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BISの新譜:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター、原点回帰する。 [ディスク・レビュー]

アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの声には気品がある。歌い方も最高に格好いい。
自分が愛する最高のディーヴァである。

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それぞれの歌手の声質(声紋)というのは、指紋と同じで、その人固有に決まっている特質。オッターの声は、その中でも数少ない「心をつかむ歌声にある1/fのゆらぎ特性」を持った声なのだ。

ヒトラーが、非人道的で残虐な言動を繰り返していたのにも拘らず、そのスピーチに大衆が酔ってしまう現象に、彼の声質に「1/fのゆらぎ」の特性が含まれているからだ、という。

同じくキング牧師などの「I have a dream......」に代表される名演説などもそうだ。

人の心を動かす、感動させるには、ひとつのリズムというか韻を踏むというか、人の心を高揚させる、決まった法則のリズム態があるのだ。

以前日記にもした自分の信条みたいなものなのだが、今回、オッターの新譜を聴いて、ますますその意を強くした。

この「1/fのゆらぎ」特性を持った声質の歌手というのが、日本歌手で言えば代表的なのが美空ひばりだという。他にもMISIA、宇多田ヒカル、松任谷由実、徳永英明、吉田美和などが挙げられている。

誰もが持てる才能でもなくて、持って生まれた声質、ある特定の歌手のみに見られるこの才能。


自分の大好きなオペラ歌手の世界にあてはめてみる。
1/fゆらぎは交感神経の興奮を抑え、心身共にリラックスした状態を作る、とあるから、感覚的に考えると、やはり低音部よりも高音部だろう。

女性なら、ソプラノ、そしてメゾ・ソプラノ。男性ならテノール。
女声は、アルトの下からソプラノの上までで、164.81Hzから1174.66Hz、男声ならバスの下からテノールの上までで65.4Hzから466.16Hzあたりなのだそうだ。

ソプラノで1KHz、テノールで500Hz・・・人間の声の高さって、周波数で表せばそんなものなのか? 自分は、ソプラノであれば、~10KHzはいくものだと思っていた。

男性歌手にしろ、女性歌手にしろ、80Hzから1280Hzの4オクターブあることは間違いないようだ。

ただ、音の高さ、低さだけの問題で、そのような人を恍惚とさせることはできないのだ。
もっと複雑な要素が入り混じる。

「1/fのゆらぎ」というのは、パワー(スペクトル密度)が周波数fに反比例するゆらぎのこと。(ただしfは0よりおおきい、有限な範囲。) ピンクノイズとも呼ばれ、具体例として人の心拍の間隔や、ろうそくの炎の揺れ方、電車の揺れ、小川のせせらぐ音などが例として挙げられている。

もっと感覚的には、

「規則正しい音とランダムで規則性がない音との中間の音で、人に快適感やヒーリング効果を与える。」

「規則的なゆらぎに、不規則なゆらぎが少し加わったもの」

こんな感じだ。

まさに、人の心をつかむ歌声には、かならずこの「1/fゆらぎ」特性が存在する。

そのような天性の声質を持っている人は、自分ではまったく意識していないのだろうけれど、聴いている人に対してそのような心地よさを必然と与えるもので、そこを科学的に分析すると、そのような現象がみられるということなのだと思う。

自分にとって、オッターの声は、まさにその直球ど真ん中にあてはまる、と確信していて、史上最高のディーヴァなのだ。


オッターは、ご存知スウェーデンの歌姫で、ベテラン中のベテラン。オペラに限らず、宗教曲、歌曲リートを始め、そしてクラシックに限らずジャズ、シャンソンなど、いろいろなジャンルをこなすそのレパートリーの広さは他を卓越している。

本当に才能の豊かな歌手。

1983年デビューだからまさに自分らの世代の歌手。

自分的な想い出で、心に残っているのは、R.シュトラウスの「ばらの騎士」の名演、そして、ちょうどベルリンフィルではアバド時代にあたり、アバドから溺愛を受けて、よく招聘されていたのを覚えている。



この世代では最も優れた声楽家の一人として認められていて、世界の一流指揮者、オーケストラ、歌劇場から常に、求められ続けられている。

最近は、オペラは引退なのか?リサイタル系中心の活動のようにも思えるが、アルバムのほうもきちんと定期的にリリースしてくれるからファンとしても有難い。



オッターは、DG専属契約歌手なのだが、スウェーデン人として、たとえばスウェーデン歌曲集だとか自分の故郷に関連するテーマがあったりするときは、北欧の高音質レーベルBISからアルバムを出している。

BIS前作の「夏の日」。

まさにスウェーデン歌曲集を集めたもので、近来稀に見る優秀録音だと自分は思っていた。BISらしいちょっとオフマイク気味のワンポイント録音が、マイクからの程よい距離感を感じさせ、絶妙な空間感がある。

これを超える優秀録音はでるのだろうか?

最近のDGのアルバムも素晴らしかったが、正直スタジオ録音のせいなのか、ややデッドに感じてしまい、歌っているところの空間や広がりをあまり感じないのが、自分には不満で、歌や曲は好きなのだけれど、録音が好きじゃないというパラドックスな状態だった。

この「夏の日」効果もあって、自分はオッターのBIS録音は絶対いい!という確信めいたものがあった。だから、今回オッターのBIS新譜がでる、と聞いた瞬間、もう胸ときめいたことは言うまでもない。 



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「シンプル・ソング」 
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター、ベンクト・フォシュベリ(オルガン)、他

http://ur2.link/N8Ko


今回の新譜はオッターにとって、まさに原点回帰のアルバムとなった。
そういうコンセプトを企画としてぶちあげたのだろう。

なによりもジャケットがいい!いかにも音が良さそうだ。
ジャケットのセンスがいいアルバムは、絶対曲もいいし、音もいい。

スウェーデンの宮廷歌手アンネ・ゾフィー・フォン・オッターのキャリアは、彼女が生まれたストックホルムの聖ヤコブ教会から始まった。教会の青少年合唱団で歌い、教会で行われているバッハの「マタイ受難曲」コンサートのソロに起用され、1982年、最初のソロ・コンサートをこの教会で行なった。この時に共演したベンクト・フォシュベリとは、その後30年以上に渡る共演が続いている。

今回のオッターの新譜「シンプル・ソング」は、この聖ヤコブ教会でセッション録音されたアルバムなのだ。

まさに原点回帰。ここからオッターのキャリアは始まった。

聖ヤコブ教会という名の教会は、それこそヨーロッパの至る国にある教会で、今回話をしているのはストックホルムにある聖ヤコブ教会のこと。

ストックホルム 聖ヤコブ教会

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教会の内装空間の写真も探したが、どれもストックホルムではない聖ヤコブ教会のものばかり。

今回のアルバムは、まさにオッターが最も大切にしている珠玉の17曲を選んだもので、「宗教」と「心」でつながる17の曲。「典礼の手かせ足かせを逃れ、自然に湧き出る賛美の心を高らかに歌え」を基本のスタンスに歌っているのだそうだ。

アルバム全体を聴いて感じるのは、やはりパイプオルガンの音色がとても強烈で、アルバム全体のトーンを支配している感じがする。

でも実際は、ヴァイオリン、チェロ、フルート、ヴィオラ、ハープ、それにエレキギター!などかなり多彩な音色に囲まれているのだ。

とにかく聴いていて、とてもいい曲ばかり。
前作の「夏の日」とはまたちょっと趣が違う良さがある。
かなり毛色が違う。
気配としては、宗教曲の色が強い感じがするかな。


アルバムのタイトルになった「シンプル・ソング」は、バーンスタインのミサ曲。
どこかで聴いたことがあると思ったら、マーラーが交響曲第3番と第2番の楽章とした「子供の不思議な角笛」の詩による2曲も入っている。

そしてシュトラウス歌曲も2曲。「たそがれの夢」、「あした!」
リストのアヴェ・マリアもこれまた素晴らしくいい。アヴェ・マリアは本当にどの作曲家の曲でも究極に癒されるね。


自分が1番心ときめいたこのアルバムの中の最高の曲は、ラストに入っている曲。
ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の「すべての山を登れ」。

なんて、カッコイイ曲なんだ!
オッターが最高に素敵に見えてしまう最高の曲だ。サウンド・オブ・ミュージックは当然よく知っているけれど、こんなドライブ感の効いた格好よさは、かなり興奮した。オッターの歌い方もかっこいいよね。この曲に完全にやられました。

パイプオルガンが最高に主張する曲。このアルバムの中で一番オルガンが目立っている曲。もうトラポの1曲リピート機能を使って、ずっと1日中繰り返して聴いています。(笑)


でもこの日記を読んでくれている読者はそんなことを聞きたいのではないだろう?(笑)
わかってるって。(^^)

録音超絶素晴らしいです!


やっぱりオーディオファンにとって、このファクターは絶対譲れないところ。
この新譜を紹介するには、ここを一番言いたかった。


昨今の録音技術の進歩は凄い。最近リリースされる新譜は、みんな音が洗練されているよね。いかにも新しい録音という感じです。

ダイナミックレンジ32bitで録ってるのかな?(笑)
それだけ縦軸の深さ(レベルの高低)が素晴らしい。

いや周波数レンジのほうも384KHzはいっているかな?それだけ高低音域の横軸の両側に、す~っと伸びていて解像感高いです。

1発目の出音で、その洗練された空気感がすごくて鳥肌が立つ。
いい録音かどうかは、最初の出音を聴いただけで、もうわかっちゃうんだよね。あとは、ずっと聴いていてもその印象が変わることはほとんどあまりない。

教会らしい大空間にいることがよくわかり、オッターの声がよく通るのだ。
部屋がその教会の大空間にワープしたかのような空間感だ。

情報量も多いし・・・でもこんなことはごちゃごちゃオーディオ術語を並べ立てて話すのはまさに野暮というもの。

黙って聴いてくれれば、それでいい。

このオルガンの低域のボリューム感を出すのがオーディオ・スキルかもですね。

クレジットを見ると、驚いたことにマスターフォーマットは、PCM 96/24だそうだ。(驚)

いまどき、こんな昔の諸元でこれだけの素晴らしい録音ができちゃうのは、やっぱり教会独特の空間、残響の長さなどの残響感の賜物なんだろうし、それに単にスペックが高ければいい録音ができるほど甘い世界じゃない、ということかね。

やっぱりエンジニアの編集、ポスプロの世界もかなり大きなウェートを占めるのだろう。
いかに奥行き感、立体感を出すか、など彼らのセンス、腕の見せ所だ。


その他の機器は、BISなので、RMEのヘビーユーザー。DAWはもう定番のPyramix。

今回の録音プロジェクトは、Take5 Music Productionがおこなっている。

いままでBISの録音制作を手掛けてきたトーンマイスター5人が独立して、「Take 5 Music  Production」という別会社を設立しているのだ。 主なミッションは、BISの録音制作を担う、ということで、フィリップス・クラシックスの録音チームが、ポリヒムニアになったことや、ドイツ・グラモフォンの録音チームが、エミール・ベルリナー・スタジオとなったことと同様のケースのように思えるのだが、ただ唯一違う点は、現在もBISには、社内トーンマイスターが在籍して、音に関わる分野の責任を持っていることだ。

Take5のメリットは、これまで通りBIS作品の制作を担いながら、同時に他のレーベルの制作も担当できる、さらには、ダウンロードのプラットフォームも構築していくという視野が持てるというところにある。

BISは基本は、マスターはPCM 96/24だね。彼らは昔からそう。

Take5は最近、パリで賞を受賞したみたいで乗っています。

今回の録音は、プロデューサー&サウンド・エンジニアは、Marion Schwebel氏。編集やミキシングもそうだ。

Nice Job!でした。

では、ちょっと、その聖ヤコブ教会でのセッション録音の様子を。


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聖ヤコブ教会のパイプオルガン。
1976年に設置されたマークセン・オルガンです。


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オルガンを弾いているのが、オッターの長年のずっとパートナーだったそのピアニストとして知られるベンクト・フォシュベリ。BIS前作の夏の日でもパートナーとして録音に参加していました。今回オルガンのレジストレーション(オルガンのストップを決めること)を担当したのも彼の息子のミケール・フォシュベリでした。


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オッター様、絶好調!
教会の大空間によく声が通ってます。
とにかく教会の大空間、そしてこのパイプオルガン、そしてオッターの声、堪らんサウンドです!



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アルバム・トップの「シンプル・ソング」では、なんとエレキ・ギターも入ります。(ボロンという感じ)弾いているのは、なんと!オッターの息子さんです!! 今回の録音は、家族全員参加してのアットホームな録音だったんですね。


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今回のマイクは、ノイマン、DPAそしてSchoepsのマイクを使ったようですが、オッターの声を録っているのはノイマンですかね。ステレオ配置セッティングです。


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みんなで検討中・・・。
現場でのセッション録音は、大体現場のミキシングでそのほとんどの完成度が決まってしまいます。あとでレーベル・スタジオでどうにかしようと思ってもそんなに大きくは変わらないもの。現場が勝負。事件は現場で起こっているんだ!(笑)



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この方が、Take5のMarion Schwebel氏なのかな?(笑)



オッターは、今年の3月に旦那さまが、#MeTooのセクハラ告発で、責められて、自殺してしまうという悲劇があったばかり。人生のパートナーを失って、どれほどの落胆、心中いかなるものか、察するに余りあるが、どうか前向きに頑張ってほしい。

自分も最近心が折れるとは、まさにこのことか!と思ったことがあったが、人生はプラス指向で生きることの大切さを学んだばかり。


オッター様、がんばれ!!!









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