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川本嘉子さんのブラームス室内楽 [国内クラシックコンサート・レビュー]

すっかり上野の春の風物詩となった東京・春・音楽祭では、絶対欠かせないコンサートが2つある。N響によるワーグナーの演奏会形式と川本嘉子さんのブラームス室内楽だ。どんなことがあっても、この2つのコンサートは必ず行くようにしている。 


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川本嘉子さん

川本嘉子さんのブラームス室内楽は、2014年からスタートした連載なのだが、自分は2015年から通っているので、もう今年で5年目の皆勤賞だ。

川本嘉子さんを中心に、竹澤恭子さん、向山佳絵子さん、そこに若手を1,2人加えた室内楽ユニット。

とても大人の雰囲気があり、全員が演奏技術に秀でたそのクオリティの高さ、そして他に例をみないプロフェショナルな格好良さというか、存在感があって、オーラが漂っている、そんな独特の雰囲気があるのだ。

日本で最高の室内楽ユニットであると断言できる。

そんな6年目にあたる今年、なんと!ピアノに小山実稚恵さんをピアノに迎えることとなった。
コンサートも、「ブラームスの室内楽Ⅵ ~小山実稚恵(ピアノ)を迎えて」という冠が付いた。

これは心底驚いた。ただせさえ、プロフェッショナルなメンバー揃いなのに、そこに小山実稚恵さんがピアノとして加わったら、それこそもうこれ以上望めない超最高、夢のユニットではないか。

自分は、2015年からずっと通い続け、そのコンサートの感想をつぶやきに書いてきたのだが、そこにどこか申し訳ない気持ちがずっとあり、いずれきちんと日記にしないといけないという想いがずっとあった。

それがまさに今年なのだ!と確信した。小山実稚恵さんを加えて、これ以上なにを望もうか、という最高の布陣。

日記にするなら、まさに今年しかない。

なので、今年は、つぶやきせず、最初から日記にするつもりで、臨んだ。

今年は若手として小川響子さんが参加した。

小川響子さんは、スズキ・メソード出身で、東京藝術大学在籍で、ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーにオーディションに合格し、ベルリンに2年間派遣され、いままさに研磨中なのだ。なんでも樫本大進氏に憧れを持っていて、このオーディションの審査員長が樫本氏であったこともあり、小川さんにとってとても素敵なオーディションとなったようだ。

この日の小川さんは、大先輩に囲まれ、恐縮というかオロオロした感じの初々しさで、見ていてとても微笑ましかった。


川本嘉子さんのブラームス室内楽に自分はなにを観ていたのか?


もともとこのコンサートに行くようになったきっかけは、ミューザ川崎の設計者の小林さんの設計事務所での室内楽サロンに参加したとき、そのとき川本嘉子さん×三舩優子さんのリサイタルを聴いたことだった。

直接川本さんとお話もした。

そのときから、東京春祭のこのシリーズに通おうと誓ったのだ。


もうひとつは、小澤征爾さんの門下生であること。

自分は、数年前までは、サイトウキネン(現:セイジ・オザワ松本フェスティバル)の松本にそれこそ毎夏通っていた。そして水戸の水戸室定期にも、必ず年明けの新年の聴き初めは、水戸で、という自分なりの決めごとを作って、毎年年初通っていた。

サイトウキネン、水戸室の公演を聴いていると、ここが自分のホームのような感じになった。
誘いはゴローさんだったけれど、小澤さんの世界が、自分の礎になっていることを感じざるを得なかった。

いまでは、小澤さんはすっかり元気がなくなって指揮する機会も激減、なによりも、自分自身の予算体力がすっかりなくなって、昔のように松本や水戸に聴きに行くということができなくなった。

小澤さんの教えを受けた演奏家の方々は、普段はみんなそれぞれに散らばって、それぞれのご自身の活動をなさっている。でも、そうであってもそのお互いの絆は強く、見えない糸でしっかり結ばれている。

自分にはそんな糸、その独特のカラーがよく見える。


川本さんのブラームス室内楽を聴きに行くことで、自分のホームである感覚、いまはすっかり松本、水戸に行けなくなって失いつつあるその感覚をそこで身近に感じることができるからではないか、と思っている。

あの室内楽ユニットが独特の雰囲気があるのは、そのためだ。


なぜ、ブラームスの室内楽なのか?


これは川本さんご自身がメディアを通じて発信していたのを読んだ記憶があるのだが、その記事をいま見つけることができない。自分のあやふやな記憶だけれど、ブラームスがとても好きなこと、そしてブラームスのヴァイオリンで奏でられた音楽をヴィオラで演奏することで、また違ったニュアンス、魅力を出してみたいこと。。。そんな記憶がある。

ブラームスの室内楽はとても魅力的で、自分も好きで、よく聴いている。

そんな経緯の中で、4年間聴いてきたわけだが、5年目の今年、ついに小山実稚恵さんを迎えて、というのはあまりにも感動的過ぎる。(笑)感慨無量。

コンサートホールは、大体、東京文化会館小ホールか上野石橋メモリアルホール。
どちらも石造りのホールで残響感たっぷりだ。

今年は、東京文化会館小ホール。
こんなど真ん中で聴いた。

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演目は、ブラームスのピアノ三重奏曲、ヴァイオリンソナタ、そしてピアノ五重奏曲。
もちろんピアノの小山さんはフル出場だ。

大変な力演、壮絶な演奏だった。

これだけのプロフェッショナルな奏者が揃うと、まさに個の主張も激しくありながら、同時にすばらしくアンサンブルのバランスも取れているのが驚きだったぐらいだ。

最初のピアノ三重奏曲では、とくに向山さんのチェロの音色に心奪われた。

チェロの音域というのは、本当に人が恍惚となる、ある意味眠気を誘うくらい気持ちのいいものなのだが、優雅なメロディーをこの音域で奏でられるのは、いやぁこれは美しいなぁ~と思わず耳がそこに集中してしまった。

ヴァイオリンソナタでの川本さんの演奏は、これはこれはとても熱い演奏で、思わず聴いていて力が入ってしまうくらいすごい熱演だった。ヴァイオリン・ソナタをヴィオラの音色・音域で表現する。

まさにこのシリーズの一番の主張したいところなのだと思う。
ピアノの小山さんとヴィオラの川本さん、という最高の絵柄で言うことなし!

とにかく力が入った演奏だった。

そしてなにより最高の頂点に達したのが、ピアノ五重奏曲。
竹澤さんのいつも身を乗り出すとてもパワフルな演奏スタイルは健在。竹澤さんらしく素晴らしいです。第1旋律としてグイグイ全体を引っ張っていっていた。小山さんのピアノは、小山さんぐらいのオーラのある方であるにもかかわらず、目立ちすぎるということもなく、常に室内楽の一旦を担うという感じで、いい意味で埋没、調和していたのはとても印象的だった。

このピアノ五重奏曲は、室内楽の大曲らしい、メロディもブラームスらしい大河のごとくで、分厚い音の流れ、一糸乱れぬアンサンブルの精緻さ、でまさに圧倒されました。

この曲は本当に凄かった。

ブラームスの曲って、本当に大河のごとくなのだれど、その一瞬に美しいメロディがふっと垣間見えるところがあって、それが全体の魅力を醸し出していますね。

まさに過去最高ユニットによるアンサンブル堪能しました。

素晴らしかったです。

ありがとうございます。


室内楽の素敵なところは、音数の少ないことに起因する、そのほぐれ感、 ばらけ感、隙間のある音空間を感じることで、音が立体的でふくよかに感じ取れる感覚になれるところ。 やはり室内楽独特の各楽器のこまやかなフレージングやニュアンスが手にとるように感じられるのが魅力的なのだと思う。

大編成のオケの重厚な音では絶対味わえない豊潤なひとときだ。

これからも末永く、このシリーズ続くことをお祈りしています。



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終演後。左から向山佳絵子さん、川本嘉子さん、小山実稚恵さん、小川響子さん、竹澤恭子さん
(c) 小山実稚恵FB ( (c)MASATO)


東京・春・音楽祭 ブラームスの室内楽Ⅵ
~小山実稚恵(ピアノ)を迎えて

2019/4/3(水)19.00~ 東京文化会館小ホール

ヴァイオリン:竹澤恭子、小川響子
ヴィオラ:川本嘉子
チェロ:向山佳絵子
ピアノ:小山実稚恵

ブラームス

ピアノ三重奏 第1番 ロ長調 op.8

ヴァイオリン・ソナタ <<F.A.E>> よりスケルツォ

ピアノ五重奏曲 へ短調 op.34







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