PENTATONEの新譜:ヨハネス・モーザー&フルシャ・フィルハーモニアのチェロ協奏曲 [ディスク・レビュー]
じつに久しぶりにオーディオのディスクレビューの日記を書く。
海外旅行があったので、聴いていない新譜たちが、もうたくさん溜まっているのだが、自分はこのカテゴリーの日記が好きなので苦にならない。大好きなオーディオの趣味に浸れて楽しい。(生演奏もいいけどね)
最近ベルリンフィルに入団したクラリネット奏者のアンドレアス・オッテンザマー。彼のようなタイプの男性に言えるのは、いわゆる「ナイスガイ」という言葉。
底抜けに明るい、屈託のない笑顔、そして細身でハンサム....万人の女性であれば誰もが魅力に感じてしまう男性像、まさに「ナイスガイ」と言えるべき存在。50歳を過ぎた自分にとっては、同性から観た彼らの印象は、正直かなり眩しい。(笑)
今日取り上げるチェリストのヨハネス・モーザーもそんなナイスガイの1人だと思う。
写真から伺い取れるのは、やはり屈託のない底抜けに明るいキャラ、女性受けするんだろうなぁと想像する。
ところが彼のキャリアは、じつにかなり硬派でその骨のある考え方など、かなり驚かされるのだ。まさに実力も兼ねそなえた美形男性ソリストとして向かうところ敵なしというところだろう。
ドイツ系カナダ人のチェリストで、1979年生まれの現在36歳。2002年チャイコフスキー・コンクールで最高位を受賞。使用楽器は、1694年製のアンドレーア・グァルネリ。
モーザーは、いままでベルリン・フィル、シカゴ響、ニューヨーク・フィル、クリーヴランド管、ロサンゼルス・フィル、ロンドン響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管などなど、もう書ききれないほどの世界のオーケストラ&高名な指揮者と競演してきており、英グラモフォン誌からもその絶賛を浴びている。(去年2014年にN響の定期公演にも登場しました。)
室内楽奏者としても熱心に活動しており、五嶋みどり、ベル、アックス、カバコス、プレスラーなどとしばしば共演、ヴェルビエ音楽祭、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭など多くの国際音楽祭にも登場している。
モーザーはあまり知られていないレパートリーを取り上げ優れた演奏をするアーティストとしても非常に評価が高いようだ。
(ここに記載したモーザーの紹介文は、Artisit Management M.Hirasa.Ltdさんのサイトから簡易抜粋させていただきました。もっと詳しい内容の原文サイトはこちらになります。ぜひご覧になってください。→http://www.hirasaoffice06.com/files/strings4moser.htm)
そんなモーザーであるが、今年2015年の春に、ついにPENTATONEと専属契約をした。
彼のルックスだけではない、そのその底にある”ホンモノ”の匂いをかぎとれたのは、今回の新譜を聴いてからだった。
契約時のサイン。(左がPENTATONEの名プロデューサー。ジョブ・マルセー)(ポリヒムニアのFBページより)
PENTATONEには、ヴァイオリンのアラベラ・美歩・シュタインバッハー、ピアノのマーティン・ヘルムヘン、ナレ・アルガマニアン、オーケストラはベルリン放送響、スイス・ロマンド管、ロシア・ナショナル管と、とても若くて有望ないいアーティスト、オケを抱えている。
そのメンバーにチェリストとして、このヨハネス・モーザーが仲間入りするのだ。
なんとエキサイティングなことだろう!
若くて有望なアーティストを、安価なコンサート代で、そして高音質のクオリティの高い優秀録音で市民に提供する、というこのスタンスは、まさにPENTATONEに代表されるような高音質マイナーレーベルのメジャーレーベルに対抗するアイデンティティなのだと思う。
まったくブレていない。
そのPENTATONEからのモーザーの第1段。
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲、ラロ:チェロ協奏曲
ヨハネス・モーザー、フルシャ&プラハ・フィルハーモニア
http://goo.gl/8m69Ty
日本でもお馴染みのフルシャの指揮で、フィルハーモニアとのジョイントで、あの名曲のドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏する。そして、意外と通好みなのがラロのチェロ協奏曲。
録音セッションは、プラハのスタジオ(Forum Karlin) で行われたようだ。ポリヒムニアが出張録音した。
ポリヒムニアのスタッフは、バランスエンジニア、そして編集にエルド・グロート氏、録音エンジニアにロジャー・ショット氏。安心できる布陣。最近のポリヒムニアの録音は、エルド・グロート氏中心に動いている感がありますね。
録音会場となったForum Karlin (ポリヒムニアのFBページから)
セッション録音の様子(ポリヒムニアのFBページから。)
このマイクアレンジがいかにもポリヒムニアらしい。(笑)
プロデューサー・マルセーと指揮者フルシャ
さっそく聴いてみる。
非常にソロ(チェロ)とオケの伴奏のバランスがうまくとれている録音(つまり編集)だと感じた。メインマイクで一発で全部拾うワンポイントではなくて、写真の通りマルチマイクらしい、とてもオーディオ的に聴きやすい快感が得られやすいサウンドの組み立て方になっている。(各チャンネルへの配分、ミックスで聴こえたときのバランス感覚などが秀逸。)
ワンポイント1発録りだと確かに自然の演奏の音に近いかもしれないが(巷の評判も良い)、でも自分はそうは思わない。
全体的にマイクから遠すぎてサウンド自体に躍動感がない鮮度のない死んだようなサウンドに感じることが多くて感心しないほうが多い。生演奏では聴こえない音が聴こえる、というけど、いいじゃないですか!それも自分はオーディオの快楽のひとつで魅力だと思っている。
とにかくオケの音は輪郭がくっきりとしていて明瞭で、ちゃんと大音量(この音量は予想以上。ソロのチェロを圧するくらい大音量)。それでいながら深さ&空間情報もきちんと入っている。
マルチマイクであるにもかかわらず、空間表現というか 各楽器の佇まいが自然でバランスが良いのはもちろんだが それでいて 発音のエネルギー感や演奏者の息遣いがしっかり録れていて、エルド・グロート氏の編集の素晴らしさには驚くばかりだ。
聴いていてホントに気持ちがいい作品にできてあがっていると思う。
チェロの音が、予想していた以上に非常に心地よいスマートな音色で(もっと低弦ゾリゾリと思っていたが。)綺麗に録れている。滑らかで優雅な音色というか.......
それにして、モーザーのチェロの音色に表現のあること。酔わせる旋律とそうでないところの区別がはっきりわかる、その緩急のある演奏には舌を巻く。情感たっぷりに奏でるところの”タメ”のある弾き方とか.....
このドヴォルザークのチェロ協奏曲の名録音であるカラヤン&ロストロポーヴィチの名演を聴きなおしてみた。
聴いてげんなりした。
彼らの名演をそしるつもりはなく 録音された時制を考えれば、実に素晴らしいクオリティの録音だということに異論はない。
だが しかしだ。
しかし そのクオリティは 30年前にすでに明らかに聴きとれた。
「チェロ、そしてそれに伴うオケの音が、こんな風に録れてるなんて何と素晴らしい録音なんだろう!」と 30年前に思った以上のものが 新たには感じられなかった。
逆に 演奏がひどく色あせて感じられた。
モーザー&フィルハーモニアの「ドヴォルザークのチェロ協奏曲」には、1970年のカラヤン指揮ベルリンフィル&ロストロポーヴィチのDG録音の時点では捉えることができなかった「音のさま」がある。
このあたりのフレーズの「新しい録音を聴こうよ!」というゴローさんの教えは、永遠に我々の心の中に生きていくんだろうな。
この考え方に反発する方も数多いらっしゃることももちろん承知ですが......まぁたかが趣味、されど趣味の世界で、正しいという答えなどなくて個人の楽しみ方を尊重されるべきことはもちろんだと思っております。
「新しい録音を聴こうよ!」・・・。いい言葉ですね。私もSACDの再生に拘っていきます。このディスク、注文しましょう!
by ま~さん (2015-11-09 08:23)
はい、「新しい録音を聴こうよ!」は私の大のお気に入りの日記です。自分のひとつのクラシックの聴き方の指針ですね。でも人それぞれだとも思います。
by ノンノン (2015-11-12 01:16)