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スイス・ロマンド創立100周年コンサート [国内クラシックコンサート・レビュー]

スイス・ロマンド管弦楽団というのは、数学者のエルネスト・アンセルメという指揮者によって創設されたスイスのオーケストラで、じつに半世紀に渡って、アンセルメが実権を握り、アンセルメの楽器とまでいわれたオーケストラでもあった。

まさにスイス・ロマンドを一躍有名にした指揮者であり、その要因は、英DECCAレーベルと録音をかさねた膨大な数々のLP。

まさに”ステレオ録音”の先駆けの時代で、DECCAに於ける”はじめてのステレオ録音”ということを具現化していき、このDECCA録音でアンセルメ&スイス・ロマンドは、まさに世界的な名声を得たのである。


その膨大なライブラリーを録音した会場が、スイス・ジュネーブにある彼らの本拠地のヴィクトリアホール。


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ヴィクトリアホールでのアンセルメ&スイス・ロマンドのDECCA録音


1960年代のステレオ録音は、目の覚めるような鮮やかな管楽器、濡れたように艶やかな弦楽器といったいかにもハイファイ・高解像度を感じさせる、録音マジックと言って過言でないものだった。

1960年代の半ばに、レコード人気を背景に来日公演を行っていて、東京文化会館でその演奏に接した音楽評論家の高城重躬さんは、レコードで耳にするのとは全く異なって 普通のオーケストラのサウンドだったと記され(笑)、 DECCAのレコーディング・マジックによって「創られたサウンド」だと解説した。 つまり「レコードは、生演奏とは音色・バランスが違う」、「これぞマルチ・マイク録音だ」という例えにされたわけだ。

アンセルメ&スイス・ロマンドを語る上では、オーディオファンにとっては絶対避けては通れない神話である。その秘密は、単にDECCA録音チームによる録音技術のほかに、ヴィクトリアホールの構造上の秘密があるに違ない、といまから4年前に現地ヴィクトリアホールを体験してきた。


それはステージ後段にある雛壇にある。

という結論に達した。

そんな膨大なアンセルメのDECCA録音は、当時のLPではなくCD-BOXとして所有していて、一気に聴き込んで日記にしてみたいとも思うのだが、なかなか時間が取れず。時折、アンセルメの名盤、ファリャの三角帽子を聴くくらいである。

いまではスイス・ロマンドといえば、山田和樹氏によるPENTATONEの新譜を聴くほうが主流である。

スイス・ロマンド管弦楽団も今年で創立100周年を迎える。
日本でも全国的なツアーを組んで大々的なプロモートをおこなった。

そんなスイス・ロマンドにも大きな変革の期を迎えた。

なんといっても日本で東京交響楽団(東響)でお馴染みのジョナサン・ノットが音楽監督に就任したこと。そしてBプロの方では、自分の注目株の辻彩奈さんがソリストとして迎えられること。

ここにあった。 


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ジョナサン・ノット 


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辻彩奈


辻彩奈さんは、まだデビューしたての新人で、海外オーケストラと同行してツアーするのは、今回が初めてということで、相手がスイス・ロマンド(OSR)というのは、演奏家人生の上でもとても貴重な経験だったに違いない。


ツアーは、日本ツアーの前にまず本拠地のヴィクトリアホールでおこなわれた。



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ヴィクトリアホールの前での辻彩奈さん
(c) スイス・ロマンド(OSR) FB


いいなーいいなー。

ヴィクトリアホールってレアなホールだから、演奏家としてこのホールのステージに立てるというのはなかなか貴重な体験だと思います。なかなかそんなチャンスは巡ってこないと思います。

素晴らしい経験でしたね。

日本ツアーでは、自分は東京芸術劇場の公演を選んだ。

辻さんに花束の歓迎。

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スイス・ロマンドといえば、フランス語圏のオーケストラで、得意とするレパートリーは本当にアンセルメ時代からの財産もあり、なんでもこい、という感じなのであるが、自分の公演ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とマーラーの交響曲第6番「悲劇的」であった。

いわゆるコンサート定番中の定番の選曲で、正直もう少しスイス・ロマンドらしい、彼らじゃないと聴けないような選曲がよかったかなぁ、という想いはあった。

まずは辻彩奈さんのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。

辻さんは期待の新人ということで、ずっと注目していて、敢えてほかの公演には行かず、この公演で初めて聴かせてもらう、ことにしていた。

自分の期待を裏切ることなく、じつに素晴らしいヴァイオリニストで、将来嘱望されたその溢れんばかりの才能は見事であった。けっして美人ヴァイオリニストの上品な域で留まるのではなく、もっと個性的で土の臭いがしてきそうなワイルドな奏者だという認識も、まさに自分の予想通りであった。

自分はメンコンは、比較的インテンポのスタイルで聴く機会のほうが多いのだが、辻さんのは、非常にスローテンポで随所にタメを効かせた感じのテンポの揺らぎを感じることが多かった。

特に第1楽章のカデンツアでは、こんなにスローな展開で静謐の中でじっくり聴かせるスタイルはいままで聴いたことがなかった。

全楽章通じてよく歌っていて、数えきれないくらいこの曲を聴いてきた自分の感性にとっても、まったく違和感なく受け入れることができたし、まだ21歳とは思えないその堂々とした演奏ぶりには、かなり貫禄があり、驚いた。

ただ、素晴らしいことは間違いないけれど、いまが完成形かというと、自分はまだまだ伸びしろがあると思う。

様式感やフレーズ感、音程感や定位感、などまだまだ途上段階だと感じるし、磨き上げる、完成度をあげる余地は十分にあると思う。

あと、大事なことは、これが自分の演奏スタイル、というのを確立することですね。

だってまだ21歳ですよ。超一流のヴァイオリニストと呼ばれるだけの定位感ある演奏には、やっぱりここ何十年、これから10年、20年、30年というキャリアを積んで経験を重ねることで、それらは年輪のように積み重ねられ、自分を作っていくものだと思います。

またこれからたくさんの曲をレパートリーとして自分のモノにしていくことで、その表現力の豊かさ、これが自分の演奏スタイル、というものが確立されていくのだと思います。

それだけの大物になることは、まちがいなく、”いま”その才能を持ち合わせているので、末は恐ろしい奏者になる、という絶対的な確信は自分にはある。

本当に素晴らしい奏者ですね。




後半のマーラー交響曲第6番「悲劇的」。通称マラ6。

この曲は、自分にとってはラトル&ベルリンフィルのときで、すでに完結している曲。(笑)
この曲をスイス・ロマンドで聴くとは夢にも思わなかったが、じつに素晴らしかった。

4年振りに聴くスイス・ロマンドの音は、弦楽器が厚く、柔らかくて色彩感ある、まさにフランス語圏のオケだよなぁという印象であった。現地で聴いたときよりもアンサンブルの精緻さは数段上のように感じてレベルが高かったように思う。

たぶんノットのおかげなのでしょうね。

スイス・ロマンドは、どちらかというとこういう大作の作品よりも、もっと小ぶりでメロディの優雅な作品を演奏させるととても魅力のあるオーケストラなのだけれど、このような大曲も堂々と演じ切り、彼らの底力を見せつけられた感じだ。

本当に4年前より数段レヴェルアップしている。

オーケストラとしての発音能力にも長けていて、自分は1階席の中ほどやや前方で聴いていたのだが、見事な大音量で、満足のいくものだった。あの狭いうなぎの寝床のヴィクトリアホールであれば間違いなくサチっている(飽和している)レベルだと思う。

マラ6は、第2,3楽章を従来形式のスケルツォ~アンダンテの順番で演奏され、第3楽章のアンダンテはまさに究極の美しさであった。

ジョナサン・ノットは東響時代を含め、本当に数えきれないくらいその指揮を体験してきたが、東響とは違うもうひとつの自分の手兵を手に入れている喜びというか、そのふたつを思いっきり楽しんでいるような感じだ。

ノットの指揮は素人の聴衆である自分にとっても、とてもわかりやすく、非常に細かくキューを出すタイプ。少なくとも一筆書きの指揮者ではない。指揮棒を持たない左手の使い方がとても細かく複雑で、指揮棒の右手とあわせて、本当に細かく激しく動き、そして、それが曲の旋律、拍感に合せて、じつにぴったりと合っているので、見ていて酔わないというか、気持ちいいのだ。

指揮振りの手の動きと、曲の旋律、拍感が合わないと、見ている聴衆側は酔ってしまいます。(笑)


少なくともいまのスイス・ロマンドは、完全にノットのオーケストラとして機能している、掌握していることがよくわかる演奏だった。スイス・ロマンド管弦楽団に拘りのある自分にとって、ジョナサン・ノットという素晴らしい才能、そして日本でもとても馴染み深い指揮者にシェフになってもらって、本当に安心というか、ここしばらくは安心して任せていられそうだ。


そんな安堵感、信頼感を確認できた演奏会であった。

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(C)KAJIMOTO FB






東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ
ジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンド管弦楽団

2019年4月13日(土)14:00~ 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン独奏:辻彩奈
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団


メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64

ヴァイオリン・アンコール~
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ短調
BMW 1006より”カヴォット”


マーラー交響曲第6番 イ短調









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