BBC Proms & ロイヤル・アルバート・ホール [海外音楽鑑賞旅行]
正式名が、「ヘンリー・ウッド・プロムナード・コンサート(通称プロムス)」というもので、指揮者ヘンリー・ウッドが、貧乏な人たちにも良質なコンサートを、という主旨で、いまから100年以上も前に始められた夏の音楽祭。約2か月にわたり、リラックスした雰囲気の中で楽しんでもらおうという趣旨のとてもカジュアルな音楽祭なのだ。
2005年あたりからプロムスは、どんどんエンターティナー化していき、現在では国営放送BBCの運営にも関わらず、スポンサーがたくさんついた大がかりなイベントになっているようである。
会場は、ロイヤル・アルバート・ホールなのだが、それのみならずイギリス全国に拡大。スコットランド、アイルランド、ウェールズ、北イングランドの野外会場がロンドンと中継で結ばれるなど、本当にすごいエンターティメントぶりなのである。
登場するのは、クラシックのみならずで、ジャズやポップスも含まれていたりする。
創始者のヘンリー・ウッドは、日頃、クラシックに触れる機会も関心もない庶民を教育しよう、という使命を受けてはじめたものなのであるが、実際のところ、それに反して、どんどんエンタメ化していっているというのが実情だろう。
そういう趣旨の音楽祭なので、客層は本当にカジュアル。みんなで気軽にクラシックを楽しんでいこうという雰囲気がはっきりわかる様子だったように思う。
会場のロイヤル・アルバート・ホールには、地下鉄(Underground)の最寄り駅は、South Kensington。じつはこの駅から徒歩でかなりの距離歩く。
手元に持っていた地図が、心もとないので、駅の前にあった地図掲示板をデジカメで撮影して、その地図のもとに歩いて行った。
最初ちょっと曲がるが、あとはひたすら直進。でも歩いても歩いても、いつまでも姿が見えないので、確かに不安になってくる。(笑)
そしてついに、ロイヤル・アルバート・ホール。
カジュアルな客がたくさん長蛇の列を並んでいる。
さらにこんな感じ。(^^;;
これは?
プロムスでは、平土間、つまりグランドフロアの座席は、すべて取り払われ、アリーナ(立ち聴き)として解放されているのだ。このチケットは、”スタンディング・チケット”の名で売られているのだが、当日券のみ。値段も5ポンド程度と安く、今日のような有名な曲、演奏家が出る日には、2時間以上も前から長蛇の列ができるらしい。
だからこの長蛇の列は、その平土間立ち聴きのための当日券の並びなんだね。
自分は歳なので、とてもコンサート中オールスタンディングは腰に来て無理だと思うが、この立ち聴きがまたいっそうコンサートのカジュアル感を醸し出している、と言っても過言ではなかった。
このホールの入り口は、やはり両サイドからだと思うのだが、自分は正面のこの入り口から、スルスルと中に入ってしまう。
そこには、BOX OFFICEや、カフェスタイルなどがあったが、さらに進んでいくと、こうやってチケット持っている人のみのプレートが。
まずこの前で、たぶん会場の中には、まだ入れないけれど、ホワイエなら解放というところなのだろう、チケットを係員にバーコードでスキャンしてもらって、中に入っていく。
なにせ、円形ドームなので、ホワイエ空間というものより、全体的にこんなスタイルの通路が延々と続く。
自分のゲートはここだ!
ここで、よく状況を把握できていなかった自分は、施錠されていないので、中にスルスルと入っていき、近くにいたホールの撮影機材スタッフと思われる人に、この座席シートってどこなの?と聞いてみたりしたのだ。
なにせ、座席表なんて気の利いたものは見つからなく、他人任せ。
そうしたらスタッフは、この扉を開けて、中に入って、最前列のほうに行ってみな?その番号あるよ。とにかく中に入ってみろ!と言うではないか!
自分は、あくまでその指示通りにしたにすぎず、中に入ると、中にいきなり空席のホール空間が一面に現れる。びっくりして大興奮。
これは、またしても、やっぱり音楽の神様が、ホール愛に満ちた自分にくれたご褒美なのか、と勝手に勘違いして(笑)、また空席のホール空間を撮影できるチャンスをものにすることができたのだ。
たぶん、まだ開場前だったと思うんだが。。。(笑)
6000人くらいのキャパの大容積。でも場内を一周して撮影してみたのだが、意外や小さく感じて、あっという間にグルッと一周できてしまう広さ。東京ドームよりももちろん全然小さいと感じる。
そして空席のホール内を一周しながら撮影した。でもプロムスは、やはり観客が入って、照明がついたほうが遥かに華やかで素晴らしい。
天井がぶら下がっている、これはなにか?というのは後で説明する。
これが大オルガン。
撮影したら、満足がいって、開場までにホワイエで座って休憩したいと思い、こういう場所を見つけて休ませてもらった。
ホール側、音楽祭側のスタッフたちが開場前で忙しく準備している。
その中で、特に右手側の白ジャケットの女性。華麗なクィーンズ・イングリッシュを流暢に話し、それが相まって見た目・スタイルともに、超カッコイイ。異性の男性である自分から見ても、いやぁイケているなぁ、と惚れてしまいました。やっぱり英語って周りがパッと明るくなる、明るいトーンというか聴き映えして、全体のオーラを輝かせると思ったひとこまであった。
そうすると時間が来て、開場。両サイドの扉から、ぞくぞくと入場。
ホール内は、みるみる内に観客で埋まっていき、照明もついてきて、スゴイいい雰囲気。なんか、かなり華やかな空間にいるのではないか、という印象に陥る。
これぞ、まさにBBC Proms!!!
ブレイクのときのひとこまであるが、こんな感じ。
そして私の座席からステージを見た光景。
今日は、ここで、アルゲリッチ&バレンボイムで、ウェスト・イースタンディヴァン管弦楽団の演奏を聴く。もちろんプラチナ・チケット完売だ。
まず、自分のお仕事であるホールの音響面の印象について、実際、自分の耳で聴いた印象と、帰国後、この日記を書く上でいろいろ調べた結果を書いてみたい。
なにせ、ご覧のように、生音主義の直接音&間接音のクラシック専門ホールとは、まったく無縁のドーム型のホール。そして、なによりも6000人キャパの大容量。自分は完璧にPA主導型のサウンドだと思い込んでいた。
でも実際、自分の座席で聴いた印象は、Non-PAではないか?というものだった。
まずなによりもオケの音量が小さ過ぎる!ステージ周辺で鳴っているような感じで、この大空間の対容量比を満たしているものとは、到底思えなかった。
もし、PAを通しているなら、もっとホール内のあっちこっちのSPから聴こえて、ホール充満度があるからだ。またクラシックホール内でのPAにありがちな音の出どころがわかってしまう、音離れしていない、という感じでもなかった。
自分はステージで鳴っているサウンドの音を聴いて、たしかに音量は小さいけれど、この大容量のホールでふつうに演奏しているだけではないのか?PAかかっているかなぁ?と何回も思ったほど。
また音を聴いていても、いわゆるPA臭さというのも感じない。
もしくは、PAエンジニアが優秀なだけかもしれない。BBC Promosは、BBCを始め、いろいろメディアで収録、放映されているので、やはりPAを通している可能性も強い。でも自分にとって、全く違和感を感じないほど、シームレスで、終始、これPAかかっているのかなぁ?という感じで頭をひねること、しきりだった。
あくまで、ステージ周辺で鳴っている感じで、この大空間を満たしていないなぁ、と思うだけで。。。サウンドの質感も、そんなに違和感はなかった。許容範囲だった。
正直バリバリの電気くさいPAサウンドをイメージしていたので、ちょっと拍子抜けという感じでもあった。
この大容量のドーム空間の音響は、この100年以上、ずっとエコーとの闘いと言ってもいいものだった。
なにせ、この大空間、ステージからの直接音に対して、初期反射音がホール内で長い距離を伝搬するために、音量エネルギーが失われ、遠方の壁からホール前方に戻る初期反射音が、非常に大きい遅れ時間を持つので、いわゆる”エコー”が発生するのだ。
まさに大容量、大空間ならではの悩み。
ホールの音響って、やはりステージ上の発音体に対して、適切なホール容積というものがあって、直接音に対して反射音の時間差がある程度の時間差内、短いほうが心地よい、そういう許容範囲があるものなのだ。あまりお互いが分離しているというか時間差があり過ぎると、わずらわしい”エコー”になってしまう。
このロイヤル・アルバート・ホールでのウェールズ公のはじめてのスピーチでも、「すべての座席に聴こえるように、明瞭な声で発声されたところ、多くの場所で、その声が二重に聴こえ、奇妙なエコーのために次に始まる言葉に、その声が重なった」、とこのホールの歴史資料には書いてあるそうだ。(笑)
もうそこからはエコーとの闘い。
いろいろ改修デザインを試みるもエコーはなかなか解決できず、エコーが完全に解消したのは、この天井からぶらさがっている音響拡散体(フライングソーサー(空飛ぶ円盤))を設置してからなのだ。
このソーサーの上には吸音材が貼られていて、天井からの余分な反射音を吸収する(中音域で過剰に長い残響時間のf特のフラット化)という問題解決と、あと、これは、いまのホールでも当たり前で行われているホール上空での反響板に相当する役割。。。天井までの距離が長いので、反射音が遅れてしまうので、それを、そこまで到達する前に、このソーサーで早くいち反射してしまうこと。
などが対策された。このソーサーが設置されたおかげで、遠方の座席からすると初期反射音が遠い、とか薄いというエコーの原因の最たる弱点も解消される。
満席での残響時間は、2.4秒。
やっぱり決定的なのはオケの音が弱いというか小さいということ。これは、やはり6000人も周りが人で囲んでいては、音を吸っちゃうよなぁ、というのは当たり前に思ってしまうことだ。
いまでこそ、こういうパラドックスがわかってきているから、最初から無茶なホールは設計しないけれど、このロイヤル・アルバート・ホールが設計されたのは、1800年代のこと。当時はそんな理論なんてわからないわけだから、作ってしまったものに対して、やはり試行錯誤で、ここまでつじつまを合わせてきた、という感じであろうか。
もちろん自分が聴いていた分には、このエコーは発生していなかった。
さて、いよいよ本題のBBC Promsの演奏会に移ろう。
この日の演奏会は、プロムス43というプログラム。
アルゲリッチ&バレンボイムで、ウェスト・イースタンディヴァン管弦楽団の演奏会。
アルゲリッチの大ファンでもあるし、バレンボイムも好きだ。
もうこの2人は大の仲良しですね。
この日の演奏曲は、なんとワーグナー一色なのだ。
アルゲリッチはリストのピアノ協奏曲なのだが、今回いろいろ日記を書いているうちに、よく考えると、リストって、ワーグナーの妻コジマのお父さんであるから、親戚な訳で、そうすると結局全演目ワーグナーづくし、ということだったのかなぁ、と思ったりする。
アンコールも、トリスタンとイゾルデと、ローエングリンの第3幕の前奏曲だった。(笑)
バレンボイムとワーグナーというと、自分がいつも思い出すのは、ワーグナー音楽がタブー視されているイスラエル圏内にて、強硬演奏するというチャレンジングな試みを過去に幾度かやってきた、という想い出。
話が逸れてしまうが、自分の過去の日記でも何回か、取り上げたことがある。
ワーグナーは、19世紀後半に音楽界だけでなくヨーロッパ文化に広く影響を及ぼした文化人として知られる一方で、じつは反ユダヤ人思想を持つと言われる彼の音楽は、ヒトラーのユダヤ人絶滅思想にも利用されてきた。 そのため、イスラエルにおいてはワーグナーの音楽そのものが長らくタブー視され、 今日においてもその見方が強いのだ。
現在バイロイト音楽祭の総監督で、ワーグナーの子孫にあたるカタリーナ・ワーグナーさんは、
「ワーグナーはいつも狂気の中で生きていた。常に自己崇拝しており、世間から天才として認められることを期待していた。だから自分以外に高く評価されている人は言うまでもなくライバルであり、敵であった。 若きワーグナーの前に立ちはだかる男たちがいて、メンデルスゾーンやマイヤーベイアーを代表とするユダヤ人作曲家。
彼らに対する妬みは、ワーグナーを人種差別主義者に変えていった。。。」
とインタビューで答えている。
バレンボイムという人は、こういう問題を抱える中で、2001年にエルサレムで開かれた 「イスラエル・フェスティバル」の中で、ベルリン国立歌劇場管弦楽団を指揮した彼が、アンコールにワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の一部を強行に演奏して、彼はアンコールの前に、「私は誰の感情も害したくはない。もし聴きたくない人がいるのならばこの会場を去って欲しい」とヘブライ語で語り演奏を始め、アンコールはスタンディング・オベイションを受けたものの、一部の観衆は「ファシスト!」などと叫んで席を 立ち、騒然となり後日大変な騒動となったという有名な事件がある。
自分は、バレンボイムとワーグナーとのかかわりの時を考えるとき、バレンボイムのイスラエル方面への力の入れ方も強い人だっただけに、どうしても、こういうチャレンジングな彼の過去の勇気ある行動をいつも思い出してしまうのだった。
今回の旅行は、なにかとワーグナーと関連性、所縁のある旅だと感じるので、ワーグナーのいい面ばかりではなく、こういうマイノリティーな部分も触れないといけないと感じた。
今日の演奏。タンホイザー序曲、神々の黄昏より-夜明けとジークフリートのラインへの旅、神々の黄昏より-葬送行進曲、ニュルンベルクのマイスタージンガー 序曲、とワーグナーづくし。もうとても満足できる演奏であった。
オーケストラの演奏レベルとしては、正直まだまだ粗削りのところもあるな、と感じるところも多々あったが、お祭りムードに支えられて、素晴らしく感動できた。観衆は、もう大歓声であった。
(コンサートマスターが、風貌を見る限り、昔ベルリンフィルにコンサートマスターをやっていて、安永さんの後任として樫本大進をベルリンフィルに誘った、あの方じゃないかな、と思った、名前はど忘れしちゃったけれど。。。~・ガイという名前だったかな?)
そして、アルゲリッチのリストのコンチェルトも素晴らしかった。彼女、ここに健在!この後のアンコールでは、なんとバレンボイムとの連弾も披露。もう自分にとってはこれ以上ないご褒美となった。BBC Promsでのこのコンビによる演奏。最高の想い出になった。
一生忘れ得ることのできない、素晴らしい夏の一夜を過ごすことが出来た。
写真は、Twitterで、Argerichfanさんの投稿のそのときの写真をお借りしています。
2005年あたりからプロムスは、どんどんエンターティナー化していき、現在では国営放送BBCの運営にも関わらず、スポンサーがたくさんついた大がかりなイベントになっているようである。
会場は、ロイヤル・アルバート・ホールなのだが、それのみならずイギリス全国に拡大。スコットランド、アイルランド、ウェールズ、北イングランドの野外会場がロンドンと中継で結ばれるなど、本当にすごいエンターティメントぶりなのである。
登場するのは、クラシックのみならずで、ジャズやポップスも含まれていたりする。
創始者のヘンリー・ウッドは、日頃、クラシックに触れる機会も関心もない庶民を教育しよう、という使命を受けてはじめたものなのであるが、実際のところ、それに反して、どんどんエンタメ化していっているというのが実情だろう。
そういう趣旨の音楽祭なので、客層は本当にカジュアル。みんなで気軽にクラシックを楽しんでいこうという雰囲気がはっきりわかる様子だったように思う。
会場のロイヤル・アルバート・ホールには、地下鉄(Underground)の最寄り駅は、South Kensington。じつはこの駅から徒歩でかなりの距離歩く。
手元に持っていた地図が、心もとないので、駅の前にあった地図掲示板をデジカメで撮影して、その地図のもとに歩いて行った。
最初ちょっと曲がるが、あとはひたすら直進。でも歩いても歩いても、いつまでも姿が見えないので、確かに不安になってくる。(笑)
そしてついに、ロイヤル・アルバート・ホール。
カジュアルな客がたくさん長蛇の列を並んでいる。
さらにこんな感じ。(^^;;
これは?
プロムスでは、平土間、つまりグランドフロアの座席は、すべて取り払われ、アリーナ(立ち聴き)として解放されているのだ。このチケットは、”スタンディング・チケット”の名で売られているのだが、当日券のみ。値段も5ポンド程度と安く、今日のような有名な曲、演奏家が出る日には、2時間以上も前から長蛇の列ができるらしい。
だからこの長蛇の列は、その平土間立ち聴きのための当日券の並びなんだね。
自分は歳なので、とてもコンサート中オールスタンディングは腰に来て無理だと思うが、この立ち聴きがまたいっそうコンサートのカジュアル感を醸し出している、と言っても過言ではなかった。
このホールの入り口は、やはり両サイドからだと思うのだが、自分は正面のこの入り口から、スルスルと中に入ってしまう。
そこには、BOX OFFICEや、カフェスタイルなどがあったが、さらに進んでいくと、こうやってチケット持っている人のみのプレートが。
まずこの前で、たぶん会場の中には、まだ入れないけれど、ホワイエなら解放というところなのだろう、チケットを係員にバーコードでスキャンしてもらって、中に入っていく。
なにせ、円形ドームなので、ホワイエ空間というものより、全体的にこんなスタイルの通路が延々と続く。
自分のゲートはここだ!
ここで、よく状況を把握できていなかった自分は、施錠されていないので、中にスルスルと入っていき、近くにいたホールの撮影機材スタッフと思われる人に、この座席シートってどこなの?と聞いてみたりしたのだ。
なにせ、座席表なんて気の利いたものは見つからなく、他人任せ。
そうしたらスタッフは、この扉を開けて、中に入って、最前列のほうに行ってみな?その番号あるよ。とにかく中に入ってみろ!と言うではないか!
自分は、あくまでその指示通りにしたにすぎず、中に入ると、中にいきなり空席のホール空間が一面に現れる。びっくりして大興奮。
これは、またしても、やっぱり音楽の神様が、ホール愛に満ちた自分にくれたご褒美なのか、と勝手に勘違いして(笑)、また空席のホール空間を撮影できるチャンスをものにすることができたのだ。
たぶん、まだ開場前だったと思うんだが。。。(笑)
6000人くらいのキャパの大容積。でも場内を一周して撮影してみたのだが、意外や小さく感じて、あっという間にグルッと一周できてしまう広さ。東京ドームよりももちろん全然小さいと感じる。
そして空席のホール内を一周しながら撮影した。でもプロムスは、やはり観客が入って、照明がついたほうが遥かに華やかで素晴らしい。
天井がぶら下がっている、これはなにか?というのは後で説明する。
これが大オルガン。
撮影したら、満足がいって、開場までにホワイエで座って休憩したいと思い、こういう場所を見つけて休ませてもらった。
ホール側、音楽祭側のスタッフたちが開場前で忙しく準備している。
その中で、特に右手側の白ジャケットの女性。華麗なクィーンズ・イングリッシュを流暢に話し、それが相まって見た目・スタイルともに、超カッコイイ。異性の男性である自分から見ても、いやぁイケているなぁ、と惚れてしまいました。やっぱり英語って周りがパッと明るくなる、明るいトーンというか聴き映えして、全体のオーラを輝かせると思ったひとこまであった。
そうすると時間が来て、開場。両サイドの扉から、ぞくぞくと入場。
ホール内は、みるみる内に観客で埋まっていき、照明もついてきて、スゴイいい雰囲気。なんか、かなり華やかな空間にいるのではないか、という印象に陥る。
これぞ、まさにBBC Proms!!!
ブレイクのときのひとこまであるが、こんな感じ。
そして私の座席からステージを見た光景。
今日は、ここで、アルゲリッチ&バレンボイムで、ウェスト・イースタンディヴァン管弦楽団の演奏を聴く。もちろんプラチナ・チケット完売だ。
まず、自分のお仕事であるホールの音響面の印象について、実際、自分の耳で聴いた印象と、帰国後、この日記を書く上でいろいろ調べた結果を書いてみたい。
なにせ、ご覧のように、生音主義の直接音&間接音のクラシック専門ホールとは、まったく無縁のドーム型のホール。そして、なによりも6000人キャパの大容量。自分は完璧にPA主導型のサウンドだと思い込んでいた。
でも実際、自分の座席で聴いた印象は、Non-PAではないか?というものだった。
まずなによりもオケの音量が小さ過ぎる!ステージ周辺で鳴っているような感じで、この大空間の対容量比を満たしているものとは、到底思えなかった。
もし、PAを通しているなら、もっとホール内のあっちこっちのSPから聴こえて、ホール充満度があるからだ。またクラシックホール内でのPAにありがちな音の出どころがわかってしまう、音離れしていない、という感じでもなかった。
自分はステージで鳴っているサウンドの音を聴いて、たしかに音量は小さいけれど、この大容量のホールでふつうに演奏しているだけではないのか?PAかかっているかなぁ?と何回も思ったほど。
また音を聴いていても、いわゆるPA臭さというのも感じない。
もしくは、PAエンジニアが優秀なだけかもしれない。BBC Promosは、BBCを始め、いろいろメディアで収録、放映されているので、やはりPAを通している可能性も強い。でも自分にとって、全く違和感を感じないほど、シームレスで、終始、これPAかかっているのかなぁ?という感じで頭をひねること、しきりだった。
あくまで、ステージ周辺で鳴っている感じで、この大空間を満たしていないなぁ、と思うだけで。。。サウンドの質感も、そんなに違和感はなかった。許容範囲だった。
正直バリバリの電気くさいPAサウンドをイメージしていたので、ちょっと拍子抜けという感じでもあった。
この大容量のドーム空間の音響は、この100年以上、ずっとエコーとの闘いと言ってもいいものだった。
なにせ、この大空間、ステージからの直接音に対して、初期反射音がホール内で長い距離を伝搬するために、音量エネルギーが失われ、遠方の壁からホール前方に戻る初期反射音が、非常に大きい遅れ時間を持つので、いわゆる”エコー”が発生するのだ。
まさに大容量、大空間ならではの悩み。
ホールの音響って、やはりステージ上の発音体に対して、適切なホール容積というものがあって、直接音に対して反射音の時間差がある程度の時間差内、短いほうが心地よい、そういう許容範囲があるものなのだ。あまりお互いが分離しているというか時間差があり過ぎると、わずらわしい”エコー”になってしまう。
このロイヤル・アルバート・ホールでのウェールズ公のはじめてのスピーチでも、「すべての座席に聴こえるように、明瞭な声で発声されたところ、多くの場所で、その声が二重に聴こえ、奇妙なエコーのために次に始まる言葉に、その声が重なった」、とこのホールの歴史資料には書いてあるそうだ。(笑)
もうそこからはエコーとの闘い。
いろいろ改修デザインを試みるもエコーはなかなか解決できず、エコーが完全に解消したのは、この天井からぶらさがっている音響拡散体(フライングソーサー(空飛ぶ円盤))を設置してからなのだ。
このソーサーの上には吸音材が貼られていて、天井からの余分な反射音を吸収する(中音域で過剰に長い残響時間のf特のフラット化)という問題解決と、あと、これは、いまのホールでも当たり前で行われているホール上空での反響板に相当する役割。。。天井までの距離が長いので、反射音が遅れてしまうので、それを、そこまで到達する前に、このソーサーで早くいち反射してしまうこと。
などが対策された。このソーサーが設置されたおかげで、遠方の座席からすると初期反射音が遠い、とか薄いというエコーの原因の最たる弱点も解消される。
満席での残響時間は、2.4秒。
やっぱり決定的なのはオケの音が弱いというか小さいということ。これは、やはり6000人も周りが人で囲んでいては、音を吸っちゃうよなぁ、というのは当たり前に思ってしまうことだ。
いまでこそ、こういうパラドックスがわかってきているから、最初から無茶なホールは設計しないけれど、このロイヤル・アルバート・ホールが設計されたのは、1800年代のこと。当時はそんな理論なんてわからないわけだから、作ってしまったものに対して、やはり試行錯誤で、ここまでつじつまを合わせてきた、という感じであろうか。
もちろん自分が聴いていた分には、このエコーは発生していなかった。
さて、いよいよ本題のBBC Promsの演奏会に移ろう。
この日の演奏会は、プロムス43というプログラム。
アルゲリッチ&バレンボイムで、ウェスト・イースタンディヴァン管弦楽団の演奏会。
アルゲリッチの大ファンでもあるし、バレンボイムも好きだ。
もうこの2人は大の仲良しですね。
この日の演奏曲は、なんとワーグナー一色なのだ。
アルゲリッチはリストのピアノ協奏曲なのだが、今回いろいろ日記を書いているうちに、よく考えると、リストって、ワーグナーの妻コジマのお父さんであるから、親戚な訳で、そうすると結局全演目ワーグナーづくし、ということだったのかなぁ、と思ったりする。
アンコールも、トリスタンとイゾルデと、ローエングリンの第3幕の前奏曲だった。(笑)
バレンボイムとワーグナーというと、自分がいつも思い出すのは、ワーグナー音楽がタブー視されているイスラエル圏内にて、強硬演奏するというチャレンジングな試みを過去に幾度かやってきた、という想い出。
話が逸れてしまうが、自分の過去の日記でも何回か、取り上げたことがある。
ワーグナーは、19世紀後半に音楽界だけでなくヨーロッパ文化に広く影響を及ぼした文化人として知られる一方で、じつは反ユダヤ人思想を持つと言われる彼の音楽は、ヒトラーのユダヤ人絶滅思想にも利用されてきた。 そのため、イスラエルにおいてはワーグナーの音楽そのものが長らくタブー視され、 今日においてもその見方が強いのだ。
現在バイロイト音楽祭の総監督で、ワーグナーの子孫にあたるカタリーナ・ワーグナーさんは、
「ワーグナーはいつも狂気の中で生きていた。常に自己崇拝しており、世間から天才として認められることを期待していた。だから自分以外に高く評価されている人は言うまでもなくライバルであり、敵であった。 若きワーグナーの前に立ちはだかる男たちがいて、メンデルスゾーンやマイヤーベイアーを代表とするユダヤ人作曲家。
彼らに対する妬みは、ワーグナーを人種差別主義者に変えていった。。。」
とインタビューで答えている。
バレンボイムという人は、こういう問題を抱える中で、2001年にエルサレムで開かれた 「イスラエル・フェスティバル」の中で、ベルリン国立歌劇場管弦楽団を指揮した彼が、アンコールにワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の一部を強行に演奏して、彼はアンコールの前に、「私は誰の感情も害したくはない。もし聴きたくない人がいるのならばこの会場を去って欲しい」とヘブライ語で語り演奏を始め、アンコールはスタンディング・オベイションを受けたものの、一部の観衆は「ファシスト!」などと叫んで席を 立ち、騒然となり後日大変な騒動となったという有名な事件がある。
自分は、バレンボイムとワーグナーとのかかわりの時を考えるとき、バレンボイムのイスラエル方面への力の入れ方も強い人だっただけに、どうしても、こういうチャレンジングな彼の過去の勇気ある行動をいつも思い出してしまうのだった。
今回の旅行は、なにかとワーグナーと関連性、所縁のある旅だと感じるので、ワーグナーのいい面ばかりではなく、こういうマイノリティーな部分も触れないといけないと感じた。
今日の演奏。タンホイザー序曲、神々の黄昏より-夜明けとジークフリートのラインへの旅、神々の黄昏より-葬送行進曲、ニュルンベルクのマイスタージンガー 序曲、とワーグナーづくし。もうとても満足できる演奏であった。
オーケストラの演奏レベルとしては、正直まだまだ粗削りのところもあるな、と感じるところも多々あったが、お祭りムードに支えられて、素晴らしく感動できた。観衆は、もう大歓声であった。
(コンサートマスターが、風貌を見る限り、昔ベルリンフィルにコンサートマスターをやっていて、安永さんの後任として樫本大進をベルリンフィルに誘った、あの方じゃないかな、と思った、名前はど忘れしちゃったけれど。。。~・ガイという名前だったかな?)
そして、アルゲリッチのリストのコンチェルトも素晴らしかった。彼女、ここに健在!この後のアンコールでは、なんとバレンボイムとの連弾も披露。もう自分にとってはこれ以上ないご褒美となった。BBC Promsでのこのコンビによる演奏。最高の想い出になった。
一生忘れ得ることのできない、素晴らしい夏の一夜を過ごすことが出来た。
写真は、Twitterで、Argerichfanさんの投稿のそのときの写真をお借りしています。
BBC Proms
2016年8月17日 19:30
Royal Albert Hall ロイヤル・アルバートホール
プログラム43
<曲目>
イェルク・ヴィトマン
コン・ブリオ
フランツ・リスト
ピアノ協奏曲第1番
リヒャルト・ワーグナー
タンホイザー序曲
神々の黄昏より-夜明けとジークフリートのラインへの旅
神々の黄昏より-葬送行進曲
ニュルンベルクのマイスタージンガー 序曲
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ウェスト・イースタンディヴァン管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
2016-09-03 20:08
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