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アラベラさんの新しいパートナー [国内クラシックコンサート・レビュー]

もちろん今回の日本公演限定の話だと思う。(笑)アラベラさんには、ヴァイオリン・リサイタルの場合は、10年に渡りパートナーをいっしょに組んできたロベルト・クーレックという相方がいる。レコーディング録音はもちろん、5年前の2014年12月のヴァイオリン・リサイタルのときも、このロベルト・クーレックを引き連れて、この同じトッパンホールでのリサイタルであった。

このときの自分の印象は、感動しつつも、アラベラさんのヴァイオリンとロベルトのピアノとのバランスの悪さに、このような感想を日記に書いていた。

ロベルトのピアノは主張しすぎで、要はピアノがドラマティックに弾こうともったいつけたり、ヴァイオリンが隠れてしまうほど強く弾いたりして、雰囲気を壊すような感じでバランスが異常に悪い。

要は気負い過ぎという感じがあって、鍵盤から事あるごとに、ダイナミックに空中に手を跳ね上げる様な仕草をするのはいいのだが、その度にミスタッチがすごく多くて、打鍵が乱暴で音が暴力的。ペダルもバコバコ踏み過ぎという感がある。

この優雅な大曲のイメージからすると、彼は盛り上げたかったのだろうが、空回りという感じで気負い過ぎの感が否めなく、ヴァイオリンの優雅な旋律とまったくバランスが取れていなくて、自分にとって違和感だった。


かなりクソみそである。(笑)
いまの自分では絶対書けないレビューだ。

録音を聴くとそんなに悪い印象はないのだが、こと生リサイタルでは相性が悪かった。

そんなある意味トラウマでもあったアラベラさんのヴァイオリン・リサイタルでもあったのだが、今回の5年振りの公演は、パートナーのピアニストとして、若いデビューしたての日本人男性ピアニストをアサインしてきた。

入江一雄氏(以降入江くん) 

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なかなかのハンサムで、アラベラさんと並んでも美男美女のカップルで、とてもフレッシュなコンビのような印象であった。

とてもいい企画アイデアだと思った。入江くんはこのリサイタルがきっかけになって一気にブレイクして羽ばたいてくれるといいなと思ったぐらいである。それくらい第1印象の人触りは良かった。

そういう経緯があるので、今回のリサイタルは、ある意味入江くんの健闘ぶりが楽しみだったという自分なりの都合があったのだ。


入江くんのプロフィールは、

熊本県生まれ。東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学・同大学院を首席で卒業・修了。第77回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、第1回コインブラ・ワールド・ピアノ・ミーティング(ポルトガル)第5位入賞、他受賞多数。

幅広いレパートリーの中でもライフワークとしているプロコフィエフのピアノ・ソナタ全曲演奏会を成功させる等のソロ活動に加え、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、芸大フィルハーモニア管弦楽団などの国内主要オーケストラと共演。

東京芸大シンフォニーオーケストラ・ドイツ公演(Young Euro Classic)ではソリストとして同行し、ベルリン・コンツェルトハウスにて細川俊夫作曲《沈黙の海》を協演した。

また、室内楽にも熱心に取り組んでおり、近年ではNHK交響楽団コンサートマスター篠崎史紀から絶大な支持を受け多数共演。国内はもとより、モスクワ、ロンドン、ベルリンなど海外でも演奏している。

2012・13年度公益財団法人ロームミュージックファンデーション、15年度文化庁(新進芸術家海外研修制度)より助成を受け、チャイコフスキー記念ロシア国立モスクワ音楽院研究科に在籍し、エリソ・ヴィルサラーゼに師事。16年夏に修了、ディプロマ取得。17年度より東京芸術大学にて教鞭をとる。


このようにデビューしたてというよりは、藝大、そしてモスクワ音楽院にてみっちりキャリアを積んできている実力派で、2011年ころからずっと活躍してきているようなので、単に自分が存じ上げていなかった、ということだけなのかもしれない。


もちろんいままで1回も実演に接したことはないのだけれど、その外見のスマートさから、きっとダンディズムのような穏やかで洒落た打鍵で、でも静かなる闘志を潜むというようなタイプではないかな、と想像していた。

今回の実際の実演での印象は、それは遠からず間違っていなかったという印象で、つねにアラベラさんを表に立てるということに貫徹していて、一歩引いた感じで弾いていて、自己主張するタイプではなかった。今回は入江くんに注目しようと最初から決めていたので、入江くんを良く見ていたのだが、その指捌き、卓越した技術、その安定感のある打鍵はしっかりした基本が根底にあり、安心して観ていられた。

なによりもアラベラさんのヴァイオリンとのバランスが、リサイタルとしては適切な配分率で、アラベラさんを立てるタイプでパートナーとしては申し分なかった。


曲が終わるごとのステージ上での挨拶にしても、アラベラさんから3歩下がってその影を踏まず、という奥ゆかしさで(笑)、大人しい人柄の良さが滲み出ていた。アラベラさんから手をつなぐように誘われて、カーテンコールするのも、どこかぎこちなさが残るところが初々しくて見ていて微笑ましかった。


このリサイタルをきっかけに大いに羽ばたいてほしい逸材だと思う。


今回のヴァイオリン・リサイタルは前回と同じトッパンホール。
チケットは完売のソールドアウト。

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入江くんの指捌きを観たかったので、この左寄りの座席を取った。
反面、アラベラさんは後頭部からのシルエットになってしまうのだが、仕方がない。

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入江くんに注目しようと思いつつも、いざ始まってしまうと、やっぱり主役は、アラベラさんのヴァイオリンであることは間違いない。

最初のバッハのソナタ。「フルート・ソナタ」として知られる曲で、ヴァイオリン・パートがすべて単音で書かれた端正な歌を聴かせてくれるものとして期待したが、予想より、そして思っていたほどの盛り上がりもなく淡々とその表面をなぞっていくだけのような淡泊さがあり、自分にとってはやや物足りなさを感じた。

そういう聴衆に対してもっと来てほしい!という欲望は、2曲目のベートーヴェンのソナタ「クロイツェル」で満足できるものとなった。もうヴァイオリン・ソナタの分野では名曲中の名曲、王道ソナタの最高峰ですね。

確固たる裏付けされた技術、ピアノとの連係プレーとそのバランス、フレージングやアーテキュレーションも教科書的な模範のような折り目正しい演奏という印象で、自分の想いはいくぶん成し遂げられたかな、という気分にはなった。



後半の3曲目のペルトのフラトレスで、会場の空気が一気にがら変した。

その切り裂いたような鋭利な空気感、そして陰影感、堀の深さなど、聴衆に訴えかけてくるもの、訴求力があまりにリアルすぎる。

今回のリサイタルの最高パフォーマンス、圧巻だったのは、間違いなく最後のプロコフィエフのソナタだと思うけれど、自分は敢えてこの3曲目のペルトを1番に挙げたい。

不勉強ながら初めて聴く曲だったが、まさに”瞑想”という言葉がぴったりのその旋律とその沈黙がなにかを語っている感のある隙間の美学。

いっぺんに自分を魅了した。これは素晴らしいなぁ~という感じ。アラベラさんの超絶技巧も冴えに冴えわたっていた。

この曲で会場は一気に雰囲気が変わりましたね。


そしてラストのプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ。もうこれは文句なしのこの日の最高のパフォーマンスで聴衆をグイグイ引き込んでいった。この曲もヴァイオリン・ソナタの名曲中の名曲だから、よく聴く機会が多いが、その中でもベストNo.1と言っていいほどの素晴らしいパフォーマンスだったのではないか。


まさに神がかっていた!という感じ。


じつは5年前にもアラベラさんのヴァイオリン・リサイタルでプロコフィエフのソナタを聴いているのだが、記憶が薄く、あまり印象に残っていないのだが、この日の演奏はじつに素晴らしく、名演として一生記憶に刻み込まれることだろう、という凄さであった。

アラベラさんは、一見もすれば”美人のお嬢さんヴァイオリニスト”というレッテルを貼られて見れられることも多いと思うが、そのじつは音楽家、演奏家としてじつに懐の奥の深さ、表現力が豊かで、幾重にも年輪を重ねてきた芸術家である。


そういうことが証明されたような今宵のパフォーマンスであったと思う。


ずっと彼女を聴いてきたファンとしては、あれから5年という歳月は、じつに彼女を大きく成長させてきた。

それが一見してわかるような5年前とは別人のような演奏であった。

すべてにおいて満足のいく今回のヴァイオリン・リサイタルであった。


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(c)アラベラさんFB


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(c)トッパンホールTwitter




アラベラ・美歩・シュタインバッハー ヴァイオリン・リサイタル
2019/7/17(水)19:00~ トッパンホール

J.S.バッハ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調 BWV1020

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47 <<クロイツェル>>

インターミッション

ペルト:フラトレス

プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 Op.94a


アンコール

マスネ:タイスの瞑想曲







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