若手ホープ、山田和樹氏もこのスイス・ロマンド管の首席客演指揮者で、フランス音楽集などをはじめ、このヴィクトリアホールで数々の録音をして、PENTATONEから出している。またアラベラ様のメンデルスゾーン&チャイコフスキーのPENATATONE新譜も、デュトワ&スイス・ロマンド管で、このヴィクトリアホールでセッション録音したものなのだ。

まさにポリヒムニア(PENTATONE)にとって、このヴィクトリアホールというのは、もうその音響を知り尽くしたホームグランドのようなもの。

一方でこのヴィクトリアホールは小澤さんのスイス国際アカデミーでも毎年使われるホールでもある。

まさに自分にとって生涯で、どうしても超えないといけない、体験しておかないといけないホールだったのだ。

ヴィクトリアホールは、旧市街のほうにあって、駅前の新市街の私の宿泊ホテルからはローヌ川(旧市街と新市街を隔てている川)を渡って旧市街のほうに行く感じで大体15分位歩くだろうか。いろいろ建物が立ち並んでいる街中に、埋もれるような感じで佇んでいて取り分け目立つという感じでもない。

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ホールの壁には、近々に開催予定のコンサートの告知が.....なかなか素晴らしいコンサートが盛り沢山。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席オーボエ奏者のアレクセイ・オグリンチュク氏が招聘されていたのは驚いた。

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開場とともに、ホワイエ空間に入る。なかなかクラシックな雰囲気で、ヨーロッパの伝統的な建物のテイストがある。後で説明するが、ホール含め、建物自体が縦長なので、ホワイエ空間もそういう感じがして、正直広い空間とは言えず。

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ドリンクバーもこのようにシンプルな造り。

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ブレーク時はこんな感じになる。

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ホールへの入り口は、大きく2箇所ある。
地上の高さから入る入り口。
じつはここのホールは高い位置に造らており、この入り口から入ったとしても、階段で上のほうに上がっていかないとホールにたどり着かないのだ。

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もうひとつは左右から入るこの入り口。
ここから上がって、1階席はもとよりさらにその上の上階席(2,3階席)にあがるのだ。

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そしていよいよホール内に潜入。

事前に写真で見ていたとはいえ、その空間が実際目の前に現れると昇天してしまった。内装はじつに美しい。”ミニ・ウィーン楽友協会”という趣きで、黄金で煌びやかな彫刻が施され、そして華麗な天井画の数々。じつに美しいホール内装である。

ホール後方中央(1階席)からステージ前方を俯瞰した図。

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反対にステージ前からホール後方を俯瞰した図。

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測方。

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華麗な天井画。

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今回の私の座席。(2階席右側)

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形状に少し特徴があって、横幅が極端に狭い縦長のホール、つまりうなぎの寝床。キャパも本当に少人数で、ひょっとすると日本の大きめの室内楽ホールくらいの容積かもしれない。

この日はTVの収録があったようで、上階席左右にカメラ、そしてステージ上空には収録マイクがセッティングされていた。もちろん天井から吊るすということが困難なホール形状であるから、ホール左右側方の手すりから横断的にマイクを吊るすという全体像をキャプチャーするメインマイクに立脚のピックアップマイクという図式であった。

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スイス・ロマンド管弦楽団というのは、エルネスト・アンセルメという指揮者によって創設されたスイスのオーケストラで、じつに半世紀に渡って、アンセルメが実権を握り、まさにアンセルメの楽器とまでいわれたオーケストラでもあった。

まさにスイス・ロマンド管を一躍有名にした指揮者であり、その要因は、英DECCAレーベルと録音をかさねた膨大な数々のLP。まさに”ステレオ録音”の先駆けの時代で、DECCAに於ける”はじめてのステレオ録音”ということを具現化していき、このDECCA録音でアンセルメ&スイス・ロマンド管は、まさに世界的な名声を得たのである。(このオケが世界的に有名になったのは、このDECCA録音のおかげと言っても過言ではない。)

その膨大なライブラリーを録音した会場が、このヴィクトリアホールであった訳である。

1960年代のステレオ録音は、目の覚めるような鮮やかな管楽器、濡れたように艶やかな弦楽器といったいかにもハイファイ・高解像度を感じさせる、録音マジックと言って過言でないものだった。

1960年代の半ばに、レコード人気を背景に来日公演を行っていて東京文化会館でその演奏に接した音楽評論家の高城さんは、レコードで耳にするのとは全く異なって 普通のオーケストラのサウンドだったと記され(笑)、 DECCAのレコーディング・マジックによって「創られたサウンド」だと解説した。 つまり「レコードは、生演奏とは音色・バランスが違う」、「これぞマルチ・マイク録音だ」という例えにされたわけだ。

確かに録音の編集時にいろいろ色をつけることは可能。このような鮮やかなサウンドに感じたのはDECCAチームによる脚色であったところも大きいのだろう。

でも、いくらDECCAマジックとか言っても およそクラシックの録音では、そんなに非現実的なサウンドを創り出せるものではない。 特に1960年代前半は ミキシングといっても6本のマイクを使うのが精一杯で録音は ダイレクトに2chでテープレコーダーに記録された。 つまり アンセルメ・スイスロマンド管のDECCA録音の場合、ヴィクトリアホールで東京文化会館とは、全く異次元のサウンドが鳴り響いていたのであろう、と推測できた。

今回ホールを経験できて、そのひとつの大きな特徴を確認することが出来たのだ。

オーケストラ録音で直面するオケの大半を占める弦楽器セクションの厚い音色に対して、後方に位置する木管や金管などの管楽器、打楽器などをどのように浮かび上がらせるか、という録音技術の問題。

昔からひとつのオーケストラ録音としては大きな課題でいろいろ工夫のあるところ(代表的にはマイクの設定方法の工夫など。)なのだが、この日のヴィクトリアホールの造りを観てなるほどと合点がいった。

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ヴィクトリアホールというのは、上方のパイプオルガンからステージにむけて非常に勾配の急な”ひな壇”があるのだ。そして彼らは生演奏や録音のときも、このひな壇を利用して、木管奏者から金管奏者、そして打楽器奏者にかけて、このひな壇に座らせるのだ。もちろん現在のコンサートホールでも弦セクションに隠れないように段差はつけているが、このヴィクトリアホールの段差ほど急勾配ではないと思う。これだけ急勾配でしかもひな壇の段数も多いので、座らせる高さもいろいろ調整できると思うのである。

こうすることで、木管、金管の見通しのよい遠近感、立体感がが曇りなく見渡せる、後方から音がさらりと流れてくるような立体・空間表現も容易いと思うのだ。収録や録音の編集うんぬんで苦労するよりも。

つまりこのひな壇に管楽器・打楽器を配置することでメイン・マイクに対して 立体的に音源となる楽器を配置できるという強みがあったのだ。

彼らは、もう自分のホームグランドでこのような”よく聴こえるためのトリック”を持っていたのである。録音方法なども極端に急勾配のひな壇に楽器群からマイク迄をほぼ等距離に設置したワンポイントマイク録音、等距離だから位相差が少なくリアルに聞こえる....。ワンポイント録音方法と言う言葉が一人歩き、後のテラーク・レーベルに繋がるみたいな.....

いずれにせよこのひな壇をうまく使うのが彼らのDECCAマジックだった訳で、なんかそれをリアルに見れたという事実は、自分の大きな財産とだと思えた。

これだと確かにホームでの演奏や、録音は抜群にすばらしい評価かもしれないけれど、アウェイのホールだと化けの皮が剥がれてしまうという逸話もわかるような気がする。(笑)


ところがPENTATONEが、ヤノフスキの指揮でスイス・ロマンド管をヴィクトリアホールで定期的に録音するようになってから、ひとつの疑問が生じた。 彼らの録音で聴くブルックナーは、非常に優秀な録音であることは間違いないが、かつてのDECCA録音のような個性的な空間バランスや音色ではない。
 
ゴローさんがPENTATONEのこのヤノフスキのセッション録音に立ち会って、その回答を見つけた。このヴィクトリアホールは 数年前に改修されてステージが客席方向に向かって大きく拡張され 広くなっていたのだ。 だから最近は 合唱以外は オルガン前のひな壇を使わずにオーケストラを配置していると説明を受けたとのことだった。 録音されていたのは、2管編成のブルックナーの交響曲第1番だったので確かにひな壇は使われていなかったそうである。

でも、今日このホールに入って、スイス・ロマンドのコンサートを聴いたときに、上の写真のように程度の問題はあれ、ひな壇を使っている彼らの姿を見ることができたのは幸運だったかもしれない。


ホールの音響の印象であるが、非常に高域が煌びやかな印象で、間違いなくウィーン楽友協会と同じ理屈で壁の美しい彫刻による凹凸によって音が乱反射され、煌びやかな響きになるのだと思う。反面やや低域の量感の不足を感じた。ブルックナーのような重心の低い音作りでは、低域は重要なのだが、自分の推測ではあるが、低域というのは波長が長いので、このような縦長で狭い容積のホールでは低域は十分に再生し尽せないのだろうと思った。

コンサートホールでの生演奏では量感たっぷりに感じるオーケストラのサウンドでも、家庭のオーディオルームで聴くとあの低域が再現できないのは、その再生空間の違いで、容積が小さい空間では波長の長い低域の再生は難しいからなのだと思う。

響きは非常にライブな空間で、ひとえに煌びやか。

ただホールが狭いせいか、オケの音がトゥッティのような大音量になったときに、サチルというか飽和する感覚があった。(大音量の時にうるさく感じること。聴いている空間に余裕がないこと。)

でもここがアムステルダム・コンセルトヘボウについで第2のホームグランドと言ってもいいPENATONEの録音を聴くと、そういう現象に出会ったこともない。やはりポリヒムニアは、その音響ノウハウを知り尽くしていて、うまく録っているのかもしれない。

私が訪れたその数日後に、山田和樹氏とスイス・ロマンド管とポリヒムニアのメンバーが、新作の収録のために、このヴィクトリアホールに現地入りしたようである。フランス音楽集を録るそうで、このホールでセッション録音に入った。

最新のサラウンド技術であるAuro-3D(従来の水平方向に加えて、垂直の高さ方向の3次元ディメンジョンで音の表現ができるようになるサラウンド音響の新技術)を使って録音しているようだ。(ポリヒムニアのFBページで高々と宣言しておりました。(笑)写真を拝借します。)

録音セッションを確認している山田和樹氏とポリヒムニアのトーンマイスター、エルド・グロード氏。

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これがヴィクトリアホールを使ってのポリヒムニアのAuro-3Dでのマイクセッティング手法。

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いずれにせよ、山田和樹氏&スイス・ロマンド管の、この最新技術を駆使したPENTATONE新譜が楽しみである。

さて、コンサートの印象。

この日は、コルネリウス・マイスターという若手の指揮者に、ピアノ独奏にアレクサンダー・ガヴリリュックでシューマンのピアノ協奏曲、そして後半は、ブルックナー交響曲第7番。

ふだんオーディオで聴くスイス・ロマンド管の演奏は、特にフランス音楽を奏でさせたら、弦セクションをはじめ、その旋律の泣かせ方が非常に優雅で、卓越したものがあるという印象のあるオーケストラである。

前半のシューマンのピアノ協奏曲は、私はこの曲に相当煩いので(笑)、正直満足できる、感動できた演奏だったかというと60%くらいの満足度だろうか。ピアノとオケとの合奏であるが、どちらかというとピアノが走って、それにうまくオケが追いかけて乗っていくような軽快でリズミカルな要素が欲しい曲(特に最終盤)なのだが、どうもドタドタ感というか重い感じがして感心しなかった。特に独奏のアレクサンダー・ガヴリリュック氏のピアノに不満を感じた。もう少しコロコロ転がすように軽快な奏法が欲しかった。

後半のブルックナー7番。これは最高とまでは言えないが、満足できた演奏だった。ブルックナー特有の拍、それに合う音色の重さがよく表現できていたと思う。ヤノフスキの録音よりもずっといいと思った。(笑)

さて、帰国後の話......

ホワイエのCDショップで購入したSACD。

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mDG-GOLDという聞いたことのないレーベル。SACDサラウンドであったので、珍しいと思い購入してみた。聴いていたら、あまり感心しない録音でした。(笑)残響ばかりが多い薄いサウンドで、真の意味のサラウンドを理解していない録音ですね。

その横にあるのが、スイス・ロマンドのチケットホルダー。

カッコイイですね。すごいお洒落。このチケットホルダーの写真フォトもそうだけれど、ホールの壁にあったポスターにあるように彼らのイメージフォトってひとつの共通のテイストがありますね。スイス・ロマンドというオケは、大オーケストラではないけれど、ちょっとコンパクトな格好よさがあって、ホールも小ぶりの美しさだし、自分たちのブランドのイメージ作りがすごい上手だと思う。

もうひとつ思ったことは、このチケットホルダーにこのようにお金をかけるというセンス。これは日本にはありませんね。Eチケットがあたりまえになっている、このご時世に、チケットホルダーにこのように真心をこめてお洒落に作るセンスは、なんかヨーロッパらしい、というか、自分はこういうレトロな感覚がスゴク好き。感動した出来事でした。

そして、これだけ話題に上げて今回の一大テーマであったアンセルメ&スイス・ロマンドのDECCAレコーディングス。

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自分はアナログはやらないので、この頃の録音がCDになっているBOXがあって、思わず買いました。

フランス音楽集とロシア音楽集。

たしかに「目の覚める様なDECCAマジック」と言われても、今聴けば、所詮は1960年代の古い録音で、ナローレンジ(狭帯域)なんだけれど、デフォルメされた音作り、当時としては十分すぎるくらい異次元の音色のパレットの多彩さがよくわかる優秀録音であることが感じ取れる。いま、このBOXのサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」を聴いて、当時のホールでの実体験(ひな壇)をしみじみ思い出しているところです。


2015/10/7 20:00~ スイス・ロマンド管弦楽団演奏会 ヴィクトリアホール(スイス・ジュネーブ)

指揮:コルネリウス・マイスター
ピアノ独奏:アレクサンダー・ガヴリリュク
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

ロベルト・シューマン
ピアノ協奏曲 イ短調 作品54(1845年作曲)

アントン・ブルックナー
交響曲第7番 ホ長調 (1881-1883年作曲)


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