ジャレット・サックスの強烈なインタビュー 技術編 [オーディオ]
Channel ClassicsのSACDやDSDファイルについているジャケットを見てもらえばわかると思うが、本当にこのレーベル独特のセンスのあるカラフルさで、自分はこのレーベルは、本当にジャケットにセンスがあると思っている。サウンドと同様にとても個性ある。
これも全部サックスがカメラマンなのだ。
しかもアーティストをどう構図の中にポーズをとらせて、収めるか、周りの装飾、デザイン含め、すごいセンスある。
ちなみにブックレットの中に挿入されている録音セッションのときの写真とかも、全部サックス。
クレジットにphoto by Jared Sacksと書いてある。
彼は、カメラのほうもかなり好きみたいだ。
そしてやはり1番驚くのは、Channel Classicsのアルバムの楽曲の良さ、音楽性の多様さ。所属しているアーティストも本当に魅力的だけれど、自分のレーベルに契約をしてもらうスカウト行為、そして、そのアーティスト達とどのような曲をテーマにして、レコーディングをやっていくか、を決めていく作業。
これ全部サックスが1人でやっているんだと思うんだよね。
とにかくディレクター兼プロデューサーなのだ。
全部自分が決めている。そして自分が動いている。
録音だけじゃないのだ。
こうしてみると、朝令暮改みたいだけど、やっぱりChannel Classicsは、ジャレット・サックスによるワンマンな会社と言っていいのではないか?
それは別に他人に任せられない、とかいう悪意的な意味ではなくて、本当に作品をプロデュースして作っていくこと自体が大好きで大好きで堪らないだけで、全部自分がやりたい、そういう純粋な気持ちからなんだと思う。
そしてスタジオも自宅。
HMVでもAmazonでもタワレコでのオンラインショップでもどれでもいい。Channel Classicsのラインナップを見てほしい。あれだけ、いろんなジャンルで、たくさんのクオリティの高いアルバムの数々・・・それが全部サックス中心に少数精鋭メンバーで作られたもの、という事実に驚愕するしかないだろう。
Channel Classicsというレーベルは、その華々しい作品群からは予想すらできない、じつはその実態はとても手作り感満載のレーベルだった、と言えるのかもしれない。
いよいよインタビューの後編、ぐっと技術的に掘り下げた内容になります。
記者:
あなたは、Andress Koch氏のDSD over PCMでの再生の技術は成功すると思いますか?
サックス氏:
彼は、かなりテクニカル・サイドのほうに行ってるよね。私にとっては、DSDの優位性というのは、感情の起伏、深さ、そしていかにSPから音離れさせられるか?というところにあると思っています。それはもはやブロック形状の感覚ではないんですよね。
あなたが、PCMの音を聴くとき、SPからは文字通り、ブロック形状の音が聴こえるような感覚を持つと思います。そういう感覚は、DSDでは絶対起こらないのです。
DSDの音は空気のような存在のサウンド。その空気のような存在の音について語り合いましょう。
私にとって、もし、あなたがワイン・テイスティングをやるならわかってもらえるでしょうけど、録音はワイン・テイスティングのようなものでないといけないと思っているのです。なぜなら、他の人があなたが言っているところの意味を理解できないといけないからです。
あなたがサウンドを造る、そしてミュージシャンがやってきて、それを聴く。そして彼らが、それをどのように聴こえたのかを説明できないといけない。
私達はお互いを理解しないといけないですし、形容詞を使って、そのサウンドを表現しないといけない。なぜなら、彼らがヴァイオリンのEの弦をどのように聴こえたのかを彼らが説明していることを、理解するために、いちいち本を広げてられないからです。
私はすぐにその箇所に戻って、物理的に彼らが感じたレベルの正しさになるように、いろいろ調整しないといけないのです。そこには本類はいっさい必要ない。経験上からくるカット&トライの世界なのです。
特に我々のオーディオの世界では、他人が理解できるように、SPやAMPから放たれるサウンドが、どのように表現できるか、というその表現の言葉を探し出すことが大切な仕事なのです。
PCMとDSDのサウンドの違いを表現することは、さほど難しいことではありません。
記者:
あなたが、DSDは感情の起伏を運んでくる、そういうところに優位性があると語るとき、それは人々がDSDの音を聴くとき、それはより音楽を聴いているような感覚に近くなる、ということを意味している、と理解していいですか?
サックス:
まさにその通り!もちろん、人はそれぞれどのように聴こえるかは違って当然。コンサートで、まずあなたは、オーケストラの概観をヴィジュアルで感じることになるでしょう。
でも、もし実際そのサウンドを聴く段階になると、ここのコンサートホールの音響はいいかどうか、まず確認するはずです。
なぜ、あなたはそのとき鳥肌が立つくらい感動するのか?それはホールの直接音だけでなく、側方や後方からの反射音を聴いているからなのです。そして、我々は、それらの直接音、反射音の関係を、マルチチャンネルのフォーマットで、そのままキャプチャーしようとするわけです。
しかし、2chステレオのリスナーとして聴く場合、もう少し工夫してやる必要があるのです。
DSDは、とくにそのダイナミックレンジという観点から、それが可能になるのです。
高域では、音は空気のような感じの繊細さになると言うことができます。音楽は、まさにこの空気のような感覚が必要なのです。DSDを使うと、特に録音機材がどこにあるかという意識を分散させてくれるメリットがあると思うのです。DSDは優れています。
もし、私が録音したブタペスト祝祭管のマーラー1番「巨人」を聴くとき、そのサウンドの明瞭さ、そしてその深さの表現において、特に成功した録音だな、と感じます。
これが、まさに音を表現するための形容詞なのです。
しかし、結局のところ、やはり感情の起伏の表現、そこに行き着いちゃうのです。私にとって、そういう表現を実現してくれるフォーマットは、DSD以外にありません。
記者:
native DSDで録音しているのは、実際どのようなところがやってますか?
サックス:
スターターとして最初に取り組んでいるのは、PENTATONE、ハルモニア・ムンディ、BSO、そしてAlia Voxかな?
BISやLINNはやっていない。コンセルトヘボウでさえやっていない。なぜなら彼らは、いまのラジオ放送局の設備を使わないといけないから。
Challenge Classics(彼らは、私がずっと昔に教えていた生徒です。)の数枚のディスクは、native DSDだね。おそらくドイツの中の15の小さなレーベルがnative DSDを採用している。日本のExton(Octaviaレコード)もそうです。
録音機材のフロント部分はいくつかの新しい機材となる。マイクプリアンプやA/D-D/Aコンバーター(Horusと呼ばれているMerging Technologiesのもの)は、扱いやすくなったね。すべてが1Box-typeに収納できるようになっているので。
まぁ、値段が高価ではあるけれど、昔に比べたら、それでもずいぶん安くなったもんです。そこが大きな違いかな?
私はサンプリング周波数 64Fs(2.82MHz)で録音している。特に最近は、さらに128Fs(5.6MHz)や256Fs(11.2MHz)でも録音できるようになった。オーディオファイル(オーディオマニア)は、サンプリング周波数が2倍になれば、それだけよくなると感じるかもしれない。
たとえば64Fsで録音することを考えましょう。そこから128Fsになると、周波数スペクトラム的にもノイズレベルがオクターブが急になって、さらに高域に追いやられて(ノイズシェーピング)扱いやすくなる。
でもそんな技術的なことは自分にとっては、あまり重要ではない。まずリスニング試聴テストをやらないといけない。
我々のビジネスでは、ポストプロダクションをやらないといけません。
しかし常時やるわけではありません。私はいつもステレオ2chにミックスダウンしないといけない。サラウンド音声のチャンネルは、ダイレクトにA/Dコンバーターを通るが、そのままミキサーを通過するわけではない。
その部分のデータを取り出して、ポストプロダクションを通さないマスターを造ることにしている。(言い換えれば、シグマデルタ変調のコンバーターを通す前)
ミキサーを通す前に、いくつかのEQをかけて、ある程度の音に装飾をつけないといけない。もちろんハイレベルのDSDになってくると、DXDのフォーマットにして、ポストプロダクションをやる、という方法もある。
現在、これが真のやり方というのが統一されている訳ではない。それは将来的に解決されるでしょう。
でもこれだけは確実なことは、この処理をするために、他の外部録音製作会社に委託するというソリューションはない、ということです。(笑)
もし、あなたがいわゆるRAWデータを聴いたとき、それをポストプロダクションした音と比較したとき、機材の周りの空気感や深さの表現に違いを感じることでしょう。それはグラデーションする前のプロセスのサウンドで、軽い程度だけど確かにその違いは存在します。残念ながら、それについて対応する策はありません。
192PCMとDSDの音の違いを、あなたは尋ねたいかもしれない。
その違いを聴こえるようになるには、まずあなたは、本当によいオーディオ機器を持っていないといけない。もちろん曲のレパートリーに依存することもある。私は特にダイナミックレンジという観点から、その比較をする。
もし192PCMのダウンサンプリングするなら、絶対に、その音はPCMの音として聴こえます。
私のGrimmのコンバーターは、とてもよい。私の特別の自家製のミキシング・ボードでつなげるんですが。そして私が最近の2年間で使っているバッテリー駆動のマイクのプリアンプ、そしてvan del Hul T-3 cable、これらを使うとサウンドは信じられないくらい素晴らしいよ。
私のマーラー1番の録音をしっかりと聴いてみてほしい。サウンドはとてもオープン、大音量の音の部分でさえもその空気感が抜群です。感情の起伏、そして深さの表現は、あなたを包んで堪らない気持ちになるでしょう。
私は、ライブイヴェントにはなるべく接するようにしたほうがいいと思っている。そして録音のレビューもきちんと気にしたほうがいい。
私は、このライブと録音のレビューの2つのコンビネーションを参考にしながら、録音をやり続けています。
記者:
DSDの欠点は、編集できないこと。そこで、DSDの次なる改良プロセスとしては、DXDで編集できるようになることでしょうか?
サックス:
その通り。私がマーラー1番のRAWデータを君に送ることができたとしたら、その違いがわからなくなるでしょう。人々は私にオリジナル・マスターを要求してくることになる。
2012年でエキサイティングだったこと。私がネットコンテンツのDSDファイルを提供し始めたとき、DSD DACを提供できたメーカーは2社しかなかった。それがいまや60社を超える勢いなのです。
いま私はマルチチャンネルのDACを提供できるように働きかけている。Mytek, Oppo, and ExaSoundなんかがリーディング・カンパニー。我々の方向性は、マルチチャンネルの方向に向いていることは間違いないことです。
将来、私は、普通のCDを造ることに戻りたいと思っている。
私が、いま直面している問題点は、ハイブリッドのSACDを造るとき、それをノーマルのCDの値段で売ろうとしたときに、そのマージン利益が限りなく小さいものとなってしまうことなのです。それに比べて、ダウンロードコンテンツでは、2chステレオとマルチチャンネルのファイルをまったくその同じ値段で造れてしまいます。
アメリカの問題は、実際のところ、ディーラーであるところのレーベル。ここ数年、彼らはSACDを扱いたいと思っていないし、またそのための普及の教育をしたいと思っていないところに問題があると思っています。これはこれからもずっと抱える問題でしょう。
だから、私はリスナーを教育するための雑誌とWEBサイトを必要としています。
記者:
あなたの録音の中で、ポストプロダクションを通さないRAWデータが含まれることはありますか?
サックス:
あります。かなりの部分ある。最初の頃の録音、Ragazze String Quartet (Haydn, Schubert,Widmann)新しい録音では、レイチェル・ポッジャーの守護天使。とか。。。
記者:
聴くときの再生システムは、どのようなものをお使いですか?
サックス:
15年前、私はとてもアベレージだけど、とてもリニア特性に優れたオランダのオーディオメーカーの2Way SPを録音のために購入した。
私はスタッフを持たないといけなかったし、いつもリスニングルームでは、教会のような信じられないような響きをもったアコースティックな音響のサウンドを聴かないといけないので、とてもベーシックなモニターに適したシステムのほうがいいと思うようになりました。
私は、10台のSPを購入。うち5台はうちのスタジオに、そして残り5台を出張先のロケーション用とした。
私の他のスタジオでは、マルチチャンネル用のB&W 803Dを5本にクラッセの5つのアンプが内蔵されたパワーアンプ、そしてカスタムメイドのプリアンプ、そして van den Hul のケーブルを使っている。
大体、出張先のロケーションのところで、ほとんどすべての編集は終わってしまいます。
ステレオで編集するとき。そしてマスターを造る瞬間のマルチチャンネルで聴くときのみ。
大体、普通の一般ユーザーは、95%の人がステレオ2chで聴いていると思うので、自分にはそれがベスト。加えて、マルチチャンネルのプロセスはとてもシンプルだからね。
ときどき、ステレオ2chのために、私はサラウンド音声のアンビエンスをちょっとだけ加えることがある。そのようにしないと、2chではコンサートホールの空間が表現できないから。
ミックスダウンを終わった後、私は台所や私のオフィスや息子のラジカセのところに持っていきます。
特にボーカルの部分、Barbara Hannigan が歌うBritten's Les Illuminations。
私は、いわゆるハイフェッツ・エフェクトのようなヴァイオリンの響き効果、また別の場所でのピアノやオーケストラの響きの部分を造って足しこむようなことをする人間ではありません。
というのは、声というのは楽器の一部。特にディクション(発音)は明快に理解できるように聴き取れないといけない。だから、ここに特別の注意を払う。だから違う部屋に行って、その声を邪魔しないように、十分周りが低いレベルかどうか聴いてみるです。
私は、2chステレオミックスは、出張先ロケーションでも十分納得できるまで造りこむ。
しかし、もし必要ならばソロトラックや他のトラックをあとで追加することもある。
だから私のステレオミックスでは、私は常に加えている作業のみ。取り除くことは絶対しない。
でもときどき、出張先で、話し声さえ聴こえずらい悪いロケーションに遭遇するときもある。
そのようなときは、ソロトラックは別のトラックに格納して、後で処理する。
しかし、native DSDマスターのときは、編集できないので、DXDにて、ポストプロダクションによって処理する場合もある。
記者:
一般大衆が、DSD DACを購入して、あなたの192PCMファイルを持っていたとしたら、DSDファイルとは違う対価になるべきだと考えますか?
サックス:
はい。異なった解像度には、異なった対価を払うべきです。
120年の長いオーディオの歴史の中で、最初の時代、シンプルなダウンロードでどれも全く同じ解像度クオリティのファイルしか存在しない、という信じられない時代がありました。オランダの問題は、21%のtax。我々はダウンロードのために25ユーロ払わないといけない。我々は、クーポン・コードシステムを作って、購入ごとにポイントが溜まり、その25%のtaxを減算していくような工夫をしています。
我々は、音楽配信サービスのNative DSD Music.comをスタートさせました。
DSDでの音源の2chとマルチチャンネルのファイルを供給する音楽配信サイトです。
すべてのレーベルが、そのサイトには、自分のページ領域が割り当てられていて、録音をプロモートできます。
ファイル形式は、DSFファイル。メタデータは、JRiverとコンパティブルなソフトウエア上では、ファイルにタグづけされます。
我々は、64Fs DSDだけでなく、さらに128Fs DSD、256Fs DSDも対応させていくつもりです。
DXDファイル形式も、録音時にいっしょに付加されます。
1ヶ月単位でたくさんのレーベルの録音がどんどん追加されますので、ぜひご期待ください!
DSDは空気のような存在で、音楽の再生はまさにそうあるべきだ、というのがサックスの主張。
世間一般的には、PCMはロックやポップスのようなメリハリの効いたアタック感のある曲に向いていて、DSDは、繊細で柔らかい質感で空間を感じやすいような特徴があって、クラシックに向いている、というような通説がある。
サックスはその繊細な信号レベルを表現できるところが気に入っているようだ。
あと、最近、アーティストの新譜をSACDでは造らなくなって、物理メディアはCDで出して、あとはネットコンテンツ(DSDファイル)でavailableというビジネスのやり方も、結局コストの問題だったんですね。
サックス自身がノーマルなCDの原点に帰還したい、という考えを持っていたのは驚きました。
すべて伏線があったということです。
このインタビューで、Channel Classicsのすべてが理解できたと思う。
公式HPなんかより、その核心をついた内容だと思う。
これで、最後の砦であった、このレーベルの日記をかけてホッと安堵です。
もう思い残すことない。(あれ?CHANDOSは・・・?(笑))
これも全部サックスがカメラマンなのだ。
しかもアーティストをどう構図の中にポーズをとらせて、収めるか、周りの装飾、デザイン含め、すごいセンスある。
ちなみにブックレットの中に挿入されている録音セッションのときの写真とかも、全部サックス。
クレジットにphoto by Jared Sacksと書いてある。
彼は、カメラのほうもかなり好きみたいだ。
そしてやはり1番驚くのは、Channel Classicsのアルバムの楽曲の良さ、音楽性の多様さ。所属しているアーティストも本当に魅力的だけれど、自分のレーベルに契約をしてもらうスカウト行為、そして、そのアーティスト達とどのような曲をテーマにして、レコーディングをやっていくか、を決めていく作業。
これ全部サックスが1人でやっているんだと思うんだよね。
とにかくディレクター兼プロデューサーなのだ。
全部自分が決めている。そして自分が動いている。
録音だけじゃないのだ。
こうしてみると、朝令暮改みたいだけど、やっぱりChannel Classicsは、ジャレット・サックスによるワンマンな会社と言っていいのではないか?
それは別に他人に任せられない、とかいう悪意的な意味ではなくて、本当に作品をプロデュースして作っていくこと自体が大好きで大好きで堪らないだけで、全部自分がやりたい、そういう純粋な気持ちからなんだと思う。
そしてスタジオも自宅。
HMVでもAmazonでもタワレコでのオンラインショップでもどれでもいい。Channel Classicsのラインナップを見てほしい。あれだけ、いろんなジャンルで、たくさんのクオリティの高いアルバムの数々・・・それが全部サックス中心に少数精鋭メンバーで作られたもの、という事実に驚愕するしかないだろう。
Channel Classicsというレーベルは、その華々しい作品群からは予想すらできない、じつはその実態はとても手作り感満載のレーベルだった、と言えるのかもしれない。
いよいよインタビューの後編、ぐっと技術的に掘り下げた内容になります。
記者:
あなたは、Andress Koch氏のDSD over PCMでの再生の技術は成功すると思いますか?
サックス氏:
彼は、かなりテクニカル・サイドのほうに行ってるよね。私にとっては、DSDの優位性というのは、感情の起伏、深さ、そしていかにSPから音離れさせられるか?というところにあると思っています。それはもはやブロック形状の感覚ではないんですよね。
あなたが、PCMの音を聴くとき、SPからは文字通り、ブロック形状の音が聴こえるような感覚を持つと思います。そういう感覚は、DSDでは絶対起こらないのです。
DSDの音は空気のような存在のサウンド。その空気のような存在の音について語り合いましょう。
私にとって、もし、あなたがワイン・テイスティングをやるならわかってもらえるでしょうけど、録音はワイン・テイスティングのようなものでないといけないと思っているのです。なぜなら、他の人があなたが言っているところの意味を理解できないといけないからです。
あなたがサウンドを造る、そしてミュージシャンがやってきて、それを聴く。そして彼らが、それをどのように聴こえたのかを説明できないといけない。
私達はお互いを理解しないといけないですし、形容詞を使って、そのサウンドを表現しないといけない。なぜなら、彼らがヴァイオリンのEの弦をどのように聴こえたのかを彼らが説明していることを、理解するために、いちいち本を広げてられないからです。
私はすぐにその箇所に戻って、物理的に彼らが感じたレベルの正しさになるように、いろいろ調整しないといけないのです。そこには本類はいっさい必要ない。経験上からくるカット&トライの世界なのです。
特に我々のオーディオの世界では、他人が理解できるように、SPやAMPから放たれるサウンドが、どのように表現できるか、というその表現の言葉を探し出すことが大切な仕事なのです。
PCMとDSDのサウンドの違いを表現することは、さほど難しいことではありません。
記者:
あなたが、DSDは感情の起伏を運んでくる、そういうところに優位性があると語るとき、それは人々がDSDの音を聴くとき、それはより音楽を聴いているような感覚に近くなる、ということを意味している、と理解していいですか?
サックス:
まさにその通り!もちろん、人はそれぞれどのように聴こえるかは違って当然。コンサートで、まずあなたは、オーケストラの概観をヴィジュアルで感じることになるでしょう。
でも、もし実際そのサウンドを聴く段階になると、ここのコンサートホールの音響はいいかどうか、まず確認するはずです。
なぜ、あなたはそのとき鳥肌が立つくらい感動するのか?それはホールの直接音だけでなく、側方や後方からの反射音を聴いているからなのです。そして、我々は、それらの直接音、反射音の関係を、マルチチャンネルのフォーマットで、そのままキャプチャーしようとするわけです。
しかし、2chステレオのリスナーとして聴く場合、もう少し工夫してやる必要があるのです。
DSDは、とくにそのダイナミックレンジという観点から、それが可能になるのです。
高域では、音は空気のような感じの繊細さになると言うことができます。音楽は、まさにこの空気のような感覚が必要なのです。DSDを使うと、特に録音機材がどこにあるかという意識を分散させてくれるメリットがあると思うのです。DSDは優れています。
もし、私が録音したブタペスト祝祭管のマーラー1番「巨人」を聴くとき、そのサウンドの明瞭さ、そしてその深さの表現において、特に成功した録音だな、と感じます。
これが、まさに音を表現するための形容詞なのです。
しかし、結局のところ、やはり感情の起伏の表現、そこに行き着いちゃうのです。私にとって、そういう表現を実現してくれるフォーマットは、DSD以外にありません。
記者:
native DSDで録音しているのは、実際どのようなところがやってますか?
サックス:
スターターとして最初に取り組んでいるのは、PENTATONE、ハルモニア・ムンディ、BSO、そしてAlia Voxかな?
BISやLINNはやっていない。コンセルトヘボウでさえやっていない。なぜなら彼らは、いまのラジオ放送局の設備を使わないといけないから。
Challenge Classics(彼らは、私がずっと昔に教えていた生徒です。)の数枚のディスクは、native DSDだね。おそらくドイツの中の15の小さなレーベルがnative DSDを採用している。日本のExton(Octaviaレコード)もそうです。
録音機材のフロント部分はいくつかの新しい機材となる。マイクプリアンプやA/D-D/Aコンバーター(Horusと呼ばれているMerging Technologiesのもの)は、扱いやすくなったね。すべてが1Box-typeに収納できるようになっているので。
まぁ、値段が高価ではあるけれど、昔に比べたら、それでもずいぶん安くなったもんです。そこが大きな違いかな?
私はサンプリング周波数 64Fs(2.82MHz)で録音している。特に最近は、さらに128Fs(5.6MHz)や256Fs(11.2MHz)でも録音できるようになった。オーディオファイル(オーディオマニア)は、サンプリング周波数が2倍になれば、それだけよくなると感じるかもしれない。
たとえば64Fsで録音することを考えましょう。そこから128Fsになると、周波数スペクトラム的にもノイズレベルがオクターブが急になって、さらに高域に追いやられて(ノイズシェーピング)扱いやすくなる。
でもそんな技術的なことは自分にとっては、あまり重要ではない。まずリスニング試聴テストをやらないといけない。
我々のビジネスでは、ポストプロダクションをやらないといけません。
しかし常時やるわけではありません。私はいつもステレオ2chにミックスダウンしないといけない。サラウンド音声のチャンネルは、ダイレクトにA/Dコンバーターを通るが、そのままミキサーを通過するわけではない。
その部分のデータを取り出して、ポストプロダクションを通さないマスターを造ることにしている。(言い換えれば、シグマデルタ変調のコンバーターを通す前)
ミキサーを通す前に、いくつかのEQをかけて、ある程度の音に装飾をつけないといけない。もちろんハイレベルのDSDになってくると、DXDのフォーマットにして、ポストプロダクションをやる、という方法もある。
現在、これが真のやり方というのが統一されている訳ではない。それは将来的に解決されるでしょう。
でもこれだけは確実なことは、この処理をするために、他の外部録音製作会社に委託するというソリューションはない、ということです。(笑)
もし、あなたがいわゆるRAWデータを聴いたとき、それをポストプロダクションした音と比較したとき、機材の周りの空気感や深さの表現に違いを感じることでしょう。それはグラデーションする前のプロセスのサウンドで、軽い程度だけど確かにその違いは存在します。残念ながら、それについて対応する策はありません。
192PCMとDSDの音の違いを、あなたは尋ねたいかもしれない。
その違いを聴こえるようになるには、まずあなたは、本当によいオーディオ機器を持っていないといけない。もちろん曲のレパートリーに依存することもある。私は特にダイナミックレンジという観点から、その比較をする。
もし192PCMのダウンサンプリングするなら、絶対に、その音はPCMの音として聴こえます。
私のGrimmのコンバーターは、とてもよい。私の特別の自家製のミキシング・ボードでつなげるんですが。そして私が最近の2年間で使っているバッテリー駆動のマイクのプリアンプ、そしてvan del Hul T-3 cable、これらを使うとサウンドは信じられないくらい素晴らしいよ。
私のマーラー1番の録音をしっかりと聴いてみてほしい。サウンドはとてもオープン、大音量の音の部分でさえもその空気感が抜群です。感情の起伏、そして深さの表現は、あなたを包んで堪らない気持ちになるでしょう。
私は、ライブイヴェントにはなるべく接するようにしたほうがいいと思っている。そして録音のレビューもきちんと気にしたほうがいい。
私は、このライブと録音のレビューの2つのコンビネーションを参考にしながら、録音をやり続けています。
記者:
DSDの欠点は、編集できないこと。そこで、DSDの次なる改良プロセスとしては、DXDで編集できるようになることでしょうか?
サックス:
その通り。私がマーラー1番のRAWデータを君に送ることができたとしたら、その違いがわからなくなるでしょう。人々は私にオリジナル・マスターを要求してくることになる。
2012年でエキサイティングだったこと。私がネットコンテンツのDSDファイルを提供し始めたとき、DSD DACを提供できたメーカーは2社しかなかった。それがいまや60社を超える勢いなのです。
いま私はマルチチャンネルのDACを提供できるように働きかけている。Mytek, Oppo, and ExaSoundなんかがリーディング・カンパニー。我々の方向性は、マルチチャンネルの方向に向いていることは間違いないことです。
将来、私は、普通のCDを造ることに戻りたいと思っている。
私が、いま直面している問題点は、ハイブリッドのSACDを造るとき、それをノーマルのCDの値段で売ろうとしたときに、そのマージン利益が限りなく小さいものとなってしまうことなのです。それに比べて、ダウンロードコンテンツでは、2chステレオとマルチチャンネルのファイルをまったくその同じ値段で造れてしまいます。
アメリカの問題は、実際のところ、ディーラーであるところのレーベル。ここ数年、彼らはSACDを扱いたいと思っていないし、またそのための普及の教育をしたいと思っていないところに問題があると思っています。これはこれからもずっと抱える問題でしょう。
だから、私はリスナーを教育するための雑誌とWEBサイトを必要としています。
記者:
あなたの録音の中で、ポストプロダクションを通さないRAWデータが含まれることはありますか?
サックス:
あります。かなりの部分ある。最初の頃の録音、Ragazze String Quartet (Haydn, Schubert,Widmann)新しい録音では、レイチェル・ポッジャーの守護天使。とか。。。
記者:
聴くときの再生システムは、どのようなものをお使いですか?
サックス:
15年前、私はとてもアベレージだけど、とてもリニア特性に優れたオランダのオーディオメーカーの2Way SPを録音のために購入した。
私はスタッフを持たないといけなかったし、いつもリスニングルームでは、教会のような信じられないような響きをもったアコースティックな音響のサウンドを聴かないといけないので、とてもベーシックなモニターに適したシステムのほうがいいと思うようになりました。
私は、10台のSPを購入。うち5台はうちのスタジオに、そして残り5台を出張先のロケーション用とした。
私の他のスタジオでは、マルチチャンネル用のB&W 803Dを5本にクラッセの5つのアンプが内蔵されたパワーアンプ、そしてカスタムメイドのプリアンプ、そして van den Hul のケーブルを使っている。
大体、出張先のロケーションのところで、ほとんどすべての編集は終わってしまいます。
ステレオで編集するとき。そしてマスターを造る瞬間のマルチチャンネルで聴くときのみ。
大体、普通の一般ユーザーは、95%の人がステレオ2chで聴いていると思うので、自分にはそれがベスト。加えて、マルチチャンネルのプロセスはとてもシンプルだからね。
ときどき、ステレオ2chのために、私はサラウンド音声のアンビエンスをちょっとだけ加えることがある。そのようにしないと、2chではコンサートホールの空間が表現できないから。
ミックスダウンを終わった後、私は台所や私のオフィスや息子のラジカセのところに持っていきます。
特にボーカルの部分、Barbara Hannigan が歌うBritten's Les Illuminations。
私は、いわゆるハイフェッツ・エフェクトのようなヴァイオリンの響き効果、また別の場所でのピアノやオーケストラの響きの部分を造って足しこむようなことをする人間ではありません。
というのは、声というのは楽器の一部。特にディクション(発音)は明快に理解できるように聴き取れないといけない。だから、ここに特別の注意を払う。だから違う部屋に行って、その声を邪魔しないように、十分周りが低いレベルかどうか聴いてみるです。
私は、2chステレオミックスは、出張先ロケーションでも十分納得できるまで造りこむ。
しかし、もし必要ならばソロトラックや他のトラックをあとで追加することもある。
だから私のステレオミックスでは、私は常に加えている作業のみ。取り除くことは絶対しない。
でもときどき、出張先で、話し声さえ聴こえずらい悪いロケーションに遭遇するときもある。
そのようなときは、ソロトラックは別のトラックに格納して、後で処理する。
しかし、native DSDマスターのときは、編集できないので、DXDにて、ポストプロダクションによって処理する場合もある。
記者:
一般大衆が、DSD DACを購入して、あなたの192PCMファイルを持っていたとしたら、DSDファイルとは違う対価になるべきだと考えますか?
サックス:
はい。異なった解像度には、異なった対価を払うべきです。
120年の長いオーディオの歴史の中で、最初の時代、シンプルなダウンロードでどれも全く同じ解像度クオリティのファイルしか存在しない、という信じられない時代がありました。オランダの問題は、21%のtax。我々はダウンロードのために25ユーロ払わないといけない。我々は、クーポン・コードシステムを作って、購入ごとにポイントが溜まり、その25%のtaxを減算していくような工夫をしています。
我々は、音楽配信サービスのNative DSD Music.comをスタートさせました。
DSDでの音源の2chとマルチチャンネルのファイルを供給する音楽配信サイトです。
すべてのレーベルが、そのサイトには、自分のページ領域が割り当てられていて、録音をプロモートできます。
ファイル形式は、DSFファイル。メタデータは、JRiverとコンパティブルなソフトウエア上では、ファイルにタグづけされます。
我々は、64Fs DSDだけでなく、さらに128Fs DSD、256Fs DSDも対応させていくつもりです。
DXDファイル形式も、録音時にいっしょに付加されます。
1ヶ月単位でたくさんのレーベルの録音がどんどん追加されますので、ぜひご期待ください!
DSDは空気のような存在で、音楽の再生はまさにそうあるべきだ、というのがサックスの主張。
世間一般的には、PCMはロックやポップスのようなメリハリの効いたアタック感のある曲に向いていて、DSDは、繊細で柔らかい質感で空間を感じやすいような特徴があって、クラシックに向いている、というような通説がある。
サックスはその繊細な信号レベルを表現できるところが気に入っているようだ。
あと、最近、アーティストの新譜をSACDでは造らなくなって、物理メディアはCDで出して、あとはネットコンテンツ(DSDファイル)でavailableというビジネスのやり方も、結局コストの問題だったんですね。
サックス自身がノーマルなCDの原点に帰還したい、という考えを持っていたのは驚きました。
すべて伏線があったということです。
このインタビューで、Channel Classicsのすべてが理解できたと思う。
公式HPなんかより、その核心をついた内容だと思う。
これで、最後の砦であった、このレーベルの日記をかけてホッと安堵です。
もう思い残すことない。(あれ?CHANDOSは・・・?(笑))
2018-07-30 21:18
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コメント(2)
SACDの置かれた現状が浮き彫りになっていますね。今から10年程前に、ソニークラシカルからペライアのモーツァルト協奏曲全集をDSDの技術でリマスタしたセットが発売されました。フォーマットはCDなのですが、音の鮮度感、空気感が素晴らしいのです。今後、Channel Classicsからはパッケージ・メディアとしてはCDになるとしても、音質的にはSACDに肉薄したものになるのでしょうか。その点に大変興味があります。
by ま~さん (2018-08-03 16:06)
ま~さん、DSDフォーマットは、マスター音源として録ってアーカイブするときのフォーマットとしてが一番輝いていますかね?DSDからPCMのいろいろな諸元に変換できますし、また開発当時、そのように、できるようにフォーマットが考えられていますから。
DSDで録れば、その繊細な空気感は確実に捉えれることが出来るので、そこからユーザ用にどのように調理してダウンサイジングしていくか、はエンジニアの腕の見せ所ですね。
by ノンノン (2018-08-03 22:55)