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ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番 [クラシック作曲家]

ロシア系イスラエル人ピアニストのイェフィム・ブロンフマンのピアノ・リサイタルが来年3月にトッパンホールで開催される。さっそくチケットを取った。この人の実演に接するのははじめて。

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この人の想い出は、やはり2004年のゲルギエフ・ウィーンフィルとのサントリーホールでの来日公演。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏し、この曲の近代演奏としては、稀に見る名演奏という絶賛の評価だった。

あいにくこの公演は自分は実演を体験できなかったのであるが、後日友人にNHK収録番組を録画してもらい、DVDに焼いてもらって鑑賞したところ、確かに鳥肌が立つくらいの名演奏であった。シビレル、という感覚は、まさにこのことを言うのだろう。

それ以来、このラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番という曲はこの人の代名詞的な存在になり、ラトル・ベルリンフィルのヴァルトビューネ・コンサートでも披露したし(BDになっている。)、この人にとって演奏する機会の多い曲になった。

この2004年の公演以来、私はすっかりこの人の大ファンになり、かなりのおデブさんで、ビジュアル系の多い昨今のピアニストからするとかなり路線の違うピアニストなのだが、自分にとって愛すべき人であった。

それにも増して、自分にとって考えさせられたのは、このラフマニノフのピアノ協奏曲第3番という曲。世間一般では、2番の方がラフマニノフの出世作の曲で有名なのかもしれないが、自分はもう断然3番の方が大好きである。もうこの曲の中毒患者と言っていい。

ラフマニノフの曲風は、よくロマンティック、メランコリック、映画音楽のようだ、.....とか言われるが、確かに、うっとりするような華麗・甘美なメロディの調べは、いにしえのクラシック作曲家達の曲風とは一線を画している彼独特の旋律のように感じる。

よく、ラフマニノフは 映画音楽のようだといわれるけど、映画音楽のほうが彼の作品を参考にしたわけで、ギリギリのところでポップスに行かない、そういうひとつのクラシックとしての敷居の高さを守っている、そういうすごい才能があると思う。

この3番を愛してやまないピアニストである清水和音さんもラフマニノフへの想いをそのように発言をされていたことがあり、この清水さんのラフマニノフのピアノ協奏曲全曲演奏会というとてつもないチャレンジングな演奏会に参加したこともあるのだが、まさに「3番を弾くためにピアニストになった。」と本人に言わしめた、この想いれのある3番をトリに持ってくるほどで、もうこの世のものとは思えないほどの感動をしたことがある。

ラフマニノフの作品が演奏困難であるということは、単純に技術的な側面の話だけではなくて、ラフマニノフその人の手の大きさという特殊性に起因した困難さがあるのだ。

女性ピアニストや小柄なピアニストにとっては、譜面どおりに弾くことは技術的問題以前に身体的制限として不可能なのである。

そんなラフマニノフが残した作品の中でも極め付きに演奏困難とされるのが、ピアノ協奏曲第3番。

この曲は、「一般的にコンサートで取り上げられるピアノ協奏曲の中では、もっとも技巧的に難しい作品」と言われている。その証拠に、この作品を弾きこなせるピアニストは少なく、録音として残っているものも少ない。

ラフマニノフの自作自演の後、この曲を有名にした功労者はホロヴィッツだが、ホロヴィッツがすごいのは、「私はいま、ものすごく難しい曲を弾いています」というアピールが異様に巧みで嫌味なところだと思う。(笑)そして、それ以降のピアニストの録音もあまり多くない。

私はその昔、この曲の魅力に嵌ってしまい、当時この曲の魅力を語り尽くすという掲示板サイトがあって、いろいろ自分の思っていること、持論などを書き込んで、いろいろな人と議論し尽くした懐かしい思い出がある。

またこの曲をテーマにした1996年のオーストラリアの映画「シャイン」も、もちろん見た。アカデミー賞総なめにした作品で忘れられない映画である。

私にとって忘れようとしても忘れられない、とても思い入れの深い曲なのである。

そう、ところがである。じつは私はこの曲が大好きにも関わらず、これ!と言った自分のお気に入りの演奏のCDに出会えていないのだ。新しい録音で、この曲の名演奏のCDが欲しい。

この曲で敢えて自分のリファレンスとして挙げられるのは、この録音だろうか.....

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ラフマニノフ ピアノ協奏曲3番 アルゲリッチ、シャイー指揮ベルリン放送響 

http://goo.gl/vyyaCx
 
ところが映像ソフトでは素晴らしい、まさに私の心の琴線に触れる演奏に出会えた。

このラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番の近代稀に見る名演奏は、冒頭に言及した2004年にゲルギエフ/ウィーン・フィルと来日したイェフィム・ブロンフマンのサントリーホールでの公演。

まさに壮絶な名演奏で、世評でも近代の演奏としては歴史に残る名演と絶賛の演奏だった。

ブロンフマンは、遅咲きの渋いピアニストだが、現代におけるこの曲の名手だと思う。

そして、さらにこのブロンフマンを超えるピアニストに出会えた。

ロシアのピアニスト、デニス・マツーエフ。1998年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝して脚光浴びて、いまノリに乗っているピアニストである。

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この人のこの曲の演奏としては、ベルリン・フィルのDCH(Digital Concert Hall)で出会った(2010年か2011年の定期公演の演奏)。ゲルギエフ/ベルリン・フィルとの競演で、ベルリンフィルハーモニーでこの曲を披露していたが、まさに圧巻だった。このマツーエフは元々乱暴な弾き方をするピアニストで、凄い荒々しい演奏なのだが、これがこの曲と妙にマッチしていて、じつに鳥肌もので素晴らしいと思った。

ピアノを叩いて叩いて叩きまくる、という凄い弾き方をする人で、この人のピアノを聴くと、女性ピアニストでは絶対かなわないもの凄い躍動感&パワーとダイナミズムを感じる。

この曲の華麗でダイナミックな演奏は、やはり映像付きで鑑賞すると感動の度合いが違うと感じる。それがCDではなかなか自分の琴線に触れる作品に出会えないのに、映像ソフトではこのように感動作品に出会えるという理由なのかと思ってしまう。

正論かわからないが自分が思うのは、この曲は視覚効果というか、速射砲のような運指、体全体を激しく揺らすダイナミックな演奏風景を観ながら聴くという眼・耳の両方からの相乗効果で、脳に与える刺激が何倍にも膨れ上がる、ということ。これが、この曲が映像ソフトに向いている作品と思ってしまう理由なのである。


この曲の名手で、日本のピアニストでは、やはり小山実稚恵さんだろう。

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小山実稚恵さんは学生時代より特に3番がお気に入りで、この曲を聴かないと寝れないというくらい好きであり、その後ピアニストとしての夢をかなえた。

日本でこの曲を初演したのはまさに小山さんらしい。(ちなみに指揮は小泉和裕さん。)そして小山さんは日本一のラフマニノフ弾きとしての評価を不動のものとしている。ご本人がもっとも好きだという曲だけあって、この曲には特別の思い入れがあるようで、国内で頻繁にこの曲の演奏会を開いてくれる。この曲が大好きな私にとって生演奏を聴こうと思ったら、必然と小山さんの演奏会に出かけることになる。

いままでのべ10回以上は行っていると思う。

2012年にデニス・マツーエフ&ゲルギエフ・マリインスキーでこの曲の実演に接したのだが、鳥肌ものだった。

マツーエフという人の演奏は相変わらず荒々しくて凄い乱暴。(笑)
ピアノを軽々しく叩いて指が鍵盤を叩いた後にピンポンのように弾む弾力性がある。

正直言ってこんな挑発的でめちゃめちゃに乱暴な弾き方をするピアニストはいままで観たことがない。ピアノ曲を冒涜している感すらあってデリカシーというか繊細という感覚には全く縁がない感じ。(笑)

そしてこの曲で私が最も興奮するところ、終盤のエンディングにかけてのグルーブ感、テンポを上げて 一気に盛り上がり、その頂点で派手な軍楽調の終止に全曲を閉じる部分。

この賑やかな軍楽的な終結は「ラフマニノフ終止」と呼ばれているもので、この部分で私はいつも体全体に稲妻のようなゾクっとくるのを感じるのが快感なのである。この部分の感動を味わいたくて、最初からずっと聴いているみたいな.....

この曲の生演奏に性懲りもなく何回も出かけるのも、この「ラフマニノフ終止」を経験したいから。

まさに40分強という長大でロマンティックな旋律で綴られた音の絵巻物語を、このフィニッシュで一瞬にして完結させてしまう圧巻のその瞬間!

ラフマニノフの作品は、その昔は「鐘の前奏曲」とピアノ協奏曲第2番が良く知られていてさらに交響曲第2番やパガニーニ狂詩曲がコンサート・プログラムに徐々に取り上げられるようになって来たかな・・・といった状況だった。だからラフマニノフといえば、大ピアニストで作曲もした人というのが大方の音楽ファンの認識だったと思う。

しかし ここ数十年で状況は大きく変わった。

単にピアニストの余技どころではなくグリーグ、シベリウスあたりと堂々と肩を並べるべき大作曲家であるというように認識も変わって来た。そして 何よりもラフマニノフの音楽に特有の先が見えないようなメランコリックな雰囲気が 今の時代にフィットしている感じがする。


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春日

謹言

鍵盤をたたく指先かろうじて協奏曲の妙を覚える
by 春日 (2015-03-03 19:07) 

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