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レイチェル・ポッジャー ヴァイオリン・リサイタル [国内クラシックコンサート・レビュー]

「レイチェル・ポッジャーは日本ではあまり人気が出ない。」

「日本ではレイチェル・ポッジャーの評価が低すぎる。」

レイチェル・ポッジャーは、現代最高のバロック・ヴァイオリニストの呼び声高く、バロック・ヴァイオリンの旗手として世界各地で活躍。バッハの無伴奏のソナタ、協奏曲、モーツァルトのソナタと、次から次へと出すアルバムは、すべて名盤という評価を受けている。

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そんな古楽の世界では非常に高い評価を受けている奏者なのだけれど、不思議と日本ではあまり話題にならないというか、どうも日本のメディアとの目線というか価値観と合わないようで、それがとても残念に思ってしまう。


自分はてっきり今回の来日が初来日だと思っていたのだが、じつは6年前の2012年にすみだトリフォニーホールで、「トリフォニーホール・バッハ・ フェスティバル2012」の開催のために来日している。


うわぁ、これはまったく知らなかった。知っていれば、絶対行っていた。当時は、SNSをやり始めた頃だったから、こういう来日情報は、今みたいに、簡単に入手できなくスルーしていたに違いない。


今回来日が実現したのは、調布国際音楽祭2018の1公演として。

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調布国際音楽祭は、公益財団法人 調布市文化・コミュニティ振興財団が主催する毎年初夏に開催されているクラシック音楽のお祭り。

「 調布から音楽を発信する」音楽祭として2013年にスタートした。

毎年、鈴木雅明氏&バッハ・ コレギウム・ジャパン(BCJ)が看板アーティストとなって引っ張っていっている音楽祭で、今年は、長男の鈴木優人氏をエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、音楽祭も一気に若返った。


調布市グリーンホール、調布市文化会館たづくり くすのきホール、そして深大寺などで開かれる。自分は、今回が初参加だったのだが、かねてより、深大寺の本堂の中で開かれるコンサートは、とても興味深く拝見していて、ぜひ参加してみたいと思っていた。

昔、調布散策した時に、もちろん深大寺まで行って、深大寺名物の深大寺蕎麦もいただきました。(笑)

深大寺コンサートは近いうちぜひ!


なぜ、レイチェル・ポッジャーの招聘ということになったか?は秘密裡だけれど、ポッジャーは昔、鈴木雅明氏と共演したことがあって、そこからの縁なのだと思う。また優人氏が担当しているNHK-FMの「古楽の楽しみ」でも彼女の録音をよくかけているのだそうで、そういうところから招聘のトリガーがあったのだろう。


BCJのメンバーはオランダで学んだ人が多いそうだ。


そうなのだ!オランダは古楽の国なのだ。

昔、欧州ベルギーに滞在していた時に、友人がアムステルダムに住んでいて、よく週末にアムスに遊びに行って、遊び尽くした街でもあった。いまでもその友人と話すときに、話題に出てくるのは、オランダ、アムスはまさに古楽の国、トン・コープマンとかブリュッヘン&18世紀オーケストラなど、もっともっと古楽をそのとき勉強しておくべきだった。オランダにはそういう古楽に所縁のある教会や名所がいっぱいある宝庫なのだ。その所縁の地にもっともっと足を運ぶべきだった。


やっぱり人間そううまくいかないもんなんだよね。そういうチャンスを神様から与えられているときに、その大切な価値観を知らなかったりして、後で思いっきり後悔する。世の中、得てしてそういうもんなんだよ。(笑)


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レイチェル・ポッジャーといえば、自分にとってはオーディオ再生。

日本に来日してくれて、その実演に接することは、ほとんど幻と思っていて、自分から直接現地ヨーロッパに会いに行かないと縁がないアーティストだと思っていた。

ある意味オーディオ再生を通じて、自分の頭の中で演奏姿を想像する類のアーティストだった。

オランダのレーベル Channel Classicsを長年に渡って支えてきた看板アーティストでもある。
Channel Classicsを支えているのは、このレイチェル・ポッジャーとイアン・フィッシャー&ブタペスト祝祭管弦楽団。

Channel Classicsは、当時、PENTATONEやBISと並んでSACDを採用してくれていた高音質指向型のマイナーレーベルだった。

ジャレット・サックスのワンマン会社。(笑)

これがじつに優秀録音で、その録音の素晴らしさ、テイストは、PENTATONEやBISとは、これまたちょっと違っていて、独特のサウンドだった。エネルギー感や鮮度感があって、前へ前へ出てくる独特のサウンドで、ちゃんと空間もしっかり録れている、という両立性が成り立っているバランスのいい録音で、自分は随分入れ込んで愛聴していた。

彼らの新譜は不思議と外れが少なかった。

やっぱり5.0サラウンドで聴くのが最高だった。2ch再生だと団子気味に聴こえる箇所もサラウンドで再生すると、分離されて見通しよくステージ感が広がってすっきり聴こえたりする。特にポッジャーの録音はその傾向にあって再生難なのだ。

Channel Classicsは、その抱えている契約アーティストは、やはりオランダ系の古楽のアーティストが大半を占める。

やはり古楽のレーベルなのだ。

彼らのビジネスで感心したのは、新譜の回転率がとても早いこと。新譜リリースがものすごい短いスパンでどんどんおこなわれる。ビジネスがうまく行っているんだろうとその当時は思っていた。

古楽といっても古楽器然とした響きを予想するかもしれないが、Channel Classicsのサウンド造り、エンジニアの音のいじり方は、その真逆を行っている感じで、”最先端の現代風アレンジで聴く古楽”という様相だった。

残念ながら、すっかりネットビジネスに移行してしまって、SACDはレイチェル・ポッジャーやイアン・フィッシャー&ブタペスト祝祭管弦楽団などの看板アーティストぐらいがリリースするくらいで、それ以外のアーティストはネットコンテンツのみavailableというやり方。

もうChannel Classicsの録音を、5.0サラウンドで聴けないと思うと残念の一言だ。


自分は、いままでレイチェル・ポッジャーのSACDをどれくらい買ってきているのだろう?と思い、ラックから探してきてみた。

そうしたら9枚もあった!

”ポッジャー=オーディオ再生”というイメージが自分の中で、確立されているのも、やはりうなづける感じ。納得した。ポッジャーのSACDは、それこそオーディオオフ会で、拙宅で再生するときや、持ち込みソフトとして利用する場合も多く、まさにオフ会のキラーコンテンツで、オーディオ・カラー満載のアーティストだった。(笑)

古い録音で自分が持っていなかったものをさらに2枚買い足して、合計11枚揃えた。
これをふたたび聴き込んで、「レイチェル・ポッジャーのディスコグラフィー」という日記を別に立てて、特集したいと思う。1枚1枚の聴きどころ、ポッジャーにとってのスタンス、自分のそのディスクへの想い入れ、サウンド感想など書いてみたいと思う。


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レイチェル・ポッジャーの経歴のことなど、もう少し書いてみよう。


英国の父とドイツ人の母の間に生まれたイギリス国籍。

ドイツのルドルフ・シュタイナー・スクールで教育を受け、帰国後バロック・ヴァイオリンをミカエラ・コンベルティに学び、1997年、トレヴァー・ピノックに招かれてイングリッシュ・コンサートのコンサートミストレス兼協奏曲ソリストに就任した。

2007年にはブレコン・バロック・インストゥルメンタル・アンサンブルを設立し、2010年に録音したデビューCD、バッハのヴァイオリン協奏曲は、ユニバーサル批評家の称賛を集めた。ブレコン・バロックはチェンバロを含めて6名、各パート1人で編成し、バッハ時代のカフェ・ツィンマーマン・アンサンブルを模し、自由で新しいスタイルの演奏を目指している。


このブレコン・バロックというのが彼女専用の室内楽ユニットで、彼女の一連の録音で、その合奏を披露しているのもこのユニットなのだ。

彼女のライフワークのユニット。

彼女の録音で、自分がお気に入りのディスクも、このブレコン・バロックとの作品が結構多いので、印象に残っていた。

今回の来日公演は、無伴奏という、舞台上で、ヴァイオリン1本で聴衆を説得させる素晴らしいものだったが、じつはポッジャーの魅力のもうひとつの側面として、このブレコン・バロックとの合奏をぜひ生演奏で観てみたい気がする。合奏のほうのいわゆる丁々発止の掛け合いをやっている彼女の演奏もとても魅力的。

現在は、彼女はこのブレコン・バロック・フェスティヴァル芸術監督に就任している。

演奏活動の傍ら、英国王立音楽アカデミー (RAM) やジュリアード音楽院などで教鞭もとっている。2015年に、英国王立音楽アカデミーのバッハ賞を受賞した。




ポッジャーの代名詞が、”バロック・ヴァイオリン”

彼女のプロフィールを説明するときには、必ず登場する言葉だ。

それってなに?(笑)

彼女がChannel Classicsに残してきた膨大な録音には、バッハをはじめ、モーツァルト、ハイドン、ヴィヴァルディなどまさに多岐の作品に渡るが、やはり彼女の本質はバッハなのだと思う。(自分の見解です。)

そんなバロック時代に使用していた古楽器のヴァイオリンで、当時の状態で演奏する。


レイチェル・ポッジャーの使用しているバロック・ヴァイオリンという楽器はどういう構造なのかを、きちんと説明するのはなかなか難しい。

本来のバロック時代以前のヴァイオリンは構造自体が、現代のものと違っていて、高張力の現代の弦を張るためには改造が必要のはず。

そこまでバロックヴァイオリンで再現しているのかどうかも分からない。



ヴァイオリンの張る弦には、スチール弦が使用される。しかし、スチール弦が使用されるようになったのは20世紀も半ば近くになってからで、それまでは、羊の腸の筋をよって作ったガット弦が広く用いられていた。

1920年代前後には、演奏家の間でスチール弦か、ガット弦かという優劣論争が繰り広げられた。ガット弦特有の柔らかい響きを重視する演奏家がいる一方で、より力強い音が可能でしかも耐久性の面で特性を発揮するスチール弦の優位を主張して止まない演奏家もいた。でも、音量と耐久性の面で特性を発揮するスチール弦に軍配が挙がったのはその後の歴史に見る通り。

でも、作品の作られたものと同様な楽器で演奏する、いわゆるオリジナル楽器の演奏家が増えてきた、いわゆる”古楽”普及の現在では、ガット弦の復権にも目覚ましいものがあるそうだ。(ネットからの豆知識より。)


バロック・ヴァイオリンという楽器はガット弦でも、生ガット弦を使用している、というネット情報もあった。


一般にいうガット弦(古楽器)は、表面に金属モールを巻きつけたりして補強していたりすることもあるらしい。演奏する上で特にスチール弦(モダン楽器)との大きな差はないが、どんな弦でも種類によって鳴らし方の違いはある。

生ガット弦は、なんか普通に弾くとボソボソして上手く鳴らないらしい。(笑)。

バロック・ヴァイオリンというのは、バロック時代の古楽器ヴァイオリンのことで、その弦も特殊で、普通のヴァイオリン奏者がそのまま弾こうとしても簡単にはうまく鳴らない、やっぱり修行、鍛錬が必要な特殊楽器なのだと思う。

ポッジャーは、そのバロック・ヴァイオリンを弾くことが出来る世界でも数少ない奏者で、現代最高という冠もあるのだ。

彼女のいままでの膨大な録音もそのバロック・ヴァイオリンで演奏されてきた。

じゃあ、その特殊な弦と構造で、普通に弾くことが大層難しいバロック・ヴァイオリンって、どんな音色なの?ということになるのだが、それを邪魔するのがChannel Classicsのハイテクニックな録音技術。(笑)

彼女の録音作品を聴くと、たとえば無伴奏なんかでも、エコーがガッツリかかっていて、空間もしっかり録れていて、ハイテクな録音に仕上がっているので、なんか古楽器というよりは、モダン楽器を聴いているみたいで、自分にはようわからん、というのが実情。


彼女の作品を買いあさっていたときは、そんなことを意識せず聴いていたので、いい録音だな~ぐらいにしか感じなかったのだけれど、こうやって、日記で彼女のことをきちんと書こうと思って、バロック・ヴァイオリンのことを言及していくと、そういう矛盾に行きつくのだ。


じゃあ、エンジニアが加工する録音ではなく、生演奏でのバロック・ヴァイオリンの音を今回聴けるのだから、その感想を後で、じっくり書くことにしてみる・・・

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今回の実演は、調布市文化会館たづくり くすのきホールであった。

ポッジャーの演奏は、無伴奏。舞台上で、ヴァイオリン1本で聴衆を感動させる。
今回の演奏曲は、このアルバムから選曲された。 



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『守護天使~無伴奏ヴァイオリン作品集~バッハ、ビーバー、タルティーニ、ピゼンデル、他』 ポッジャー

http://bit.ly/2J2E7uz




このガーディアン・エンジェル、守護天使と題されたこのアルバムは、レイチェル・ポッジャーのお気に入り作品を集めたもの。

ポッジャー自身の編曲によるバッハの無伴奏フルートのためのパルティータのヴァイオリン・ヴァージョンに始まり、アルバム・タイトル由来の名曲であるビーバーのパッサカリアで締めくくられる。


このアルバム、侮るなかれ、ポッジャーの無伴奏ヴァイオリン作品といえば、デビューのときにベストセラーを記録したバッハの無伴奏があまりに有名だが、このアルバムは、それと連なるすごい濃い中身をもつ。なによりもデビュー作品は、CDだったが、こちらはSACDでサラウンド。


なので、彼女の無伴奏作品では、このディスクが自分は1番お気に入り。

なにがスゴイかというと、そこに使われているテクニック。
ここに収められている作品に必要なテクとして、スコルダトゥーラ(特殊調弦)や、対位法的な要素、ダブル、トリプル、クォドルプル・ストップなどの重音奏法に、多彩なボーイング。

なんか聴いているだけでもゾクゾクだが、実際聴いてみるとそんなにスゴイと思わせないところが、ポッジャーの才能なのかもしれない。


これらの作品を、生演奏で聴けて、そのテクも実際に観れるんだから、この公演は絶対行きだった。




ステージに現れたポッジャーは、自分の長い間恋焦がれた彼女に会う期待感とは裏腹に、かなり地味というか(笑)、素朴そのものの人だった。

いわゆる商業スターが醸し出すようなオーラが全くなく、素朴そのものという感じで、自分はそのほうが返って微笑ましくてホッとした。


すべてにおいて商業っぽくなかった。


演奏スタイルも弓の返しなどのパフォーマンスの類みたいなものも一切なしの正統派そのもの。

美しい、そしてクセのない正しい演奏スタイルだった。


やはり一番自分的にキタのは、最後のバッハのシャコンヌ。無伴奏の名曲中の名曲だが、これはさすがに逝ってしまいした。(笑)

肝心のバロック・ヴァイオリンの生音なのだが、自分にはChannel Classicsの録音のようなエネルギー感のある派手な音に聴こえてしまいました。(笑)

古楽器のような独特の響きではなく、なんか、ふつうに普段彼女の録音作品を聴いている感じだよなぁ、とずっと思って聴いておりました。


専門の人が聴けば、発音の最初がモダンに比べて微妙に小さいというか、遅いというかそういうのはあるのかもしれないが、私にはわかりませんでした。


とにかくあっという間に終演。

夢は一瞬にして終わってしまった。



長年に渡って、いい録音作品をずっと残しつつ実績を重ね、もちろん意識的ではないと思うが、商業路線とは距離を置いてきているように見えてしまう、そういう本物の良さが自分には最高だった。




ご本人は、お茶目な性格で、周りがぱっと明るくなるお方でした。

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終演後、鈴木雅明&優人親子とツーショット。(笑)

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(c)調布国際音楽祭 Twitter






レイチェル・ポッジャー ヴァイオリン・リサイタル「守護天使」
2018.7.1 調布市文化会館たづくり くすのきホール

J.S.バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調
(ポッジャー編、ト短調版)


タルティーニ:ソナタ 第13番ロ短調


マッテイス:ヴァイオリンのためのエアー集より壊れたパッサジョ、匿名の楽章、
ファンタジア、コッレンテ


(休憩)

パッサカリア ト短調「守護天使」

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調

~アンコール~

J.S.バッハ:ソナタ第3番第3楽章

モンタナーリ:ジーダ

J.S.バッハ:ソナタ第1番第1楽章アダージョ







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