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サントリーホールの開幕オープニングシーズンの年間総合プログラム 通称”黒本” [クラシック雑感]

マニアの中では、貴重な存在である通称”黒本”と呼ばれるサントリーホールの開幕オープニングシーズンの年間総合プログラム。1986年10月開幕なので、翌年の1987年3月までのプログラム、約半年分であるが網羅されている。

それだけではなくて、小澤さんやアバドなどたくさんのアーティスト・インタビューが掲載されていて、また「建てものと、その周辺」と題して、サントリーホールの音響設計について、永田音響設計の永田穂先生による投稿がある。

かなり読みごたえがあった。

黒本

600ページもおよぶ黒色でなんともいえない高級感が漂う。

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この部分は金色に塗装されている。

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ブログのほうにコメントをいただき、確かに言い忘れたので、ちょっと補筆しておく。

サントリーホール開館の前の、ちょうど4年前に大阪の方にシンフォニーホールが開館した。
このシンフォニーホールこそが、日本ではじめてのクラシック専用音楽ホールという位置づけだった。

サントリーホールは、東京初のクラシック専用音楽ホールで日本としては2番目。

サントリーホールは、サントリーホールディングスが、そしてシンフォニーホールは、朝日放送がオーナーで、当時のサントリーには佐治敬三さん、朝日放送には原清さんと、いずれも文化事業に熱心な経営者がいたからこそ、ホールの実現に寄与したとも言える。

サントリーも朝日放送もどちらも関西が地元の企業なんですね。

シンフォニーホールのほうも、サントリーホールと同じで、なにかといろいろ言われることも多いが、ホール設計は時代とともに、格段に進化していくもの。近代の最新のホールと比較して、どうだこうだ、ということ自体が、人間としての器が小さいと感じるし、この両ホールが、いわゆる日本のコンサートホール史の中で、クラシック専用音楽ホールとしての礎を築いてきたその功績はなににも替え難いしじつに大きい。

特にサントリーホールでの、ホールでのチケットをもぎって座席を案内する優しい「レセプショニスト」の存在。

ご案内の仕方を一流ホテルと同じくらいのレベルに高めよう。

いままではコンサートのチケットもぎり方なども、本当に味気なくて、働く人たちは「制服」というよりは、「うわっぱり」みたいなものを着ていた。

サントリーではもともと工場案内のサービスをするスタッフの所属・育成する部署があって、そこでクラシックのホール案内として質の高いサービスができる人も育てようということになったそうだ。

この流れが今や、全国のホールへと広がった。

休憩中にワインやシャンパンなどのお酒類を楽しめるのも、それまでは当たり前じゃなかった。

いまでは、日本のホールでは当たり前であるこういう光景も、ここに礎があった。

サントリーホール完成までのドラマは、結構本になっているものがあって、自分はじつに遠い昔に、2冊くらい読んだことがあって、佐治敬三さん、カラヤン、眞鍋圭子んとかの経緯のドラマはよく知っていた。

その遠い昔の記憶に基づいていままで書いていたのだが、この黒本には、作曲家や指揮者、演奏家などのインタビューが豊富に掲載されていて、自分がいままで知らなかったことがいっぱいで目から鱗であった。

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サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団、オルガン林佑子で芥川也寸志のサントリーホール落成記念委嘱作品である「オルガンとオーケストラのための響」が初演。それに引き続き、バッハのパッサカリアハ短調BWV582とベートーヴェンのレオノーレ第3番が演奏された。

また、その後の13時30分からは落成記念演奏会としてベートーヴェンの交響曲第9番が演奏された。

サントリーホール最初の交響曲は第九だった!

ベルリンフィルハーモニー落成式のときのカラヤン&ベルリンフィルによる柿落とし公演も第九だった。

ここら辺は、やはり倣ったという感じなのかな?とは、自分は直感で感じたのだが、その当時の指揮者であるサヴァリッシュ氏はこの黒本のインタビューで、この第九を選んだことをこう答えている。

これは私の強い主張によるものではありません。サントリーの佐治社長が何が何でも「第九」でやりたいということでした。彼自身コーラスの中で歌ったことがあるそうですね。またホール側も「第九」ということでした。この曲は極めて荘厳で力強く、シラーの詩も含めて、民衆に大きくアピールするので、これほどにオープニングのお祝いに相応しい曲はないでしょう。


・・・う~む。当時の佐治社長やホール側からの推薦曲。やはり自分の直感に間違いないようだ。

アーティストのインタビューについては、どれも大変興味深いのだが、やはり小澤さんのインタビューが、自分には面白かった。

世界のオーケストラを指揮しているからこそわかる達観した真実といおうか・・・その一部を抜粋して紹介してみよう。

●世界各地のオーケストラを指揮していて、オーケストラの風土性というのを感じますか?

これは本当にありますね。オーケストラの機能、つまりオケの持っている読譜力とかアンサンブルの実力ですが、この点から言えば、日本のはアメリカやイギリスのオケに近くて速いですね。

ベルリンフィルは現代のものはまったく不得意だと僕はかねがね思っていたのですが、このベルリンフィルは、メシアンといえども、自分たちの言葉にしてしまうんですね。つまり音符を読んで音を出すだけでは、彼らは精神的に満足しない。ただし、彼らはいろいろなおかしな音がするので本当に苦労していましたが、結果はとても面白いものになりました。

ロンドンのBBCは、一番早く音符を読んだですね。やはりそういうことに慣れていますから。だけどその音楽は、ベルリンフィルほど深いものではなかったと思います。

それからボストンも譜読みには慣れていますね。ボストンにしてみれば、メシアンといっても特別な現代曲ではなく、もう日常なものといった感じです。

日本のは技術的に完璧で、しかも素直に音楽に入っていました。ベルリンフィルのように自分たちのものにして出そうという深刻な面はありませんが、曲にのめり込んでいるのです。

たとえて言うと、ベルリンフィルは苦しんだあげくに自分の言葉にしているが、ロンドンは器用で頭の回転が速い。ボストンは機能性はすごく高いが本当の深みには欠ける。コーラスも同じことで、日本とボストンは大変に努力してあの難しい曲を暗譜していましたね。



メシアンに関して長々としゃべっちゃったけれど、3週間くらい前にスカラ座で指揮をしてね。彼らの気質や考え方がまるで違うのには驚きました。まず第1にイタリアの音楽に対する絶大な自信といったものがある。極端に言えばイタリア以外の音楽はそれほど大事じゃないかもしれない(笑)。

第2に彼らのつくる音楽は横の線、つまりリズムの線やハーモニーの線が大事だと習ってきたんですが、彼らは横が大事なところになってくると生き生きして、縦が肝要なところでは苦しみながらやっている。縦に弱いんですね。

5年ほど前にパリで「フィデリオ」をやったときも、フランスのオケは横の線指向でした。

そこへゆくと、アメリカやイギリスのオケは縦と横のバランスがとれてますよ。

ドイツはやっぱり縦を大事にしますね。しかしウィーンとかベルリンとかミュンヘンのいいオケは、縦の線を大切にしながら、横のほうも納得のゆくまでやるという良さがありますね。


●海外で指揮をしているとき、日本的だな、と自分自身思ったり思われたりすることありますか?


あるようですよ。たとえばR.シュトラウスの曲で「英雄の生涯」。

僕なんかがやると、それぞれの声部がはっきり聴こえるようにやっちゃうわけですよ。1本の太い線の音楽、いわゆる太書きしたようなものはいやなのね。ところがシュトラウスの場合は、いろいろな声部がうんと重なっているので、ある程度のところまでいくと、声部をはっきりさせるというのは不可能になってしまう。そういうところで苦しみながらやっているわけ。

あるドイツの指揮者なんか、初めから太書きするつもりでいますから、苦しみがないんですよ。
シュトラウスもあれだけ書くには苦しんだと思うんです。それを指揮するほうも、やっぱり苦しんでやって、それでどこかの声部が聴こえなかったら仕方がないという方式でやりたいと思うんですね。そうすると日本人だからきめ細かくやったと言われるんです。

ベルリンでマーラの第1番を初めてやったときは、細かく合図を出し過ぎて、何もあんなに指示を出さなくてもいいのじゃないかと言われたこともあります。それだけに、指揮者というものは太書きの音楽を作ったほうがいいという批判は受けますね。

そして僕も細書きから次第に太書きに変わってきたと思いますね。



あくまで抜粋ですが、さすが深いなーと思いましたね。

後半は、「建ものと、その周辺」ということで、ホール建設のことと、永田先生による”響き”に関する若干の前置きについて、そしてサントリーホールの音響設計について書いてみます。

日記としては別途分けます。

ここは、まさに自分の興味の多い”本命”の所ですので、大変興奮しました。





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