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ハンブルクトリオ [国内クラシックコンサート・レビュー]

結成は2013年。まさに名前の通り、ハンブルクを拠点とするピアノ三重奏団である。

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毎年作曲家ごとのピアノ三重奏曲全曲を録音し、世界各地でコンサートを行うことをコンセプトに活動している。(2015年ブラームス、2016-17年シューマン、2018年メンデルスゾーン)

当時、ハンブルク州立歌劇場管弦楽団の奏者として活躍していた塩貝みつるさんと、北ドイツ放送響(現在のNDRエルプルフィルハーモニー)のメンバーであったヴィタウタス・ゾンデキス、そして塩貝さんのもともとの知り合いだったエバーハルト・ハーゼンフラッツともに、インターネットで配信するライブ録音で、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番を演奏したのがきっかけだった。

すごくぴったり合って、自分たちでその録音を聴いて、これは続けよう!ということになったとか。

いまやハンブルクを拠点にベルリン、カッセル、マインツなどドイツ各地で活動。新聞などで高い評価を受け、ZDF(ドイツ国営第二放送)、NDR(北ドイツ放送)に出演し知名度をあげた。

今年の2018年1月にはベルリンとハンブルクでベートーヴェンのトリプルコンチェルトを演奏し話題となった。その他、サンクトペテルブルクのフィルハーモニアホール、リュブリャナ音楽祭、ウーゼドム音楽祭に招待されている。


結成間もないフレッシュなユニットだが、今回の来日を含め、過去3回も来日している!

そうだったのか!

申し訳ございません。自分はまったく気づいてなかったです。(^^;;

このトリオの存在を認識したのは、今年に入ってから。

ヴァイオリン奏者の塩貝みつるさんとSNSで縁があるので、ぜひ実演に接してみたいとずっと思っていたところ、このハンブルクトリオの来日コンサートの報があって、これはぜひ行かねば!と思っていたのだ。

初来日が、2015年のブラームス三重奏曲で、それから2017年にシューマン三重奏曲と、本当に勿体ないことをした。かなり悔しいです。自分の過去のSNSを覗いてみると、去年の2017年のコンサートに至っては招待されていた。。。なんとアホなんだろう。(><)

このハンブルクトリオの日記を書くために、いろいろ調べていたら、なんか、かなり中身の濃いことをずっと自分はスルーしていたんだな(笑)と思いました。

まさに三度目の正直で、かなり気合を入れて今回に臨んだのだった。

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塩貝みつる(ヴァイオリン)

桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ修了。原田幸一郎、篠崎史紀、堀正文の各氏に師事。2004年よりハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団、並びにハンブルク国立歌劇場の第1ヴァイオリン首席アソシエイト・コンサートミストレス。NDRエルプフィル、シュトゥッツガルト放送響、バイエルン歌劇場などで客演する。ソリストとしてもウィーン交響楽団、ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団などと協演している。

ドイツ・ハンブルク在住で活動していたが、現在は国内に拠点を移し、ゲストコンサートミストレスやソリスト、室内楽奏者として日本と欧州で活躍している。




ヴィタウタス・ゾンデキス(チェロ)

リトアニア出身。1997年より、ハンブルク北ドイツ放送エルプフィルハーモニー交響楽団ソロチェリスト。サンクトペテルブルク音楽院で、故アナトリー・ニキーチン教授のもとで研鑽を積み、その後リューベック音楽院にて、デイビット・ゲリンガス氏に師事。97年ニュージーランドでの国際チェロコンクールで優勝。ソロ、室内楽奏者として世界の主要なホールで客演。




エバーハルト・ハーゼンフラッツ(ピアノ)

ドイツ生まれ。国内外の数々のコンクールに入賞。アルフォンス・コンタルスキー、セルジュ・コロ、マーティン・ロヴェット、ヘンリー・マイヤー (ラサール四重奏団)、ノーマン・シェトラーの各氏による数々の国際マスターコースで助手を務める。現在はベルリン芸術大学にて教鞭を執りながら室内楽奏者としても活躍している。





チェロのゾンデキスさんはなんと急病で突然来日できなくなった。まさに直前のできごと。急遽のピンチヒッターとしてフランクフルト放送響の団員で、個人でもピアノトリオを組んで活躍中のベテランであるウルリッヒ・ホルンさん(ホルンだけどチェリスト)が見事に勤め上げた。

なんでも本当の直前での合流で、前日にリハーサルで、ちょっと合わせた程度。さらにウルリッヒさんにとって初見の曲だったとか。

演奏家として真の力が試されるのは、こういうピンチヒッターのとき。

この日の公演で、特にウルリッヒさんに注目して見ていたが、まったく違和感なし。見事なまでにユニットに同化されていて、その役割を全うされていた。あっぱれだと思いました。

ちなみにウルリッヒさんは、2013年からバイロイト祝祭管弦楽団のメンバーでもあり、バイロイト音楽祭であのピットに入って(笑)、演奏されているのだそうだ。


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久し振りの東京オペラシティ・リサイタルホール。

今日のコンサートは、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲全曲を聴く!というコンセプト。

コンサートは、音楽評論家の奥田佳道さんの解説プレトークが開演前とインターミッションにおこなわれる、というスタイルでおこなわれた。

奥田さんは、自分とほぼ同世代で、ヴァイオリンを学び、ドイツ文学、西洋音楽史を専攻され、1990年前半からテレビ、ラジオ、雑誌などのメディアで音楽評論活動をされている。自分にとって、奥田さんといえば、やっぱり毎年正月のウィーンフィルのニューイヤーコンサートなんですよね。解説、そして通訳として、堪能なドイツ語を駆使して、ずっと幕間のインタビューをやっている姿を、なんかず~っと昔から見ているような気がする。(笑)

柔らかい物腰で、豊かな知性に基づく解説は大変わかりやすく、この日は、メンデルスゾーンの三重奏曲については、まったく予習なしで行ったのだが、この日のコンサートのコンセプトをわかりやすく解説していただき、その場でいっぺんに背景が理解できたのはありがたかった。

硬派なクラシックファン層の方には、こういうプレトークを嫌う人もいるが、自分はまったく構わない。返って、これから聴く曲の背景がわかり、すんなり本番にのめり込める素地ができていいのではないか、と思うほどだ。

今日のコンサートのポイントは、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲といえば、1番が圧倒的に演奏される機会が多く、およそピアノ三重奏曲というジャンルの中でも最高傑作といわれるほどの秀逸作品であること。

でもじつは2番も負けず劣らず素晴らしいんです!

2番はほとんど演奏される機会がないけれど、これを聴けるということがとても貴重なことなんですよ。

そして、この日のもっと貴重な体験は、メンデルスゾーンの姉のファニー・メンデルスゾーンの曲を聴けること。幼少の頃から弟と同じ音楽教育を受け、傑出したピアニストでもあったファニー。実は才能に恵まれた作曲家であった。

でもファニーの時代は、女性の作曲家はほとんど認められず、作曲のセンスや能力があったとしても家庭や親しい人が集うサロンでの「音楽的ふるまい」のみが許されたのだった。

そんな中、後年になって夫の後押しもあって、自作品を公表するようになる。

才能がありながら、なかなかその作品に日の目が当たることがなかったファニーの作品を聴けるということは、ある意味、今日のコンサートの1番の山場だったのかもしれない。


塩貝さんは、「音楽の友」2018/9号のインタビューで今回のメンデルスゾーン姉弟のピアノ三重奏曲を演奏することに際し、こんなことを言っている。(このインタビューを読むために、ひさびさに買ったのだ。)

「メンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲」は、「第1番」が有名ですが、第2番は聴いたこともありませんでした。今は、第2番のほうが好きです。弟のフェリックスは、構成力など、すべてがうまくいっている本当の天才。頭脳が明晰で、感情豊かなところもあり、バランスが取れています。姉のファニーは、才能があり、面白い感性もあるのですが、ちょっと足りない部分があります。それは演奏で補わなければいけません。ファニーの、全体の構成力よりも感情を重んじるところが女性的だと思います。」

深いなー。果たして自分が実演を聴いたとき、そこまでのニュアンスを感じ取れるかどうか、このインタビューを読んで不安になったことも事実。(笑)



前半に2番とファニーの作品、そして後半に1番という演目であった。

まず、とても聴くのが珍しい2番。

2番は、おそらく自分も初めて聴くが、正直とても不思議な感覚で、なにか言葉に表現するのが難しい曲だと感じた。この曲の感想をどのように日記で表現するべきなのか、聴きながらそんなことばかり頭の中をグルグル回っていた。とても技巧的な曲であることは確か。

ハ短調という調性からくる一種の独特の雰囲気はある(けっして明るくはない。)けれど、簡単な構成の曲ではない。そんなイージーに、感動しました!、いい曲でした!とはあっさりとは言えない複雑で高度な構造を持った曲のように感じた。

あくまで自分が感じたままなのだが、1番のような大衆性という点では敵わないけれど、でも作品としての構成力は決して負けず劣らずで、隠れた名曲とはこのことなのだろうと思った。


プレトークにあった、ここの第4楽章にメンデルスゾーンはバッハの旋律を引用していたのではないか、そしてそれをブラームスも、若き日のピアノソナタ第3番スケルツォにも使っていた、という箇所、とても興味深く拝聴していました。



そしてこれまた初お目見えである姉のファニーのピアノ三重奏曲。

これもいい曲だったが、なかなかどう表現したらいいのか、難しい曲であった。

率直に言うと、聴いていて冗長的に聴こえるというか、音楽的なフレーズ感がなかなか難しいと感じる曲だった。

フレーズ感やフレージングというのは室内楽では、1番大事な肝になるところで、楽譜で、ずらっと並んでいる音符のつながりを、どのように段落的にまとめるのか、解釈するかというのは結構、奏者の解釈に任されるところが多くて、それって大編成よりも室内楽のほうがより鮮明に出やすいポイント。

このフレーズ感のセンスがないと、聴いている側は、聴いていて気持ちいい音楽、音楽的に乗っていけない、楽しめない、など結構大事なキモなところなのだ。

よくオペラ歌手で、とっても素晴らしい声質、声量もあるいい才能を持っているのに、なんか歌を聴いてみると、上手くないというか、聴いていて感動しないのは、このフレーズのまとめ方が下手というか経験がないところから来ていると思うのだ。

音楽的なフレーズ感がない、とはそんなことだ。

ファニーの曲は、部分部分の旋律的にはとても感傷的でいいのだけれど、このフレーズのまとめ方が難しい曲なので、冗長的に聴こえるというか、音楽的に乗っていくのが難しかったのはそんなところにあるのでは?と後で、素人の自分なりだけれど考察してみた。

塩貝さんがインタビューで、ファニーの作品は感情的だけれど構成力で劣る、と言っていたのはそんなところにあてはまるのかもしれない。

そして、休憩を挟んで、最後の1番。

ピアノ三重奏曲というジャンルの中では、最高傑作と呼び声の高いメンデルスゾーンの1番。

やはり演奏機会の多い曲には、それなりの理由がきちんとあるものだということを再認識した。

流麗な旋律と、きちんとした曲としての構成力、聴いている側の感動を呼び起こす仕掛けなど、名曲は名曲たる所以がわかるような気がした。



ハンブルクトリオの演奏は、各メンバーがしっかりとした技術に裏付けされていて、見事なアンサンブルだと思いました。

なによりもエキサイティング!

全般的な印象からして、やっぱり塩貝さんのヴァイオリンの旋律が全体を引っ張っていっているという印象がサウンド的にも強かったです。

ちょっと残念だったのは、ここのホールの音響。やや響きがデッドなんですよね。やや不満でした。でも最初の曲からすると、段々音がホールに馴染んでくるというか、中盤から後半はだいぶ聴きやすい音になってきました。


しかし、こんなユニークなコンセプトのトリオが存在していたとは!



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ちょっとクラシックジャンルから離れて恐縮なんだが、3人編成、トリオというのは本当にカッコイイのだ。

自分が学生時代にブリティッシュ・ロックにのめり込んでいたとき、この”3人編成”のロックバンドというのがとても格好良くて、バンドは、やっぱりスリーピースが一番イケている、という信仰みたいなものがあった。

あの格好よさは、いくらルックスがよくても、いくら演奏技術がうまくても、4人編成や5人編成じゃ絶対出せない独特の雰囲気なのだ。

とくに演奏家のイメージフォトなんかは、この3人編成、スリーピース・ショットは最高に格好いいと思ってしまうのは、自分の嗜好からだろうか・・・。


3人というのは、フォト的にビシッと決まる独特のセンスがある。


それはクラシックのジャンルでも、もちろんあてはまる。

今回このハンブルクトリオにビビッとアンテナが反応してしまったのは、そんな自分の3人編成信仰から来るものだったのも、ひとつの理由かもしれない。


ハンブルクトリオの今後の活動として、

「メンデルスゾーンの次に取り組むのは、シューベルトでしょうか? ショスターコヴィチにするかもしれません。ベートーヴェン・イヤーの2020年には、ベートーヴェンのトリオ全曲を演奏しようと思っています。」

だそうです。

CDも出しています。

つい最近リリースしたばかり。

シューマン全曲のマニアックな「シューマニア」とメンデルスゾーン全曲の「ライブ イン サンクトペテルブルク」。

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シューマンは限定300枚。

メンデルスゾーンは、先日のサンクトペテルブルクのフィルハーモニーでのコンサートライブ録音で、フォンテックから10月発売予定。

メンデルスゾーンのほうのリンクを貼っておきます。


Piano Trio, 1, 2(メンデルスゾーン)
Hamburg Trio (St Petersburg 2018)

https://goo.gl/n1oG3V


ますます、このハンブルクトリオから目を離せない。




東京オペラシティのリサイタルホールは、じつに久しぶりで7年振りであった。7年前、ここでゴローさん、みつばちさんのシューマンのピアノ五重奏曲を聴いた。

このとき、ピアノはみつばちさん、2nd Vnはゴローさん、1st Vnが島田真千子さんだった。

NHKで、ゴローさんのADだったみつばちさんは、いまは、故郷岡山に帰って、結婚して子供もいる!学校の音楽教師をやりながら、ピアニストとしての演奏家活動もやっている。ときどきコンサートで東京に来ることもある。

島田さんは、水戸室のメンバーでありながら、セントラル愛知交響楽団のソロ・コンサートマスターにも抜擢され、まさに大活躍をしている。

やはり、7年という月日は重い。

あれからみんなそれぞれの道を歩んでいる。

自分もそりゃ年取るわけだ。
不条理と思うことも多々あるが、それでも自分の軸はぶれないで来ることができた、と思う。

7年!自分を取り巻く環境、人々もまさに一変した。

それは自分にとってつねに大きな負担で、逃げ出したいと思うこともある。
でもそれはまた逆に毎日の生活の大きな励みにもなっていた。

だからそういう意味でも、それは、いまの自分にとって幸せなことなんだろう・・・



ハンブルクトリオ メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲全曲演奏会

2018.9.20(木)19:00~ 東京オペラシティ・リサイタルホール

お話

フェリックス・メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲 第2番 ハ短調 作品66

お話

ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル ピアノ三重奏曲 ニ短調 作品11

休憩

フェリックス・メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲 第1番 ハ短調 作品66


アンコール

ブラームス ピアノ三重奏曲 第1番 第三楽章







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