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東京・春・音楽祭「さまよえるオランダ人」演奏会形式上演 [国内クラシックコンサート・レビュー]

さまよえるオランダ人は、7年前の2012年の3月に新国立劇場のオペラを見ている。


ちょうどそのとき、ヤノフスキ盤も発売になった頃で、それがあまりに優秀録音で、ヘビーローテーションだったこともあり、そのタイミングでオペラも公開になったことから、その当時一気に自分の中でオランダ人フィーバーだったのだ。

特にオペラを観るにあたって、いまと違い(笑)、まじめだった当時は、徹底的に勉強していったので、予習素材を何本も観て備えて行った。

その結果、自分がこのオペラに対して達観した内容は、

・通常のオペラだと全幕の長い期間の中で、音楽的に山谷があるのが普通なのだが、このオペラは、全幕通しで素晴らしい旋律が維持される。

・合唱陣が大活躍する。

・女声が少なく、男声が多い。

という理解だった。

2015年にも新国でオランダ人のオペラをやったようだが、自分は行かなかった。

今年の東京春祭でオランダ人をやるということで、7年振りにオランダ人を聴いてみた。
予習したときに、急激に忍び寄る老いのせいなのか、ここが大事な二重唱、三重唱で、ここが水夫の合唱など、すぐに勘が戻らず、なかなか自分のものにできなく焦った。

なんとか本番までには間に合ったようだ。



今年で、15年目の東京・春・音楽祭。
まさにこの音楽祭の季節になると、春の到来を感じる、すっかり上野の風物詩になりつつある。


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最初は東京のオペラの森としてスタートして、東京・春・音楽祭に冠が変わったのだが、東京のオペラの森時代に小澤征爾さんのエフゲニー・オーネギンのオペラを観た。そして、2012年あたりから、東京・春・音楽祭に毎年通うようになった。

15年目を祝して、いろいろな展示があった。

15年前の2004年から、今年の2019年までの鏡割りの鎮座。
音楽祭オープン初日の日に、これを鏡割りするんですね。

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これも15年前から音楽祭のパネルに、出演者のサインが書かれているもの。ずっと15年間保持してるんですね。

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今年は、思い切って4階席を取ってみた。

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東京文化会館は、5階席、4階席の上階席の方が音響がいいという話があって、自分の耳で確認してみた。

結論は、確かにバランスのとれたいい音響だと感じた。音の流れが上にあがってくる傾向にあり、またステージ全体を俯瞰できるので、音響バランスが整っていて、オケの前列、中列、後列による位相差をあまり気にせず、バランスが綺麗に整っている感じだった。これだけの上階席なのに、かなり明瞭な実音に聴こえるので、音が上に上がる傾向にあるのだろう。

でも、直接音の迫力、腹にずしっと響いてくるエネルギーなど前方の席のほうがやはり自分には気持ちがよく、また歌手の声も前方席にいるほうが感動の度合いが大きい印象を受けた。好みの問題ですね。

来年は最後の有終の美を飾るトリスタンとイゾルテ。従来の前方かぶりつきに戻りたいと思います。

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ブリン・ターフェル

                                                                                                       

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リカルダ・メルベートと指揮者ダーヴィト・アフカム

(c)東京・春・音楽祭FB


さて、本題の「さまよえるオランダ人」演奏会形式。

自分の予想通り、合唱がとても迫力があって、自分にとって、このオペラの最大の魅力に感じた。
第1幕、第3幕の水夫の合唱の男声の迫力があまりにすごくて、もう自分はこれだけで本懐を遂げたような気がした。第2幕の女声による糸紡ぎの合唱もこれまた清廉潔白さの純真さを感じる美しさ。

毎年大絶賛するのだけれど、東京オペラシンガーズは本当に素晴らしいと思います。
まさに日本最高レベルの合唱団ですね。

独唱ソリストのほうでは、オランダ人のブリン・ターフェルが見事なバス・バリトンぶりで魅力的な歌唱を披露していた。ブリン・ターフェルは、自分の場合はDG SACDでよくお世話になっていて愛聴していたが、実演を聴くのは初めてかもしれない。演技力が素晴らしく、発声に説得力があり、存在感が秀でていた。

なんでも、この公演の後の数公演でワーグナー歌いからは引退する、という話もあるようなので、彼の最後の勇姿を観れてよかったと思う。ブリン・ターフェルといえばオランダ人なのだから。


ヒロインのゼンタのリカルダ・メルベートも大熱唱だった。女声の少ないこのオペラでは、唯一の大活躍するヒロインなので彼女の出来がこのオペラのできを左右する重要な役どころだった。素晴らしい熱唱ぶりで、その役への成りきり方が半端ではないほど完璧なので、公演後に調べてみたら、ゼンタを歌わせたら右に出る者はいないというほどの18番中の18番の歌い手であった。

ヤノフスキ盤のゼンタも彼女メルベート。そして聖地バイロイトや新国オペラのときのゼンタもメルベート。

後で納得した。

声量、声質と問題なく素晴らしいのだが、この日はなぜか自分は、彼女の声がきちんとホール空間に定位していないことに、不満を持ってしまった。定位感がないのだ。素晴らしい歌手はかならず自分の声が空間に定位する。

う~ん、これだとヤノフスキ盤のゼンタのほうがいいかな?とも思ったが、実は同一人物だとわかって、この日の調子が絶好調ではなかったかも?とも思ったり。。。

いや、聴いていた聴衆のみんなの95%以上は、メルベートを大絶賛していたので、ちょっと他人と聴きどころ、感性が違う自分が変わっているだけなのでしょう。(笑)

見事なゼンタを演じていたのはまぎれもない事実、素晴らしかったです。


エリックを演じたペーター・ザイフェルトも素晴らしかった。ゼンタに恋する青年にしては歳を取り過ぎだが(笑)、とても甘い声質のテノールで、声量も十分。聴いていて、じつに素晴らしいなぁと感心していた。

特に第3幕のオランダ人、ゼンタ、エリックとの三重唱は、まさに圧巻だった。

聴衆もそのことをよくわかっていた。エリックのザイフェルトはカーテンコールのときは、人一倍大きなブラボーと歓声をもらっていた。自分も納得いくところだった。

ダーラント船長を歌う予定だったアイン・アンガーの急遽の来日中止は痛かった。アイン・アンガーって、この春祭のワーグナーシリーズでは、いつも本当にいい仕事をする人で自分は密かなるファンだったりした。いつも安定した歌いっぷりの歌手なのだ。

でもその急遽の代役のイェンス=エリック・オースボーがそのハンディキャップをはねつけるどころか、それ以上の有り余る素晴らしさだった。まずその声質、声量が見事なバスバリトンの豊かな才能で、歌唱力もみごと。これは素晴らしいなぁと思い、自分はうれしくなってしまった。急な依頼で準備する時間もほとんどなかっただろうに、なんか特別賞をあげたい気分です。


以上、独唱ソリストは、まったく問題ない素晴らしいできで、これまた素晴らしかった大活躍の合唱と合せて、最高の歌手陣営となった。

あとは、N響の演奏。

正直第1幕の出だしは、いまひとつ調子が出てない感じで、金管も不安定な感じだったが、第2幕、第3幕で徐々にエンジンがかかってきて、機能的にもよく鳴っていたと思います。去年のローエングリンより、オケとしての鳴りっぷりはよかったと思いますよ。

指揮者のダーヴィト・アフカムは、まだまだ若いし経験不足かなと思うこともあるが、将来有望な指揮者であることは間違いない。

また毎年大不評のオケ背面にある映像投射。今年は、座礁するオランダ船、荒れた海、そして第2幕の糸紡ぎのアリア背景など、オペラ形式の舞台装置の役割を果たしていたように思え、例年の意味のない映像より(笑)、ずっとまともであるように思えた。


今回の公演は、「さまよえるオランダ人」を自分が聴いてきた中で、独唱ソリストの素晴らしさ、合唱の大迫力からして、そして総合力からしても過去最高レベルのオランダ人だったと言っても過言じゃないと思う。


それだけ素晴らしい感動だった。


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(c)東京・春・音楽祭FB






東京春祭ワーグナーシリーズ Vol.10
「さまよえるオランダ人」演奏会形式/字幕・映像付
2019/4/5(金)19:00~ 東京文化会館大ホール

指揮:ダーヴィット・アフカム

オランダ人:ブリン・ターフェル
ダーラント:イェンス=エリック・オースボー
ゼンタ:リカルダ・メルベート
エリック:ペーター・ザイフェルト
マリー:アウラ・ツワロフスカ
舵手:コスミン・イフリム

管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
アシスタント・コンダクター:パオロ・ブレッサン
映像:中野一幸
字幕:広瀬大介


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