立川シネマシティの極上音響上映 [オーディオ]
映画館の音響は、昔からあまり好きなほうではなく、PA(拡声装置)を通すことが前提のサウンドで、なんかこう電気的な音で、大音量、爆音になるとシステムのDレンジがオーバーになる感じで歪む、というイメージがつきまとって、ちょっと苦手意識が昔からあった。
だったら、映画公開のときはガマンして、Blu-rayやDVDになってから、買うなりレンタルするなりして、ウチで観たほうがずっと安心できる音だと思っていた。
そこに立川シネマシティの「極上音響上映」や「極上爆音上映」という笑える(失礼)キャッチフレーズを知って興味が湧いた。
それもそれだけではなく、小澤サイトウキネンのNHKエンタープライズから出ているBD「幻想&巨人」を上映するというからさらにそれに惹かれた。ゴローさんの渾身作である。
昔、ゴローさんが編集制作用のスタジオとして、二子玉川のマンションの1室を借り切って、そこにオーディオシステムをセッティングしていた。
そこにはじめてお邪魔した時に、まずオフ会の前に、近くのレストランでランチでもしよう、ということで、サシで食べながらお話をした。その中に、この「幻想&巨人」の話が出たのを思い出した。
確かに小澤さんのBDでは、「悲愴」が圧倒的に有名でエポックメイキングだったかもしれないけれど、じつは自分のこれは!、と思う渾身作としては、「幻想&巨人」なんだよね。だから、ノンノンさんにも、ぜひ「幻想&巨人」を観て、聴いてもらいたいと思っているんだよ。
と、かなり強力にプッシュされたことを思い出した。もちろん、その後購入した。
これは、あくまでいま考えた自分の推測なのだけれど、「悲愴」というのは、業界ではじめてBDでオーケストラコンサートを収録するというビッグイベントで、オケはベルリンフィル、映像はNHKが担当して、音声はDGのエミール・ベルリナー・スタジオが担当して、トーンマイスターはライナー・マイヤール氏だった。だからまず成功することが必須だった。
でも「幻想&巨人」は、小澤さん手兵のサイトウ・キネン・オーケストラで、映像、音声ともNHKの自分たちのスタッフで作り上げたものだった。だから本当に自分たちの力だけで作り上げた、ゴローさんが本当の意味で自分の渾身作と力説していたのは、そういうところにあるんじゃないかな、と今考えると思うのだ。
立川市というのは小澤さんと縁のある土地だそうで、その小澤さん生誕80周年を記念して、立川シネマシティで、その「幻想&巨人」を極上音響上映で放映する、ということになった。
なんか、偶然とはいえ、ゴローさんから誘われている気がしてならない。
これは絶対行かないといけない。
ようやく時間を作って、今日実行。
立川シネマシティというのは。立川シネマシティと立川シネマシティ2と二つの映画館からなる。
立川シネマシティ
立川シネマシティ2
小澤さん映画を上映するのは、立川シネマシティ2のほうである。
チケット売り場。
上映フロアであるCフロア。
やはり自分の最大の関心は、「極上音響上映」と堂々と唄う限り、映画館サウンドとしてどのレベルなのか、いじわる試験じゃないけれど確認したかったのである。
小澤映画は「極上音響上映」で、「極上爆音上映」ではない。
ドキドキしながら入ってみた。
入ってみて、驚いたのはこれ!
天井SPじゃないけれど、側面にはサラウンド用のSPが壁に貼りつけられていた。
昨今の3次元立体音響の走りですね。もちろんSP配置自体、Dolby Atmosでもなければ、Auro-3Dでもない。思わず笑ってしまった。
自分は全く知らなかったのであるが、立川シネマシティはふつうの映画館フロアもたくさんあるのだけれど(映画館としては規模はかなり大きい。)、この「極上音響上映」をするフロアは、映画館というよりは音楽ライブ用のSPを備えた音響設備だそうで、さらに日本を代表する音響家によって、この小澤BDを放映するために、綿密な調整をしたそうで(驚)、これまでの映画館の音響の概念を変えるクオリティを実現したのだそうだ。
まさに、「音響のシネマシティ」としてクラシック音楽に挑戦!だそう。
この作品のために、そこまで準備されていたとは!そのことを知って、考えすぎの自惚れかもしれないが、映画サウンドにいいイメージを抱いていなかった自分に、映画館でもここまでできるんですよ!ということをゴローさんの渾身作「幻想&巨人」で証明してくれる、ということなのか、と勝手に思い込み、涙した。
やはり今日来てよかった!
そのSP配置なのだが、
スクリーン下にセンターSP。
そしてフロントL,Rに相当するのが、スクリーン横の真ん中のポジションに設置されたSP。(写真が暗すぎて、ちょっとSPの存在がわかりにくいですね。)
家庭用のサラウンドのポジショニングとほぼ同等で違和感はない。
そして、左右両側の壁に3ch分の側面SPが配置されているのだ。
天井はこんな感じ。
リアにSPがあったかどうかは、オフの時も館内は暗いので、わからなかった。たぶんあるでしょう。
館内前方の左右の下方側面にはルームチューニング用の調音パネルが設置されていた。デッドニング(吸音)目的なのだろうか。(それともこれもSP?暗くてよくわかりませんでした。)
左前方側面
右前方側面
さっそく本編のサウンドの印象について述べよう。
結論からすると、確かにいままでの概念とは違う(いわゆる自分の映画館サウンドのイメージとは違う)垢抜けたサウンドだったと思う。
電気的で滲んでいるようないままでのイメージよりもずっとピュアで、澄んでいる音だと思った。
映画館なのだからPAを通すことは仕方がないにしろ、ロックコンサートで経験するPAサウンドの幻滅さ(ピアノの音色なんて電気を通すと幻滅。)とは縁遠い素晴らしいサウンドだった。
歪曲されず、ちゃんと各々の楽器のイメージに適した音色が出ていたし、オーケストラサウンドとして立派であった。
弦楽器の艶感とか、低弦のゾリゾリ感や拡がりと音としてのボディー感、木管の艶やかさ、金管の圧倒的な咆哮、打楽器の炸裂感など、きちんとオケサウンドに必須の表現ができていた。
昔ゴローさんが、ベルリンフィルのヴァルトビューネを観に行ったとき、野外のPAとは思えない本当にベルリンフィルハーモニーで聴いているかのようなサウンドで、PAエンジニアが優秀だとこうも違うんだなぁ、と感想を言っていたのを思い出した。
自分は中央より数席前方のど真ん中センターで聴いたのだが、やはり左右側面のサラウンドSPの影響もあるのか、全体の包囲感が抜群に素晴らしい。生演奏では、絶対こうは聴こえないオーディオライクなアプローチ。
自分は生は生、オーディオはオーディオという考えの持ち主なので、こういう快感は大歓迎。(生演奏では絶対こういう風~包囲感~には聴こえない。)
いま話題の3次元立体音響も映画館や家庭内で成功すれば、こんな感じなのかなぁというイメージが抱けた。
もうひとつ考えさせられたのは、映画館の音響とはまた別問題で、このソフトの収録技術というか、いわゆるゴロースタッフの卓越した収録。映画館で聴くと新たな発見があるのだ。
まず、今日聴いたサウンドには、自分のウチでは聴こえない音がたくさん聴こえたのだ。(笑)
現場の臨場感を醸し出す、生々しいホール内の暗騒音。
ゴローさんは完全な暗騒音派だった。
ホールの暗騒音が静かに部屋に溶け込むように鳴ってそれから音楽が立ちあがる方が リラックスして音楽に入っていける。
音が空間で混じり合う響きを美味しく捉えるにはある程度マイクを離して 暗騒音が入ってもやむをえない、それより自然な響きを大切にしよう。
そういった考えを重視していて、ゴローソフトには、かなり暗騒音がたっぷり入っているものが多い。
暗騒音や演奏ノイズは 臨場感を高める働きがあって、ピアノ録音でもペダルノイズが入ったものを結構好んで聴いていた。
もうひとつ収録技術で驚いたのは、各楽器の佇まい、定位の問題。
第1/2ヴァイオリンの音色は、きちんと左側のほうから聴こえて、チェロやコントラバスの低弦はきちんと右側から聴こえる。そして打楽器、木管などの遠近感も曇りなく見渡せて、らしく聴こえる。
要はオーケストラの配置にピッタリ合うように編集時できちんと各チャンネルに音が振り分けられているのだ。生演奏で聴いているのと変わらないように。
昔、第1ヴァイオリンはどこから聴こえるべきなのか?というテーマに挑んでおられて、木管を綺麗に浮かび上がらせるために目の前にいる大群の弦楽器群をどうさばいてマイクアレンジをするか、話されていた。
そういうのを感じながら、映像を観ていたら、ゴロースタッフのサイトウキネンを録るときのマイクアレンジは、相当なマルチマイクだということもわかった。(笑)
おびただしい立脚式のピックアップに、天井もふつうのワンポイントではなくて、かなり多数のマイクがぶらさがっていた。
おびただしいマルチマイクで録って、編集時にオケの実際の配置に沿った編集は、なかなか大変だろう、と思った。
これらの問題は、今日映画館の大空間で聴いてみて、はじめて気づかされたことで、驚きだった。
新鮮だった。
敢えて不満を言えば、映像かなぁ。
やはりBDの2K HDの画像を、200~300インチはあろうか、というスクリーン大画面に映すこと自体に無理がある。
解像度が悪くて、画面がざらついていてあきらかにS/Nが悪い。
これは仕方がない。
とにかく今日この映画館に来てよかった。確かに映画館サウンドのイメージが変わった。
ゴローさんからの誘いのように思えた。
終わるときに、スクリーン下部にスタッフの名前が流れるのだが、1番最後に、
”Director Goro Kobayashi”で終わった時は、さすがに泣けた。
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