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エディット・マティスの芸術 [ディスク・レビュー]

スイスの歌姫である我が永遠のディーヴァ、エディット・マティスの初のベスト作品集、素晴らしい!マティスのすべて、そして彼女の魅力が余すことなく詰め込まれている。限定盤なので、完売とともに廃盤になる。急いだほうがいい。予想していた以上に素晴らしかった!

マティスが活躍した1960~1982年の録音なので、古い録音なのだが、録音もじつに素晴らしいのだ。少なくとも我がステレオ2chシステムでは、かなりのハイレベルで鳴る。そのクオリティの高さに驚愕した。

自分の永年のマティスへの想いを遂げることができた、と思う。 

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エディト・マティスの芸術(7CD)

https://goo.gl/tSvfmr


2018年2月11日に80歳の誕生日を迎えるマティスだが、そのセレモニー・アルバムとして企画された。彼女が生涯にわたって録音を重ねてきたオペラ、オラトリオ、そして晩年の歌曲を、すべてと言っていいくらい全部盛り込まれている。

オペラ、オラトリオの部分は、もちろんマティスが歌っている部分の抜粋になる。

全7枚をじっくり聴き込むこと繰り返し数回、マティスのすべてを理解できた。永年の彼女に対する想いの自分の溜飲は十分に下げたかな、という気はした。


マティスは、1960~1990年代に活躍したソプラノで、ドイツ圏のソプラノとしてはトップクラスの美貌、それもどちらかといえば愛嬌のあるルックスが大きな魅力で、初来日時の人気ぶりは今なお語り草になっている。

「とにかくキュートで可愛い!」というのが当時のマティスの大きなインパクト。
若いときはもちろんのこと、歳を重ねていってもその可愛らしさは、相応で兼ね備えているから、まさに理想的な歳のとり方かも?

もちろん自分はリアルタイム世代を知らないので、後世に知ってずっと憧れていた、そんなディーヴァだった。

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マティスのずばり得意とした分野は、ドイツ歌曲や宗教音楽、モーツァルトを中心としたドイツ・オペラの世界。

今回、彼女の作品を、全部聴き込んで、マティスの声質、歌などの「マティスの世界」はこれだ! というものを捉えることができた。




オペラの世界では、ソプラノには大きく、スブレット、リリック、ドラマティックの3つのカテゴリーに分けられるのだそうだ。

スブレットは、柔らかくしなやかな声で、ある程度の高音域が充実し、中音域をよく出せること。優れた言語能力(特にドイツ語)と演技力だけでなく、繊細な体つきと外見が要求される。歌手は若い少女の外見、生き生きとした性格でなければならない。


それに対して、リリックというのは、非常に柔軟で、明るい響き、敏捷性のある声であること。高音域や早いコロラトゥーラを歌う能力があること。

要求される性格はスブレットと大差はない。リリックがスブレットと異なることは、高音が歌えるかどうか、早いコロラトゥーラのパッセージを歌えるかどうか、そしてより明るい音色を持つかということである。

リリックな声を持つ歌手は、イタリアオペラの暖かい響きと美しいレガートラインを歌うのに適していて、外見はより柔らかく女性的であることなどが代表格。


最後に、ドラマティック・コロラトゥーラ。

高音域も充実した、柔軟で、かつ気品ある叙情的な線を描ける声であること。リリックよりもパワフルで、リリックよりも幅広い音域を伴うコロラトゥーラを歌い、劇的な感情を噴出させる能力をもつ必要がある。またこの声は、コロラトゥーラでも重めの音楽を含むイタリア語によるオペラの役を歌うことが要求されることが多く、リリック・コロラトゥーラより豊かな声量が必要。

性格のタイプはリリックソプラノやスブレットに代表されるものに比べ、より高貴な人物として描かれることが多い、のだそうだ。

ドラマティックは、まさにメタリックな響きでかつ気品ある歌声が条件。歌だけではなく、舞台を支配できるような見た目の魅力も要求される。



マティスは、この中では、リリック・ソプラノと呼ばれる範疇に入る歌手と言われている。

ずばりマティスの声質、歌い方は、声に硬質な芯があって、明暗をはっきりさせた、まさに「楷書風」の歌い方なのだ。

そして、とても品格がある。声の響き方に、孤高の気品の高さが漂う感じ。

確かに、なによりも明るい響きがある。

そして思うことは、非常に古風な歌い方だということ。現代のオペラ歌手の歌い方で、このような歌い方をする人はいない。昔の時代の歌手の雰囲気がある。これが自分が抱いたマティスへの率直な印象。

そう感じてしまうのは自分が近年体験してきているオペラのスター歌手というのは、まさにホールを圧するかのような巨大な声量で、圧倒的な存在感を示すというタイプの歌手が多く、上のジャンル分けでいうと、ドラマティックの部類だからなのだと思う。

つまりイタリア・オペラのプッチーニやヴェルディといった華やかさ、ワーグナーのような力強さのような持ち味って、まさに、このドラマティック・ソプラノなのだと思う。



マティスは、明らかに違う。

もっと軽い感じで、明るい響きを持った声質、そして、とても古風で気品のある「楷書風」の歌い方。。。それがマティスなのだ。ドイツ語のかっちりした響きとぴったり合致する印象がありますね。

ただ、インタビューで彼女は、コロラトゥーラは歌えない、と言っているし、彼女の作品の中では、そのような技巧を聴くことはない。

マティスは、強力な個性は感じさせはしないものの、澄んだ美声を持つリリック・ソプラノで、技巧的にも長け、舞台での演技力も、歌の演出力も大変優れている。

オペラでのレパートリーの中心は、やはりモーツァルトで、スザンナ、マルツェリーナ、デスピーナなど。ほかにエンヒェン、アンナ、ライヒなど、リリックの役は数多く歌っている。
                                                       

                                                      
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ここで、マティスの歌手としての経歴を紹介してみる。(マティスの経歴については、ネットで調べても、きちんと書かれているのは、ほとんど皆無で、東京文化会館音楽資料室で調べてきました。それを紹介します。とても貴重な資料だと思います。)


エディット・マティスは、1938年2月11日に、スイスのルツェルンで生まれた。
ルツェルンの音楽院で学び、チューリッヒの音楽教育家エリーザベト・ボスハルトに声楽を師事した。1959年に、ケルン歌劇場と契約。ケルンでの活躍で、しだいにマティスの名は知られるようになる。

1960年にザルツブルク音楽祭に初出演。この年からドイツ各地の歌劇場に客演する。

1962年には、グラインドボーン音楽祭の「フィガロの結婚」に出演。
ハンブルク、ミュンヘン、ウィーンの国立歌劇場でも歌って成功を収めた。

1963年までケルン歌劇場のメンバーだったが、1960~1972年の間は、ハンブルク国立歌劇場にも属し、1963年からベルリン・ドイツ・オペラと客演契約を結んでいる。

1970年ニューヨークのメトロポリタン歌劇場に「魔笛」のパミーナを歌って初出演し、同じ年ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場にも出演した。

指揮者、ピアニストのベルンハルト・クレーと結婚し、ロンドンを本拠地に、世界各地で歌っている。

ザルツブルクで1月に開催されるモーツァルト祭の常連でもあり、ここで初期モーツァルト・オペラの上演に参加して高い評価を得ている。オペラのほか、リサイタル歌手、歌曲の歌手としてもさかんな活動を行っている。

初来日は1963年。ベルリン・ドイツ・オペラのメンバーとしてだった。
このときはベーム指揮「フィガロの結婚」でケルビーノを歌って評判にもなっている。
テノールのペーター・シュライアーと組んでの二重唱は、各地で好評を博し、レコード録音もされた。




マティスの録音については、自分は、少し誤解していたところがあったようだ。
自分は、彼女の録音は軒並み廃盤が多くて入手が困難という認識をずっと持っていたのだが、じっくり調べてみると、いわゆるオペラ、宗教曲、オラトリオの一員として歌っているものは多く、オンラインのタイトル表示から、それに気が付かないということだけのようだった。


今回ベスト作品集を聴いてみて、思ったこと。

マティスは確かに、オペラ、宗教曲、オラトリオとしてキャリアをスタートさせたが、彼女の声、歌の表現を十分に堪能できて、自分が魅かれるほうは、晩年に演奏会活動、録音をスタートさせたリート歌曲の世界のほうではないか、と思ったことだ。

マティスは、リート歌曲の世界では、モーツァルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフを残している。これがどれもじつに秀逸。


特に今回のベスト作品集では、ヴォルフの「イタリア歌曲集」が盛り込まれていて、CDとしては初販売なのだそうだ。大変貴重な音源。




自分がマティスの存在を知って、彼女に魅かれたのは、シューマンの「女の愛と生涯」。
「詩人の恋」と並んで、シューマンの2大連作歌曲でもある。

この「女の愛と生涯」。男性と出会い・恋心・異性と結ばれる不安・結婚・出産・死別・・・と順当に進行する内容で、「詩人の恋」のようなドラマティックな展開がない。しかし一方で童話作家の故佐野洋子さん風に言えば「ふつうがえらい」的なストーリーであって、平凡な中にあるささいなときめきやドラマを描いているのだ。

そういう魅力が、自分にとって、詩人の恋には負けていない、シューマンの連作歌曲集の中でもとても気になる歌曲のひとつになっている。

特に「わたしの指の指輪よ」。この旋律の美しさには涙する。最も有名な旋律で、この美しさに心揺さぶられない人などいないだろう。

この「女の愛と生涯」で、自分がこれだ、と思える録音になかなか巡り会えなかったのだが、ゴローさんの日記で、マティス盤を知った。 

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これを入手するのは、じつに困難を極めた。全集の中の1枚という位置づけで、単盤では売られていない代物だし、しかもいまは廃盤だ。

それを必死な想いで中古市場で見つけた。

そんなお宝盤なのであるが、それが今回のベスト盤では、この「女の愛と生涯」、全曲入っているのだ!!!

もうこれだけで、絶対買いなのだ!
もうお宝盤ではないのだ!


このベスト集をみなさんにお勧めするのも、ずばり、この歌曲を聴いてほしいからだ。
マティスが歌う「女の愛と生涯」。まさに自分の追い求めていたこの歌の理想の表現の世界。

今回改めて聴いてみたが、やっぱりじつに素晴らしい。


そしてモーツァルト歌曲集。

マティスってやっぱりモーツァルトの人なんだなーとつくづく思わさせてくれる作品。
モーツァルトを歌っているときの彼女は、まさに活き活きとしていて、彼女の1番いい面を聴いている感覚になる。

ただ、今回のベスト作品集では、このモーツァルト歌曲集の入っている曲が少なくて、ちょっと不満。

ぜひ単盤で、こちらのほうも購入することをお勧めしたい。
素晴らしいの一言です。これぞ、マティスの世界!と呼べる録音だと思います。
この盤が、一番マティスらしいと思います。 


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モーツァルト歌曲集 
マティス、クレー、越智敬


https://goo.gl/22ASAB


マティスのモーツァルトと言えば、こちらもぜひお薦めしたい単盤。
こちらもベスト作品集の中には、あまり入っていないので、単盤購入としてお勧めしたい。

宗教曲もマティスの得意なレパートリーだったのだが、モーツァルトの宗教曲の傑作といっていいミサ曲のなかで最も広く知られる『戴冠ミサ』、華やかな声の動きが際立つ「アレルヤ」で有名なモテットなどの4曲。

これがじつにいい。素晴らしい録音。自分の愛聴盤です。 

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戴冠ミサ、エクスルターテ・ユビラーテ、他 
マティス、クーベリック&バイエルン放送響、クレー&シュターツカペレ・ドレスデン、他


https://goo.gl/Pktu5U




今回のベスト作品集では、バッハのカンタータや『マタイ受難曲』などの宗教曲、『フィデリオ』『ばらの騎士』、有名なカール・ベームとのモーツァルト、カルロス・クライバーとの伝説の『魔弾の射手』録音、そして我らが小澤征爾さんともベルリオーズの『ファウストの劫罰』の録音を残しているのだ。


本当にお宝限定盤なのだ。

今回このベスト作品集を聴いて、ようやく長い間、霧に包まれていたエディット・マティスの世界がわかったと言えるかもしれない。

リアルタイム世代を知らないだけに、余計に憧憬の念が強かった。



最後に録音評。

オーディオにとってソプラノなどの女声再生って、ほんとうに難しい。
マティスの声は、オーディオ再生するには非常に難しい、ということを申し上げておきたい。

彼女の声質は、とても硬質で芯があるので、強唱のときに、かなり耳にキツく感じるのだ。
ボリュームコントロールがとても大切になる。

近代のオペラ歌手のアルバムは、どんなにボリュームを上げていても、強唱のときにうるさく感じることはあまりないのだが、マティスはかなりキツイ。

普段聴いているVOL設定で聴いていると、隣接の住人からクレームをもらうこと多々だし、自分でも聴いていて、かなり耳にキツイと感じることが多い。

昔の録音なので、ダイナミックレンジがあまり広くないのか、とも思うが、うまくボリュームコントロールして聴くことが大切。

録音自体は、じつに素晴らしいです。声の響きかた、S/Nなどの音のクリア感、鮮度感など、古い時代の録音とはとても思えないくらい。

拙宅のステレオ2ch再生でもじつによく鳴ってくれます。


なんか本懐を遂げた感じです。(笑)







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