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クラシック音楽の録音哲学「私たちはスコアを録音するのか、ホールを録音するのか?」 [録音関連]

かなり強烈で挑発的なタイトルに、思わず反応してしまった。(笑)
志のある人なら反応しないほうがおかしいだろう。

でもこれはあまりに深く難しすぎて、哲学的とさえ感じるテーマ。
ある意味、プレゼンター泣かせかな。


去年の11月にドイツ・ケルンメッセで開催されたドイツ・トーンマイスター協会主催の「トーンマイスターグッグ(会議)」の講演会のテーマ。

PROSOUNDの4月号と6月号の2回に分けて連載されていて、名古屋芸術大学 長江和哉氏が現地取材レポートしている。

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90分のラウンドテーブルというあまり堅苦しくない討議形式でおこなわれた。

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左からチェアを務めたウルリケ・アンダーソン氏(昔バイエルン放送でトーンマイスターをやっていて、いまAnderson Audio)、ダニエル・シュアーズ氏(Sono Luminus)、そして日本から深田晃氏(clream window)、モートン・リンドバーグ氏(2Lレーベル)という4人。



深田さんは、ゴローさんのパートナーだった人だ。(笑)

CBSソニー、NHKと渡り歩いて、いま自分の会社を立ち上げている。

日本におけるサラウンドの大家で、サラウンドのFukada-Treeのマイクアレンジを自分で考案・発明した人だ。

サラウンドの普及を自分の使命に思っていたゴローさんにとって、おそらくNHK内での技術面の指南役だった人なのでは、と想像する。

あのNHKのハイティンク&ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団のBDソフトも、ゴローさんはプロデュース面から、深田さんは技術面からライナーノーツを寄稿している。

自分は深田さんにお会いしたことがある。はじめてサイトウキネン松本に行ったときに、ゴローさんに松本をグルグル案内してもらい、夜に自分のスタッフたち(全員で6人)を集めて、アジア料理系(?)のお店の夕食会に誘ってくれた。

その中に、深田さんはいた。(笑)

ボクのことをソニーにいた、と紹介してくれたときに、「あっ私もソニーでした!」と声をかけてくれた。

当時は当然まったくわかんなかったのだが、ゴローさんが亡くなって数年後に、じつはそんなスゴイ人だった、ということがわかって(顔写真でピンときた。)、恐れおののき、既述の関係が紐が解けるようにわかった。

散会のときに、「今後ともよろしくお願いします。」とわざわざ挨拶していただき、すごく恐縮したが、今思えばなんとも不思議な縁だ。



ディスカッションの内容を詳しく書くと、著作権というか、ネタバレ、本の営業妨害になってしまうので、詳しく知りたい方は、雑誌買って読んでください。(笑)


やっぱり志ある人にとっては、このテーマはかなり強烈だよな。

当然このテーマに対して、各4人がどのような考えを述べるのか、というのが最大の関心で、1回読んだだけでは、正直これ!と核心をついた、自分を感動させてくれた回答というか、要は白?黒?とはっきりさせて述べてくれた人はいなかったように思う。

やっぱりテーマがあまりに深くて難しいというか、これをジャスピンで核心ついて説明するのは難しいと思うよ。深田さんが述べていたことが唯一自分としては、共鳴できたし理解もできた。

やはりざっくばらんな討議会という形式なので、このテーマに対する回答というには、発散傾向というか、いまひとつまとめにくい、と感じたのか、レポートしていた長江氏も後日メール形式で、あらためて、「私たちはスコアを録音するのか、ホールを録音するのか?」というテーマを各4人に投げかけてその回答をメールでもらうという念の押しようだ。

この最後のメールの部分で、各4人の考え方がようやくクリアにわかって興味深い結末となった。


討論の中で、自分がドキっとさせられたのは、

演奏家はスコアを見て作品の音楽を解釈して演奏する。

それと同じで、音楽録音についても、レコーディング・プロデューサー&エンジニアも、同様にスコアを見て、そのスコアから「作品の音響的な解釈」をする必要がある。

スコアに忠実であるべき。

という下り。

やっぱりスコアを読めないとダメだ。(笑)

譜読み、スコアリーディングってやつですね。
ある意味当たり前のことだよな。

以前日記で書いたと思うが、

トーンマイスターというのはドイツの音楽大学ではじまった制度で、トーンマイスターコースを修了した音楽プロデューサー・ディレクター、バランスエンジニアの総称のこと、きちんとした資格制度の世界なのだ。

さらにその教育は、録音・音響技術のみではなく、音楽の演奏や音楽理論を始め、管弦楽法、総譜演奏、演奏解釈批評など、演 奏家と同等以上のスキルを身につけるというプロセスがあり、音楽家のパートナーとなるスペシャリストを養成することを目的としているのだ。

単なる技術屋さんではダメな世界なのだ。

そんな厳しい現実の世界を思い起こさせてくれた。

この討論会での各人の説明も、こういう楽曲を録音するためには、まずスコアを解釈して、音響面でどのように録ればいいのか、を推測し、マイクセッティングをどのように施せば、さらにそれプラス演奏家のポジション位置の判断、それによってイメージするサウンドでちゃんと録れるのか、その際にホールの音響をどう考慮して。。。のプロセスが入る。そしてミキシングも含め、後処理についてもそう。

そんな自分の録音した作品の事例を、上記のポイントに沿いながら紹介する、という説明が多かったと思う。

だから読んでいて、はっきりとテーマに対して、白?黒?という結論が得られない感じでモヤモヤした感じだった。でも最後のメール形式できちんと形になり各4人の考えがわかりスッキリした。


深田さんの言っていることで、いいな、と思ったところは、

良いレコーディングは、リスナーに音楽の芸術的満足感を与えるはず。

また録音された場所の空間的な印象は、その作品の原点(作曲家の想像の中の響きを含んだ音のあるべき姿)を見渡すことになる。

つまり「音楽録音は、事実の記録ではなく、表現者とリスナーの間で深い意味を作り出すこと。」

演奏されている空間を捉えるだけでは、良い音楽録音の前提条件にはなりえない。

録音と実際の演奏の違いは、視覚的にミュージシャンを見るかどうか。録音には視覚効果がないので、真に音楽だけを聴く必要があり、これが録音の難しさであり、また芸術性でもある。

ステレオ、サラウンド、3D(イマーシブ)と表現能力も高度化していくけれど、サラウンド、3Dは一般ユーザにとってシステムを揃えていくには垣根が高いこともあるし、ある意味ステレオでもこのような表現は可能だ、と言い切っているところかな。


ベルリンフィルのDCH(Digital Concert Hall)でのパナソニックとの協業。

パナはベルリンフィル側から、エンジニアではなく、楽器のできる人を派遣してほしい、と言われたそうな。(笑)

やっぱり。単なる技術屋ではなく、音楽への深い造詣が必要なのは、もうこの世界では、疑う余地もないことなんだということをガッチリ認識させられた。


とにかく読んでみてください。かなり専門的だし、志のある人なら断然面白いと思います。

ちなみにもう1冊のほうは、同じ「トーンマイスターグッグ(会議)」の講演会の取材で、エミール・ベルリナー・スタジオのシュテファン・フロック氏の講演を取材しています。


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シュテファン・フロック氏は、あのエレーヌ・グリモーをデビュー以来ずっと彼女の音を造り続けてきたトーンマイスター。

彼の講演テーマは、「クラシック音楽の録音芸術」について。

DGが出しているカンター・デ・ドミノは、彼の録音だったんだね。

その録音をはじめ、彼の自慢の作品群を取り上げています。






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