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PENTATONEの新譜:児玉麻里・児玉桃、デボラ&サラ・ネムタクの両姉妹によるマルチヌーの二重奏曲集。 [ディスク・レビュー]

前作の「チャイコフスキー・ファンタジー」が大好評だった児玉麻里・桃姉妹によるPENTATONEでのアルバム製作第2弾。

自分の予想だけれど、たぶんねぇ、この企画、仕掛け人がいると思うのですよ。それも日本人の・・・(笑)

今回の作品のポリヒムニアの録音スタッフも、PENTATONEの黄金時代を築いたといってもいい、エルド・グロード氏が録音エンジニアで、ジャン・マリー=ヘーセン氏がバランス・エンジニアという黄金のタッグ!

まさに自分の青春時代の5.0サラウンドは、この黄金タッグで作られたサウンドで育ってきた、と言っていい。

ポリヒムニアもいつまでもこの2人に頼るのではなく、若い世代を育てていかないといけない。
最近の作品は、若手のエンジニアの名前のクレジットもよく見かける。

もちろん、サラウンドにとって一番重要なバランス・エンジニアは、ジャン・マリさんか、エルド・グロード氏のどちらか一方が担うわけだが。

だから、この2人が、かつての黄金時代のように現場で仲良く揃う、というのは、いまではちょっと信じられないんですよ、自分にとっては。

このこと自体すごいことだし、最大限のおもてなし、とも感じる。

この児玉麻里・桃姉妹の企画に日本人が関与していると薄々感じるのは、そんな最高のおもてなしの配慮を感じるから。

自分のようなレーベル&アーティスト双方の大ファンにとっては、本当にうれしいプレゼント。
感謝しないといけませんね。

PENTATONEのプロデューサーもジョブ・マルセ氏。もう不動の名プロデューサーですね。

そんなプロデューサー案なのか、今回の作品のコンセプトは、とてもマニアックで興味深い。
つねに新しいことにチャレンジしていくマイナーレーベルらしい、すごく斬新なコンセプト。 




085[1].jpg


二重協奏曲集 
児玉麻里&児玉 桃、デボラ・ネムタヌ&サラ・ネムタヌ
ローレンス・フォスター&マルセイユ・フィル

https://goo.gl/pNypaV



取り上げる作曲家も、オーケストラも自分は、いままで聴いたことがなかった。

作曲家はチェコの作曲家であるボフスラフ・マルチヌー。 

220px-Martinu_1943[1].jpg


20世紀の作曲家で、彼の創作期間としては、チェコ・パリ時代の第1期、そしてアメリカ時代の第2期、最後にヨーロッパ(ニース、ローマ)に戻っての第3期と区分けされるようだ。まさに国際的に活躍した作曲家だったのだが、アメリカに滞在した1940年代が、まさに彼の創作活動の頂点だった。

マルチヌーは、400作を残したじつに多作な作曲家で、そのジャンルも、交響曲/バレエ音楽/管弦楽曲/協奏曲/室内楽曲/ピアノ曲/歌曲/合唱曲/そしてオペラ(歌劇)にまで及び、もうほとんどの曲を作曲しているのではないか、というくらいで驚愕の一言、大変な才能の持ち主であった。

作風も、その創作期間の時代とともに変遷していったようで、第1期の実験的書法、第2期の創作活動の頂点にあたる様々な曲へのアプローチ、そして最後のヨーロッパに戻っての第3期の新古典的、あるいは新印象主義的ともいわれる作風で形式にとらわれない自由な作風。


児玉姉妹の奏する『2台のピアノのための協奏曲』は1943年の絶頂期だった頃の作品。そして、ヴァイオリン、ヴィオラのほうの曲も1950年代ということで、いわゆる脂の乗り切った絶頂のときの作品を堪能できる、という感じなのだ。

自分が、今回のアルバムを聴いて、初マルチヌーを経験したのだが、自分が捉えた彼の作風の印象は、ロマン派などの古典主義のわかりやすい旋律よりも、もう少し難解な筆致で、でも現代音楽のような前衛的で、まるっきり実験的なアプローチでもなく・・・

その中間色にあたるような、程よい革新的な装いを持つ。

でも、その骨子にはややチェコの民族音楽的な旋律も垣間見えて、東欧色豊かで、色彩感のようなグラデーションっぽい音感も味わえて、自分はカッコいいと感じる。

古典主義をもう少し進化させた新古典主義というのが、やはり一番合う表現かな?

自分的にはクル感じの作曲家だ。


そして、オーケストラがマルセイユ・フィルハーモニー管弦楽団。

これも自分には初めて。マルセイユは、ご存知パリについで2番目にフランスでは大きい都市で、コートダジュールとも言われ、港町、いわゆるバカンス都市ですね。

そんなマルセイユがオケを持っているとはもちろん知らなかった。
彼らの情報をネットで調べてみるんだが、ほとんど皆無。ディスコグラフィーも1,2枚ある程度で、本当に未知数のオーケストラ。


なんで、マルセイユ、そしてマルセイユ・フィルなのか?はプロデューサー、企画のみが知る、というところだが、作曲家のマルチヌーは、チェコ出身とはいえ、その壮年期の大半をパリで暮らし、「エコール・ド・パリ」のメンバーとしても活躍していたので、フランスの音楽家にとっても自国の音楽としての自負があるのだろう。


マルチヌーの作品はチェコのスプラフォン・レーベルが熱心に紹介を続けているそうだが、フランス・マルセイユで録って、マルセイユ・フィルのオケで演奏することは、マルチヌーに対するフランス・オマージュの意味合いもあるのだと思う。

今回、このマルセイユ・フィルとの競演ソリストとして、ヴァイオリンとピアノが選ばれた。

「2つのヴァイオリンのための協奏曲」のほうは、フランスのデボラ&サラ・ネムタヌ姉妹。
そして、「2台のピアノのための協奏曲」のほうが、児玉麻里・桃姉妹。

2組の美人姉妹によるヴァイオリンとピアノの競演で、ネムタヌ姉妹はもちろんのこと、児玉姉妹もフランスを拠点にして活躍するアーティスト。

しかも、姉妹用ということで、きちんとヴァイオリンとピアノで、2台デュオで演奏するコンチェルトを、マルチヌーはきちんと作曲していたんだね。協奏曲については、様々な楽器のための30曲近くものの協奏曲を作ったらしいので、本当に興味旺盛で、多才な作曲家だったといえる。

そうすると・・・マルチヌーの曲を、フランスのオケで、フランスで録って、ソリストもフランスに所縁のある2組の姉妹。

なんか、フランスの香りいっぱいで、あまりによく仕込まれているアイデアだと感心しました。(笑)


録音場所は、マルセイユ、フリシュ・ラ・ベル・ド・メ。

わからず。(笑)

ライナーノーツ・ブックレットに、写真が載っていた。

DSC02352.JPG


う~ん。微妙。なんか見た感じ、そんなに専用スタジオのようにも見えないし、微妙な感じだが、録音を聴いた限りでは、空間もしっかり録れているし、すばらしかったので、そんなに問題ないのだろう。

でもキッツキッツで録っていたんですね。(笑)

さっそく聴いてみる。

マルチヌーの曲の印象は、既述の通り。カッコいい曲で、自分は気に入った。
自分は、ピアノのほうが、はるかに印象に残るというか、自分の好みに合う。

それは、やはり録音のよさ。

このアルバムを最初聴いたときは、正直なところ、かなり違和感があった。
いままでのPENTATONEサウンドとは、かなり異質な感じ。録音レベルが小さく、オフマイク気味。

PENTATONEサウンドはどちらかというとエネルギー感が大きいほうなのだが、この録音は、音が遠いなーという感じで、例によって最初、なんだ、冴えない録音だなと思い、どうしよう~と焦ってしまった。(笑)

でも音量を思いっきりグイっと上げると、隠されていた録音の良さがわかってきた。

ダイナミックレンジ超深し!!!


これってジャン・マリさんの影響が大きいのかな?
ジャン・マリさんの最近手がけた作品は、みんなこんな感じなのだ。逆にエルド・グロード氏単独の作品は、こういう作風とまたちょっと違うんだな。

音声波形を録る上で大切なパラメーターが、ダイナミックレンジと周波数レンジ。
通称、D-レンジとF-レンジ。

高域⇔低域などの高い音から低い音の幅を表すのが、横軸の周波数レンジ(F-レンジ)。

逆に音量の上から下までの幅を表すのが、縦軸のダイナミックレンジ(D-レンジ)。

人間の耳の構造って、1人1人でみな違う特性で、聴こえ方、好みのサウンドは違うと思うのだが、自分は音が高い⇔音が低いの幅が広い、つまりワイドレンジであることよりも、音量の上辺、底辺の深さが広いほうが、自分の耳に思わず反応してしまうのだ。

自分の耳は、周波数レンジよりもダイナミックレンジの広さのほうに思わず反応してしまう。

いい録音だなーと思うのは、この縦軸の深さが深いことのほうにドキッとしてしまうのだ。

そういう意味でも、ヴァイオリンの曲よりも、ピアノの曲のほうが、その深さを思いっきり感じ取れて、こっちのほうが録音ぜんぜんいい!という印象だった。鳴りきるときの音の沈み込みが秀逸といおうか。

だから、児玉姉妹のピアノの曲のほうが、すぐに好きになった。

でも、それは曲の特徴にもよるようだ。ヴァイオリンよりもピアノの曲のほうが、より凶暴で激しい旋律、そういう落差を感じやすい曲なのだ。とてもアバンギャルドな雰囲気でカッコいい。すぐにピアノ曲だけ何回もリピートして聴く感じになった。

ここの旋律は、麻里・桃姉妹のどちらが弾いているのかは、さすがにわからない。(笑)

でもその華麗でありながら、畳み掛けるような乱打の打鍵は、自分をかなり興奮させる。

東欧感溢れる異国情緒な旋律で、このような高速乱打の世界。

シビレル、じつにいい曲!


ピアノのほうを思いっきり聴き込んで余裕が出てくると、ヴァイオリンのほうも聴いてみると、これまたいい。(笑)・・・というか良さがわかってきた。

こちらはずいぶん穏やかな作風。

でも複雑な重音やパッセージが多用された難曲で、弾くには相当のテクニックが必要、難しそうな曲という感じを受ける。

もちろんネムタヌ姉妹の演奏は、はじめて聴くが、この難曲をものの見事に自分のものとして演奏していて、聴き込んでいくにつれて、その良さがよく感じ取れてきた。


児玉麻里・桃姉妹によるPENTATONEの新譜第2弾は、とてもユニークなコンセプトでまとめられていて、商業主義第一優先のメジャーレーベルでは到底考えも及ばない柔軟な発想のアルバムだった。


記念撮影。

麻里桃次回作.jpg


児玉麻里・桃。そしてジャン・マリさんとエルド・グロード氏。指揮者のローレンス・フォスター。そして今回のコンセプト企画に大きな影響を及ぼしたと思われるプロデューサーのジョブ・マルセ氏。

こういうビッグフェイスがいっせいに揃って記念撮影すること自体、やはり自分は、日本人の仕掛け人がきっといる!と確信するのです。(笑)






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