小澤征爾さんの新発売のBlu-rayは、なぜEuroArtsなのか? [ディスク・レビュー]
小澤征爾さんの待望の映像作品がリリースされた。
まさに、これから開幕しようとしている松本のセイジ・オザワ松本フェスティバルに合わせてのタイミングだと思われる。
ベートーヴェン:交響曲第7番、第2番、合唱幻想曲
小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ、マルタ・アルゲリッチ、他(2015、2016)
(日本語解説付)
小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ、マルタ・アルゲリッチ、他(2015、2016)
(日本語解説付)
もともとは、齋藤秀雄氏を偲ぶ音楽祭で冠も「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」であったのだが、2年前の2015年から「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に冠が変わった。その新しく冠が変わった2015年、2016年の小澤さんが指揮をしたオーケストラ・コンサートであるベートーヴェン交響曲2番&7番のライブ収録を2曲を収め、さらに2015年9月1日の小澤さんの80歳の誕生日におこなわれた「マエストロ・オザワ 80歳バースデー・コンサート」の模様も収録されているのだ。
このバースデー・コンサートでは、ベートーヴェンの『合唱幻想曲』が収録されている。友情出演したマルタ・アルゲリッチ、そしてナタリー・シュトゥッツマンやマティアス・ゲルネといったソリスト陣により演奏され、会場は大いに盛り上がった。
近影の小澤さんの活躍を観るには絶好の素晴らしいソフトだと思う。
ナイス企画!と言いたいところ。
自分は2015年の小澤さんのベト2は、直接キッセイ文化ホールでじかに観ていると思う。
ただ、どうしてもひとつひっかかることころがある。
それは映像ソフトの製作がEuroArtsというところだ。
なぜ、NHKじゃないのだ?
自分は、まずここにピンとひっかかってしまった。
小澤さんの映像ソフトというジャンルは、ゴローさんの聖域ともいえるところ。
過去に、ベルリンフィルとの「悲愴」、そして祝75歳を記念してのサイトウキネンとの歴史的コンサートを集めたアニバーサリーセット、とNHKエンタープライズ(NHKの子会社的存在で、NHKの映像ソフトをパッケージ化する会社)から出ている。
まさにゴローさん渾身の作だ。
EuroArtsは、まさにヨーロッパ最大のクラシック映像ソフト制作会社といってもよく、草創期より、オペラ、オーケストラコンサートのBD/DVDを製作、発売してきている。Blu-rayのフォーマットが世に出たときは、日本語字幕なしのオペラがやたら多くて、オーケストラコンサートは皆無だった。
そんな中で、NHKの小澤さん&ベルリンフィルの悲愴が出た。
BDでオーケストラコンサート!というのは当時では、かなりエポックメイキングな出来事だった。
ゴローさんからの内輪話では、ベルリンフィルは、業界初のBlu-rayを使うから快諾した、という。(笑)つねに技術の最先端をいくのは自分らだというベルリンフィルの伝統のプライドみたいなものが彼らにはあるのだ。アナログLPからCDへの切り替えも、ベルリンフィル(カラヤン)。
そして今度は・・・。(笑)
そこからEuroArtsでもBlu-rayで数多くのオーケストラコンサートを出すようになり、まさにヨーロッパのオーケストラ・コンサート、オペラのパッケージ製作会社としては第1人者といっていい現在のポジションに至る。
ゴローさんは常日頃、このEuroArtsの存在に尊敬の念を払いつつも、彼らの作品の映像の捉え方、カメラーワークがどうも自分のポリシーと違うようで、苦言をボソッと呈していた。
NHK(ゴローさん)のオーケストラを撮るカメラワークの基本は、全体を遠景から撮ること。
不自然なアップなどを多用しないこと。
あくまでコンサートホールで観ているかのように自然のまま、であること。
あくまでコンサートホールで観ているかのように自然のまま、であること。
ここに拘っていた。
ところがEuroArtsの映像の捉え方は、ソフトを観ている者が感動するように、その音楽のフレーズ、リズムなどの節目節目で、格好良く感じるように、その瞬間にパンで、ある奏者を抜いたり、という画像の切り替えが頻繁で、音楽に合わせて、かなり意識的で人工的なカメラワークなのだ。
これがゴローさんにはどうもあざとく感じるらしく、気に入らなかったようだ。
自分のオケの撮り方とは違うみたいな。
自分のオケの撮り方とは違うみたいな。
これは確かに、自分もあまたのEuroArtsのソフトを所有しているので、間違いないと思うところで、ゴローさんの言っていることは正しい。
でもこれって人の鑑賞基準によるところが大きくて、自分の親友なんかは、NHKのカメラワークは、なんかサラリーマンみたいで平凡でつまらない、という。(笑)EuroArtsのほうがカッコいいカメラワークという。人それぞれの感覚ですから、どちらが正しいとは言えないですね。
あと、これは自分が大きく感じるところだが、EuroArtsが採用しているサラウンド音声のコーディックが、DTS-HD Master Audio 5.1というコーデック。
サラウンド音声という点では、今まで数多のEuroArtsのソフトを観てきたけれど、正直彼らのこのコーデックのサウンドで感心したことは1回もなかった。悪いサウンドではないけれど、いいサウンドとも言えない。
音が薄くて、ペラペラした感じのサラウンドなのだ。(とくにオーケストラ・サウンドにとって重要な低域がややスカスカ) とりあえずサラウンドにしてます的な。。。
ゴローさんはBDのお皿の容量をフルに使って、非圧縮のPCM 96/24に拘っていた。
こちらのほうが音がぶ厚くて、芯のあるいいサラウンドだった。
こちらのほうが音がぶ厚くて、芯のあるいいサラウンドだった。
一度地方オーディオオフ会で、EuroArtsソフトとゴローソフトを比較して視聴したところ、同じような感想をもらい、自分の意を確かなものにした経験があった。
EuroArtsといえば、もういまやヨーロッパを制圧するソフト制作会社であるのだが、自分には、そのカメラワークとサラウンド音声のクオリティから、どうも???というイメージを持っていたのだった。(でも世の中のヨーロッパのコンサート、オペラはほとんどEuroArtsなので、コンテンツ見たさには、さすがにかなわず、かなり大量に持っているのです。(笑))
そこで、今回小澤さんの新ソフト、えっ!なんでEuroArtsなの?
いままでの経緯から小澤さんといえば、NHKから出すのが本筋でしょ?
自分がそう思うのは当然。ここにかなりの違和感があった。
EuroArtsが製作したということは、会場に持ち込んだカメラ、音声収録機器も、全部彼らが外国から持ってきたのだろうか?いや、そこは、やはりNHKとか長野朝日放送とかの機材で賄い、編集だけをEuroArtsがやったのか?
そもそもEuroArtsに小澤さんのソフトを作らせる、という決定は誰がしたの?
もう頭がグルグル回る。(笑)
じつは、その決定は小澤さん本人がしたことなのかも?とか。
小澤さんは、EuroArtsとも多くの仕事をしている。
自分が記憶にあるだけでも、カラヤン生誕100周年記念を祝して、ベルリンフィルで、ソリストにアンネ・ゾフィー・ムターを従えてウィーン楽友協会でやったとき、これもEuroArtsの作品だった。(自分の愛聴盤。擦り切れるくらい観ました。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、この難曲を。ゴローさん曰く、ムター、うますぎなんだよ!(笑))
以前、ゴローさんのNHK内での上司だった方に伺った話。
小澤さんという人は仕事をいっしょにしていくには非常に難しい人らしく、その最たる要因はFinal Approval(最終承認)という作業だった、という。普通の場合、収録した後は編集権はメディア側が持つものなのだが、小澤さんは違った。この最終承認というのは、小澤さんの作品を収録をした場合、それを市場にリリースする前に必ず小澤さん本人に見せて承認を得ないといけない、という取り決めがあったのだそうで、作品が完成したそういうときは、大抵小澤さんは世界中のどこかにいる訳で、そこまで追っかけて行って、本人に見せて承認をもらっていたという。
それをじつに忠実に守ってやっていたのがゴローさんだったのだという。
う~む、この話を思い出したら、きっと今回の新作品についても、このFinal Approvalはやっていたに違いない。 誰が(まさかEuroArtsの人?)、小澤さんのところに行って、それを見せたのか?とか。
世に出た、ということは小澤さんが承認した、ということ。
きっと違和感などないのだろう。自分が心配しているようなことは徒労に終わるに違いないと確信している。
またEuroArtsに販売権を持たせれば、彼らの販売ネットワーク網に乗せることになり、そのほうが、その膨大な顧客層を期待できるという大人の計算もあるのかも?確かにNHKのソフトとしてより、EuroArtsのソフトとして売るほうが、売れるのかも?
SNSのTLに流れるニュースなどで、この新作品のパッケージの表示を見て、左上にある小さなEuroArtsというロゴを発見した途端、いままで書いてきたことが走馬灯のように頭の中をよぎって違和感を感じた自分。
やはりちょっと変わった人間だろうか?(笑)
毎度のことなのだが(笑)
話を明るい方向に持っていって、最近の小澤さんの近況の話でも。
先日8/1、トッパンホールで小澤国際室内楽アカデミー奥志賀2017で、アカデミー生らと見事な弦楽四重奏を披露。
チャイフスキーの弦楽セレナーデハ長調 op.48 より第1楽章。アカデミー生と小澤さんがひとつになって奏でる圧巻の合奏はまさに感動の一言だったそう。小澤さん、元気そうでなにより。
そして、いよいよ8月13日から開幕するセイジ・オザワ松本フェスティバル。
最近は、オペラは小澤征爾音楽塾に任せる感じで、自分はオーケストラコンサートに専念する感じ。これは年齢、体力的にも適切な判断だと思いますね。
オーケストラコンサートでは、ファビオ・ルイージでマーラー9番。ナタリー・シュトゥッツマン&小澤征爾で、小澤さんはベートーヴェン レオノーレ序曲 第3番を指揮。
そして1番の目玉は、
なんと!内田光子さん登場で、小澤さんとで、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番を披露!これは聴きに行きたいなぁ。でもプラチナで無理。(^^;;
内田光子さんは、その他にリサイタルもやってくれるようです。
自分が、この音楽祭でぜひ行ってみたいのが、松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)での公演。このホールは最近メチャメチャ音響がよいことがわかってお気に入りになってしまったので、ぜひこのホールで開催される松本の音楽祭のコンサートに行ってみたい。
ゴローさんへの義理という面もあって、毎年通っていた松本の音楽祭。
やっぱりこの夏休みの季節になると、不思議と、あの汗ダクダクかきながら松本市内を歩いて、珈琲美学アベでモーニング、信州大前のメイヤウで、4色カレーを食べて、信州蕎麦の「こばやし」でそばをいただき、その向かいにある居酒屋「ゴロー」の写真を収めてのワンパターンを無性にやりたくなります。
今度行ったときは、居酒屋ゴローで一杯やりたいと思います。(笑)
セイジ・オザワ松本フェスティバル、今年も大盛会を祈って!
2017-08-05 06:43
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