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PENTATONEの新譜:アラベラ・美歩・シュタインバッハーの奏者人生としての転機 [ディスク・レビュー]

いったいいつまで続くのか、コロナ禍でちょっとした鬱スランプであったのと、最近は1日中仕事のことで頭がいっぱいで、プライベート活動、SNSどころではなかった。普段の楽しい自分の生活スタイルを崩しつつあった。


アラベラさんの新譜も6月中旬にはすでに入手していて、すでに聴き込んでいたのだが、なかなか筆が進まなかった。ようやく気分一新。取り組みたいと思う。



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ヴィヴァルディ:四季、ピアソラ:ブエノスアイレスの四季 
アラベラ・美歩・シュタインバッハー、ミュンヘン室内管弦楽団



今回の新譜は、とても有名なヴィヴェルディの四季と、ピアソラのブエノスアイレスの四季をカップリングしたアルバム。ヴィヴァルディとピアソラの曲を交互に演奏していくという試みである。


ヴィヴァルディの四季:春・夏・秋・冬は本当に有名な曲で、クラシック初級編ともいえる敷居の高さを感じないみんなから好かれている曲ではないだろうか?一方で、ピアソラのブエノスアイレスの四季は、これも有名な曲ではあるが、ポピュリズムというより、もうちょっとクセのある特定ジャンルに族するような特殊性があって、玄人好みでとても熱くなる曲である。


自分は、とくにタンゴ、ピアソラの世界が大好き。


とにかく情熱的で、あの南米の赤くて熱いパッションが弾けるような旋律は、聴いていて血が騒ぎますね。自分は、このタンゴ、そしてさらにその発展形のピアソラのアルゼンチンものの音楽が大好きで、南米アルゼンチン独特の民族色の強い旋律が非常に自分に嵌るというか、聴いていてツボにくる、自然と体でリズムをとってしまう心地よさを感じてしまう。


ムード音楽的演奏から、マランドのように歯切れの良いリズムを重視したアルゼンチンスタイルなど様々なスタイルがあるのだが、共通するのは、やはり夕暮れどきが似合って、激しいリズムの後にくるゆったりとしたメロウな旋律が漂うようなムードがとてつもなく堪らない。。。なんて感じである。(笑)


特に自分はピアソラが好き。アルゼンチンタンゴの世界に、クラシック(バッハのバロックも!)やジャズなどの音楽を融合させたアストル・ピアソラという人によって創作されたジャンルの音楽なのだが、タンゴ特有の強いビートの上にセンチメンタルなメロディを自由に展開させるという独自の音楽形態を作り出して、単に踊るためのタンゴの世界から一皮もふたかわもむけた素晴らしい音楽の世界を作り出した人だ。


ピアソラの音楽は、リベルタンゴやブエノスアイレスの四季など、絶対みなさんなら聴いたことがあるはず、というくらいの超有名曲ぞろい。


ピアソラのブエノスアイレスの四季といえば、自分はオランダのアムステルダム・シンフォニエッタのChannel Classicsのアルバムが愛聴盤。以前ディスク・レビューで紹介したことあります。



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ピアソラ:ブエノスアイレスの四季、
ゴリホフ:ラスト・ラウンド、ヒナステラ:弦楽オーケストラのための協奏曲 
アムステルダム・シンフォニエッタ



ぜひ聴いてみてください。
この曲の自分のリファレンスとなっているアルバムです。


もしマーラーフェスト2020が開催中止になっていなければ、アムステルダム・コンセルトヘボウのリサイタル・ホールで、このフェスティバルで、マーラー所縁の曲でアムステルダム・シンフォニエッタを初体験できる予定だったのに、返す返す残念で堪りません。こちらから海外に出向かないと、縁のないアーティストですね。


今回のアラベラさんの新譜は、ヴィヴァルディの四季とピアソラのブエノスアイレスの四季を交互に、春・夏・秋・冬の順番で交互に並べているのだ。


南半球の四季、ブエノスアイレスの四季は、夏から始まる。


ピアソラが作曲していった順番も夏→秋→冬→春だ。そういう意味で、合うのかな、とも思うのだが、これが全然違和感なく、アルバムとしての統一感があって、曲の並びがすごく自然だ。


ヴィヴァルディは各季節に3楽章づつあるが、ピアソラのブエノスアイレスの四季は各季節に1楽章の構成だ。やっぱりヴィヴァルディの四季は名曲中の名曲だけあって、音楽が整っているというか、全体として、形式感、様式美があって、日本のように四季がはっきりと違う美しさを表現していますね。


優美に輝く「春」、うだるような暑さと天候の変化を見事に表現した「夏」、収穫を祝う「秋」、凍てつく「冬」。本当にこんな感じで各季節に個性があってメリハリがあって、曲として形式感が整っている。名曲中の名曲だと思う。


ブエノスアイレスの四季は、これは本当に情熱的でエモーショナル、官能的で陰影のあるグルーヴ感に酔いしれる。カラーで言えば、情熱の赤だ。もう自分には堪らない。この曲は本当に自分にはクルものがある。


ブエノスアイレスの四季は、もともとバンドネオン、ヴァイオリン、ギター、ピアノ、コントラバスという編成による作品なのだが、この録音ではペーター・フォン・ヴィーンハルト編曲によるヴァイオリンと室内オーケストラ版で収録されている。


特に夏や秋ではおそらく原曲はバンドネオンが表現していると思われるグリッサンドなところも、ヴァイオリンではスライド奏法させて弾いているような感じで、もう鳥肌モノである。


秋では重音奏法のオンパレードと言う感じで、アラベラさんの超絶技巧が冴えわたる。


このアルバムでは、従来にも増して、アラベラさんの技術力の高さ、安定力を再認識する感じだ。もうヴァイオリニストのキャリアとしても中堅どころ。超一流の技術力を兼ね備えた実力派ヴァイオリニストと堂々と宣言してもいいだろう。


そしてなんといっても、自分にとってブエノスアイレスの四季といえば、冬。自分はこの曲ではこの季節が1番好きだ。次から次へとたたみ掛けてくるような熱いパッションを感じる旋律で、とにかくかっーと激しく燃える。


最高である。


ヴィヴァルディは、冒頭の春の第1楽章が有名だが、自分は夏や冬が好き。やはり激しくて燃えるのがいいのだ。やっぱり自分は熱いのが好きなのだろう。(笑)



今回のパートナーはミュンヘン室内管弦楽団。


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ドイツ・ミュンヘンを本拠地とする室内オーケストラである。


アラベラさんとは縁が多いオケで、演奏を聴くと、そのアンサンブル能力の高さ、弦の厚み、弦楽としての発音能力などとてもすばらしいオーケストラだと毎度のことながら思う。


2018年7月に、ミュンヘン=ゼンドリンク、昇天教会で録音された。


録音は、エンジニア&バランスにジャン=マリー・ヘーセン氏、編集、ミキシングにエルド・グロード氏といういつもの安定の最強タッグ。


いつもにましてオーディオ的に作り上げた感のあるテイストで、いつもの彼女のアルバムとはちょっと違う録音テイストである。よりオーディオマニア好みに仕上がっている。


いままでとちょっとプロモーションが違うのは、アルバムの発売に伴い、先行でストリーミングによるシングルリリースを先駆けたことだった。彼女の妊娠で、アルバムが当初よりも1年延期になったのだが、ストリーミング・シングルという新しいプロモーションが実現したのも、曲の録音がすでに完成している過程でのひとつの試みなのだろう。


2019年9月20日にピアソラ ブエノスアイレスの四季”秋”
2020年1月25日にヴィヴァルディ四季の”冬”

すべてのストリーミング・プラットフォームで配信された。


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今回、アラベラさんはライナーノーツで、こんなことを書いている。


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ヴィヴァルディの四季は、クラシック音楽の歴史の中でももっとも有名な作品のひとつだと思います。おそらくその中の一部の楽章は、誰もが知っていることでしょう。正直なところを申しますと、この曲を録音した作品は、世の中にはもう数えきれないくらい存在すると思いますので、この作品を取り上げることは少々躊躇したところがありました。でも、それは別に気にすることではない。私にとっては最初のレコーディングなのだ、と思うことにしました。


特に完全にタイプの異なるピアソラの四季とのコンビネーションは、ピアソラの作品の中でも特にこの曲を長いこと愛してきて、とてもメランコリックで熱情のあるこの曲とカップリングすることが私の夢だったのです。


私の親愛なる友人、ペーター・フォン・ヴィーンハルトによって美しくアレンジされ、それをもってみなさんとこの情熱的な旅をシェアできることをとても幸せに思います。



アラベラ・美歩・シュタインバッハー



自分も正直、アラベラさんの次のアルバムはなんであろう?と期待していたとき、それがヴィヴァルディ四季と知ったときは、ちょっとがっかり(笑)というか、う~ん、ありふれているな、と思ったことは確かである。


やはりアラベラさんもそう感じていたんだね。


でもピアソラの四季とのコンビネーションが一気にアルバムに多様性を生んだ。
ピアソラのエモーショナルな曲がアラベラさんも大好きだったことはとてもうれしい。


でも自分はこの新譜で、改めて、ヴィヴァルディ四季の曲として完成度の高さ、美しさを再度認識した次第である。



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アラベラさんの演奏家人生として、今はひとつの岐路、転機にあるように思える。


2004年デビューで着実にキャリアを重ねていった。自分は、2011年頃から応援を始めたファンとしては遅いほうだったが、自分が応援を始めたときからいわゆる演奏家としての絶頂のときだったのではないか、と感じている。


それこそ、ピークは2015年のヘンゲルブロック&NDRとの日本縦断ツアーで、大阪、東京、名古屋を追っかけしたこと、そして2019年に至るまで彼女は全世界のコンサートホール&全世界のオーケストラと共演を重ね、忙しくワールドツアーを転々としていたのだ。


まさに演奏家人生としてはピーク、頂点と言っていいと思う。


演奏家人生のひとつの転機となったのは、やはり結婚。そして子供を授かったこと。
SNSに投稿する写真は、上のようにいままでと違って一変した。(笑)


子供を持つことになった女性アーティストは、いままでの尖った格好良さ、ビジュアルな方向性から、より母性本能が表面に出てくる柔和で優しい人間性が滲み出るようになって、アーティストとして、より、もっと人間性として深いところに達観するのではないか、と思う。


いままでの路線とは違ってくるように思えます。


そして誰もが体験している、まさかのコロナ禍。


アフターコロナの時代、クラシックのオーケストラやアーティストはみんな手探り状態で今後どうやって活動を続けていくべきか、を暗中模索している。


これは彼女にもあてはまるだろう。育児と重なる時期と言うこともあるが、間違いなくいままで通りと簡単には事は運ばないような気がする。


これは彼女だけではない。
みんな苦労している。
その洗礼を彼女も受けるに違いない。


願わくは、彼女には(もちろんみんなにもですが。)幸せが待っていてほしい。


あのNDRと日本縦断ツアーをしていた頃のようにまた復活して輝いてほしいと思う次第なのです。







 


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