東京文化会館バックステージツアー [コンサートホール&オペラハウス]
1986年にサントリーホールができる以前は、首都圏のクラシック文化のメッカは東京文化会館が担っていた。
首都圏のクラシックのコンサートホールの歴史を紐解いてみると、1890年に日本で初めての演奏会場である旧東京音楽学校奏楽堂ができた。
それから、1929年に日比谷公会堂が戦前の主要演奏会場として使われ、カラヤンのベルリンフィルの初来日公演もここでおこなわれた。
そして、1954年に神奈川県立音楽堂が完成した。木造ホールで、「東洋一の響き」と言われた。
1961年に東京文化会館が完成して、初めて内外に高い評価を得ることができ、主要な演奏会場となった。サントリーホールが1986年 にできるまでの25年間,音楽演奏の中心にあり続けた。
そして1986年にサントリーホールが開館して、東京文化会館と人気を二分する形で現在も活躍している。
日本のコンサートホールの設計に関する歴史上の重要人物を上げるなら、前川國男氏と永田穂氏が挙げられる、と思う。
永田穂先生は、もうご存知、永田音響設計の礎を築き、日本の代表的なコンサートホールをほとんど全てと言っていいほど手掛けてきて、更には世界の著名なコンサートホールにもその実績は及び、日本のコンサートホール音響設計のパイオニアといっていい。
神奈川県立音楽堂と東京文化会館を設計したのが、前川國男氏。
専門が建築の彼の音の拠り所は ル・コルビジェのもとで過ごしたパリにあると考えられる。
彼の音のルーツにはフランスの音がある、といえ、彼がフランスで学び,終生建築時の技術の核とした「コンクリート打ちっぱなし」という技術は、建物の建築においてコンクリートの肌がむき出しで、東京文化会館ではホール内壁にも現れていて音響にも大きく影響している。
そんな前川國男氏の最大の建築物の遺産といえる東京文化会館のバックステージツアーに参加してきて、その舞台裏に迫ってきた。
東京文化会館
国立西洋美術館の基本設計を行ったル・コルビュジェは、美術館のほか周辺一帯の敷地に劇場、企画展示館を含む文化センター構想を提案していた。そこに弟子である前川國男氏が、劇場として東京文化会館を設計した。
東京文化会館は、クラシックコンサート、オペラ、バレエの上演を目的とした公共音楽文化施設で、1961年4月にJR上野駅公園口にオープン。大ホール(2303席、純音楽、オペラ、バレエ)と小ホール(649席、リサイタル、室内楽用)、そしてリハーサル室、練習室、音楽資料室などがある。
今回のバックステージは、大ホールのみである。
前述のように、このホールの特徴は、建築の基本技術が,前川氏がル・コルビジェの元で学んだコンクリート打ちっぱなしの技術であること。そのためホール内でも例えば2階席や3階席の張り出し部や柱などがコンクリートの肌がむき出しになっている。
我々のオーディオ&音楽仲間内では、東京文化会館大ホールの音響はデッドというのが定説。
データによると満席時の中音残響時間は、1.5秒と確かに数字的にもデッドであることが証明されている。そういう大ホールの中でも音響がよくてお勧めなのが、最上階の5階席というのが仲間内でも通説になっている。
でも意外や意外、自分はこの最上階の5階席というのは経験がなかった。今回のバックステージツアーではじめて5階席に昇ってみた。
そうすると、こんなに見晴らしのいい光景が!
これだけステージの奥行き含め、全体がすっきりと俯瞰できて、しかも音響が一番素晴らしい座席ということなのであれば、次回からはこの5階席を選んでみようと思った。
両サイドにつくった雲形のブナ材で作った拡散体は戦後の抽象彫刻を代表する作家の一人である向井良吉さんのよってつくられているそうだ。
建築家が設計する幾何学的な面によってではなく芸術によって創造する造形によって成し遂げようとして設計責任者の前川氏は、彫刻家向井氏にその意図を伝えるのに「火山が爆発寸前だ。大地が亀の子状に地割れしてところどころに赤い火が燃え始めたというよいな壁はどうだろう」と持ちかけた、ところからこのようなデザインになったそうだ。左右でデザインが違うのだ。おわかりいなるだろうか・・・
ホールの形状は六角形。ホールのタイプ別としては、いわゆる扇型のコンサートホール。
この扇形状は他のホールにはないほど両壁面が開いたもので、壁面間での反射音の行き来が少なくなることを意味していて、このこともこのホールの音の響きを特徴づけている。
このホールは、シューボックス型のホールの側方からの反射音で響きを作る方式ではなく,ハース効果の理論で音響設計されている。ハース効果とは直接音に対して 50m秒までの反射音は直接音を強化するが、50m秒以上の時間遅れの反射音は分離してエコーになってしまうというもの。
そのため、50m秒以内の主たる響きを作る反射音を舞台後方から客席深く天井に伸ばした可動式反射板(これは後で説明する)で作っているのだ。50m秒以上の反射音に関わる壁面には拡散体や吸音面を設置している。ステージの両脇につくった雲形のブナ材で作った拡散体はそのためのもの。
このホールの音の流れというか音響の特徴って、反射音はステージ背後から客席上部の天井にかけて設置された反射板により客席に届けられる。
シューボックス型の場合、反射音は左右の平行な壁面から客席に届く。そのため人体の耳が左右にあるのでどうしても音像が揺れたり膨らんだりする。
その反面、人間の耳の左右サイドから反射音が入ると、音の広がりや響きが豊かに感じるという人の聴覚の特徴から、シューボックスって響きに囲まれていて音が濃くて、いい音響と言うような印象が強い。
しかし,東京文化会館は、どこのホ ールよりも大きく開いた両側壁面は その役目を持っていない。つまりこのホールって、前方から直接音が来ると同時に、タイミングが遅れて、反射音が、これまた前方からやってくる、というのが、大きな音の流れの特徴になっていて、側面からの反射音の影響は少ないという構造になっている。
なので両側面で反射を繰り返す響きの豊富なシューボックスにありがちな音像の響きのよる埋没・混濁という影響も少ない。演奏でも個々の楽器の音像が融合することなく明確な輪郭でしかも小さい音像で存在する、というように理論上ではなっている。
あくまで教科書的な机上の考え方であるけれど、このように側面壁の影響がなく、前方から直接音、反射音がやってくるというのは、響きで音像が広がらず、コンパクトにしかし奥行き方向に響きができるので音像が立体的に感じられる、という表現がぴったりくるのかもしれない。
実際の聴感上でも、ぶっちゃけデッドに感じるのも側面の反射音が期待できず、前方のみの反射音&響きに依存するところが多いのが原因なのでしょうね。
音像が小さく立体的というメリットとのトレードオフなのかも?です。オーディオルームでも同じですが、”音像と音場の両立は難しい”というセオリーがここでも立派に成立すると思いました。
東京文化会館のような響きが多すぎなくややドライで,個々の楽器が明快で曖昧さがなく集中できるホールでは,一つのものに向かって行くベートーヴェンのような古典派のような音楽がこのホールにあっていて、オーケストラが取り上げることが多いようだ。
シューボックス型のホールでは溢れんばかりの響きで情感の高揚感を味わうロマン派の音楽が適しているし、ワインヤード型などのアリーナ形式のホールは、ホールのコンセプトとして演奏者と聴衆の交流とか、音についてもステージと客席の一体感を目指しているので、聴き終わったあとは、みんなで良かったね、と喜びあって聞き終える音楽の演奏に合ったホールだと思う。
東京文化会館の大ホールは、クラシックコンサートとオペラの舞台が共有できるので、どうやっているのか、昔から興味があった。それが今回のバックステージツアーで解決できて、頭がすっきりした。
クラシックコンサート用のステージは、背面から天井に向かっての反射板が、もうステージ固定で取り付けられていて、この反射板がくっついたまま、ステージごと地下の奈落に格納される仕組みになっているのだ。
そしてそのクラシックコンサート用のステージの上空側にはオペラの舞台ステージがある訳。
つまり反射板ごとのクラシックコンサート用のステージを可動で、地下の奈落に格納すると、上からオペラの舞台ステージが下がってくる。逆を言えば、オペラの舞台ステージを上方に可動で上げると、地下からクラシックコンサート用の反射板が取り付けられたままのステージが、上がってくるという仕組みなのだ。ステージにデファクトで取り付けられている可動式の反射板は、天井サイドとガチャンと接合する。
1998 年に13ヶ月をかけて行った大改修があり、その中で大きな工事は、いま言及したオペラ やバレエにも十分対応できる舞台にするため,ホールの舞台反射板をス テージ部の地下の奈落に収納できる ようにしたこと。そのため奈落 の下を8m掘り下げた。
この写真は結合される側のホールの天井。
へぇー。
さっそくバックステージツアーで舞台裏に潜入して、地下の奈落に格納されている状態のクラシックコンサート用のステージを発見。
その後、オーケストラ・ピットに潜入。
結構深い。団員70名くらい入るそうだ。
ステージ直下のところのエリアが納屋みたいになっていて、そこに椅子やプルト譜面だが格納されている。
ワーグナーのような大編成になると、さすがにこのピットエリアだけでは足りないので、この納屋の部分の扉を全部取っ払って、この納屋エリアにも団員を配置するそうだ。なにせ、納屋に人員を入れ込むため、音が籠ってしまう。その際は、なるべく打楽器など、音色が籠っても大きな影響がないような楽器を優先に、この納屋スペースに入ってもらうのだそうだ。
このピットの床は可動式になっていて、高さを調節できるようになっている。
だからオペラではなく、普通のクラシックのコンサートの場合は、このピットエリアの床は、そのまま上に可動になって、ステージと同じ高さになってステージ本体と結合するわけだ。
ぐんぐん床が上がってくる。
そしてオペラステージと同じ高さに。。。ステージ本体と結合する。
へぇー。
ステージ上からホール背面をきちんと撮影してみる。
ここで観客席が大半は赤いのだけれど、ところどころで、色が違うものが散乱しているのがわかるだろう。これは、なんのためにやっているかというと、客があまり入っていないとき、ステージ上の出演者たちから見たとき、客席の赤いのが目立つといやなので、色をこのようにカモフラージュすることで、空席ということをわからないようにしている工夫なのだそうだ。(笑)
つぎにオペラ用ステージ上の舞台装置などを支える仕組み。
上空からこんなフレームの集合体がぶら下がっている。
これらのフレームは電動で上下に動く訳だ。
もちろんその中から1組のフレームだけ下がったりして操作できるようになっている。
これらがオペラの舞台装置にいろいろ奮闘する訳ですね。
ピットの中からステージの両サイドの中の様子が垣間見え、興奮。(笑)
オペラのステージには、もうひとつ面白い仕掛けがある。
それは写真のようなプロンプターというお仕事。
オペラステージには、このような四角い穴が開いていて、そこに人が入って、そこからオペラ歌手たちに、オペラ劇の進行に合せて、立ち位置を指導したり(そこの場所じゃないとか。(笑))、つぎはあなたが歌う番なのだよ、とかいうゲキをこの穴から指示をするのだ。
その声は、絶対観客席には聴こえないそうだ。だってオペラだからオケは鳴りっぱなしだし、オペラ歌手はずっと歌っている訳だから。この穴の中にカメラが設置されているのがわかるだろう。これがステージの状態を映し出している。これを見て、アドバイスのゲキを送っているということのようだ。
実際は地下から階段で上がってこの場所に座るそうだ。この四角いサイズは、もちろん世界中のオペラハウスで、違うだろうし、中に入る人のサイズも考慮されているのかもしれない。外国のオペラハウスは、巨大な外人が入れるように大き目のサイズにしているとか。。。
つぎにホワイエに移動。
じつに美しい個性的なデザイン。
外側をガラス張りにして、エントランスロビーから大ホールホワイエまでは上野公園の中であることをイメージしたそうである。コンクリート製の柱は木と見立て、木目が写っている。また床のタイルは落ち葉。天井の照明は天の川。一面の星空が、みなさまをお迎えします。(笑)ちなみに、木目が写ったコンクリート製の柱は、国立西洋美術館でも見受けられる。
つぎに客席の最上階5階のほうにあがる。
ここでは、両サイドにカーテンコールのときに、歌手たちにスポットライトを浴びせる照明室がここにあるのだ。実際、その照明を触わらせてくれて、ステージの歌手たちに見据えたツアー客にスポットライトを浴びせるデモもしたりした。
つぎに、ステージの両サイドのスペースを散策。
観客席から向かって、右側のサイド。
うっ壁が、もう出演者のサインでびっしり。
そして反対側の左側のサイド。
もうここは、出演者のサインの巣窟であった。
もうびっしり。圧巻!まさに文化遺産ですね。
こうやってテーブルに置いたまま保管されているサインもある。カラヤンのもあった!
つぎに細い通路を通りながら、リハーサル室に入る。
ここで、オケのみなさんや、歌手のみなさんは本番前のリハーサルをやっているんですね。
さらに楽屋訪問。
大ホール個室1~6は、指揮者とソリスト&歌手たちが待機するお部屋。
こちらが指揮者の個室。ソファがあるのが特徴。シャワーも浴びれるようになっている。
こちらがソリスト&歌手の個室。指揮者のお部屋とはちょっと違いますね。
しっかし、楽屋を通るまでの通路の壁は、ホントにサインでびっしり!スッゴイ!
つぎにオケメンバーなどの大人数の待機部屋。この日は特別に壁をぶち抜いて、広くしているとのことであった。
なぜか、洗濯機を設置するところもあった。(笑)
出演者専用のカフェや軽食時をできるようなところ。
なにかここで食べてみたい。(笑)
そしてピアノ格納庫。スタインウエイやベーゼンドルファー、ヤマハのCFXなどが格納されていた。
もちろん大ホールだけでなく小ホールで使うピアノもここに格納されている。
普段は、扉を閉めて、厳密に湿度管理などをしているそうだ。
そしてバックステージツアーも最後の大詰め。
最後は、みんな平土間の観客席に陣取って、オペラ用ステージとクラシックコンサート用ステージの入れ替えを視覚体験。地下から反射板が固定で装着されているコンサート用ステージがあがってきて、それに合わせて、オペラステージが上空にあがっていく様子である。
最後は、コンサート用ステージに装着されている反射板が天井とがガチャンと結合される。
これで東京文化会館のバックステージツアーは終了。
今後の企画として、ちょっとリクエストしたかったのが小ホールのほうのバックステージツアーも入れてほしいと思ったこと。個人的な感想ではあるが、小ホールの音響は、ソリッド気味でクリスタルな響きが魅力の、じつに素晴らしくて、国内の室内楽ホールとしても指折り本数に入る秀逸なホールだと思っている。ステージ後方にある小ホールの音響反射板は、設計した彫刻家 政之氏がタバコの箱の銀紙をぐしゃっとつぶし、広げたものだとか。
あと、ここには音楽資料室が4Fにあって、音楽関係の書籍、CD等音資料、DVD等映像資料等を無料で閲覧・試聴できるようになっている。
首都圏のクラシックのコンサートホールの歴史を紐解いてみると、1890年に日本で初めての演奏会場である旧東京音楽学校奏楽堂ができた。
それから、1929年に日比谷公会堂が戦前の主要演奏会場として使われ、カラヤンのベルリンフィルの初来日公演もここでおこなわれた。
そして、1954年に神奈川県立音楽堂が完成した。木造ホールで、「東洋一の響き」と言われた。
1961年に東京文化会館が完成して、初めて内外に高い評価を得ることができ、主要な演奏会場となった。サントリーホールが1986年 にできるまでの25年間,音楽演奏の中心にあり続けた。
そして1986年にサントリーホールが開館して、東京文化会館と人気を二分する形で現在も活躍している。
日本のコンサートホールの設計に関する歴史上の重要人物を上げるなら、前川國男氏と永田穂氏が挙げられる、と思う。
永田穂先生は、もうご存知、永田音響設計の礎を築き、日本の代表的なコンサートホールをほとんど全てと言っていいほど手掛けてきて、更には世界の著名なコンサートホールにもその実績は及び、日本のコンサートホール音響設計のパイオニアといっていい。
神奈川県立音楽堂と東京文化会館を設計したのが、前川國男氏。
専門が建築の彼の音の拠り所は ル・コルビジェのもとで過ごしたパリにあると考えられる。
彼の音のルーツにはフランスの音がある、といえ、彼がフランスで学び,終生建築時の技術の核とした「コンクリート打ちっぱなし」という技術は、建物の建築においてコンクリートの肌がむき出しで、東京文化会館ではホール内壁にも現れていて音響にも大きく影響している。
そんな前川國男氏の最大の建築物の遺産といえる東京文化会館のバックステージツアーに参加してきて、その舞台裏に迫ってきた。
東京文化会館
国立西洋美術館の基本設計を行ったル・コルビュジェは、美術館のほか周辺一帯の敷地に劇場、企画展示館を含む文化センター構想を提案していた。そこに弟子である前川國男氏が、劇場として東京文化会館を設計した。
東京文化会館は、クラシックコンサート、オペラ、バレエの上演を目的とした公共音楽文化施設で、1961年4月にJR上野駅公園口にオープン。大ホール(2303席、純音楽、オペラ、バレエ)と小ホール(649席、リサイタル、室内楽用)、そしてリハーサル室、練習室、音楽資料室などがある。
今回のバックステージは、大ホールのみである。
前述のように、このホールの特徴は、建築の基本技術が,前川氏がル・コルビジェの元で学んだコンクリート打ちっぱなしの技術であること。そのためホール内でも例えば2階席や3階席の張り出し部や柱などがコンクリートの肌がむき出しになっている。
我々のオーディオ&音楽仲間内では、東京文化会館大ホールの音響はデッドというのが定説。
データによると満席時の中音残響時間は、1.5秒と確かに数字的にもデッドであることが証明されている。そういう大ホールの中でも音響がよくてお勧めなのが、最上階の5階席というのが仲間内でも通説になっている。
でも意外や意外、自分はこの最上階の5階席というのは経験がなかった。今回のバックステージツアーではじめて5階席に昇ってみた。
そうすると、こんなに見晴らしのいい光景が!
これだけステージの奥行き含め、全体がすっきりと俯瞰できて、しかも音響が一番素晴らしい座席ということなのであれば、次回からはこの5階席を選んでみようと思った。
両サイドにつくった雲形のブナ材で作った拡散体は戦後の抽象彫刻を代表する作家の一人である向井良吉さんのよってつくられているそうだ。
建築家が設計する幾何学的な面によってではなく芸術によって創造する造形によって成し遂げようとして設計責任者の前川氏は、彫刻家向井氏にその意図を伝えるのに「火山が爆発寸前だ。大地が亀の子状に地割れしてところどころに赤い火が燃え始めたというよいな壁はどうだろう」と持ちかけた、ところからこのようなデザインになったそうだ。左右でデザインが違うのだ。おわかりいなるだろうか・・・
ホールの形状は六角形。ホールのタイプ別としては、いわゆる扇型のコンサートホール。
この扇形状は他のホールにはないほど両壁面が開いたもので、壁面間での反射音の行き来が少なくなることを意味していて、このこともこのホールの音の響きを特徴づけている。
このホールは、シューボックス型のホールの側方からの反射音で響きを作る方式ではなく,ハース効果の理論で音響設計されている。ハース効果とは直接音に対して 50m秒までの反射音は直接音を強化するが、50m秒以上の時間遅れの反射音は分離してエコーになってしまうというもの。
そのため、50m秒以内の主たる響きを作る反射音を舞台後方から客席深く天井に伸ばした可動式反射板(これは後で説明する)で作っているのだ。50m秒以上の反射音に関わる壁面には拡散体や吸音面を設置している。ステージの両脇につくった雲形のブナ材で作った拡散体はそのためのもの。
このホールの音の流れというか音響の特徴って、反射音はステージ背後から客席上部の天井にかけて設置された反射板により客席に届けられる。
シューボックス型の場合、反射音は左右の平行な壁面から客席に届く。そのため人体の耳が左右にあるのでどうしても音像が揺れたり膨らんだりする。
その反面、人間の耳の左右サイドから反射音が入ると、音の広がりや響きが豊かに感じるという人の聴覚の特徴から、シューボックスって響きに囲まれていて音が濃くて、いい音響と言うような印象が強い。
しかし,東京文化会館は、どこのホ ールよりも大きく開いた両側壁面は その役目を持っていない。つまりこのホールって、前方から直接音が来ると同時に、タイミングが遅れて、反射音が、これまた前方からやってくる、というのが、大きな音の流れの特徴になっていて、側面からの反射音の影響は少ないという構造になっている。
なので両側面で反射を繰り返す響きの豊富なシューボックスにありがちな音像の響きのよる埋没・混濁という影響も少ない。演奏でも個々の楽器の音像が融合することなく明確な輪郭でしかも小さい音像で存在する、というように理論上ではなっている。
あくまで教科書的な机上の考え方であるけれど、このように側面壁の影響がなく、前方から直接音、反射音がやってくるというのは、響きで音像が広がらず、コンパクトにしかし奥行き方向に響きができるので音像が立体的に感じられる、という表現がぴったりくるのかもしれない。
実際の聴感上でも、ぶっちゃけデッドに感じるのも側面の反射音が期待できず、前方のみの反射音&響きに依存するところが多いのが原因なのでしょうね。
音像が小さく立体的というメリットとのトレードオフなのかも?です。オーディオルームでも同じですが、”音像と音場の両立は難しい”というセオリーがここでも立派に成立すると思いました。
東京文化会館のような響きが多すぎなくややドライで,個々の楽器が明快で曖昧さがなく集中できるホールでは,一つのものに向かって行くベートーヴェンのような古典派のような音楽がこのホールにあっていて、オーケストラが取り上げることが多いようだ。
シューボックス型のホールでは溢れんばかりの響きで情感の高揚感を味わうロマン派の音楽が適しているし、ワインヤード型などのアリーナ形式のホールは、ホールのコンセプトとして演奏者と聴衆の交流とか、音についてもステージと客席の一体感を目指しているので、聴き終わったあとは、みんなで良かったね、と喜びあって聞き終える音楽の演奏に合ったホールだと思う。
東京文化会館の大ホールは、クラシックコンサートとオペラの舞台が共有できるので、どうやっているのか、昔から興味があった。それが今回のバックステージツアーで解決できて、頭がすっきりした。
クラシックコンサート用のステージは、背面から天井に向かっての反射板が、もうステージ固定で取り付けられていて、この反射板がくっついたまま、ステージごと地下の奈落に格納される仕組みになっているのだ。
そしてそのクラシックコンサート用のステージの上空側にはオペラの舞台ステージがある訳。
つまり反射板ごとのクラシックコンサート用のステージを可動で、地下の奈落に格納すると、上からオペラの舞台ステージが下がってくる。逆を言えば、オペラの舞台ステージを上方に可動で上げると、地下からクラシックコンサート用の反射板が取り付けられたままのステージが、上がってくるという仕組みなのだ。ステージにデファクトで取り付けられている可動式の反射板は、天井サイドとガチャンと接合する。
1998 年に13ヶ月をかけて行った大改修があり、その中で大きな工事は、いま言及したオペラ やバレエにも十分対応できる舞台にするため,ホールの舞台反射板をス テージ部の地下の奈落に収納できる ようにしたこと。そのため奈落 の下を8m掘り下げた。
この写真は結合される側のホールの天井。
へぇー。
さっそくバックステージツアーで舞台裏に潜入して、地下の奈落に格納されている状態のクラシックコンサート用のステージを発見。
その後、オーケストラ・ピットに潜入。
結構深い。団員70名くらい入るそうだ。
ステージ直下のところのエリアが納屋みたいになっていて、そこに椅子やプルト譜面だが格納されている。
ワーグナーのような大編成になると、さすがにこのピットエリアだけでは足りないので、この納屋の部分の扉を全部取っ払って、この納屋エリアにも団員を配置するそうだ。なにせ、納屋に人員を入れ込むため、音が籠ってしまう。その際は、なるべく打楽器など、音色が籠っても大きな影響がないような楽器を優先に、この納屋スペースに入ってもらうのだそうだ。
このピットの床は可動式になっていて、高さを調節できるようになっている。
だからオペラではなく、普通のクラシックのコンサートの場合は、このピットエリアの床は、そのまま上に可動になって、ステージと同じ高さになってステージ本体と結合するわけだ。
ぐんぐん床が上がってくる。
そしてオペラステージと同じ高さに。。。ステージ本体と結合する。
へぇー。
ステージ上からホール背面をきちんと撮影してみる。
ここで観客席が大半は赤いのだけれど、ところどころで、色が違うものが散乱しているのがわかるだろう。これは、なんのためにやっているかというと、客があまり入っていないとき、ステージ上の出演者たちから見たとき、客席の赤いのが目立つといやなので、色をこのようにカモフラージュすることで、空席ということをわからないようにしている工夫なのだそうだ。(笑)
つぎにオペラ用ステージ上の舞台装置などを支える仕組み。
上空からこんなフレームの集合体がぶら下がっている。
これらのフレームは電動で上下に動く訳だ。
もちろんその中から1組のフレームだけ下がったりして操作できるようになっている。
これらがオペラの舞台装置にいろいろ奮闘する訳ですね。
ピットの中からステージの両サイドの中の様子が垣間見え、興奮。(笑)
オペラのステージには、もうひとつ面白い仕掛けがある。
それは写真のようなプロンプターというお仕事。
オペラステージには、このような四角い穴が開いていて、そこに人が入って、そこからオペラ歌手たちに、オペラ劇の進行に合せて、立ち位置を指導したり(そこの場所じゃないとか。(笑))、つぎはあなたが歌う番なのだよ、とかいうゲキをこの穴から指示をするのだ。
その声は、絶対観客席には聴こえないそうだ。だってオペラだからオケは鳴りっぱなしだし、オペラ歌手はずっと歌っている訳だから。この穴の中にカメラが設置されているのがわかるだろう。これがステージの状態を映し出している。これを見て、アドバイスのゲキを送っているということのようだ。
実際は地下から階段で上がってこの場所に座るそうだ。この四角いサイズは、もちろん世界中のオペラハウスで、違うだろうし、中に入る人のサイズも考慮されているのかもしれない。外国のオペラハウスは、巨大な外人が入れるように大き目のサイズにしているとか。。。
つぎにホワイエに移動。
じつに美しい個性的なデザイン。
外側をガラス張りにして、エントランスロビーから大ホールホワイエまでは上野公園の中であることをイメージしたそうである。コンクリート製の柱は木と見立て、木目が写っている。また床のタイルは落ち葉。天井の照明は天の川。一面の星空が、みなさまをお迎えします。(笑)ちなみに、木目が写ったコンクリート製の柱は、国立西洋美術館でも見受けられる。
つぎに客席の最上階5階のほうにあがる。
ここでは、両サイドにカーテンコールのときに、歌手たちにスポットライトを浴びせる照明室がここにあるのだ。実際、その照明を触わらせてくれて、ステージの歌手たちに見据えたツアー客にスポットライトを浴びせるデモもしたりした。
つぎに、ステージの両サイドのスペースを散策。
観客席から向かって、右側のサイド。
うっ壁が、もう出演者のサインでびっしり。
そして反対側の左側のサイド。
もうここは、出演者のサインの巣窟であった。
もうびっしり。圧巻!まさに文化遺産ですね。
こうやってテーブルに置いたまま保管されているサインもある。カラヤンのもあった!
つぎに細い通路を通りながら、リハーサル室に入る。
ここで、オケのみなさんや、歌手のみなさんは本番前のリハーサルをやっているんですね。
さらに楽屋訪問。
大ホール個室1~6は、指揮者とソリスト&歌手たちが待機するお部屋。
こちらが指揮者の個室。ソファがあるのが特徴。シャワーも浴びれるようになっている。
こちらがソリスト&歌手の個室。指揮者のお部屋とはちょっと違いますね。
しっかし、楽屋を通るまでの通路の壁は、ホントにサインでびっしり!スッゴイ!
つぎにオケメンバーなどの大人数の待機部屋。この日は特別に壁をぶち抜いて、広くしているとのことであった。
なぜか、洗濯機を設置するところもあった。(笑)
出演者専用のカフェや軽食時をできるようなところ。
なにかここで食べてみたい。(笑)
そしてピアノ格納庫。スタインウエイやベーゼンドルファー、ヤマハのCFXなどが格納されていた。
もちろん大ホールだけでなく小ホールで使うピアノもここに格納されている。
普段は、扉を閉めて、厳密に湿度管理などをしているそうだ。
そしてバックステージツアーも最後の大詰め。
最後は、みんな平土間の観客席に陣取って、オペラ用ステージとクラシックコンサート用ステージの入れ替えを視覚体験。地下から反射板が固定で装着されているコンサート用ステージがあがってきて、それに合わせて、オペラステージが上空にあがっていく様子である。
最後は、コンサート用ステージに装着されている反射板が天井とがガチャンと結合される。
これで東京文化会館のバックステージツアーは終了。
今後の企画として、ちょっとリクエストしたかったのが小ホールのほうのバックステージツアーも入れてほしいと思ったこと。個人的な感想ではあるが、小ホールの音響は、ソリッド気味でクリスタルな響きが魅力の、じつに素晴らしくて、国内の室内楽ホールとしても指折り本数に入る秀逸なホールだと思っている。ステージ後方にある小ホールの音響反射板は、設計した彫刻家 政之氏がタバコの箱の銀紙をぐしゃっとつぶし、広げたものだとか。
あと、ここには音楽資料室が4Fにあって、音楽関係の書籍、CD等音資料、DVD等映像資料等を無料で閲覧・試聴できるようになっている。
中には、もちろんカバン類は持ち込めないので、入り口付近のコインロッカーにバッグを預ける。自分の探したい演奏家などの本がどの位置にあるのかを、予めパソコンの画面で検索して、その本の位置を突き止める。そしてその本を見つけて、その箇所を複写したい場合は、コピー機で複写できる仕組みになっているのだ。(1枚30円)
まさに首都圏のクラシック文化を一手に担ってきて、今現在もトップであり続ける東京文化会館。
そのすべてを拝見させていただいたようで、大変貴重な経験でした。
これからも第一線で貴重なコンテンツ&文化を送り続けるホールであって欲しいと願いつつ、今後も足繁く通い続けさせていただく決心を新たにしたのでした。
2016-11-23 20:24
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