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Channel Classicsの新譜:レイチェル・ポッジャーのヴィヴァルディ四季 [ディスク・レビュー]

レイチェル・ポッジャーは今年で満50歳だそうだ。その生誕50周年記念盤らしい。先日のディスコグラフィーの日記では不良品を掴まされ、間に合わなかった。まさにほっかほっかの最新録音。

彼女の作品の中では、バッハと並んで大切な作曲家のヴィヴァルディ。まさにここ最近はヴィヴァルディ・プロジェクトと言っていいほど、充実した作品をリリースしている。

「ラ・ストラヴァガンツァ」、「ラ・チェトラ」、「調和の霊感」とヴァイオリン協奏曲集の名盤を連ねてきたディスコグラフィーに今回加わるのは、「四季」。

ヴィヴァルディの四季といったら、もうクラシックファンでなくとも誰もが知っている名曲中の名曲。

イ・ムジチによる演奏があまりにスタンダード。


なぜ、こんなスタンダードな曲を選んだのだろう、と思うが、まだ学生だった頃のポッジャーが、ナイジェル・ケネディの名録音を聴いて以来、演奏と録音を夢見てきたという想い入れがあるのだそうだ。

自身のアンサンブルのブレコン・バロックを伴って、2017年についに録音が実現、2017年の10月28日には、ブレコン・バロック・フェスティヴァル2017でもこの曲を演奏している。

自分は、このナイジェル・ケネディの名前に思いっきり反応してしまった。(笑)
まさかポッジャーのディスコグラフィーを聴いていて、彼の名前を聞くなんて夢にも思わなかった。


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いまからおよそ20年くらい前の2000年はじめの頃に、友人が、ぜひナイジェル・ケネディを聴いてごらんということで彼のディスクを紹介してくれた。ベルリンフィルとの共演のディスクだった。


自分がすごくショックだったのは、ナイジェル・ケネディのヘアスタイルからファッションに至るルックスだった。


まるでパンクそのものだった!

頭の両側を刈り上げ、てっぺんの毛を立たせ、服装もまさにボロボロ。(笑)

品行方正なクラシック界とは、まるで水と油のような印象。
思想的にも過激そうで、なんでこんな感じのアーティストが、しかもベルリンフィルと共演できるのだろう?と不思議で仕方がなかった。

ナイジェル・ケネディはイギリス人。当時ベルリンフィルの芸術監督に就任したばかりの同じイギリス人のラトルが、従来の殻を破る新しい風を・・・という意図があったかどうかは知らないが、結構仲が良かった。

ナイジェル・ケネディは結構、ベルリンフィルと共演した録音をかなりの枚数おこなっているのだ。

自分にはこれがどうも違和感というか信じられなかった。


ある日の公演当日の朝、燕尾服をニューヨークに忘れて来た事に気付き、古着姿で演奏したのがきっかけ。この出来事をきっかけとして、1980年代頃から燕尾服を着なくなり、パンク・ファッションや平服をステージ衣装として用い続けてきた。


これが彼のスタイルなのだ。


生まれは音楽一家に生まれ、高等な音楽教育も受けてきたが、後に自伝の中でこの種のアカデミックな教育と肌が合わなかった事を告白している。

音楽家としての演奏活動は、クラシックに拘らず、ポップ・ミュージシャン(ポール・マッカートニーやケイト・ブッシュなど)との共演、ジャズやジミ・ヘンドリックス作品をフィーチャーしたアルバムの発売、自分のコンサートを「ギグ」と称するなど、音楽ジャンル間のクロスオーバー的な立ち位置で、「音楽思想家」的な色彩を濃厚に帯びた感じのアーティストだった。

もともとEMIに所属していて、一時引退するが、また復活してつい最近ソニー・クラシカルに移籍した。合計30数枚にも及ぶアルバムを出していて、演奏家としても積極的な活動である。


自分は当時、ベルリンフィルとの共演のアルバムを3枚くらい買った。

いまラックからは探し出せないけれど、もう20年前なので、記憶もあいまいだけれど、聴いた感じは、極端に過激で暴力的な演奏とは思えないが、フレージングやアーティキュレーションなど、結構個性ある解釈でふつうっぽくないな~という感じだったと記憶している。

とにかく超個性的な人で、奇才という表現がぴったりで、世界への発信力、影響力も半端なかった。そんなクロスオーバー的な立ち位置の功労を評価され、2000年から2005年にかけて、ドイツのECOクラシック賞など多数の輝かしい受賞歴がある。

友人が自分に彼を紹介してくれたのは、この頃だったので、たぶんその頃、彼が旬だったからなんだろう。


そんな想い出のあるナイジェル・ケネディと、レイチェル・ポッジャーとは自分の中でまったく結びつきようがなく、自分はなんか運命を感じた。

ポッジャーが学生時代に聴いた、そしてそれがきっかけで演奏と録音を夢見てきた「ナイジェル・ケネディのヴィヴァルディの四季」。

これは自分は知らなかった。

今回初めて知って、いろいろ調べたら、とても興味深く、まさにこのヴィヴァルディ四季こそが、ナイジェル・ケネディという演奏家の勝負曲である、ということがわかった。


1989年に発売されたナイジェル・ケネディのヴィヴァルディの「四季」のCDは、クラシックのヒット・チャートでは1位、ポップスまで含めたヒット・チャートで6位となり、クラシック楽壇以外の場でもその名が広く知られる事に。

この「四季」で、クラシック作品として史上最高の売上(200万枚以上)を達成したとギネスブックに認定された。

ナイジェル・ケネディにとって、まさにこの曲こそが自分を世に知らしめるキッカケになった曲だったのだ。

まさに彼の勝負曲だった。

現在に至るまで、時代を変えて、この曲を3回も録音を重ねて来ている。 


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https://goo.gl/fKhsVL

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲「四季」 Limited Edition
ナイジェル・ケネディ イギリス室内管弦楽団

まさにギネス認定された未贈与の大ヒットとなったのが、このCD。
イギリス室内管弦楽とやっていた。若い!このときはちゃんとしていた服装していた。(笑)

ポッジャーが学生だった頃というのは、たぶんこの1989年の頃だったと思うので、この大ヒットCDのことを指しているに違いない。記録的な世界的大ヒットになって、当時多感だった学生のポッジャーは、このCDを聴いて胸ときめいていたに違いない。

これはちょっと聴いてみたい気がする。

でも上のCDは再発の限定盤なのだ。1989年当時に発売された当時のCDはもう廃盤になっていて入手できない。その頃のジャケットは、いまとちょっと違って、こんな感じ。 


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そして2回目の録音は、それから14年経った2003年の録音。 

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ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」(CCCD)
ナイジェル・ケネディ ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

https://goo.gl/EGQfWW


この頃、就任したばかりのラトルに見いだされ、よくベルリンフィルと共演したり、録音をしてCDを出していたりした。そのベルリンフィルとの共演で、この2回目の四季を録音した。 




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「四季~ニュー・フォー・シーズンズ」 
ナイジェル・ケネディ、オーケストラ・オブ・ライフ


https://goo.gl/cmg73Z


まさに最初の録音から数えて25年目の3回目の録音。最新録音である。ジャケットを見るとますます尖っていそうだ。(笑)

このバックを務めているアンサンブルは、主にポーランドと英国の若手ミュージシャンで構成されていて、作曲家としてケネディが望んだ通りの、ジャズ、ロック、クラシックのレパートリーと即興を行うことが可能なマルチジャンルのアンサンブルだった。まさに彼のスタイルを貫くには最高のパートナー。


この四季について、彼はこのようにインタビューに答えている。

「はじめてヴィヴァルディの四季を聴いたとき、なんて退屈な曲かと思った。誰もがあくびが出るようなやり方で弾いてたからね。スペインのコンサートでこの曲を弾いていた時、突然、ここに流れる途方もないエネルギー、美しいメロディ、そして激しいコントラストがあることに気付いたんだ。この曲にはミュージシャンとしての僕自身を刻印するに足るあらゆるものがあるってことにね。

25年前に僕が出したCDで、みんなもそのことに気づいてくれたと思う。それから25年経った。25年前と同じように弾くなんてもちろん考えられない。今回のアルバムは、以前の自分とはまったく異なる演奏をしたいと思って手掛けたものだ。

僕にとってヴィヴァルディとは、真にグレイトなメロディ、グレイトなオーケストレーション、途方もないエネルギーのぶつかり合いなんだ。ヴィヴァルディはこの作品の中に、何度も聴きたくなるような、そして何度も演奏したくなるような、恐ろしいほどの生命力を吹き込んでる。今回の僕の四季は、『リライト(書き換え)』とでもいうべきもので、ヴィヴァルディの音楽のエッセンスを発展させたものだ。」



自分が友人の紹介でナイジェル・ケネディの存在を知ったのが2000年の頃。だから彼のこと、このような彼の演奏家としての音楽的背景、バックグランドをよく理解できていなかった。


ナイジェル・ケネディのヴィヴァルディの四季を語るのに、ここまで紙面を割いてしまった。(笑)

ポッジャーが今回、この曲をどうしても録音したかった背景がここにあった。

ポッジャーが、満を持して、この曲を録音するパートナーは、もちろん手兵のブレコン・バロック。

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先日の一連のポッジャー日記で詳しく説明したので割愛するが、彼女が音楽面で最も信頼するメンバーだ。

ヨハネス・プラムゾーラー(ヴァイオリン)
ザビーネ・ストッファー(ヴァイオリン)
ジェーン・ロジャーズ(ヴィオラ)
アリソン・マギリヴリー(チェロ)
ヤン・スペンサー(ヴィオローネ)
ダニエレ・カミニティ(テオルボ)
マルツィン・シヴィオントキエヴィチ(チェンバロ、チェンバー・オルガン)


ポッジャーの永年の夢がついに叶ったヴィヴァルディ「四季」の録音。
もちろんChannel Classicsのジャレット・サックスによる録音。

今年、2018年古楽シーン最大級のリリースとなることは間違いない。 




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「四季」「恋人」「安らぎ」「ムガール大帝」 
レイチェル・ポッジャー、ブレコン・バロック


https://goo.gl/FwEZd9


自分は、四季という、あまりにスタンダードで無数に録音が存在するこの曲は、あまり枚数を聴いていないので、他と比べて、という比較はできない。

自分が感じたままに従うと、一言でいえば、ポッジャーの四季は、とても激しくて途方もないエネルギーを感じざるを得なく、なんか衝撃的な演奏のように感じた。ある意味インテンポな演奏なのかもしれないが、じつに切迫感があって、剃刀でスパッと切れるような鋭い切れ味があるので、予想以上に速いテンポで軽快に感じる。

これもあくまで自分の予想なのだけれど、ポッジャーの頭の中にあるこの曲のイメージというのは、学生の時に聴いたナイジェル・ケネディの演奏がそのままあるのではないか、と思うのだ。

だから自分はナイジェル・ケネディの四季は聴いたことがないけれど、きっと同じように情熱的で軽快な演奏だったに違いないと予想する。

ポッジャーは、それを自分の演奏で、一寸たりとも違わないように再現したのではないか・・・?。
あるいは、そこを敢えてポッジャーなりの解釈を施したのか・・・?

このディスクはふつうに聴いてはいけない。
かなり録音レヴェルが小さい。

普段の自分が聴く適切音量(大音量です)で聴くには、普段より6目盛りも上げないといけなかった。この再生音量ヴォリュームの調整を間違えると、なんて迫力のない優しい四季なんだろう?と思ってしまうに違いない。

思い切ってグイっとVOLを上げると、ダイナミックレンジがとても深くて、じつに解像度が高くて、その迫力あるサウンドに驚く。

この手の録音手法って最近の流行なのかな?

こういうアプローチって、最近の新譜でじつに多く体験する。

特に、夏と冬のポッジャーとブレコン・バロックとの弦合奏の部分は、聴いている自分にグイグイ迫ってくる恐怖感を感じるくらいで、この掛け合いの部分は、じつにオーディオオフ会向きのエンタメ性のあるサウンドだなぁ、と感じた。


録音がじつに素晴らしい。

いわゆるChannel Classicsのお家芸のやりすぎ感はいっさいなく、とても基本に忠実な音がした。

ポッジャーのディスコグラフィーでは、大体今風なモダンな処理が施されていて、オーディオ的な快楽のような気持ちよさがある。

実音にほんのり響き、エコー感を上乗せする加工をして、それがもとに芋ずる式に全体的なスケール感の大きいサウンドになるという・・・

でもそれってある意味、あまりに安易だよなぁ、と思うこともある。
オーディオマニアであれば、それで大満足かもしれないが、実演など生音に接する機会の多い音楽ファンが聴くと、そこになんらかの違和感を感じるはず。

生音は生音、オーディオ快楽はそれはそれと、ふんぎりのつく人であればいいが。

この今回のポッジャーの四季は、そのような小賢しい施しを感じないのだ。
サウンド的に人工的な仕掛けをあまり感じず、生音の実演に迫るような迫真さがある。

今回の録音は、自分にはとても好意的に思えた。
とても自然なテイストの音がする。

まさに古楽器の響きがする。

ふだん感じる”安易”なサウンドがしないのだ。
本物の音がする。

演奏、そして録音ふくめ、自分が聴いてきた(数少ないが。)ヴィヴァルディ四季の録音では、最高傑作だといっていいと思う。

まさに今年、2018年古楽シーン最大級のリリースと言って過言ではない確かなクオリティだと感じた。







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