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コンサートホールの音響のしくみと評価 その2 [コンサートホール&オペラハウス]

④直接音と響き(間接音)の対バランス比


コンサートホールの座席でステージの音を聴く場合、必ずステージからの直接音と、壁、天井、床などからの反射音(間接音:響き)との合成音を聴いていることになる。

この直接音と響きの関係はホールの形状によって、いろいろシチュエーションが違ってくる。

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直接音と響きの対バランス比というと、大きく、その量の対比と、時間遅れの対比の両方が考えられるか、と思う。


まず量の対比。

これは座席選びに大きく起因してくる。

ステージに近く前方の座席であると(我々仲間のオーディオ業界では、これを”かぶりつき”という(笑))、ステージからの直接音は強烈に浴びるかもしれないが、天井、壁からは遠いので、反射音(響き)は聴こえにくい。

かぶりつきの欠点は、ステージ全体の音をバランスよく俯瞰できないことで、自分の座席に近いところの楽器は、強烈に聴こえるかもしれないが、少し遠いステージ位置になると、その楽器は遠く感じて、全体の音響バランスが悪く聴こえることだ。

天井、両側壁、床からの響きを感じるようになるには、やはり中盤から後方の座席がいい。
そのホール固有のホールトーンを感じるには、そのほうがいい。

直接音と響きの程よいバランス比を考えると、前方席より、中ほどの座席がいいだろう。

でもこれにはトレードオフがある。中盤から後方になるにつれて、響きが豊富になるにつれて、ステージからの直接音が不明瞭になること。音像が遠い感じで、甘くなり、音の迫力、臨場感、鮮度感がなくなる。

後ろになればなるほど、響き過多になる反面、直接音が不明瞭で全体のサウンドに迫力がなくなるのだ。ホールトーンをたくさん味わえる半面、そんなデメリットがある。

いわゆる”響きに音像が埋没する”、という表現が妙を得ている。

かつてサントリーホールの2階席右ブロックの上階の後方座席で、ポリーニのピアノリサイタルを聴いたときのこと。

まさに、ここの響きが豊富すぎて、音像が埋没するという感じで、ポリーニが強打の連打を繰り返すと、打鍵の単音の響きがどんどん連なり、まさに響きの混濁状態になって、とても聴いていられない経験をしたことがあった。

もうこれは個人の好みで、座席をカット&トライで試してみて、その直接音と響きの対バランスの好みを探るしかない。

自分も最初の頃は、理想論を突き詰め、直接音と響きを6:4くらいが好みかな、とも思ったが、最近はどうも自分の好みが確立されてきた。


やっぱり直接音が大音量で、明瞭であること。腹にズシンと響いてくるサウンドが好きだということがわかってきた。中段から後方の座席では、全体の音響バランスはいいかもしれないけれど、直接音があまりに不明瞭で、なんといっても迫力がないというか、サウンド自体がこじんまりしていて、聴いていて真に感動できなくて、欲求不満になることがわかってきたのだ。

やや前方寄りの座席で、それでいて響きも感じられる座席というのが自分の好みなのかな、と感じる。

もちろんケースバイケースもある。

自分が贔屓にして応援している女性ヴァイオリニストなどのソリストを間近で観てみたいという視覚優先の場合は、やっぱりかぶりつきの最前列で聴きたい願望がある。

演奏家を観るという視覚の問題も、コンサートにとっては大切な要素だからである。

あとオペラ歌手などの声もののコンサートの場合も、前方かぶりつきがいいと自分は思っている。声ってとても指向性が強いので、やはり正面から聴いたほうがいいと思うし、前方のほうが声の発生エネルギーも大きいし、腹に響いていい。

歌手の表情をしっかり拝めるのもいい。

そうすると、自分の好みは、中段から前方にかけての座席なのかな、と感じる昨今である。

ステージ両サイドの上階席が音響的にいいホールが結構多い。直接音と響きのバランスが非常にいいからである。大音量で、明瞭な直接音。それに対して壁、天井に近いので、反射音などの響きも感じやすいという理由からだと推測する。

でも自分の中には、オーケストラのサウンドの聴感バランス的には、端からではなく、やはりオケの真正面から聴くべし、という鉄則みたいなものを持っていて、ここが音響がいいという噂でも、やはり真正面から聴きたい、という信念がある。


ワインヤードのステージ裏のいわゆるP席と呼ばれる座席シートは、自分からはあまり積極的に取らない座席だ。一度ベルリンフィルハーモニーで座ったときに、聴いたオケのサウンドは、ステージ上の楽器の配置で近い順に聴こえるので、いわゆる真正面から聴いているのとは反対に逆から聴いているように聴こえるのだ。最後尾列の打楽器や金管の音が間近に聴こえて、後から弦楽器が聴こえてくるような感じでかなり違和感があった。

それ以来、あまり自分好みではないな、と感じた。

この座席は、やはり指揮者の表情を真正面から見たい、自分がオケ奏者になった気分で、ホールを見渡したいという動機が優先される人向きなのでは、と感じるところがある。




つぎに時間遅れの対比。

これは、個人の好みに影響される部分もあるが、それ以前に、この項目に関しては、ひとつのルールが音響の世界に存在する。座席選び以上に、そのホールの音響特性に依存するところが大きい。

これは直接音に対して、響きというのは、人が気持ちよく感じる遅れ時間というのが、データ上(というか実測上)決まっていて、いいホールほどその値になっているという神話があるのだ。(神話というより実測経験値)

響きのいいホール、つまり人が音響がいいと感じるホールは、直接音に対して、その初期反射音(直接音に対して、最初に反射する1次の反射音)が20~50msec以内の遅れになっている場合が多いということ。そして残響時間が、2.0~2.2秒。

これ以上、反射音が遅れると、逆に、わずらわしいエコー(ロングパスエコー)になって、ホール音響の欠点になってしまう。

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これはホールの容積に起因するところが大きい。ホールの容積が広いと、ステージ上の直接音に対して、反射する壁が遠すぎて、反射音が大幅に遅れてしまいエコーになってしまう。

やっぱり音響上の理由から、発音体の規模に対して、その適切なホール容積というのがある。
オーケストラのための大ホール、そして室内楽のための小ホールというように。

ホールの容積の問題は、響きのエネルギーバランスにも影響を与えると思う。

たとえば同じシューボックスでもウィーン楽友協会とアムステルダム・コンセルトヘボウ。

どちらもシューボックスの音響の優れたホールで世界屈指だが、その違いは幅の狭さ&縦長の違いにある。

ムジークフェラインのほうが縦長である。

これは反射音の響きの到達する時間(響きの長さ)と濃さ(密度)にも影響してくるのではないか、と思う。

シューボックス音響ブロック図.jpg
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
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アムステルダム・コンセルトヘボウのように、容積が横に広いと、壁で反射された音が観客席に到達するまでに、到達時間は遅いし、ある程度エネルギーが減衰するはずである。

なので、響きの密度は薄くて、残響時間が長い。それは落ち着いた整然とされた秩序ある響きのように感じる。


ムジークフェラインの場合、縦長でその容積が横に狭いので、逆に、観客席への到達時間は速くて、その反射音が十分に減衰する前に客席に到達するのでエネルギーが高い。容積が狭いので、密度が濃いが、平行面での反射回数も多く、その分、壁で吸音される回数も多いということになるので、減衰も早く残響時間が短い。音がかなり濃くてホール自体が共鳴しているかのようなぶ厚い響き(でも響きの長さは短い)になる原因になっているのだと思う。




容積が小さいと反射音のエネルギーは大きくて、伝播時間(到達時間)も短くて、密度も濃いのだが、何回も反射を繰り返すので、壁での吸音が多くなり、反射音のエネルギーの減衰が早い。(ウィーン楽友協会の音響の場合)


逆に容積が大きいと反射音のエネルギーは小さくて、伝播時間(到達時間)が長くなり、密度も薄くなるけれど、反射の回数は少ないので(吸音少なし)、エネルギーの減衰が遅い。(アムステルダム・コンセルトヘボウの音響の場合)


もっと感覚的な表現で言うと、上図のスペクトラムを見てもらえば、ウィーン楽友協会は響きが濃くてドッと一気にやってくる感じで、アムステルダム・コンセルトヘボウの響きは穏やかな響き具合で、滞空時間が長い感じというのがイメージでわかるだろう。(でもコンセルトヘボウも実際に聴いたときは響きはとても豊かでした。)





普段オケを聴いているときに、直接音に対して、最初から響きが混入している状態というより、直接音に対して、やや響きが遅れてくる感じで、直接音を強化する感じの程よい遅れ具合、分離し過ぎない程度の遅れ具合が、気持ちのいい、音響のいいホールと言えるのだと思う。
                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                          
直接音に対して時間的に遅れてくる響き(反射音)の聴感上の役割というのは、わかりやすい表現をすると、聴いていて、そのホール空間の広さ(空間感)、立体感を感じるような感覚を助長する役割なのだと思う。直接音に対して響きが分離して遅れて聴こえるほど、その効果は大きい。逆に最初から直接音に被っている状態だとその効果は軽減されるのだと思う。
                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                          
この直接音に対する響き(間接音)の遅れ具合というのは、ずばりホールの容積に起因してくるものと思われる。直接音に対してどれくらい響きが遅れてくるか、というのは、まさにその反射音の伝搬距離に関連するところで、ホールの容積が広ければ響きは遅れて聴こえるし、逆に広過ぎればロングパスエコーになる。ホールの容積が狭いと反射音の伝搬距離が短いので、直接音に対して響きが被る感じになるのだと思う。




⑤音色と響きの質感(硬質&軟質)


これもホールの音響を感じ取る上では、とても大切なファクターである。
もう聴いた感じの印象そのもので、ライブ&デッドに次いで、わかりやすい印象要素だと思う。


音色や響きの質を決めているのは、ホールの壁の材質なのではないか、と思っている。簡単に言えば、石作りのホールと木造ホールでは、その音色と響きの質では、ずいぶんその印象が違う。

ずばり石作りのホールは、とても硬質な音質、響きで、木造のホールはとても暖かい柔らかい音質、響きの音がする。

石のホールは、ピアノの音でも、ピンと張り詰めたような音で、響きもワンワン響く感じでかなり残響感が豊富。

第1に石の空間は、壁での吸音がなくて反射オンリーなので、エネルギーロスもなく、響きの滞空時間がとても長いのだと思う。この音印象は、石造りの教会での音を聴けば容易に想像できるであろう。

それに対して木のホールは、同じピアノの音色でもエッジが取れた感じの柔らかい音がする。でも響きは同じようにとても豊か。

ヨーロッパでは、木造のホールに音響上の失敗はないと言われていて、その原因が木材が低音域をほとんど反射し、高音域を程よく吸収するため、残響時間に高音、低音でばらつきが少なく平坦になりやすいことにあったりする、と言われている。

つまりリスポジの座席での高域と低域での位相遅れがないということだから、これがピタッと揃っているのは、聴いていて心地よい音響が得られるのであろう。音響のクオリティが高いといえる。

昔からの名ホールと呼ばれる壁質は、漆喰塗りを使っているところが多い。先述のウイーン楽友協会やアムステルダム・コンセルトヘボウなんかそうである。

漆喰はどこかの周波数にピークを持つことがなく、どの周波数帯にも平坦な特性を持ち、可聴帯域外ではブロードで減衰するので、耳で聴いている分には音の細やかさというか粒子の細やかさな感じがして秀逸なのだそうである。

(自分もオーディオルーム作るときは漆喰塗りにしたい!(笑))

最近、自分が石作りのホールでその音響に大感動したのは、松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)であった。

音色の芯が濃くて太く(特にフルートの音色)、がっちり安定して聴こえて、音像もキリッと鮮明。響きが豊富なので、ピアノは混濁寸前。(笑) でも響きが豊富なホールにありがちな「響きに音像が埋没する」という現象はなかった。

音像と響きはきちんと分離して聴こえていた。


とにかくピンと張り詰めた感じの硬質な響きに囲まれている感じで、ヨーロッパの石造りの教会で響きに囲まれている感じの印象だった。


ふつうの一般人が直感的に、「これは音響がいい!」と感じるのは、石造りのホールのほうが感じやすいかもしれない。それだけ聴感上分かりやすいし、鮮明でビビッドな音響で、いい音響だと第1感的に感じやすいのではないか、と思う。  







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