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コ・プロデュースという発想 [録音関連]

今年の東京・春・音楽祭でヤノフスキ&N響による4年間に渡るワーグナー「ニーベルングの指環」の演奏会形式が無事終了した。最後の「神々の黄昏」。いろいろアクシデントはあったが、終わってみれば素晴らしいの一言。マエストロ ヤノフスキとN響の勇士達には、本当に感謝の念を尽くしても足りないくらいである。


もう何回も紹介しているが、自分のワーグナー人生にとって、ヤノフスキという巨匠との出会いは、ある意味運命のようなもので、ここから信じられないような素晴らしいワーグナーの魅力との出会い・ドラマが始まった。その運命のきっかけになったのが、ヤノフスキ&ベルリン放送響がベルリンフィルハーモニーで行ったワーグナーオペラ10大作品の演奏会形式のコンサート。PENTATONEがその10公演をライブ録音で収録して作品化している。


自分は、非常に幸運なことに、このヤノフスキ&ベルリン放送響の演奏会形式のコンサートを、現地ベルリンで実演に2回も接することができた。(ニュルンベルクのマイスタージンガーとタンホイザー)すべては、この出会いから始まったと言っていいと思う。そして去年は、その念願のワーグナーの聖地バイロイトで、バイロイト音楽祭にも行くことができた。


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ワーグナー主要オペラ10作品ライヴ録音全集 
ヤノフスキ&ベルリン放送交響楽団(32SACD+DVD)




前々から気になっていたことなのだが、PENTATONEの録音のクレジットを確認すると、非常に頻繁に見かけるのが、ドイツの公共放送ドイチュラントラジオ・クルトゥーア(Deutschlandradio Kultur 以下DLR)という組織体がクレジットされていることだ。


今回の日記はテーマはこのDLR、そしてコ・プロデュースという概念について。


PENTATONEはレーベル、つまりレコード会社で、ポリヒムニアは録音、ポストプロダクションをつかさどる会社。ポリヒムニアが録音、ポスプロしたものをPENTATONEがSACDとして世に出すわけだが、そのクレジットの中にこのDLRという組織も必ずクレジットされている作品が非常に多いのだ。


またPENTATONEだけではなくて、myrios classicsというこれまた高音質指向型のマイナーレーベルであるクレジットにも、このDLRという組織体を目にすることが多い。


どうも気になって仕方がないので、いろいろググったりして調べてみたら、非常に面白い事実がわかった。


名古屋芸術大学 長江和哉氏が詳しいレポートをおこなっている。

長江氏は、2012年にいわゆる欧州のトーンマイスター制度について習得すべく、その本場ベルリンにて留学をなされていた。トーンマイスターという制度そのものが、当時日本ではあまり馴染みがなく、その実態を学ぶべく、といったところであろうか。それ以来、トーンマイスター関連情報に関して、欧州現地と日本との窓口のような役割を果たされている。このヤノフスキ&ベルリン放送響のワーグナー・チクルスでのポリヒムニアの現地収録にも立ち会われてレポートしている。


その中に、このDLRという組織体、つまりコ・プロデュースという概念について、とても興味深いレポートをされていて、自分は大変参考になったので、紹介してみたい。原典は、サラウンド寺小屋塾というサイトでその記事を知りました。(詳しくは、そちらを覗いてみてください。)


この公共放送のDLRという組織は、ドイツ内のクラシック音楽のさまざまな録音をコ・プロデュース(共同制作)しているのだそうだ。


文字どおりコ・プロデュースというのは共同で原盤を制作するという意味なのだが、このDLRのコ・プロデュースは、作品のラジオ・オンエアを行う目的で、録音技術、録音スタッフ、場合によっては録音場所等を援助しながら制作し、作品のリリース自体は外部レーベルから行うという手法なのだそうである。


つまり自分たちが放送媒体機関、つまりメディアであるが故に、そこでのオンエアをさせるために再生する原盤を作成させる援助をするということ。そして原盤自体は外部レーベルからさせる、ということらしい。DLRのコ・プロデュースの多くは、ベルリン・フィルハーモニー、コンツェルトハウス・ベルリンと、ベルリン・イエスキリスト教会で行われている。


放送メディアでオンエアさせるために原盤作成を援助するという(こういう制度って日本にあるだろうか?)、この独特のDLRのシステム。これはドイツ独特の制度なのだろうか、非常に面白い制度だと思った。同時に自分の長年の謎が解けたような気分だ。


DLRは、2006年からこれまでに、200枚以上の作品をコ・プロデュースしている。


このDLRによるコ・プロデュースの最近での大きな成果が、じつはPENTATONEから出ているこのヤノフスキ&ベルリン放送響のワーグナーSACD全集なのだ。


このコ・プロデュースの背景には、DLRがRSBベルリン放送交響楽団、ベルリン放送合唱団、RIAS室内合唱団を運営するRundfunk Orchester und Chore GmbH (roc berlin)の一番の出資元であることがあげられる。roc berlinは、DLR(40%)、ドイツ政府(35%)、ベルリン市(20%)、ブランデンブルク放送(RBB)(5%)により出資されていて、だから、これらの団体は、ドイツの準公共放送オーケストラであるといえるのだ。


ある意味、NHKというメディア傘下にあるN響と同じ感覚のような感じがする。


収録チームは、DLR側ラジオオンエア用録音スタッフとして、トーンマイスター、トーンエンジニア、トーンテクニックが参加し、PENTATONEよりプロデューサー、ポリヒムニアより、トーンエンジニア、トーンテクニックが参加するとても大きなチームであったが、すばらしいチームワークで、このワーグナーの大全集を作り上げたのだ。


PENTATONEは自社設立10周年の2011年に向けて、今までどのレコード会社も行っていなかった10作品のワーグナーの主要オペラの録音を、同一の指揮者、オーケストラ、コーラスで行うことを決めた。


自分が現地ベルリンで2回の実演(マイスタージンガー&タンホイザー)に接したとき、もちろんそんな舞台裏など当時は全く知らなかった訳で、でもそのときは、なんか歌手がいつも同じだよなぁ(笑)ということは気づいてはいた。たとえば、マイスタージンガーのヴァルター役でありながら、タンホイザーでは主役のタンホイザーだったのが、ロバート・ディーン・スミスだったりした。


そういう背景がこういうバックグランドにあったんだなぁ、と思うとなにも知らない怖いもの知らずというか(笑)、自分はじつに貴重な体験をしていたのだ、ということを感じ、驚く次第である。チケット代がすごい高かったのが印象的だった。ベルリンフィル定期よりはるかに高かった。


それにしても、この放送メディア機関によるコ・プロデュースという発想、ドイツならではなのか、とても興味深く、自分の経験にも関連していて、いままでの自分が抱いていた疑問を払拭してくれる上でも大変参考になった。


レーベルが、放送ネットワークと共同出資で原盤を作成し、それをネットワーク媒体でオンエアすることで、そのプロモーションの一助になる。こういう試み、日本でもトライしてもいいのではないか、と直感ではあるが感じた次第である。








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