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ベルリンフィルのダイレクトカットLPを聴く [オーディオ]

巷で話題のベルリンフィルのダイレクトカットLPを聴いた。なにせ9万円もする大変バブリーなLPで、自分はアナログはやらないし(正確にはやっていても腰掛程度で、アナログマニアではな い。)とても自分では買えない。そこにオーディオ仲間が購入した、ということで、お聴かせいただく幸運に恵まれた。

もう数量限定の限定販売なので、すでに完売。現在は入手することは不可能。

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通常のアナログレコードというのは演奏を収録するときにまず、アナログマスターテープに収録し、それをもとに編集、ミックスダウンというプロセスを経て、アナログレコードに溝としてカッティングしていく。

でもダイレクトカッティングというのは、そういうアナログマスター、編集、ミキシングというプロセスを介さず、演奏の収録からいきなりダイレクトにリアルタイムで、アナログレコードにカッティングしていくことをいう。

ダイレクトカッティングでは、とにかく演奏およびカッティングが一発勝負であるため、失敗は許されないという極度に緊張をともなうのだ。

こういう一発勝負も、ベルリンフィルだからできた、とも言われていて、やり直し含め、2テイクで録ったようだ。聴いてみると最終楽章では観客の拍手が入っているので、まったく空席ホールでのセッション録音ではなく、いわゆる本物のライブ録音ということになる。2テイクということは、別に日にもう一回集客して録ったということか?


2014年9月にベルリンのフィルハーモニーで行われたブラームス交響曲全曲演奏会である。

ひと組のステレオ・マイク(ゼンバイザーMKH800Twin)でのワンポイント録音で、その拾った音(波動)を、直接カッティング・マシーンにつなぎ、ラッカー盤に刻み込むというプロセス。

今日では、ダイレクトカットで録音が行われることはほとんどないそうだ。ベルリンフィルも、最後にこの方式で収録を行ったのは、70年前。

今回そのマスタリングを担当したのが、Emil Berliner Studios(エミール・ベルリナー・スタジオ)で、トーンマイスターがライナー・マイヤール氏。まさにDGの黄金時代の録音をいっきに担ってきた超一流の技術集団だ。

収録で使用されたのは、LPレコード制作の金字塔と呼ばれるノイマンのカッティングレースVMS-80。

重さ400キロのカッティング・マシーンを500メートル先のフィルハーモニーに運び込み、音声スタジオ「第4スタジオ」で収録が行われた。まさに、失敗が許されない1発勝負のベルリンフィルのメンバーのただならぬ緊張感、そして録音チームの強い意気込みが刻み込まれた一大企画であった。 


どんな音がするのか?

試聴に使ったシステムは、SP、そして送出系も上流から下流までハイエンドなシステムなので、ソフトの録音クオリティに忠実なサウンドが出てくるはずだ。

ブラームス交響曲第1番の第1楽章だけで、片面使うこの贅沢なカッティング。

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簡潔にまず結論から言おう!

ダイレクトカットLPの印象は、コンサートで、前方座席のかぶりつき正面で聴いているような、まさに”生演奏を聴いている感覚とまったく同じ”聴こえ方をする、というものだった。

とにかくステージ前方のストリングス(弦楽器群)の音がやたらと大音量で迫力あって、自分に迫ってくるように聴こえてきて、オケの中段から後方にある木管群、金管群、打楽器群が、それなりに遠近感を持って聴こえてくる。つまり近くではなく遠いのだ。

いわゆるホールの前方席で聴いているときに、ステージ上で、前方から奥行きのほうにオケのそれぞれの楽器が並んでいる、その遠近感に従って聴こえてくる感じなのだ。特に木管の聴こえ方がすごく自然で、ステージ中段からすぅ~と前方客席に流れてくるようなあの聴こえ方は、まさに生演奏での客席の聴こえ方とまったく同じ。後方の金管などは、やはりそれなりに遠くて生演奏っぽい。

このとき、聴きながら自分の頭の中をグルグル考えていたのは、やはりワンポイント録音で、編集いっさいなし、というところに起因しているのではないか、と思ったことだ。

普通の録音であるメインマイク&数々のピックアップでの編集、ミキシングでの音だと、ステージ中段から後段にいる木管、金管、打楽器群も遠くに聴こえないように、編集時にピックアップで録った音をミックスしてそれなりに明瞭、鮮明に聴こえるように編集するはずだ。

だからオーディオで聴く普通のオーケストラ録音は、ステージ前方、中段、後方との距離感に関係なく、中段、後方の楽器群も明瞭に聴こえるように、全体のバランスがよく聴こえるように、空間バランスをつくる。だから聴いていて気持ちがいいのだ。

でも、今回のダイレクトカットLPの聴こえ方は、まさにそれとはあきらかに違って、ワンポイント録音で、おそらくそのメインマイクが設置されているであろう指揮者の後方あたりの上空から録っている方向感を感じるのだ。

ある意味、普段のオーディオでのオーケストラ録音の聴こえ方と、かなり違う感じで、どちらかというと生演奏で聴いているような聴こえ方をするのでこれは独特だなぁという感じで、生演奏派でもある自分にとっては、これはこれで、とても自然なオーケストラの音の聴こえ方をする、と思い感心したのである。


編集ナシということはどういうことなのか?

ふつうのオーケストラ録音で、ホールで収録した時の編集前の録りっぱなしの音を聴いたことのある人は、録音エンジニアでもない限り、一般市民ではほとんどいないであろう。もちろん自分も聴いたことがないのだけれど、いろいろ日記やコメントで見かけるのに、録音エンジニアが編集で化粧をする前の音って、すごい埃っぽい感じで聴けたもんじゃない。化粧をして強調するからはじめて人様に聴かせられるような感じになる、的なのをよく見かける。

でも今回は、まさに編集ナシの録りっぱなしの音をカッティングしている訳だから、まさに化粧をしていない音を聴いているのである。自分は埃っぽいとはまったく思わなかったし、まさに生演奏で聴いているようなリアル感、現実感があった。


音はとても鮮度感が抜群で、解像度も高くていい音だと思った。

そしてなにより客席での咳き込みとか暗騒音の生々しさもかなりリアルなことも、その解像度の高さに所以するところだと感じた。

自分が以前に日記で取り上げたIIJ等がやっているDSDライブストリーミングでもそうで、彼らもワンポイント録音で、編集、ミキシングなどいっさいなしで、演奏をそのまま録って、エンコードしてリアルタイムにインターネットに流しているのである。彼らの目的は、ふつうの音源ではなく、あくまで、演奏をしているところをじかにライブで流そうというところにコンセプトがあるので、そういうソリューションに行く着くのだと思う。

今回のダイレクトカットLPもじつは、LPという物理メディアとインターネットストリーミングの違いはあるにせよ、目的、コンセプトは全く同じのことなのだと自分は考えた。生演奏のリアル感、現実感を具現化するのであれば、ワンポイントで編集ナシというのがポイントなのかも。


別にどちらが主流になるとか、優劣があるとかというのは愚論であって、今後もそれぞれのメリットをいかしつつ、それぞれの分野で両立してくのだろう。

今回、ベルリンフィルのダイレクトカットLPを聴いた印象は、まさに”ライブレコーディング”ってやつで、生演奏をそのまま録るので、実際の生演奏で聴いているような聴こえ方をして生演奏派からすると不自然さがいっさいなく、ふつうの収録の仕方の音源とは、ちょっと違ったジャンルのLPだな、というのが正直な感想であった。


また次回もこういう企画ものがあるといいと思うけれど、ブラームスの4曲くらいだから緊張も持続できるのであって、ベートーヴェンの9曲とか無理かもしれませんね。(笑)



今回のLP(日本版)に同封されていた写真。


Emil Berliner StudiosのLPカットマシーン。

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ベルリンンフィルハーモニーでの演奏風景。

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トーンマイスター ライナー・マイヤール氏のサイン入り品質保証書(500プレス中428枚目とある。)

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