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ハーゲン・クァルテット@神奈川県立音楽堂 [国内クラシックコンサート・レビュー]

なかなか実演に接することができなかったクァルテットだった。オーディオではもうお馴染みで、徹底的に聴き込んできたのに、自分で彼らの生演奏を聴く機会を捉えれなかったのが信じられないくらい。

1981年結成なので、36年の大ベテラン。

日本にももう数えきれないくらい来日していると思う。キャリア・実力ともに、まさに史上最強の弦楽四重奏団なのだと思う。



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ハーゲン・クァルテット

2013年から、日本音楽財団より貸与されたストラディヴァリウス「パガニーニ・クァルテット」を使用している。

4人はザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学の教授である。

2013年にザルツブルク音楽祭に行ったときに、ぜひ彼らを、あの美しいホールであるモーツァルテウムで聴きたい、という夢をずっと抱いていたのだが、残念ながら日程のタイミングが合わなかった。

所属レーベルは、20年間に渡りDGに所属して、なんと約45枚のCDをリリース。その後結成30周年を祝して、ドイツの高音質指向型マイナーレーベルであるmyrios classicsに移籍した。

myrios classicsは、自分的にはとてもお気に入りのレーベルで、SACDサラウンドで収録することを前提としていて、とてもクオリティの高い録音を聴かせてくれる。

看板アーティストは、このハーゲン・クァルテットと、ヴィオリストのタベア・ツィンマーマン。

彼らのアルバムはDGもたくさん所有しているけれど、やはりmyrios classicsに移籍してからは、普段聴くのはもっぱらこちらオンリー。やはりSACDサラウンドというのが聴いていて心地よい。

さっそく予習で久しぶりに聴いてみた。

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ベートーヴェン、モーツァルト、ブラームス。



なんと優しい音なんだろう。(笑)

線が細くて、いわゆる美音系。絹糸のようなきめ細やかさと繊細さを兼ね備えたようなソフトタッチな音触り。耳だけで聴く彼らのイメージはとてもスマートで洗練されているような細身なサウンドの持ち主のような感じだった。

ガツンとくる体育会系とは真逆にあるような都会的に洗練されたイメージ。





そんな彼らの生演奏を神奈川県立音楽堂で聴いた。


神奈川県立音楽堂は、あの東京文化会館で有名な前川國男氏の設計で、日本で最初に高い評価を得たホールということで、「東洋一の響き」とまで言われたホールである。

イギリスのロイヤルフェスティバルホールを参考に造られたらしい。

自分は何回もこのホールに通っているものと思っていたが、どうも神奈川県民ホールと勘違いしていたようだった。(笑)


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全面木材で作られた木造ホールである。


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客席はこのようにかなりの急勾配になっている。

一見シューボックスに見えるのだが、厳密にはステージから客席がやや扇形に広がっていて、サウンドの傾向もシューボックスとは違う。反射音はステージの天井から客席の天井に設置された反射板で客席に届けられる。



このホールの音響を自分の耳でじかに聴いた印象。


包まれているように響きが豊かという感じでもなく、ホール内を音が十分に回っているというイメージでもなく、とは言っても極めて中庸というかそんなに文句もないニュートラルな感じに思えた。

最新鋭のホール音響と比較するのは酷とはいえ、時代相応の素晴らしい響きだと思った。

シューボックスのように響きが豊かで、音像が左右に広がる感じで定位が甘くなるのとは真逆で、どちらかというと弦の音色が歯切れがよく空間に明確な定位で浮かび上がる感じで、ソリッドな印象だった。(特にチェロの音のゾリゾリ感!)

たぶん、反射音が直接音に続いて奥行き方向に整列して聴こえるためだと思う。

あと、直接音に対して響きがかなり遅れて聴こえてくる感じで、空間感とそこに広がる響きを感じるイメージだった。



椅子は結構全体的にクッション性のもので覆われていて、結構吸音効果の強い椅子のように感じた。これも全体の音響に影響あるはず。

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そんなホールで彼らをはじめて聴く。


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かなり出遅れたので、この座席は仕方がない。やはり前で聴きたい。

ショスターコヴィチにベートーヴェン、そしてシューベルトという布陣。

特に後半のシューベルト「死の乙女」は、自分のお気に入りの曲で、曲調的にもかなり動的な音楽なので、普段の”おとなしいサウンド”というイメージを払拭してくれるものと期待していた。

前半の2曲は、やはりオーディオで聴いていた通りのイメージ変わらずという感じで、とにかく優しいソフトな感触の演奏。

直に聴いてみて、やはり違うな、と感じたところは、とてもアンサンブルの完成度が高くて、まるで精密機械のように正確無比で緻密な演奏だと思えたことだった。

4人がそれぞれ卓越した演奏技術を持っているのに加えて、その合奏の組み立て、お互いのあうんの連携が妙に完璧なのだ。

フレージングやアーティキュレーションといった奏者側の解釈もふんだんに盛り込まれているはずで、それが妙に生々しくてリアルに感じとれる。

4人のあうんの呼吸とか、息遣いなんかが聴こえてきそうな・・・至近距離の室内楽の醍醐味と言ったところだろう。

でも、自分の好み的にもうひとつと思えたのは、やはり全般的に優しすぎる。(笑)

丁寧で緻密な音造りに裏付けられた演奏のそこには聴衆をぐ~っと抑揚させるような劇的なドラマがいまひとつ足りないと感じた。

そういうドラマがあるからこそ必要な技術、アンサンブルの妙もあるはず。

でもそれは選曲に左右されることで、予想通り、後半のシューベルトの「死の乙女」でその不満は見事に解消された。




情熱的な激しさを持った悲劇的情調で表現されているこの曲。


自分を最高潮のヴォルテージに導いてくれたし、ある意味、荒々しい激しいもう一面の彼らの演奏姿を見ることもできて、最強の弦楽四重奏団だという確信を持てた。


さすが血を分けた兄弟だけはある。(笑)


この曲によって彼らの集中力、そのほとばしる演奏、激しくて緊張感がある、メンバーとのお互いの丁々発止とも思えるやりとりから発する大きなエネルギー感みたいなものが、聴衆である自分にどんどん迫ってきた。

これには、自分はたまらずシビレた。
やっぱり自分は、情熱的で抑揚のある表現の演奏が好きなんだなぁ。

部屋でしんみりと静かに聴くBGMのような音楽も魅力的だけれど、生演奏のライブでは、やはり自分の血を煮えたぎらせてくれるそんな高揚する要素ってとても大切。


そういう意味で、今回の公演での彼らの前半と後半にかけての選曲の巧妙さは、十分に計算され尽くしているものだったんだなと深く感銘した。



ハーゲン・クァルテット、自分の印象は、高い技術に裏付けられた緻密なアンサンブルのクァルテットだった。

ぜひザルツブルク・モーツァルテウムで彼らの勇姿を再び見てみたいものだ。









ハーゲン・クァルテット演奏会
2017年7月2日(日)14:00~ 神奈川県立音楽堂

ショスターコヴィチ:弦楽四重奏曲 第3番 ヘ長調 作品73

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 作品135

(休憩)

シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D810 「死と乙女」

(アンコール)

ハイドン  弦楽四重奏曲 第78番「日の出」より第3楽章








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