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体験! サラマンカホール [コンサートホール&オペラハウス]

「このホールは、ヨーロッパのホールの響きがする!」


仲道郁代さん、田中彩子さん、そして近藤嘉宏さん、宮谷理香さん、菊地裕介さん、松本和将さんの4人のピアニストによるピアノ共演コンサート。。。など、このホールで演奏した演奏家、歌手の方々が、みな異句同音にそう発言する。

この発言を聴いて、コンサートホール愛好家の自分にとって、かなりそそられるというか、自分のアンテナにビビッと来る感じで、居ても立ってもいられなく、これはぜひ訪問してみようとすぐに思い立った。

素晴らしいホールがあれば、海外、国内問わず馳せ参じる、である。

内装写真を見ても、とても品格があって、これ見よがしの音響操作の人工的な仕掛けはまったくない自然な佇まいが、さらに自分の好感度を上げた。見た目にも雰囲気的に確かにヨーロッパのホールのテイスト。とてもとても自然な空間。


サラマンカホールというのは、岐阜県にある。
1994年に開場した。もう24年の歴史がある。


その名は、スペインのサラマンカ(Salamanca)市に由来している。

サラマンカ市は、ポルトガルとの国境に近くにあるカスティーリャ・イ・レオン州サラマンカ県の県都で、現存するスペイン最古の大学ともいわれるサラマンカ大学のある街。

旧市街全体が世界遺産に登録されている歴史的な都市なのである。

市中心部にあるサラマンカ大聖堂には、「鳴らずのオルガン」と呼ばれていたルネサンス期の古いパイプオルガンがあった。

まさに世界最古のオルガン。

天使のオルガン、天使の歌声とも言われている。

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そのオルガンの修復を岐阜県白川町のオルガン製作者 辻宏氏が申し出て、その事業に岐阜県も協力をしたのだ。

修復への道のりは決して平坦なものではなかった。

辻氏が修復したいと思っていても、本国スペインでは、大事な国宝のオルガンの修復を外国人に任せられないと断られた。

交渉の末、許可が下りるものの、費用は自己負担。
大きな壁となって立ちはだかった。


その大きな後ろ盾に、現在の天皇陛下・皇后美智子さまが関心を寄せ、特に美智子さまの存在は大きく、力添えになっていただき、大きな流れになって変わった。

美智子さまは、「多くの人の力で修復が実現したほうがいい。」と提案。

チャリティーコンサートが開催されることになった。
美智子さまは出席できなくなった代わりに、10枚分のチケットを購入。

コンサートは大成功。

財界の協力もあり、集まった資金は3000万円以上。

これをもとに修復がはじまった。


辻氏の目的は、オルガンの音色を改良しないこと。昔の音色をそのまま復活させること。

最初、この巨大なオルガンのどこが故障なのか、さっぱりわからなく、ついには、この世界最古のオルガンを分解する、という方法を提案した。これだけ古いものを分解したら、元に戻るかどうかもわからない。危険なカケでもあった。

そして、決して部品を新しいものを使うのではなく、その昔の部品をそのまま使うこと。

オルガン修復に8ヶ月かかった。


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修復中のオルガン




1990年3月25日。 

いよいよオルガン復活の瞬間の日。

スペイン国営放送が、全国一挙放送。

スペイン国民、そしてその群衆の中に辻氏も入って、固唾を飲んで見守っている。

「鳴かずのオルガン」から見事なオルガンの音色を奏でた。

サラマンカ市民に大きな感動を与えた。

そのときの辻さんの様子を、隣にいた奥様紀子さんがこう語っている。
「顔色が変わり、黙り込んでしまった。言葉では言い表せない、深く語るものを感じたようだった。」

まさに許可に10年の月日を要し、皇后さま支援のもと、世界で日本人が大きな偉業を成し遂げた瞬間であった。

天使のオルガンは、地元の人から、日本人のオルガンと呼ばれるまでになった。

2013年6月13日にスペイン訪問中の皇太子さまも、このサラマンカ大聖堂を訪問して、このパイプオルガンの演奏を楽しまれたようだ。

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そしてその6年後、辻氏がサラマンカホールのために、このサラマンカの大聖堂オルガンの特徴をとり入れたパイプオルガンを建造したのだ。

このホールがサラマンカの名をいただいていることは、まさにスペインと日本の友好の証でもあるのだ。


新横浜から名古屋まで、新幹線。さらに岐阜まではJR東海道本線。岐阜駅からバスに乗る。
OKBふれあい会館の中にサラマンカホールはある。

フロントからとても雰囲気がある。

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今日は、日本が誇る世界的なメゾ・ソプラノである藤村実穂子さんのリサイタル。

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ホワイエは、とても素敵だ。赤い絨毯に、端のらせん階段が、とても視覚的にも素敵な印象を植え付ける。

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そしてなんといっても、最高に、印象的なのは、ホワイエ2階の3つの客席扉にレリーフが設置されていること。

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これは世界最古の大学、サラマンカ大学(中央)と、サラマンカ大聖堂(左右)のレリーフを模したもの。石材に現地のビジャマジョール石を用い、スペインの職人によって三年かけられて作られたそうだ。


真ん中の中央のサラマンカ大学レリーフのレプリカは、唐草模様の中に隠れている多くの動物たちや、翼をもった女性、どくろなどが彫られている。さながら我々の世界のよう。レリーフの中には一匹のカエルが彫られており、このカエルを見つけられたら幸運に巡り合える、といわれている。

帰京してから気がつきました。(笑)

そして左右のサラマンカ大聖堂レリーフのレプリカは、さまざまな楽器を持った人が点在し、音楽のある幸福な世界が表現されている。


各々のレリーフに、ホールへの扉があるのだ。なんとも素敵で雰囲気ある。

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そしてホール内に潜入。目の前一面にホール空間が現れる。
いつもこの瞬間が、ホール愛好家の自分は逝ってしまう感覚になるときだ。

入った瞬間、なんともいえない全体がブラウンの色彩で身をまとった素晴らしい風景が目の前に現れた。

思わず「これは美しい!」と息を呑んで叫んでしまった。


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自分がいままで日本のホールでは体験したことのない、極めて美しい、品格の極致を纏ったホール内装空間だった。

実際の公式HPの写真を見ていても十分に美しいのだが、でも実際のそのリアル空間に自分の身を置いたときのほうが、その美しさは数段上だと思う。

やっぱり撮像素子を通した画像と、じかに自分の目に入ってくる画像では、全然迫真の度合い、迫ってくるような感覚が違う。写真じゃあの美しさはわからないと思う。

美しいといっても、いわゆる成金趣味的なキラキラする装飾ではなく、全体が木目調のブラウン系で統一されていて、とてもシックで品格のある上品な装いなのだ。これはまさに大人の美しさですね。

オーク(楢)をふんだんに使っているそうで、全体に柔らかな空気感を感じる、そんな内装空間なのだ。木目調ベースというのは、人間の五感、とくに視覚にとても優しい感覚をもたらすそうであるから、この品格の高さは、そのようなところから来ているのだろう。

そして近代のホール音響設計で必須な反射音の拡散を狙った凹凸などの人工的な音響の仕掛けがまったく見当たらないこと。極めてごく自然な建物としてのシンプルな内装デザイン。これがその美しさに拍車をかけているのではないだろうか。


初めから、コンサートの間、そして終演でホールを去るまで、座席に座っていながら、この美しい空間に、心ときめいて、ずっとドキドキして、キョロキョロしながら常に心ここにあらずだった。


なんと素敵なホールなんだろう!

日本のホールの中では1番美しいホールだと思う。


これが、辻氏がサラマンカ大聖堂のオルガンを模して建造したパイプオルガン。まさにその姿は、サラマンカ大聖堂のオルガンと全く同じだ。願わくば、このオルガンの音色もぜひ聴きたかった!

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708席というどちらかというと小編成、室内楽向きのホール規模で、残響2.1秒(空席時)という十分すぎる豊潤な響き。天井は高い。

実際自分の耳で聴いた音響の印象は、これまたじつに素晴らしく感銘。まさに驚愕の一言だった。

ホールの音響って、もう一番最初の出音ですべてがわかってしまう。そこから何時間聴いていても印象が変わることはほぼない。最初がすべての判断のときなのだ。

藤村実穂子さんのリサイタルなので、発音体は、藤村さんの声とピアノのみ。

最初のピアノの音で、どちらかというと柔らかな質感の音色で、木独特の響きだな、と感じた。
でもpppなどの超弱音な表現でも、その音の余韻の漂いかたなどじつに美しい。
響きの滞空時間がとても長いのだ。

ホールの遮音性能、いわゆるホールの静けさという点でも素晴らしいので、それが伏線となって、このような繊細な音色の余韻の漂い方、響きの滞空時間の長さを感じ取れたりするのだろう。

そして一番驚いたのは、藤村さんが発声したとき。

これがじつに美しく驚嘆であった。声色の音色そのものがその音像がとても明晰でクリア。そこにとても豊かな響きが追従する感じで、いわゆる音がとてもとても”濃い”のだ。

この瞬間、うわぁ!これは素晴らしい響きのホールだと確信した!

同時にホッとして、もう嬉しくなってずっとドキドキしながら、聴きながら恍惚の幸せをかみしめていた。

残響感はとてもあるのだが、けっして長い響きというより、むしろ響きの長さとしては、中庸の部類ではないか。響きの長さというより、その響きの量自体が多いのだと思う。

豊かだけれどもほどよい響きが、しっかりと直接音を強化している、という表現が一番ぴったりくる感じ。それが音がとても濃く感じる原因なのかも、と思う。

実音(直接音)に対して、響きがほどよい時間遅れで分離している感じなので、そのため立体感を感じるのもその特徴のひとつ。

ホールの容積としては小ぶりの部類だと思うのだが、直接音の到来に対して、間接音の到来の遅れ差分が、そういう分離感覚を感じさせるくらいの適切な容積だということなんだろう。

とにかく音の芯がしっかりしていて、音が濃い!
この表現に尽きる!

音響の超素晴らしいホールとしては、松本市音楽文化ホールもそうであったが、ここはいわゆる完全な石のホールの響き。硬質で溢れんばかりの豊かな響きという感じだったが、このサラマンカホールは、もっと木質の暖色系の音色で、響きも豊富で美しく、音が濃い。上質な響きという表現が適切だと思う。


いやあ、じつに素晴らしい響きのホール。
まさにヨーロッパのホールの響き、そのものだと思います。



今回のコンサートは、日本が誇る世界的なメゾ・ソプラノ 藤村実穂子さんのリサイタル。

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「藤村実穂子 リーダーアーベントⅤ」と呼ばれる日本リサイタルツアーの中の1公演。

全国7ホールを回る中で、ここサラマンカホールでも行われた。


この座席から拝聴させていただきました。

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シューベルト、ワーグナー、ブラームス、そしてマーラーといったドイツ音楽作曲者によるドイツ歌曲をうたう、というコンサートだ。

自分は、藤村さんとは不思議と縁があって、はじめてルツェルン音楽祭にいったとき、KKLでアバド&ルツェルン祝祭管弦楽団のコンサートを体験した時、そのとき独唱として藤村さんを体験した。そして事あるごとに、縁があって藤村さんの歌に接することができてきたと感じている。

でもこうやって藤村さん独自のリサイタルという感じで、体験するのは初めてではないだろうか。

この日。もう自分のような者がコメントをすること自体、恐れ多いような完璧な表現力。
まさに魂がこもっている、気が入っている、その渾身のど迫力に度肝を抜かれた。

なんというのかな、聴衆者に息をさせることすら許さない極度の緊張感をこちらに強いてくるというのか、まさに凛とした、辺りを払う威厳とともにピンとした空気が張り詰める、そういった藤村さんのまさに真剣勝負そのものが、聴衆に強烈に伝わってくるのだ。

こういういわゆる”気”をこちらにこれだけ感じさせる歌手って、はたしてどれくらいいるだろうか?世界の藤村として名を馳せるだけのことはある、世界が認める力は、やはりとても奥が深く、藤村さんを、まさしく求道者のような存在に仕立て上げているだけのことはあると感じました。

凄すぎた。。。

最後のアンコールのマーラー交響曲第2番「復活」での原初の光を歌ったときには、感受性豊かな自分は、不覚にも涙がでて、頬を濡らした。



「ヨーロッパのホールの響きがする!」

このサラマンカホールをそう表現したのは、田中彩子さんの発言が自分にとって最初のきっかけだった。

田中彩子さんは、ウィーン在住でヨーロッパで活躍、まさに絶世の美女、そして超高音域のコロラトゥーラ歌手として類まれな声質を持った、まさに天は二物を与えた歌手、日本期待のホープですね。

まさにヨーロッパにいるからこそ、その発言もリアルで真実味な響きに聴こえる。

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自分は、まだ彼女のコンサートを経験したことはないのだけれど、みなさんのコンサート評を読むと、なんか「不思議ちゃんトーク」(笑)らしく、その美貌とトークのギャップがあまりにかけ離れているらしい。(笑)

なんか業界が、その美貌ゆえにお高くとまって見えないように・・・という意図もあってそういうイメージ操作している、という噂もあるけれど、あまり弄らないほうがいいと思うな。以前情熱大陸で拝見した時は、とても飾らないサッパリした人柄の印象でした。あの素の姿でいいんじゃない?



田中彩子さんの最近発売になった2'ndアルバム。 

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『ウィーンの調べ~華麗なるコロラトゥーラ2』 
田中彩子、加藤昌則

https://goo.gl/aa5MdZ


こちらのアルバムが、まさにこのサラマンカホールで録音されたアルバムなのだ。

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そのサラマンカホールでの収録のときの演奏陣やスタッフ陣集めての記念撮影。
(C)田中彩子FB公式ページ


その後、このアルバム発売とかねて、日本でリサイタルツアーをやって、このサラマンカホールでもその美声を披露した。

このアルバムを聴いただけで、このホールが、じつに濡れたような艶やかな質感で、とても豊かな響きを持ったホールであることがよくわかる。



さっそくこの田中彩子さんの新譜を聴いた。

「ウィーンの調べ」というタイトルで、心あらわれるアヴェ・マリアから、華やぎに満ちたウインナ・ワルツまで、まさにこれぞウィーンといったような数々の名曲が収められている。

聴いていて、じつにうっとりする美しい歌声に美しい旋律の調べの数々。

素晴らしい!!!

田中さんの歌は、かなり音高の高いキーで歌っているように思え、その高さで、華麗に音階を移り渡っていくその歌いまわしに圧倒される。まず印象深かったのが、やはり生まれながらして兼ねそなえている天性の声質、と思ったこと。

素晴らしいですね。

期待を裏切らなかったです。

声質の印象は、声量や声の線は細い部類だと思うが、透明感がある。
天使の声、エンジェルボイス、それにガラス細工のように繊細で、触れると壊れそうな優雅な装い。

そんな印象・・・。

自分のオペラ鑑賞歴はたいしことないけれど、でも旬な歌手、まさにベテランの域に達した歌手の歌をそれなりの数かなり聴いて来たつもりである。

それと比較すると、まだまだと思うところもある。

声質の才能は申し分ないけど、歌の技術面では自分が思うには、歌手としての完成域にはまだまだの印象。聴いていると技術的にまだまだ伸びしろ、たくさんありすぎるくらい。まだまだ。

歌いまわしや、音楽的なフレーズ感のセンス、歌への表情、感情の表現、深みなどまだまだ伸びしろある!いまはまだ、持って生まれた恵まれた声質の才能だけで歌っているところもあると言えるのではないだろうか。

藤村実穂子さんのリサイタルの張り詰める空気、迫真の表現を経験したからこそ、そういう想いをさらに強く感じてしまった。


彼女は師事している人に、オペラをやらずにリサイタル歌手として生きていけ、とのアドバイスを遵守している。

確かに声量や声の線の細さから、それも納得だけど、でも自分は一生涯歌手として生きていくなら、これからもオペラは経験したほうがいいと思う。

歌への表情、感情の表現、深みなど違ってくるはず。歌手の場合、やはり経験ってどうしても自分の歌への血となり肉となり、成熟度に必要ですね。

天からの授かりものである声を壊さないように、自分の声に合わない役は歌わないというオペラ界の鉄則を守りながらも、いろいろな役柄を歌っていくことで、その表現の幅はいまよりぐっと広がるはず。


だってまだ若いよ。歌手人生始まったばかり。これからだよ。これからいろんな歌、役を経験して、経験を積んでいけば、40~60歳になれば、自分的に達観することができて、まさに歌の世界を極められるはず。

これだけの美貌、そして類稀な声質、まさに天は二物を与えた感あって、間違いなく日本の至宝って言っていい。

日本のメディアも彼女を日本を背負っていく看板スターとして育てていくことはすでに既定路線であること間違いなしだ。

本当に期待しています。頑張ってください。

ただこれだけは確実に言えることは、彼女が歌手の世界で王道を極める年代に到達した時は、自分はもうこの世にはいないということだ。

これは間違いない(笑)


まさに田中彩子さんの発言がきっかけで、気になり始めた岐阜のサラマンカホール。

まさに自分の期待を裏切らない、どころか、さらにその遥か上をいく、実に素晴らしいホールであった。

その素晴らしい響き、そして稀に見る美しい内装空間、まさに日本一の音楽堂だといえよう。









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